Vision Proを買って(だいたい)1週間、4つの疑問に答える。例えるなら初鰹のような存在(西田宗千佳)

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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Vision Proの購入から一週間ちょっとが経過した。その間、ほぼ毎日数時間は使っている。気に入っているかといえば「もちろん最高に気に入っている」のだが、それは別に、「だからみんなすぐに買いなさい」という話でもないし、「このまますぐ世界を席巻します」という話でもない。

というわけで、買って5日でわかってきたことから、4つの「よくある疑問」に答えて行きたいと思う。


その1:便利ですか?

答え:便利。機能を分解していけば、似た体験は他のHMDでもできる。ただし、実際の体験としてはレベルが違う。

Vision Proでできることは、極論すれば2つに集約できる。「空間にアプリを配置していく」ことと、「見えている世界を別のものに書き換える」ことだ。

それを「ただ大きなディスプレイを空中に置くだけ」というのは簡単なのだが、次の画像くらいになると、まあだいぶ話は変わってくる。

作業中の画面。Macの画面を大きく表示(右下)しつつ、Lightroomを開いて写真を確認しつつ(左下)、SNSを確認し(左上)、ドラマも流す(右上)

本質的にはそれだけ。だが、安全に使うには周囲が自然に見えていないといけないし、ウインドウまでの距離感も自然である必要がある。単に表示しただけとの間では、やはり快適さに大きな違いを感じる。

別の言い方をすれば、物理的なディスプレイの場合には配置できる場所・サイズの制約が大きく、それを解決するための1つの手法が「空間コンピューティング」ということになるわけだ。

また、映画などの体験は非常にクオリティが高い。HMDであるが故に視野の狭さは感じるが、解像感・音質ともに良好で、これを飛行機の中でも家でも体験できるのは素晴らしい。これもまた、物理的な世界に存在する制約を取り外した例と言えるだろう。

意外と語られづらいが、周囲を別の環境にしてしまう「Environments」のクオリティも素晴らしい。山の上や月面に一人で立つ、という感触は、なかなか他では得られない。

月面や山の上でひとり過ごせるのもいいところ。他のHMDにある壁紙や環境映像よりも品質が良い

しかも、普通に、手元のキーボードやスマホを見ながら作業できる。現実そのままとはいえないが、周囲がちゃんと見えていることは重要なことだ。

実のところ、ビデオパススルーで見える映像は視力が補正されたことを前提に見せているので、意外なほど見えやすい。解像感も発色も肉眼からは外れているのだが、老眼などの影響を受けづらい状況にはなる。なのでビデオパススルーは「視力をざっくりと補正する」役割としても価値を持つのだ。

キーボードもスマホもしっかり見える

補足しておくが、Vision Proにも難点は山ほどある。

暗い場所ではパススルー品質が落ちやすく、手や周囲の認識精度も劇的に下がる。首を大きく振った時、パススルーの書き換えが遅れるのは気になる。ウインドウの整列を自動化する機能も欲しくなる。

そもそも、ホーム画面でアプリの並べ替えすらできず、素早く操作しようとするとイラつく。確かに手の認識精度はとても高いが、遠いところに置いたウインドウの小さなボタンを正確に操作できるほどではないので、操作時に「手元へ引き寄せる」必要が出ることも多い。

アメリカ版なので日本語入力が標準ではできないとか、Magic Trackpadは使えるのにマウスがなぜか使えないとか、突っ込み始めればキリがない。

だが、Siriを併用すると使い勝手は一気に上がる。MacでもiPhoneでも、ここまでSiriを便利だと感じたことはないくらいだ。文字が見づらければ近寄るか、近くまで持って来ればいいというのは、ある意味で直感的かつわかりやすい。

今のOSは「1.0」だ。発売直後に「1.0.2」になり、デベロッパーには「1.1 beta」の配布が始まった。他のOSと同じ流れなら、次のWWDCでは「visionOS」が発表されるのだろう。

不満点はそうやって一部が解消されていくことになるはずだ。

その2: 他のVR機器でも同じようなことができるけど、もっと安い機器でいいのでは?

答え:「機能」としては可能。でも体験として大きなジャンプがある。そこにお金を払うかが重要。

「他の機器を使うともっと低コストにできる」「機能としては驚きではない」、という指摘はごもっとも、と思う。

ビデオパススルーで実景とCGを重ねるならMeta Quest 3でもできるし、映画を没入して見るなら、XREAL AirやVITURE One、Rokid Maxなど「サングラス型ディスプレイ」でもできる。

Quest 3でのパススルー。アプリと現実との同居はこちらでもできる。

本質として「空中に画面が出ればいい」なら、他の機器でもできることだ。

だが、前述のように体験は大きく違う。

例えば大画面で映画をみるとする。サングラス型ディスプレイは「全体が透ける」か「シェードで暗くする」かの2択になるため、周囲の風景との同居には一定の制限がある。HMDの場合には実質解像度が下がりがちだし、ビデオパススルーの実景も大きく歪む。

