PDの後継? 他のDVD規格と大きく異なる特殊な書換型DVD「DVD-RAM(Ver1.0)」(片面2.6GB、1998年頃~):ロストメモリーズ File043

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宮里圭介

宮里圭介

ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

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[名称] DVD-RAM
(参考製品名 「LM-DA52J」他)
[種類] 光ディスク(書換型)
[記録方法] 相変化記録、レーザー光(650nm)
[メディアサイズ] 124.6×135.5×8mm
[記録部サイズ] 直径約120mm
[容量] 2.6GB、5.2GB(片面2.6GB)
[登場年] 1998年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

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「DVD-RAM」は、DVDフォーラムによって策定された記録型DVD規格のひとつ。データ記録に相変化記録技術を採用し、DVD-Rのような1回だけ記録可能な追記型ではなく、何度も記録・再生可能な書換型となっているのが特徴です。

DVDはそもそも規格が多く混乱しやすいですが、そのひとつであるDVD-RAMも、細かく見ていくと結構多くの種類があります。どんな種類があるのか、規格面からざっくり分類してみましょう。

まずは、バージョンの違い。容量が片面2.6GBのVersion 1.0、最大2倍速と片面4.7GBの大容量化が行われたVersion 2.0、80mmディスクの追加されたVersion 2.1、5倍速以上の高速化を目指したVersion 2.2、というのが大きな流れです。

書き込み速度に関しては、Version 2.2が登場する前のタイミングで、規格バージョンとは別にリビジョンを導入。3倍速がRevision 1.0、5倍速がRevision 2.0、6倍速がRevision 3.0、8倍速がRevision 4.0、12倍速がRevision 5.0、16倍速がRevision 6.0となりました。

厄介なのは、6倍速以上は5倍速までと互換性がない事です。これに関してはクラスという概念を導入し、2~5倍速はClass 0、6~16倍速はClass 1と規定。明確に区別することで、わかりやすく整理されました。といっても、このクラス表記はあまり使われていなかったような……。Class 1となる6倍速を超える規格は、単に「RAM2」(DVD-RAM2)と呼ばれていました。

▲バージョンとリビジョン、クラスは別物と考えないと混乱します

続いて形状ですが、ケース入りと、ケースなしの大きく2つの種類があります。ただし、ケースにはいくつか種類があり、ディスクを取り出すことができないType 1、取り出し可能で片面記録のType 2、取り出し可能で両面記録のType 4あたりがよく見かけるものです。ちなみに、Type 3はケースのみでディスクが入っていないもののうち、片面用。Type 5は両面用となります。ついでにいうと、Type 6~9は80mmディスク用の規格です。

▲Type 1だけが取り出せない、と覚えておけばOKです

なお、Version2.2では、取り出し可能で片面記録の場合もType 4へと置き換えられています。両面対応のType 4に片面ディスクが入っていても、実用上困りませんしね。

以前書いた記事(すでに公開されていません)では、ケースなしのディスクをType 3/5と紹介してしまいましたが、あれは間違いです。たぶん、調べているうちに「Non Cartridge Disc」と「No Disc Cartridge」あたりを混同してしまったんじゃないかなと……。確認ミスです。すみません。

ちなみに用語についてですが、JISの規格を見る限り記録部をディスク、保護部をケース、ケースにディスクを入れた状態をカートリッジと呼んでいるようなので、これに倣うことにします。

さて、そんな微妙に多くの種類があるDVD-RAMですが、今回は最初期のVersion 1.0となる、片面2.6GB、両面5.2GBのカートリッジを紹介していきましょう。

初期のカートリッジはType 1とType 2の2種類だけ

DVD-RAMを強く推していたのは、松下と日立。当初、松下が世界初のDVD-RAMドライブを発売する予定でしたが、発売が遅れてしまい、1998年4月15日に日立の「GF-1055」が先行することになりました。これと同時に登場したカートリッジが、日立マクセルの「DVD-RAM52F」(5.2GB、Type 1)です。

遅れた松下のドライブは、1998年4月末発売の「LF-D100J」。こちらは松下製のカートリッジとして、片面の「LM-DB26J」(2.6GB、Type 2)と、両面の「LM-DA52J」(5.2GB、Type 1)が同時に登場しました。なお、片面2.6GBのType 1は、後から「LM-DA26J」として登場しています。

この松下製と、そのOEMと思われる富士フイルムのカートリッジを使い、違いを見ていきましょう。まずは、ディスクが取り出せないType 1からです。……「Trial sample」の文字がありますが、気にしないでください。

