みなさんこんにちは、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏です。スマートフォンでのAI利用が当たり前になった今、さらに一歩進んでエージェントAI機能を取り込んだ製品が中国で発売になりました。
nubiaのM153です。このスマートフォンはAIエージェントとしてTikTokを展開しているBytedance(バイトダンス)の「Duobao(豆包)」を搭載。しかもアプリレベルではなくOSに融合されています。それによりM153は「真のAIスマホ」と言える製品に進化しているのです。

スマートフォンのAI機能として最も使われているグーグルのGeminiは、様々な検索や指示に対して回答を行ってくれます。また、ある程度OSやアプリの操作も可能です。それに対してDuobaoはOSだけではなくアプリのコントロールまでも可能であり、スマートフォンでアプリを使うのではなく「ユーザーの要望に応える」エージェントとして動作するのです。
まずは簡単な操作から。英語の絵本を開き、英語の文字が書いてある部分を写しながら「英語と中国語で読み上げて」と指示できます。翻訳にも使える機能です。

ほかにもオンラインで注文して宅配ロッカーに届いた荷物の、ロッカーの暗証番号を知りたいとき、メールやアプリを開かずともDuobaoに聞けば番号を探ってくれます。また、駐車場で止めた場所を忘れてしまうことがよくあるでしょうから、降りたときに付近の写真だけを取っておけば、あとで車に戻るときにDuobaoに「車の位置は」と聞けば、その写真から場所を判別して教えてくれます。

さらにDuobaoはユーザーに代わって複数のアプリを横断的に操作してくれます。Duobaoのデモによると、たとえば「SNSで見つけたこのシャンプー、すべてのショッピングアプリで価格を比較して、一番安いのを注文して」といった操作を音声で指示するだけで、一括で行ってくれます。

実際にはDuobaoが複数のECサイトで希望のシャンプーの値段を検索。各サイトごとの価格をリアルタイムで比較し、一番安いサイトを報告します。そして最終的にそのサイトの支払い画面が開くので、あとはクレジットカード情報等の個人情報はユーザーが手動で入力を行い、注文が完了します。日本のアマゾンのワンクリック購入ボタンのようなものがあれば、個人情報を入力せず即座に注文を完了できます。

このように複数の検索だけではなくそれらの比較までをAIが行い、支払など個人情報に関わる高感度な操作はAIがユーザーにバトンタッチし、最終的な決済だけを人間が行うよう設計されているわけです。利便性と安全性が両立されています。
ビジネスのシーンでは「来週月曜から金曜まで上海出張だから、会社の車内アプリで申請を出して、出張申請もして、月曜朝8時の上海行き高速鉄道のチケットを取って」といった操作も可能。カレンダーや社内システムと連携しながら、高速鉄道の予約までを行えます。

複雑な指示に対しても高い処理能力を発揮します。Duobaoの事例では、パリ旅行の計画作成をデモしています。まずはSNSに保存しておいたパリのレストランをピックアップして、地図上にピン止め。次にユーザーが「ゴッホが好き」というデータを持っていれば、「ゴッホの作品が展示されているオルセー美術館」を自動で選び出し、指定の時間にチケットを予約します。最後にすべての完了したタスクをメモ帳にまとめてユーザーに提示します。

一般的にはAIシステムがほかのアプリの操作を行うには権限が必要ですが、このM153スマートフォンはDuobaoがOSレベルで組み込まれているために、ほかのアプリを呼び出して画面に表示される内容を理解し、画面からアプリを操作します。かなり強力な技で複数の操作を一括処理できるのです。
ただし、ここまで強力なエージェントとなると、データの安全性が懸念されます。実際に現在、M153に入れたアプリの中にはDuobaoからのアクセスを遮断するものも出てきています。ほかのアプリ側からすれば、操作の権限を超えて利用されてしまうことや、Bytedanceにユーザーのデータがすべて集約されてしまうことを恐れているわけです。

そのためか、M153は現在は「開発・試験モデル」という位置づけで販売が行われています。今後、ほかのメーカーとDuobaoの協業も始まるでしょう。一方でファーウェイやシャオミなどは今のAIサービスをエージェントAIにアップグレードすべく、システムを強化していくと考えられます。
いずれにせよ「真のAIスマホ」と呼べるnubia M153の登場は、スマホとAIの関係を根本から変えかねないインパクトを持っています。エージェントAIをOSレベルで組み込み、他社アプリを横断的に自動操作させることで「ユーザーが自らアプリを開いて操作する」従来のスマートフォンの概念を一気に崩します。「AIが裏で段取りし、人間は最終確認と決済だけを担う」という、新しい利用スタイルへ踏み込んでいるのです。もはやスマートフォンの画面にアプリアイコンを並べる意味すら不要です。

これは、Android全体を対象に汎用アシスタントとして展開されるグーグルのGeminiとは発想もリスクの取り方も異なります。Geminiがプライバシーやエコシステムとの調和を優先しているのに対し、Duobaoは権限の深さと利便性を前面に押し出しています。もし、中国勢がこうしたエージェントAIスマホを新興国へ広げれば、ユーザー行動の入口が検索エンジンからエージェントに移り、検索・広告・アプリ流通を握るグーグルの支配力が揺らぐ可能性があります。少なくとも中国や新興国で、その動きが加速する可能性は大きいでしょう。

M153はまだ開発・試験モデルに過ぎませんが、「次の10年、誰がユーザーの行動データのハブになるのか」を巡る新たな脅威シナリオを、具体的なハードとして可視化してみせた存在です。グーグルが影響力を強めるスマートフォン市場を根本から変える存在にもなりうるでしょう。









