AIを使うと脳が衰えていく? AIツール長期使用の脳への影響を測定(生成AIクローズアップ)

テクノロジー AI
山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

特集

1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。

今回は、エッセイ執筆時にChatGPTなどのAIツールを使用することによる認知的影響を米MITなどが調査した研究「Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task」を取り上げます。

実験では、54名の参加者に対し、4カ月にわたってエッセイ執筆課題を実施し、脳波測定(EEG)、自然言語処理(NLP)分析、インタビューを通じた調査を行いました。

参加者は、AIツールを使用するグループ(AIグループ)、検索エンジンを使用するグループ(検索グループ)、そして何も使用しないグループ(脳のみグループ)に分かれてエッセイを執筆しました。

▲実験時の様子

結果、次のようなことがわかりました。まずAIグループは自分が書いたばかりのエッセイの内容をほとんど覚えていませんでした。それにより自分が書いたエッセイから引用することが著しく困難で、83.3%が正確な引用ができませんでした。これに対し、検索グループと脳のみグループでは、自分が書いたエッセイの内容を理解しており、わずか11.1%しか引用に困難を示しませんでした。

なぜこんなことが起きるのでしょうか。脳波の測定結果が答えを示しています。脳波測定の結果では、脳のみグループは、アルファ波、シータ波、デルタ波帯域などにおいて強い神経接続性を示しました。検索グループは中程度の接続性を示し、AIグループは最も弱い接続性を示しました。これらの違いは、認知的負荷と内部情報処理の程度を反映していると考えられます。

▲AIグループ、検索グループ、脳のみグループにおける、エッセイ執筆中の脳波接続パターン

このように脳活動の違いからエッセイ作品自体への所有感(愛着)にも差が生まれました。脳のみグループの参加者はほぼ全員が自分のエッセイに対して完全な所有感を持っていたのに対し、AIグループでは所有感が分散し、一部の参加者は全く所有感を持たないと報告しました。検索グループは両者の中間的な結果を示しました。

さらにNLP分析により、AIグループのエッセイは各トピック内で統計的に均質であることが判明しました。また、AIグループは最も多くの固有名詞(人名、場所、年号など)を使用し、検索グループはその半分、脳のみグループは60%少ない使用率でした。これは、AIが提供する情報への依存度の違いを反映していると考えられます。

▲各グループ(LLM、検索エンジン、脳のみ)のエッセイに共通して使われた固有名詞(人名、場所など)の「似ている度合い」を数値で示したグラフ

次の実験では、今までとは別のグループに属してもらいました。AIグループの参加者がAIツールなしで執筆し(AIから脳へグループ)、脳のみグループの参加者がAIツールを使用して執筆しました(脳からAIへグループ)。

その結果、以前AIを使用していた参加者がツールなしで書いた場合、初期パフォーマンスは向上したものの、脳のみグループが示すような深い神経統合ネットワークを発達できませんでした。これは、AIツールの使用が初期のスキル習得には役立つが、脳のより深いレベルでの学習や統合を代替しないことを意味し、AIツールへの依存が長期的な認知能力の発達に影響を与える可能性を示唆しています。

以前ツールを使わずに執筆していた参加者がAIツールを使用したところ、全ての脳波周波数帯域で脳の接続性が著しく増加しました。これは、AI支援による再関与が、高レベルの認知統合、記憶の再活性化などを誘発したことを示唆します。

これらの結果から、AIツールは短期的な効率をもたらすが、脳の神経接続性の低下、記憶力の悪化、作品への所有感の希薄化など、長期的な認知能力の低下につながる可能性が示されました。

もし教育現場でAIを使用する場合、まずはAIツールを使わず脳のみでタスクを実行してから、後でAIツールを使うなど、分離と使用のタイミングを慎重に検討する必要性があると考えられます。


《山下裕毅(Seamless)》

山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

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