▲表は、右下にあるB面のライトプロテクトスイッチ近辺が異なる以外、2.6GBも5.2GBもほぼ同じ
▲裏は、2.6GBにはB面がないため印刷がありません。また、左下のライトプロテクトスイッチが省略されています

同じType 1ということもあって、2.6GBも5.2GBもソックリ。下部を見ると、左側は楕円、右側は円形の位置決め用のホールが、貫通穴となっているのも共通です。

違いがある部分は、B面のライトプロテクトスイッチが省略されていること。また、このスイッチのすぐ右に、2.6GBのカートリッジだけ穴が1つ多く開いているのがわかるでしょうか。これは3つあるセンサーホールの2つ目で、ここに穴がある場合は非動作面、つまり、記録面がないと分かるようになっていました。

▲2.6GB(左)ではB面用のライトプロテクトが塞がり、すぐ右にセンサーホールが開いています。これに対し5.2GB(右)では、センサーホールが塞がっています

面白いのは、A面、B面の区別が手で触ってわかるようになっていること。具体的には右側の位置決めホールのすぐ左上に、A面だと1つ、B面だと2つのポッチが付いています。

▲左が表面で、右が裏面のポッチ。1つと2つという違いがあります

続いて、Type 2カートリッジの場合です。

Type 2はType 1と違い、取り出せるというのが最大の特徴。これは、将来トレー式のドライブにディスクだけを入れ、読み書きできるようにするためでしょう。ケースなしは推奨しないものの、想定はしているというのが読み取れます。

とはいえ、両面でケースなしは想定外だったようで、あくまでType 2は片面用として用意されていました。そのため、片面/両面が想定されていたType 1と形状が異なります。どう異なるのかは、見てもらった方が早いかと。

▲表面からみると左右の凹み、位置決めホール、センサーホールがありません
▲裏面はほぼType 1と同じですが、センサーホールに違いが

大きく違うのは、左右の凹み。上部左右はオートローディングの引っかけ用、下部左右はオートチェンジャーなどでカートリッジを掴む際に使われるであろうグリッパースロットです。Type 1では表から裏まで貫通していましたが、Type 2では貫通していません。この凹みには、下部からアクセスすることだけが考えられていたみたいですね。

▲斜めから見ると、貫通していないのがわかります

もうひとつ大きく違う点は、ディスクを取り出すためのギミックが用意されていたこと。左下にあるロックピンを折り抜き、下部のカバーを開くことで、ディスクが取り出せました。

▲カバーを開いたところ。これはType 4のカートリッジですが、仕組みは同じです

ちなみに、このロックピンの位置はセンサーホールの1つ目。ここが開いているとカバーを開閉した、つまり、中のディスクを出し入れしたことがわかります。ついでにいうと、センサーホールの3つ目は2つ目のすぐ右横となり、予備として用意されていました。

ただし、この3つのセンサーホールは、カートリッジの利用上とくに役立つことがなかったようで、Version 2.0あたりから使われなくなりました。

PDのシャッターは片方にしか開きませんでしたが、DVD-RAMのシャッターは左右どちらにも開くタイプ。A/B面両方を使えるカートリッジですから、そのほうが都合がよかったのでしょう。ドライブ側も、片方に動かす機構を作ればいいだけですしね。

▲左右どちら側にも開くシャッターを採用

PC向けリムーバブルメディアとしての強み

他のDVD規格はDVD-Videoフォーマット、つまり映像記録用途が前提となっているのに対し、DVD-RAMはPCなどでのデータ記録用途が重視されたものとなっています。そのため、他のDVD規格とは大きく違う部分があります。

例えば、ディスクの制御方式にZCLVを採用していること。これは、ディスクをいくつかのゾーンにわけ、内周では高回転、外周では低回転へと段階的に変化させる方法です。ZCLVは制御が多少複雑になるものの、線速度がほぼ一定になるため、データの記録密度を上げやすくなるのが特徴です。

もう少し詳しくいうと、Version 1.0では2つのリードインゾーン、24のデータゾーン、そして1つのリードアウトゾーンに分かれています。ゾーン当たりのトラック数は、データゾーンで1888。トラック当たりのセクタ数は、内側のデータゾーン0で17なのに対し、外周のデータゾーン23では40にまで増加します。

ゾーンの幅は約1.6mm、セクタの長さは9mm前後なので、ゾーンごとにセクタ数が増えていく様子が模様となって肉眼でも見えます。この模様に、DVD-RAMっぽさを感じる人もいるのではないでしょうか。

