Apple Vision Proを映像機器として評価。1点を除きハイエンド環境に迫る雰囲気が楽しめる(本田雅一)

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本田雅一

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ジャーナリスト/コラムニスト

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

特集

Apple Vision Proを映像機器として評価。1点を除きハイエンド環境に迫る雰囲気が楽しめる(本田雅一)
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いよいよ発売されたことで、多くの感想やインプレッションが集まっているApple Vision Pro。

全体像を伝える記事は数多くある上、情報の伝え方にもさまざまな切り口がある。伝えたいことが多過ぎるため、ここでは可能な限りシンプルに、「ディスプレイとしてのApple Vision Pro」についてインプレッションをお届けしたい。

なお価格が極めて高いことは、ここではあまり考慮していない。自分自身で米国まで購入しに行った費用を考えれば、とても費用対効果に見合うものではないが、あくまでも製品としての質や将来の可能性として読み進めてほしい。

ディスプレイとしての品質

ヘッドマウントディスプレイの場合、視野角1度あたりの画素数で解像度が表現されるが、今一つピンとこないというのが正直なところだろう。50PPD以上はある、と言われても、視力1.0の肉眼が60PPDだと言われても、やはりピンとこない。

筆者は左右ともに近視が-1.5、乱視が-2.5で、累進度数は+2.5(裸眼での老眼鏡は不要)という視力だが、普段はメガネを使っている。

そんな筆者にとってApple Vision Proは、オプティカルインサートを使っていることもあって、実はとても快適。

13インチMacBook Airの画面を仮想ディスプレイとしてApple Vision Pro内に表示すると、実際の画面より大きく見えることもあるが、そのまま違和感なく使い続けることができる。(具体的な使い方、連携については後述したい)

細かな情報量となると、表示の距離設定に依存するが、少なくともMacとApple Vision Proを接続した直後のデフォルト状態では、そのまま目の前にMacBook Airの画面が(大きく)現れるというイメージで考えればいい。

とりわけイマーシブモード(周囲が見えなくなるモード)に設定すれば、視野全体が高精細な映像に包まれ、まるで視力が良くなったかのような錯覚に陥る。

コントラストも的確で、最暗部の階調性はもう少し粘りが欲しいところだが、OLEDらしくダイナミックレンジの広い映像に、アップルらしくよく調教された(つまり調整がきちんと行われた)、派手ではないがモニタとして的確な表示を行ってくれる。

ただし完璧かと言えば、改善点は少なくない。

まず有効視野角はもう少し欲しいというのが正直なところだ。これは光学性能とのトレードオフでもあるため、現時点ではこれが適切なのだろうが、有効視野角としては95度前後? という印象で、あと一声あると潜望鏡をのぞいている感覚から解放されるだろう。

とはいえ、これも許容範囲。もっとも気になったのはレンズの内面反射だ。

これは他のHMDにもあるが、とりわけ暗い背景の中に映像作品写し込んでシアター感覚でコンテンツを楽しんでいる際に気になる。映像の光がレンズでハレーションを引き起こし、視野の下部にはゴーストが現れる。

全体に明るい映像を表示している際には気にならないが、映画館のように映像を楽しみたい時にはチラチラと気になるレベルだ。

それでも"映像作品を楽しむデバイス"としては優れている

したがって映画など映像作品を観るデバイスとして評価したとき、残念ながら"改善が必要"と言わざるを得ない。が、それでも映像作品を観るデバイスとしては(おひとり様限定ではあるが)検討の価値がある。

筆者は4Kプロジェクターを自宅に設置し、120インチスクリーンで楽しめる環境を構築しているが、プロジェクターのコスト(HDR対応で高品位なものは300万円を超える)を除いたとしても、プロジェクターの性能を引き出すための内装、遮光、スクリーンなどのコストは膨大で、そこにサラウンド音声の環境も考慮すると、軽く1000万円コースとなりかねない。

もちろん、もっとカジュアルに楽しむこともできるが、純粋に映像作品を映画館に近い感覚で楽しもうとすると、とんでもなくコストがかかる。素直に映画館に行くほうがコストもかからず手っ取り早い。

それでも自宅で好きな作品を楽しみたいからホームシアターがあるわけだが、Apple Vision Proで観る映像作品は、3メートルぐらいの視聴距離で120インチスクリーンに4Kプロジェクターで映し出す映像に近い精細感が得られる上、黒がしっかりと沈んで遮光も優れた環境が手軽に手に入る。

HDR作品のピーク輝度、明部の色ノリも完全にRGB画素が揃った状態で伸び切るため、OLEDテレビと比べても同等か色再現域は広いほどだ。

絶対的な解像度(画素数)は、おおむね見やすい画角で見ている限りは3K解像度+α程度に感じるが、現実のプロジェクターで投射する際は若干のパネルズレやレンズ収差もあるから、総合的な体験として大きく劣るとは思わない。

つまり、ゴーストがやや気になるものの、それ以外の映像体験が「ハイエンドの映像環境に近い雰囲気で楽しめる」デバイスとして、このぐらいなら高くはない価格かもしれない、と思えるぐらいには良い(装着の重さを感じることはまた別だが)。

