みなさんこんにちは、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏です。日本でもついにNothing Phone (3)が発売になりました。背面のLEDライトからLEDドット表示の「Glyph Matrix」への変更が目立っていますが、実はAI機能も強化されています。1つ前のモデル「Nothing Phone (3a)」から搭載された「Essential Space」に加え、一部の国モデルには新たな検索機能「Essential Search」を搭載。なお、日本モデルへの「Essential Search」搭載時期は現時点では未定です。

スマートフォン市場において、多くの企業が独自のAIモデルを開発する中、Nothing社は独自の戦略を追求しています。彼らは自社で大規模言語モデル(LLM)に投資するのではなく、既存の最先端技術を「ユーザーのためのAI」として活用し、消費者にとって最も有用な体験を提供することに注力しています。そこにはスマートフォンこそが、そのAIにとって最も重要なデバイスであるという考えがあります。日本発表に先駆け、7月2日にロンドンで行われた発表会でNothingのCEO、カール・ペイ氏に同社のAI戦略を聞きました。

まず、Nothingが自社で言語モデルを開発しない理由は、すでに多くの企業が開発を進めているからです。数ヵ月おきに新しい優れたモデルが登場しており、その素晴らしい成果には目を見張るものがあります。そこでNothingはそこから生まれた、最高かつ最新のモデルを採用することで、AIモデルの完成度を高めようとしています。
この1年でスマートフォンを取り巻く環境は大きく変化し、AIを中心に回り始めています。スマートフォンはすでに数十億のユーザーが使っており、そのユーザー1人1人が情報を持っています。ユーザーにとって真に役立つAIとは、その情報を元にユーザーを理解するAIであり、Nothingは「Essential Space」と「Essential Search」を提供しているのです。
一方、AIがユーザーに積極的に提案を行うようになるにつれ、プライバシーが非常に重要な要素となります。Nothingはこの課題に対し「透明性」を最も重要なキーワードとして掲げているとカール・ペイCEOは力説します。「なぜユーザーのデータが必要なのか、何が必要なのか」を可能な限り透明化し、ユーザーが望まない場合はデータを提供しないという選択肢を与えるべきだと考えているとのこと。
Nothingの製品開発の舞台裏や失敗などは同社のYouTubeで公開されています。このような開発ストーリーの公開は、Nothingが企業として透明性を重視している姿勢を積極的に示しています。そしてこの透明性への取り組みをAI開発のプロセスにも適用しているのです。

Nothingの特徴的な製品デザインについても伺いました。Nothing Phone (3)ではこれまで「顔」だった背面のLEDライトが廃止され、多くの人、特にこれまでNothingのスマートフォンを使ってきた人に衝撃を与えました。しかし、カール・ペイ氏はNothingのデザイン哲学は時間の経過とともに進化していくといいます。

最初の製品を出してからの5年間は「一貫したデザイン」を追求しました。そして次の5年間では「馴染みのデザインに新しい要素を加える」方向へ進化させようとしているのです。例えば今回、発表されたヘッドフォン「Headphone (1)」にはアルミニウム素材を採用しています。

Nothingのスマートフォンの市場シェアは現時点で約0.2%と非常に小さな存在です。しかし、これからも同社は自社のデザイン哲学を崩すことなく、たとえ大きな企業に成長したても挑戦を続けていくと表明しています。ユーザーファーストのAIを提供しながら、大胆なデザインを追求した結果生まれた今回の新製品。より多くの人たちに愛される製品になるのではないでしょうか。