1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、社会経済的地位の違いでAIの利用方法がどう異なるのかの「AIギャップ」を調査した研究「The AI Gap: How Socioeconomic Status Affects Language Technology Interactions」を取り上げます。
デンマークのコペンハーゲンIT大学とイタリアのAI研究所CENTAIなどに所属する研究者らが発表したこの研究は、収入や教育レベル、職業などの社会経済的背景によって、大規模言語モデル(LLM)の使い方にどのような違いがあるのかを調査しました。
研究チームは英国と米国在住の1000人を対象に調査を実施し、参加者が過去にAIチャットボットとやり取りした6482件のプロンプトを収集・分析しました。分析では低層、中間層、高層の3つに分けて調査しました。

▲この研究では社会経済的地位の異なる参加者からプロンプトを収集し、その特性を分析した
その結果、高層の人々はより抽象的で簡潔な表現を使い、仕事や教育、専門的なタスクにAIを活用する傾向が強いことが判明しました。一方、低層な人々は、より具体的で丁寧な言葉遣いをし、エンターテインメントや一般的な質問にAIを使用することが多いという結果が出ています。
プロンプトの長さにも明確な違いが見られました。低層の平均プロンプト長は27.0語だったのに対し、中間層は22.3語、高層は18.4語と、社会経済的地位が高いほど簡潔な表現を使う傾向があります。
利用目的の違いも顕著です。高層はコーディング、データ分析、文書作成、要約などの生産的なタスクにAIを活用することが多く、特に仕事や学習の文脈での利用が目立ちます。対照的に、低層は一般的な知識に関する質問、ブレインストーミング、娯楽目的での利用が中心となっています。

▲低層、中間層、高層の人たちがAIチャットボットを使うタスク
話題の選択にも階層による違いが現れています。高層のプロンプトにはLGBTQ+などの「包括性」(インクルーシビティ)、「組織内のコミュニケーション改善方法」、「旅行の計画」といった抽象的で複雑なテーマが多く見られました。他にも、「現在の暗号通貨市場のトレンドは何ですか?」などの「投資戦略」や「ビジネスプラン」に関する質問が目立ちます。食べ物では、健康的で高価な料理をターゲットにした要求が多く見られました。
一方、低層では日常生活に密着した具体的な質問が多くなっています。例えば、金融に関する質問では、「最も生活費が安い場所はどこですか?」「借金を減らす最良の方法は?」といった実用的な内容が多く見られました。

▲異なる階層の人たちが書いたプロンプトの例
デジタル機器へのアクセスにも格差が存在します。スマートフォンの日常的な利用率は全階層でほぼ同じですが、タブレット、ノートパソコン、スマートウォッチの利用率は高層ほど高くなっています。AI チャットボットの利用頻度も、高層では「毎日」使用する人の割合が高い一方、低層では「めったに使わない」「使ったことがない」という回答が多く見られました。

▲異なる階層の人たちの各デジタル機器の使用頻度

▲異なる階層の人たちのAIチャットボットの使用頻度
また、AIに対して「こんにちは」や「ありがとう」といった挨拶やファティック(関係性を構築するための)表現を使う頻度が低層では高く、統計的に有意ではありませんが、これはAIをより人間的な存在として捉えている可能性を示唆しています。