▲外周側のゾーンになるほど、セクタ数が増加しているのが見えます

さらに記録密度を高めるため、DVD-R/RWのようにグルーブ(溝の部分)への記録だけでなく、ランド(山の部分)への記録にも対応する、といった違いもあります。

メディアとしての信頼性を高めるという点では、ケースを採用して傷や汚れからディスクを守っているというのが大きな特徴。また、データの信頼性面では、書き込み回数が桁違いに多いというのがあります。具体的には、DVD-Rなら1回書き込み、DVD-RWでも1000回程度の書き換えしか想定されていませんが、DVD-RAMは10万回もの書き換えに耐えられます。

DVD-RWやDVD-RAMが採用している相変化記録は、強いレーザー光で記録層を溶かし、冷却速度の違いで結晶とアモルファスの2つの状態を作り出すことで記録します。書き換え回数が増えるほど何度も加熱/冷却が繰り返されるため、熱膨張などによるダメージが蓄積されやすく、書き換え回数に限界があるわけです。

しかし、DVD-RAMではこのダメージで記録層が劣化したり、ディスクが変形するなどの不具合が起こらないよう、保護層だけでなく、界面層や熱緩衝層などを追加。これにより、データの信頼性が高められています。

とはいえ、利用しているうちに、どうしても不良セクタなどは出てしまいます。DVD-RAMでは、この不良セクタの代替処理をハードウェアで行なえるというのも強み。不良セクタがある場合はこれを飛ばして記録し、各データゾーンの最後尾に用意されているスペア領域で補充するという処理方法で、シーケンシャルアクセス性能を落とさず不良セクタを回避しています。

利用面でいうと、ライティングソフトが必要なく、ファイル単位で直接読み書きできたというのも、DVD-RAMの良さでしょう。最初からPCとの親和性が高いメディアとして作られたからこその魅力です。

2.6GBという半端な容量と速度の遅さで短命に

PCで使いやすいよう作られたDVD-RAMですが、他のDVD規格が4.7GB(初期のDVD-Rは3.95GBですが)となっているのに対し、片面2.6GBというのはあからさまに見劣りしています。ベースとなったPDが650MBですから、これの4倍容量と考えれば一応納得できますが、それを「PD2」ではなく「DVD」だと言われてしまうと……「なんで?」となりますよね。

また、速度が等速なうえ、書き込めたかの確認作業となるベリファイで、さらに半減する遅さもネック。データの信頼性を高めるためにはベリファイは大切ですが、GBクラスの大容量なのに遅いとなれば、使いづらくなってしまいます。

もうひとつネックとなったのは、片面2.6GB対応ドライブはDVD-RAM/PDの読み書きと、DVD-ROM/CD-ROMの読み出しにしか対応していなかったことでしょうか。DVD-RAMは通常のDVD-ROMドライブではほぼ読めませんから、これだとデータの交換用途で使えません。それならCD-R/RWに書き込めば……となるわけですが、そのCD-R/RWへの書き込みには非対応。結局、別途CD-R/RWドライブが必要となるなら、DVD-RAMドライブを選ぶメリットは薄れてしまいます。

他のDVD-ROMドライブで読めず、速度が遅く、対応ドライブでもCD-R/RWへ書き込めない。自分だけで完結するバックアップメディアとして有望視していた人以外には、DVD-RAMはなかなか選びにくい選択肢だったのではないでしょうか。

なお、この微妙な容量と速度の問題は早々に認識されていたようで、1999年6月に発表されたVersion 2.0では、片面4.7GB化と2倍速化が実現されました。こうなると、片面2.6GBのDVD-RAMを積極的に買う理由がさらになくなってしまい、気になっていた人も「待ち」になるのは、容易に想像できます。

結局、片面2.6GBのDVD-RAMはあまり普及せず、本格的に使われるようになるのは、2000年7月に片面4.7GB対応のドライブとカートリッジが登場してからになりました。

参考:

120mm DVD-書換形ディスク(DVD-RAM), JISX6243, 日本産業標準調査会

120mm DVD-RAMディスク用ケース, JISX6244, 日本産業標準調査会

ECMA-272 120 mm DVD rewritable disk (DVD-RAM), Ecma International

ECMA-273 Case for 120 mm DVD-RAM disks, Ecma International

DVD-RAM, Wikipedia

Supplementary Documents issued in the past for DVD-RAM(4.7G) Book, WayBack Machine

書き換え可能な「DVD-RAM」と追記可能な「DVD-R」、統一規格発表, PC Watch, インプレス

DVD-RAM規格 バージョン1.0発表, PC Watch, インプレス

DVD-RAMドライブ発売、日立製で実売価格は約9万円, PC Watch, インプレス

第11回 光メディアに記録する, FUJITSUファミリ会, 富士通

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