NTT法めぐる論争を解説。KDDI ソフトバンク 楽天モバイルの3社が廃止反対の理由。落としどころはあるか(石野純也)

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石野純也

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ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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▲NTT法を撤廃すると国民の利益が損なわれるというのが、180者の要望だ
  • ▲NTT法を撤廃すると国民の利益が損なわれるというのが、180者の要望だ
  • ▲KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、共同会見を開催。NTT廃止への反対を表明した
  • ▲法律が古く、時代に即していない点が多いと主張するNTT。実際、弊害も起こっているという
  • ▲法律が古く、時代に即していない点が多いと主張するNTT。実際、弊害も起こっているという
  • ▲3社を含めた180者は、NTT法の改正には賛成している。ただし、維持すべき点もあり、廃止には反対というスタンスだ
  • ▲「廃止には絶対に反対」と語るKDDIの高橋社長
  • ▲ソフトバンクの主張もほぼ同じ。仮にNTT法を廃止するのであれば、国から受け継いだ資産は返上すべきとの交換条件を突き付けている
  • ▲ソフトバンクの宮川社長は「特殊法人であることを忘れてはいけない」と語る

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、10月19日に共同で記者会見を開催。3社の社長やCEOが集い、政府与党の自民党や総務省で議論が進められている「NTT法廃止」への反対意見を表明しました。

同日、同時刻には“裏番組”としてNTTも記者会見を開催。40年前に制定され、時代に即していない規定を見直すべきとの考えを訴えています。NTTの主張がすべて通れば、結果としてNTT法は不要になるというのが同社のロジックです。

▲KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、共同会見を開催。NTT廃止への反対を表明した

NTT法とは、「日本電信電話株式会社等に関する法律」の通称。元々は国が全額出資していた電電公社が、民営化する際に定められたルールと言い換えることもできます。

固定電話サービスを全国で提供するなど、公共性の高い事業を民営化後も継続するよう縛りをかけるためのもの。KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのような民間企業と対等な競争を実現するため、一定の義務を負わせている形です。

これに基づき、NTTはNTT東日本やNTT西日本、NTTコミュニケーションズなどに分割され、今に至ります。ただ、競争環境が大きく変わり、通信の主戦場もモバイルに移り変わるなか、時代に即していない規制が多く残っているというのがNTTの主張。

研究開示義務があり、提携を断られたケースがあるほか、海外事業を持株会社の定款に記載できなかったり、外国人役員を登用できなかったりと、大小さまざまな弊害があるとしています。

▲法律が古く、時代に即していない点が多いと主張するNTT。実際、弊害も起こっているという

ことの発端は、防衛費増額の財源をまかなうために政府がNTT株の売却を検討し始めたこと。NTTは現在、財務大臣が約1/3の株式を保有しており、これを防衛費に充てていく流れから、NTT法の改正に関する議論がスタートしました。

これも、NTT法で義務付けられているルールの1つ。ところが、あれよあれよという間に話が拡大し、NTT法の改正から撤廃にまで話が進んでしまいました。

3社がケーブルテレビ事業者など計180者と要望書を提出し、NTT法撤廃に断固反対の姿勢を示したのはそのためです。ただし、NTT法の改正自体には前向き。

KDDIの高橋誠社長は、「NTT法の見直しは必要であり、これについては賛成。ただし国民の利益が損なわれる廃止には絶対に反対」としています。具体的には、上記で挙げたような国際競争力を抑えているような規制は、時代に合わせて見直していくべきだとしています。

▲3社を含めた180者は、NTT法の改正には賛成している。ただし、維持すべき点もあり、廃止には反対というスタンスだ
▲「廃止には絶対に反対」と語るKDDIの高橋社長

一方で、NTT法が廃止になれば、規制は他社と同等になってしまいます。3社を含めた計180者が反対しているのはこの点。グループ一体化の防止や、競争でカバーできないへき地などへの提供義務(ラストリゾート)や、外資規制などは設けるべきだとしています。

ソフトバンクの宮川潤一社長は、「NTTは我々と違い、特殊法人であることを忘れてはいけない。公共資産を受け継いだ会社としての責務がある」と語ります。

▲ソフトバンクの主張もほぼ同じ。仮にNTT法を廃止するのであれば、国から受け継いだ資産は返上すべきとの交換条件を突き付けている
▲ソフトバンクの宮川社長は「特殊法人であることを忘れてはいけない」と語る

これに対し、NTTはNTT東西とドコモを統合する考えはないと主張。NTT法がなくとも、電気通信事業法の規定に基づいて平等に光ファイバーなどのネットワークを提供していくとしています。

また、交付金制度などが整えば、NTT東西でラストリゾートの責務は担っていくことも表明済み。計180者が求めている条件は、NTT法がなくとも実現できるという見通しを示しています。

▲NTTは、NTT東西とドコモを統合する考えはないと主張する

ただ、このNTTの主張はあくまでも“口約束”にすぎないというのが反対側の見方。「NTT法には組織の理論が書いてあり、NTT東西とホールディングスを一体化することを抑止している。これを廃止してしまうと一体化につながる懸念がある」(高橋氏)といいます。「必ず電気通信事業法だけで十分と言われるが、そこは議論すべきところ」というのが、共通のスタンスと言えるでしょう。

背景には、ドコモの完全子会社化がなし崩し的に進められてしまったことへの警戒がありそうです。高橋氏は、「昔は分離分割の方向が閣議決定で決まっていたが、法律に書いていないからという理由だけでドコモを100%子会社化した。こういうことをされるので、基本的にはちゃんと法律として残さなければいけない」と語ります。

ソフトバンクの宮川氏も、「すごく大事なところ」と高橋氏のコメントに同調。「NTTはドコモのTOB(株式公開買い付け)をシレっとやった。ああいうことが10年後、20年後ありえるとしたら、今この事業をやっている人間が声を挙げなければいけない」(同)と語っています。

楽天モバイルの鈴木和洋共同CEOも、「仮にNTT東西が完全に民営化された場合、株式会社として経済合理性第一で動く。約束していたことが反故にされるリスクがある」としています。

▲楽天モバイルの鈴木共同CEOも、単なる約束への懸念を表明した

そもそも、仮にNTT東西とドコモ、コミュニケーションズが一体化して本当に絶大な競争力がつくのかという点には疑問符もつきますが、競争環境を変えてしまう力がつく点はリスクになるでしょう。

宮川氏は「NTTが一体化される構造になり、NTT法がなくなったら、NTT東西のアセットを他の会社に少しずつ分割したら50%ルール(シェア50%以上の場合に一種指定事業者として公平な条件でサービスを提供するルール)が消えてしまう」と語りました。

国の資産を受け継いだNTT東西には、口約束ではなく、きちんと法律でルールを課しておく必要があるというわけです。

▲NTT法を撤廃すると国民の利益が損なわれるというのが、180者の要望だ

NTTの言い分は確かに理解できる一方で、ドコモの一件もあり、約束ではなく法に基づいたルールをという180者の主張も筋が通っているように見えます。

ただ、NTTと反対するKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルで意見が一致している点も多いため、そこに絞った形でNTT法を改正すればことが丸く収まるような印象も受けました。例えば、NTT東西を統合するつもりが本当にないのであれば、それが改正NTT法で規制されていても問題はないはずです。

一見、正反対の主張が繰り広げられているかのように思えますが、それぞれの主張を精査していけば、落としどころもありそうな気がしました。


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《石野純也》
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