AIが都市を動かす──ドバイ「GITEX 2025」で見えたスマートシティの現在地(スマホ沼)

テクノロジー Mobility
山根康宏

山根康宏

香港在住携帯研究家

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特集

みなさんこんにちは、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏です。2025年10月中旬、ドバイの展示会「GITEX 2025」を取材してきました。中東最大のIT展示会ということでスマートデバイスなどの展示もあった一方、通信キャリアは最新技術をベースに都市のスマート化、すなわちスマートシティーの実現に向けた展示を行っていました。たとえばドバイ=UAEの最大キャリア、Etisalatのブースは、中央に場用ドローンが3機も展示されていました。

これらは単純に「自動操縦で空を飛ぶ乗用ドローン」という展示ではなく、都市部を走る交通機関、すなわち地下鉄、バス、タクシーなどを補充する、新たな空中交通機関「UAM、Urban Air Mobility」であり、スマートな将来の交通機関として展示されていました。スマートフォンによるエアタクシーの呼び出しや運行制御に5G回線を使うなど、通信キャリアの回線があってこそ商用化が可能になります。なお、現時点ではまだフライトテストなど限定運用に留まっています。

UAM以外の展示も、ただの技術アピールではなく都市のスマート化を見据えた展示が目立ちます。すでにテスト運用が始まっているデリバリーロボットも制御に使うのは5G回線です。無人のため昨今のドライバー不足の解決にもなりますし、人為的な配送ミスも無くなります。道路の舗装状況や交通量によっては投入できない場所があるとはいえ、団地内のラストワンマイル配送などには十分使えます。

人型ロボットの展示もGITEX 2025で数多く見られました。EtisalatブースではUnitreeのロボットをVRグラスを使って操作するデモを行いました。すでに商用化されていますが、工場などの補助作業に使えるとのこと。このロボットの制御もWi-Fiではなく5Gを使います。その5G回線も工場など特定エリア向けのPrivate 5G(日本ではローカル5G)回線。自前で基地局を買ってきて設置するという(実際はそれだけではありませんが)、Wi-Fiのようにネットワークを展開できるのがPrivate 5Gです。

人型ロボットはこれまで自動化できなかった作業、たとえば箱の中からネジを取り出してセットするといったことも可能になります。これにより工場の完全自動化、すなわちスマートファクトリーが実現できます。そして、都市に住む人々の消費動向に応じて工場の生産スケジュールを制御するという、無駄のない製品生産活動が可能になります。都市がスマートシティー化されていれば、あらゆるデータを応用できるわけです。

スマートな生活(スマートライフ)の実現のためには「スマートフォンとあらゆるものがつながる」ことが必要です。しかし、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラスなどコンシューマー向けのデバイスがつながるだけでは、実現できることは限定的です。交通(鉄道運航や道路混雑)、気象(天気、気温)、環境状態(騒音、照度)、店舗(在庫状態、混雑状態)など、都市から得られるあらゆるデータが接続されることで、真のスマートライフが実現するわけです。

スマートシティーという構想は2000年以前からありましたが、現在、センサーの小型化やコストダウン、性能アップにより、都市のあらゆる場所からデータを取得することが可能になりました。IPカメラも今や多くの都市で監視カメラとして使われています。また、解析したデータの処理、ビッグデータ処理もマシンパワーの進化で楽に行えるようになりました。しかし、それだけでは「過去データの解析」に留まり都市のスマート化は実現できなかったのです。ところが、AIの登場により膨大なデータから将来の動きの予測が簡単に行えるようになりました。

AIが交通量データを分析し、信号機のタイミングや公共交通運行をリアルタイムで最適化する例は、シンガポールなどで実用化されています。また、AIがビル内の電力消費パターンを学習し、照明や空調を自動制御して無駄を減らすことも可能です。AI搭載カメラやセンサーによって不審な行動や状況を自動検知し、犯罪の予防や即時通報を行う事例もすでに商用化されています。AIの登場で都市のスマート化が一気に進もうとしています。

通信キャリアではネットワークの最適化運用にAIが利用されています。また、カスタマーサービスにAIアバターを使うことも一部のキャリアで始まっています。Etisalatでは生成AIにより手話のAIアバターのテストも始めています。これはキャリアに留まらず、公共サービスや商店などでも実用化が進むでしょう。

さまざまな新しいテクノロジー製品やサービスは、人々の暮らしを快適で豊かにする目的で生まれています。これまでは、それぞれが個別の製品として使われてきました。しかし、それらが都市のネットワークとつながることで、単体では実現できなかった新しい価値が生まれ、スマートシティによって今までにない充実した社会が実現します。ドバイの展示会では、そうした未来都市の実現に向けての展示が紹介されていました。

《山根康宏》

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