Apple Vision Pro米国版を購入・プレビューして体感した「今、手に入る未来」(西田宗千佳)

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西田宗千佳

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フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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Apple Vision Pro米国版を購入・プレビューして体感した「今、手に入る未来」(西田宗千佳)
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「ねんがんの Apple Vision Proをてにいれたぞ!」

▲Vision Pro米国版

「そう かんけいないね」なんて言わないでほしい。

確かに最低でも3500ドル(約52万円)というのは高価だし、現状は英語環境のみでの動作だ。後述するが、いわゆる「技適」もない。不便な点も留意すべき点も多々ある。

しかし、使ってみると確実に「これは未来の1つの形だ」と感じる。過去さまざまな機器で試みられてきた方向性を、アップルが大きな予算とコストをかけ、一気に新しい次元まで持ち込んだ。

それはどういうことなのか。実機写真とともにファーストインプレッションをお届けしたい。

ハワイでVision Proをゲット

今回、Vision Proはハワイ州ホノルルにあるApple Store Ala Moanaで購入した。元々は米国在住の友人への配送から日本への転送、次に同じくハワイのApple Store Kahalaでの受け取りになり、最終的には予約をキャンセルして発売日当日にAla Moanaでの受け取りになった。要は「いろいろあったが、店頭在庫があったので発売日当日に受け取れた」ということである。売れていないわけではなさそうだが、アップルは相当数の在庫を用意したようだ。少なくとも発売日翌日の2月3日までは、米国各地のApple Storeには当日購入用の在庫があったようである。

▲ハワイのApple Store Ala Moanaで購入中の筆者

すでにご存知の方も多いと思うが、Vision Proの箱はかなり重くて大きい。予測だが、紙素材だけでパッケージを作る関係上、堅牢性を維持するために「紙をできるだけ圧縮して硬くする」「本体をしっかりホールドする立体形状を内部に設ける」などの要件が生まれ、結果として「大きくて重い箱」になったのではないか、という気がする。製品パッケージ重量の半分は、箱関連ではないかと思うくらいだ。

▲確かに箱は巨大

「手と目のセット」が新しいUIに

ただまあ、その辺のことは正直どうでもいい。

とにかく体験の違いこそが、Vision Proの大きな特徴であり、新しさである。

Vision Proをアップルは「空間コンピューティングデバイス」と位置付けている。

「そうは言ってもVRだしHMDじゃん」

おそらく結構な割合で、そう思っている人はいそうだ。

しかし実機をじっくり使ってみると、やっぱりVision Proは「空間コンピューティング」のための機器だという印象が強くなる。

▲ホテルから、ハワイの風景を背後に「空間コンピューティング」

筆者も長くXRの世界を追いかけてきたが、その中では2つの方向性があった。

1つは「世界への没入」。周囲を目に見えている現実とは違うものにしてしまい、ある世界へと耽溺・没入を促すものだ。別の言い方をすれば「異世界旅行」である。

そしてもう1つが「空間ディスプレイ」。四角い平面の中ではなく、自分に見えている領域すべてをディスプレイとし、実景やバーチャルな世界を活用する。同じような言い方をすれば「好きな場所に情報へのポータルを作る」ものだ。

前者と後者は地続きだが、実現できる体験は結構違う。アップルのいう空間コンピューティングとは後者を軸にした世界であり、まさにPCやタブレットの延長線上でもある。

Vision Proのセッティングは、まず「手と視線認証のキャリブレーション」から始まる。両方の手のひらを認識させ、次に、画面内に表示された点を「見つめてから指先をタップ」して視線認識を設定する。

そのコントロールは、本体下面に付いている、手を認識するためのカメラと、内側に内蔵されている視線認識機能で行われているわけだが、セッティングさえされていればあとは簡単に使える。

▲本体下部には、手を認識するためのカメラが多数

▲接眼レンズ側。この中に視線センサーが組み込まれている

手の認識と視線認識がVision Proの主要インタフェースであり、これの精度が操作性にも関わってくる。だから、視度調整が必要な人は、インサートレンズやソフトコンタクトレンズの存在が重要になるわけだ。

これが本当に、驚くほどちゃんとしている。100%正確とまでは言わないが、いきなり見当違いの動作をすることはほぼない。操作したいところを見て、そこで「タップ」(親指と人差し指を当てる動作)などをすればいい。タッチパッドと画面タッチの中間のような操作感だ。

Vision Pro操作の様子を動画で。かなりサクサクな操作感覚だ

アプリは空中の好きなところに置けて、これもまた快適。まさに「空間全体がディスプレイになった」感覚である。複数のディスプレイをリアルに置くこととも、巨大なディスプレイを見ることとも違う新鮮な体験がそこにある。

▲ウィンドウは好きに配置可能

XRが目指した未来の「1つ」がここに

ではこれは「魔法のような体験」「見たこともない体験」なのか?

そうではない。

前述のように、XRの世界では以前から夢想されてきたことであり、「没入」とともにいろいろと研究されてきた。

過去に出た製品でいえば、マイクロソフトの「HoloLens」やMagic Leapの「Magic Leap」などがそれにあたる。特に、HoloLensの描こうとしていた「協調的コンピューティング」は、複数人でのコミュニケーションを前提とした空間コンピューティングである……と言ってもいい。

それが現在は、高解像度ディスプレイ+カメラによるビデオシースルーで、よりわかりやすい形で現実のものになった。

そのためには、視線認識や画像認識用の高度なセンサーに加え、そのデータを処理する処理形、十分に高性能なCPUとGPU、高画質なマイクロディスプレイなど、最先端の技術が多々必要になる。アップルは予算をかけ、「普通にやっていれば、実現までにはあと数年かかる」ような技術を前倒しで製品化した。

この「時代の前借り感」「限定的タイムマシン感」こそが、Vision Pro最大の美点だ。

筆者はそれを体験するために3500ドル払ったと言っても過言ではない。逆に言えば、「とにかく先の未来を体験しておきたい」のでないなら、数年後には確実に出てくるであろう廉価版・普及版を待ってもいい。

問題は、これは何に使えるのか、ということだ。

もちろんPCのように「作業するコンピュータ」として使える。ただ、現状の製品は米国版なので、日本語入力はできないし、表示フォントが中国系のものになったりもする。全てのアプリが用意されているわけでもなく、本当に活用するなら、MacBookシリーズと組みあわせての利用をお勧めする。そうすると相当お金はかかるわけで、「普段からiPhoneやMacを使っている」人以外にはすぐにお勧めしかねる。

映画などを楽しむのもいい。画質が素晴らしく、特に3D映画の体験は、これまでに比較できるものがないほど良いものになっている。

同様に、撮影した空間ビデオの視聴にもいい。写真をじっくり眺めるデバイスとしてもいいだろう。

ただ、Vision Proならではのアプリはまだまだ少ない。急速に増えていくだろうと予測できるが。おそらく初期のキラータイトルは「動画視聴」であり、その次に重要なのが「ビデオ会議アプリ」だろう。

Vision ProはMacの置き換えでもiPhoneの置き換えでもない。おそらくそれらとは当面併存するはずだ。その先では、「必要な時はVision Proをかぶりっぱなし」という生活もできるのではないだろうか。

次回にはもう少し、そういう「未来に続く可能性」の部分を検証してみたい。

今日すぐに感じるのは「重さ」であり、「首への負担」でもある。どちらの現状の技術ではどうしようもないのだが、技術進歩によって改善が進むことが、より幅広い層への普及につながっている。

《西田宗千佳》

西田宗千佳

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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