FCNTの経営破綻で「らくらくスマホ」など企画モノ端末に暗雲。経済安全保障上の懸念も(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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FCNTの経営破綻で「らくらくスマホ」など企画モノ端末に暗雲。経済安全保障上の懸念も(石野純也)
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「らくらくスマートフォン」や「arrows」を手がけてきたFCNTが、5月30日に突如、民事再生法の適用を申請したと発表し、業界が騒然としています。

FCNTの親会社であるREINOWAホールディングスや、同社傘下でFCNTなどのスマホを製造していたジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)も同様の発表を行っています。

▲FCNTは、5月30日に民事再生法適用の申請を行った。同日をもって、同社の事業は停止している

民事再生法は、あくまで“再生”を前提としており、スポンサーを見つけることができれば、事業継続できます。実際、FCNTが運営していたSNSや、JEMSが手がけていたFCNT“以外”のスマホ製造などは、投資ファンドを含めたスポンサー企業が引き受けることが決定しており、サービスも継続します。

一方で、FCNTの端末開発、企画やFCNTのスマホ製造、保守については、現在、引き受け先が見つかっていない状況のようです。

そのため、FCNTはらくらくスマホやarrows等のスマホの生産やサポートを5月30日に停止。後継機の開発はもちろんのこと、現状販売されている端末のサポートもできなくなってしまいました。

ただし、キャリアが販売しているモデルに関しては、キャリアが責任を持った形で販売やサポートを継続していくことが表明されています。在庫がキャリア側にあるため、販売は可能。修理も、修理という名の交換にしたり、他のメーカーや修理業者に頼み込めば可能だったりするのかもしれません。

▲キャリアは在庫の販売を継続。体制を整え、アフターサポートも行っていくという

一方で、キャリアごとに保守体制が分かれてしまうおそれもあり、OSアップデートなどのソフトウェアについては未知数です。特にメジャーアップデートに関しては、キャリアごとにソフトウェアが枝分かれしてしまうことにもつながるため、できたとしても実施するかどうかは不透明と言えるでしょう。

「arrows N」の投入にあたり、FCNTは最大3回のアップデートを保証していただけに、結果としてユーザーに不安を与えることになってしまいました。


経営破綻の原因は、原材料費の高騰や円安などによるコスト高とされています。実際、FCNTのスマホは売れていないどころか、日本ではシェア3位のメーカー。調査会社MM総研が5月に発表した2022年度(2022年4月から2023年3月)までのデータによると、FCNTは全携帯電話で3位、スマホに絞っても5位につけています。

3キャリア展開を果たした「arrows We」は出荷台数が100万台を超えるなど、着実に販売を伸ばしていただけに、経営破綻のニュースの衝撃は大きかったと言えるでしょう。

▲MM総研調べ。販売不調というわけではなく、むしろシェア3位と規模は大きかった

ただ、arrows Weは2万円台の超低価格なエントリーモデルで、利益率も相当に低かったことが推察されます。こうしたスマホが伸びている一方で、同社はハイエンドモデルを手がけることができていませんでした。

産業構造上、エントリーモデルのような格安スマホは、どうしても規模の経済が必要になります。XiaomiやOPPOのように、世界中に展開し、販売規模がケタ違いのメーカーであればさておき、日本に特化していたFCNTにはかなり厳しい状況だったことがうかがえます。

▲21年に発売されたarrows We。2万円台ながら、5G対応で、おサイフケータイも搭載しているなど、バランスのいいエントリーモデルだった。写真はドコモ版

現状は、あくまで民事再生法の適用を申請した段階。今後、スポンサーが見つかれば経営再建の道が開ける一方で、このまま市場からフェードアウトしてしまう可能性も残っています。

その前提の上での話になりますが、FCNTが市場から撤退してしまうと、キャリアやユーザーにも影響が出てきます。arrows Weのような端末であれば代替するメーカーもありそうなものですが、同社はらくらくスマホなどのいわゆる“企画モノ”を数多く手がけていたからです。

▲らくらくスマートフォンはいずれもFCNTもしくはその前身となった富士通製。FCNTは、こうした企画モノを多く手がけてきたメーカーでもある

今もゼロになったわけではありませんが、経済安全保障上、こうした企画モノを中国メーカーに発注するのは、やや厳しい状況になっています。

かつてはWi-Fiルーターや子ども向けのケータイを中国メーカーが手がけることも多かったものの、米中摩擦が熾烈になるにつれ、徐々に国内メーカーにシフトしていきました。Androidベースのフィーチャーフォンも、国内メーカーの主戦場でした。

こうした端末は元々キャリアブランドで展開されていたため、メーカーを変えれば開発自体は可能なものの、日本に残された端末メーカーは数少なくなっています。

既報のとおり、京セラは2025年3月までにコンシューマー向けの事業から撤退。とがった製品を出し、ブランドイメージを大切するソニーが他社ブランドの製品を展開するのも、少々考えづらいのが実情です。

韓国メーカーであれば頼れた可能性はありますが、LGエレクトロニクスもスマホ事業からは撤退済み。ソニーと同様の理由で、サムスンが企画モノを手がけるのは望み薄でしょう。

▲京セラもまた、企画モノを得意としていたメーカーだが、2025年にコンシューマー事業から撤退する

となると残るはシャープで、同社にこうした端末の開発が集中する事態もありえます。実際、今でもシャープはスマホのAQUOSシリーズだけでなく、子ども向けケータイの「mamorino」(au)や、シニア向けの「かんたん携帯」(ソフトバンク)などを手がけています。

また、京セラ製に変わってしまった「キッズケータイ」(ドコモ)も、1世代前はシャープ製でした。「Wi-Fi STATION」(ドコモ)などのルーターも開発しています。

▲2020年に発売されたひと世代前のキッズケータイはシャープ製だった。現行モデルは京セラ製
▲経済安全保障の観点で中国メーカーを避ける動きが顕著になり、シャープ製のWi-Fiルーターが増えている

とは言え、シャープにも当然ながら生産のキャパシティがあり、企画モノを全部丸っと引き受けることが本当にできるかどうかは不透明です。

親会社である鴻海グループの力を使えば造作もないことなのかもしれませんが、商品企画や設計などは日本が担当している部分も大きいため、リソースが足りず、全部はちょっと……と断られてしまうおそれも。こうした端末の開発が1社体制で本当にいいのかどうかも、検討の余地があります。

特にFCNTに頼ることが多かったドコモは、今後、新たなパートナーをしっかり開拓していく必要性が高そうです。2026年3月には3Gの停波が控えており、そのユーザーを巻き取るための端末の投入もマスト。

依然として3Gを利用するユーザーは、通話中心の高齢者が多いため、4G対応の折りたたみケータイ的な端末やらくらくフォンのような端末が求められます。FCNTの経営破綻は、キャリアにとっても頭の痛い問題になりそうです。


《石野純也》
石野純也

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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