明るい画面中心ならば、なお素晴らしい

上記はホームシアターの置き換えとして考えた場合で、かなり特殊な評価だと思う。映画を映画館で観るように楽しみたいというのは、ストリーミング中心の昨今では古い価値観と言えるかもしれない。

最初からテレビで観ることを前提とした、比較的明るいシーンが多い作品や日本のアニメならば、あまりゴーストなどの影響は気にならなかった。

たとえば日本のアニメや漫画を配信しているCrunchyrollアプリは、Apple Vision Proのローンチ初日からAppStoreのおすすめに入っているが、どの作品もプロジェクターで観るよりも明るく、テレビで観るより大画面。明らかにApple Vision Pro向きのアプリだった。

Apple Vision Proは一人でしか楽しめないが、アニメ好きとFaceTimeでおしゃべりしながらSharePlayするのもいいだろう。今後、Apple Vision Pro対応のネット配信アプリが増えてくれば(Netflixはネイティブは出さないと話しているがブラウザなら視聴できる)、楽しみ方は増えると思う。


また写真作品を楽しむ上で、これまでと違った楽しみ方ができるだろう。特にiPhoneで撮影した写真との整合性は魅力だ。

カラーマネジメントがしっかりしているため、色が自然に見えることもそうだが、iPhoneの写真で記録される高輝度情報も反映されるため、(OLED採用の)iPhone自身で見る時のような鮮烈な写真が楽しめる。

またパノラマ写真の迫力は圧巻だ。本当に撮影した時の周囲の風景が自分の周りを取り囲む。一度、この体験をしたならば「次回からはパノラマ写真をもっと撮影しておこう。と心に留めるに違いない。

"空間オーディオ"は過去最高の再現性

ところで、本格的に良い音を楽しみたいのであれば、AirPods ProやAirPods Max(ややケーブルやストラップとの干渉がある)と組み合わせるべきだが、ストラップのステーに内蔵されたスピーカーの音質は、思ったよりも低域まで伸びて自然な音を出してくれる。

男性の声が細くなることなく、しっかりと低い重心で保たれるので、内蔵スピーカーだけで映像作品を楽しんでいたとしても、ドラマ中心の作品ならさほど不満は感じないのではないかと思う。

Apple Musicで音楽を楽しむ場合でさえ、オープンエア型のイヤホンだと思えば、不満はない程度には上手にチューニングされている。

さらに空間オーディオの再現性は、これまでのアップル製品の中でももっとも良いと思う。方向感、距離感などが的確に再現され、複数の音源が空間に併存していても何ら違和感を覚えない。

例えばFaceTimeで会話しているとき、相手の映像を遠くに置けば遠くから、上の方に置けば上の方から声が聞こえてくるといった具合だ。

"これから"に期待したいvisionOS

一方で前述したレンズの内面反射以外にも、いくつかの改善点は思いつく。

多くのレビューで指摘されているように、本体の重さは問題だ。ダブルループストラップを使えば緩和されるとはいえ、やはり顔への負担は小さくない。長時間使っていると首に疲れを感じる人もいるだろう。

ハイバックのヘッドレスト付きのチェアならば、少しリクライニングして使うことで楽になるだろうが、Macを接続して使っていると姿勢の関係で重さをさらに強く感じてしまう。

とはいえ、ハードウェアに関しては次世代モデルが登場するまでは現状で満足するほかない。そして現状のハードウェアで使い物にならないかといえば、量産品としては可能な限りの手が尽くされているとは思う。

一方でOSの熟成には取り組むことができるはずだ。

現在のvisionOSは、機能的な洗練度がまだ上がりきっていないという印象。ベースとしてのiOS、iPadOSがあるものの、それをApple Vision Proというデバイスに最適化するプロセスが、まだ現在進行中なのだと思う。

市場に出たことで多くの声が集まり、数か月のうちには大きく変化していくはずだが、現時点ではまだ煮詰めきれてない印象を受ける。特にリモートで他のアップル製品と連携する部分は、不安定な部分が見られた。

例えばMacとの連携では、本来ならばMacの画面に近づいて見つめるだけで、画面の上に接続ボタンが現れ、接続を指示すると仮想ディスプレイがポップアップする。ポップアップしない場合は、コントロールセンターから直接、接続を指示できるのだが、うまく接続できずに再起動が必要なことも少なくなかった。

また、イマーシブモードの活用も、もっと進めていいのではないだろうか。

Apple Vision Proの基本は、現実空間を再現しながらそこにアプリケーションの画面を重ね合わせることにある。しかし、超高精細のイマーシブモード用の背景(と環境音)はとても心地よく、狭い部屋でも広い空間にいる開放感を感じられる。

ところが配置できるアプリケーションのパネルは、実際にいる部屋の広さに依存しており、壁の向こうには配置できない(広い空間なら、最大でおよそ3メートルぐらいまでは表示パネルを離せるのだが)。

これはMRモードに切り替わった時に、表示が壁の奥にめり込まないようにとの配慮なのだろう。しかしせっかくならば、自動配置を行うなどしてイマーシブ時の開放的な感覚を活かしたいところだ。

もっとも、こうした意見は他にもいろいろあるだろう。重量に関しては我慢するほかないが、多くはソフトウェアで改善できる。これから日本での発売まで ──果たしてどの程度先になるのかは不明だが── には熟成が進むことを期待したい。


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《本田雅一》

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