アップルのAR/VRヘッドセットReality Pro(仮)、6月発表と秋発売に向け準備中か。ただし量産は遅れる可能性(WSJ報道)

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Kiyoshi Tane

Kiyoshi Tane

フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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アップルのAR/VRヘッドセットReality Pro(仮)、6月発表と秋発売に向け準備中か。ただし量産は遅れる可能性(WSJ報道)

アップルが長年かけて開発していると噂のAR/VRヘッドセットは、6月の世界開発者会議WWDC23にて発表されることはほぼ確実視されています。

それまでに1カ月を切ったなか、WWDCでの発表予定は変わらないが、量産する上で問題が起こる可能性があるとThe Wall Street Journalが報じています。

本ヘッドセットに関しては複数の情報源から噂が届けられており、その外見についてはかなり嵩張ってゴツく、外に着用して出かけたいとは思えないことでは一致しています。今回のWSJ報道でもスキーゴーグルに似ており、外付けのバッテリーパックが付属している(内蔵バッテリーで完結してない)との証言を伝えています。

なお、これまでの噂話は以下の記事に総括されています。さすがに数年がかりで開発されているだけに(WSJは「7年間」と主張)詳細な情報が出そろっており、製品版もここから大きく外れることはないと思われます。


今回の記事でも、アップル製ヘッドセットがMR(複合現実)、つまりAR+VRのアプローチを採用し、ユーザーがゴーグル内の画面で仮想世界を体験できつつ、外向けカメラのおかげで周囲の現実世界を見ることができるとも再確認。

こうしたAR=現実世界との接点は、アップルにとって比重が高いはず。同社内では「メタバース」という言葉が使用禁止にされているとの内部情報があったからです

少なくともアップルは、メタバースを「ユーザーが逃避できる完全な仮想世界」と否定的に捉えており、新型ヘッドセットは仮想空間に行ったきりの「一日中使うデバイス」ではなく、現実世界に取って代わることを目指していないようです。

実際、ティム・クックCEOもメディアの取材で「一般の人にとってメタバースはよく分からないもの」との趣旨を発言。それとともに「ARはすべてに影響を与える深遠な技術だと思う」「私たちは後に振り返って、かつてARなしでどうやって生きていたかを考え込むことになるだろう」とまで言っていました。

それほどの期待が掛けられたヘッドセットですが、今回の記事では「ほとんどのユーザーが使えるようになるのは早くても秋以降」と予想。それでも、アップル社内では6月のWWDCに向けて、数カ月かけてデモ版のプレゼンテーションを準備してきたそうです。

その中に「何百万ものiPadアプリ」の一部でも動かすことが含まれているなら、今ごろ開発スタッフは大わらわかもしれません。


アップル社内やサプライチェーン関係者は、さらなる遅れを懸念。その理由としてはヘッドセットと新たなソフトウェアとの統合、(ハードウェアの)生産、より広範な市場への投入(に合わせたローカライズ)などを挙げており、問題は山積みのもよう。そのため、今後なおスケジュールを変更する可能性があるそうです。

ならば発表は時期尚早では?とも思えますが、アップルとしてもこれ以上引き延ばせない事情を3つ挙げてます。まず理想的なバージョンを作るのに時間がかかりすぎること、すでに競合他社の製品が市場に出ていること、さらには同社がヘッドセットの開発に多くの資本と資源を投入していること。たとえ3000ドル以上もする高価な製品で大きな市場は見込めないとしても、見切り発車せざるを得ないというわけです。

新型ヘッドセットを掛けてみたと思しき関係者は、「安全ゴーグルのようにユーザーの目を完全に囲い込み、普通のメガネのように周囲の状況を直接見ることができない」と証言。そのために外界を見るためのカメラを多数内蔵しているようですが、実際に体験したという人物は最新版のハードウェア/ファームウェアによる体験が「圧倒的だ」と語っていました

もっとも、それは以前の体験がガッカリだった落差によるところも大きく、搭載できる部品に限りあるヘッドセットのフォームファクターでは、長きにわたる試行錯誤が繰り返されてきたとも語られていました。

今回の記事で興味深いのは、ヘッドセット単体で動く最終バージョンに至る前の初期プロジェクトにも言及していることです。その1つは、大量のコンピューティング処理を肩代わりするため、外部ハブ的な「ベースステーション」にワイヤレスで接続するというもの。その案にはかつてのデザイン最高責任者ジョニー・アイブが難色を示し、クックCEOもそれに同意して単体完結型にさせたことは以前も報じられていました

それだけの紆余曲折を重ねた新型ヘッドセットですが、諸事情から量産が遅れる可能性が高いこともあり、著名アナリストは2023年内の出荷台数は20万台~30万台に留まると予測しています。

その一方で、MetaのQuest Proも中国Picoのヘッドセットも売上げ不振でVR市場が減速しているなか、アップルの発表イベント(WWDC)がAR/MRヘッドセット製品が次の家電スター製品になる可能性があると投資家に納得させるための「最後の希望」だとも指摘されています。もしも失望させれば、AR/VR市場への投資は一気に冷え込む恐れもあるということでしょう。

iPhoneも初代モデルから大ヒットしたわけではなく、世代を重ねてApp Storeなどを追加していき、現在のスマートフォン市場での地歩を築くに至っています。新型ヘッドセットもまずAR/VRが秘める可能性を全世界に知らしめてから、実際の売上げは数年がかりで後から付いてくるのかもしれません。

《Kiyoshi Tane》

Kiyoshi Tane

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フリーライター

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著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。

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