長く使えてサステナブル掲げる arrows N、「早く機種変するとお得・ミッドレンジで約10万円」の疑問(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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長く使えてサステナブル掲げる arrows N、「早く機種変するとお得・ミッドレンジで約10万円」の疑問(石野純也)
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FCNT(旧・富士通)は、10日にミッドレンジスマホの「arrows N」を発売しました。同モデルは、“環境への配慮”を売り文句にした、“サステナブルスマホ”とも呼べる1台。重量ベースでリサイクル素材の比率を67%まで高めているほか、化粧箱にもバイオマスインキを使用するなど、徹底して環境負荷を軽減することをうたっています。

▲サステナブルを前面に打ち出したarrows N

サステナブルを日本語に訳すと持続可能性。素材にこだわるだけでなく、長く使い続けることでも環境に優しくなれます。arrows Nではサステナビリティにあふれた機能として、Qnovo社の充電制御技術に対応。バッテリー寿命の長期化を図りました。さらに、OSアップデートを最大3回、セキュリティ更新を最大4年と、サポート体制も充実させ、長く使い続けられることを保証しています。

▲Qnovo社のバッテリー制御技術を搭載。劣化を防ぎ、長く使えるようにした
▲OSアップデート3回、セキュリティ更新4年と、サポート面も文字通りサステナブル

FCNTは、arrows Nの発売に先立ち、22年10月にブランドを刷新。arrowsのロゴデザインを変え、サステナブル性能をスマホの新たな競争軸にすることをうたっています。こうした性能を実現するうえで、FCNTならではの強みになるのが、自社工場を日本国内に有していること。海外で他社が運営する工場に発注するよりもコントロールがしやすくなるからです。実際、arrows Nの発表会では、今年中に国内製造のすべてを再生可能エネルギーにすることが表明されていました。

▲22年にブランドイメージを刷新。ロゴのデザインも見直していた

一方で、ユーザーはサステナブルなだけでスマホを選ぶわけではありません。確かに選択基準の1つにはなるかもしれませんが、例えば、再生素材を使った結果、強度が落ちてしまったら本末転倒です。そこで、FCNTでは、素材の開発から行いました。背面のパネルやキャップに使われる再生プラスチックを素材メーカーと協力して開発した結果、arrows Nは、従来のarrowsと同様、米国国防総省の調達基準、いわゆるMILスペックの23項目に準拠しています。防水・防じんといった性能もそのままです。

▲再生素材を使いつつも、強度を高めることに成功。MILスペックも23項目に準拠している

端末のカテゴリーとしては、いわゆるミドルレンジスマホですが、チップセットもSnapdragon 600シリーズの中でもっとも製造プロセスが微細化されている「Snapdragon 695 5G」を採用。これを採用したのも、バッテリーの使用効率を上げるため。物は言いような気がしないでもありませんが、チップセット選定にもサステナブルな観点が貫かれているといいます。

カメラは5030万画素で、デュアルPD対応。20年発売の「arrows NX9」比でセンサーサイズが1.65倍大型化し、電子手ブレ補正にも対応しています。Adobeとの協業も継続しており、撮影後に自動で補正をかける「Photoshop Expressモード」を備えます。ディスプレイも120Hz対応の有機ELで、ミッドレンジスマホとして必要十分な機能は備わっています。

▲カメラは5030万画素。後述するように、実はセンサーサイズもミドルレンジモデルとしてはかなり大きい

ただ、いかんせん価格が高いのがネックです。ドコモでの販売価格は9万8780円と、10万円に迫る勢い。2年後に端末を下取りに出すと残価が免除される「いつでもカエドキプログラム」を使うと、実質価格は4万9940円になりますが、長期利用を是とするサステナブルスマホを2年で手放した方がお得になる仕組みには疑問符がつきました。

ユーザーが手放したあとは再生品として使われ続けることがあるとしても、再整備にも環境負荷があり、廃棄も発生します。ドコモの仕組みというより、今の携帯電話業界の仕組みが追いついていないような気がしますが、独占販売であれば、もう少し売り方も考えてほしかったところです。

スマホの性能や使い勝手はチップセットだけで決まるわけではありませんが、Snapdragon 695 5Gを搭載したミドルレンジスマホとして見ると、やはり割高感があることは否めません。例えば、同チップを搭載したシャープの「AQUOS wish2」は2万2000円。これは極端な例ですが、よりカメラを強化した「AQUOS sense7」ですら5万円前後で販売されていることを踏まえると、「その倍もするのかー」という感想が漏れてしまいます。

▲価格は約10万円。サステナブルなのに2年で返却する仕組みには、思わずツッコミを入れてしまった

そんな声を心にとどめておけない筆者は、発表会で率直に高額化した理由を尋ねてみましたが、価格上昇にはさまざまな要素があるとのこと。「一概に国内製造やサステナブルだからというわけではないが、一部(製造工程や素材が)高コストになっているところがある」とのこと。すべてではありませんが、国内生産にこだわり、サステナビリティを追求したことが、コスト高の一因にはなっているようです。

また、3キャリア展開してスマッシュヒットした「arrows We」と比べると、販路がドコモだけに限られているぶん、販売台数はどうしても減ってしまいます。海外製造でコストを抑えつつ、製造台数を伸ばしたarrows Weと比較すると、割高になる要素が多くなっているとは言えるでしょう。独占になっているぶん、ドコモの調達が増えている可能性はありますが、3キャリア展開を補えるほどではないのかもしれません。ミッドレンジで割高感のあるスマホというと、「BALMUDA Phone」を思い出す向きもありそうですが、1キャリア独占でかつグローバル展開がないという条件は似ているような印象も受けました。

▲1キャリア(Me)から3キャリア(We)展開になったarrows We。ネーミングの内輪感にビックリしたが、手ごろな価格でヒット商品に

個人的には、サステナブルに全振りな特徴づけで大丈夫なのか……と思う部分もありました。確かに、環境への配慮は業界全体に求められていることではありますが、言ってしまえば、アップルもサムスンも同様の取り組みはしています。iPhoneのアルミが再生素材になっていたり、サムスンはGalaxyに廃棄された漁網を使っていたりと、グローバルメーカーもこうした取り組みには積極的。先に挙げた、シャープのAQUOS wishシリーズも本体に再生プラスチックを35%使用しています。

▲アップルも、発表会のたびに環境のパートを設け、再生素材やクリーンエネルギーについて語っている。写真はiPhone 14シリーズの発表会
▲ここ2、3年、サムスンもサステナブルを強調するようになった。Galaxy S23シリーズの発表会でも、再生素材が2倍になったことを強調した

一方で、iPhoneにしてもGalaxyにしても、何か別の強い売りがあったうえでのサステナブル。再生素材の使用を真っ先にアピールしているわけではありません。シャープのAQUOS wishも、再生プラスチックを打ち出しつつも、どちらかと言えば、2万円台のエントリーモデルだからこそ受け入れられている節があります。arrows Nも、実はカメラのセンサーサイズが1/1.5インチと大型だったり、指紋と顔の両方で認証しないとアプリを起動できない機能があったりと、独自性は十分あります。筆者の意識が低いだけなら杞憂なのですが、サステナブル全振りなブランディングは少々もったいないような気がしています。


《石野純也》
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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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