Quest 3では、手元の実景が大きく歪むことも

また操作系にしても、「ディスプレイを目にかけつつ、手元にあるスマホを操作する」「手を大きく上げてウインドウを操作する」などの形態となり、まだこなれていない。

それに比べるとVision Proは、空間を生かすための環境自体がワンパッケージになっていて、誰もが(購入しさえすれば)すぐに体験できる。しかも、Vision Proと同じクオリティで見られる機器は他にない。

機能の有無ではなく、OSを軸とした「体験の完成度」が段違いであり、そこにこそ製品としての価値がある。

逆にいえば、この価値を実現するために高価なハードウエアを用意していることになる。

新しい製品を普及させるときには、価格を下げて購入できる人を増やすのが定番のアプローチだ。Meta Quest 2や3はそういう流れで生まれている。コンシューマゲーム機に近い考え方だ。

普及のためには価格の制約が大きく、その範囲でできることをやっている。一方で、不利をカバーするためにOSをガンガンアップデートして進化させているわけで、それはそれですごい努力である。

一方アップルは、最初から高いハードウエアを使い、理想的な姿に近いものを示すことからスタートしている。普及がまだ先になるのはわかった上で、「では今、消費者を落胆させないためにはなにをしないといけないのか」を考えて積み上げるアプローチをしたわけだ。

そのどちらが正解か、それともまた別の正解があるのかは、今後消費者が決めることだ。

なお、Vision ProはOSの進化で使い勝手が変わる、と書いたが、それは他の機器も同じである。対抗上、当然ソフトの進化は加速される。

それ自体が多くの人にとって、まずはプラスであるのは疑いない。

その3:不快じゃないですか?

答え:重いとは感じるし、顔への圧迫はある。だが他のHMDのような暑苦しさは感じない。

600gもあるものを顔につけるのは自然な行為ではない。そのため、バンドの工夫も含め、アップルは色々やっている。それでも、すべてが成功しているとは思えない。

筆者が6月に体験した時には、今のKnit Bandに、頭頂部を押さえる別のバンドがついていた。これをアップルは無くしてしまったようだが、安定のためにはあったほうがいい。付属のDual Loop Bandでカバーしようと考えたのかもしれないが、Dual Loop Bandはあまり役立っていない。個人的には無駄だと感じる。

ただ、他のHMDにありがちな「暑さ」「湿気のこもり」のようなものはほとんど感じられず、長時間使っていても気になりづらい。ここはとてもいいことだ。

首をあまりふらずに操作できるので、椅子などにもたれかかって首の負担を減らす形で使ったほうが快適だった。要は「ソファにもたれかかる」か、「いわゆるエンジニア座りで使う」か、というところだろうか。

頭への固定については、他のHMDでも色々なノウハウやサードパーティー製品が出てきて、試行錯誤されているところだ。

そもそも試行錯誤しないと快適にならないのはどうなのか……という、HMD自体が抱える課題はあるだろう。

しかし、不幸中の幸いか、日本での発売はまだ先だ。色々な知見が集まり、今より快適に使えるようになる可能性は高い。

一方で、メガネが使えないのは、つけ外しを考えると面倒ではある。ソフトコンタクトレンズを使うよう「自分を合わせる」か、インサートレンズを作るのか、という選択肢になる。厳密さから来るある種の「窮屈さ」は、Vision Pro最大の欠点かとも思う。

その4:結局、今のVision Proはどんな存在ですか?

答え:空間コンピューティングにおける1983年の「Lisa」。もしくは初鰹(すごくおいしい)。

Vision ProはMacとのコンビネーションで最大の価値を発揮する

多くの消費者にとって、Vision Proは明らかにオーバーコストだ。得られるメリットに対して価格が高すぎる。アップルもそれはわかっているだろう。前述のように、あえて「価格を抑えて大量に一気に普及させる戦略」を取らず、利用者が「これは大きな変化だ」と感じられるクオリティを実現する方を優先したのだ。

そういう意味では「空間コンピューティング」の世界をちゃんと示すための存在、ということなのだ。

これはアップル製品でいえば、Macの前身となった「Lisa」にあたる。

Apple Lisa(正確にはMacintosh XL)

初代Lisaの価格は1万ドルであり、これもやっぱり「高すぎて売れない」と言われ、実際その通りになった。だがそこから低価格化した「Macintosh」が生まれたのもご存知の通り。

でもLisaがあの時生み出した体験は、当時の商品としては隔絶したレベルのものであり、他で得難い価値を持っていた。冷静にバリューだけでいえば高いが、体験レベルとしては「他にない」ものだ。さらに進化した先にMacintoshがあり、それがまた継続的に進化し、今に至る。

そういう意味でいえば、筆者はVision Proを「初鰹みたいなもん」だとも思っている。

とてもおいしいが、初鰹は本当においしい旬のものではなく、価格も割高。でもある種の見栄と粋で初鰹を買って、その行為自体を楽しむ。値段もそこまでの行為込みのものであり、味のバリューそのものではない。

ガジェットもそれに近いところはある。「出たばかり」という体験はいましかできないもので、それが叶うなら、払ってみることには一定の良さがある。

筆者は「初鰹」を存分に堪能中

「これでいますぐに儲かるのか」で考えれば、まあ難しいと思うが。

日本で販売される際も、そんな意識で捉えてみてほしい。

《西田宗千佳》

西田宗千佳

西田宗千佳

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