au障害会見で注目の高橋誠社長とはどんな人物か。激動の時代にキャリアを率いるということ(石川温)

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au障害会見で注目の高橋誠社長とはどんな人物か。激動の時代にキャリアを率いるということ(石川温)

KDDIが7月2日未明から大規模な通信障害を起こした。7月4日午後には落ち着いたものの、それまでデータ通信や音声通話が使えないという前代未聞のトラブルだ。

そんななか、7月3日午前11時からKDDIは通信障害に関する記者会見を開催。まだ、完全復旧していない中での会見で、具体的な原因なども特定されていなかった。
そのため、「会見、やる必要なかったのでは」「いやいや開催した意味はある」とネットで賛否両論、真っ二つとなっている。

通常、この手の通信障害はすべて復旧し、原因を究明した後、数週間後に行われるというのが通例であった。
この5年を振り返ってみると、2018年にソフトバンクが通信障害を起こしているのだが、このときは「ソフトバンクが上場を控えているため、やりたくても記者会見できない」という理由で通信障害に関する説明会をやらずにいた。結局、上場した後に、実態の説明を行うこととなったのだった。
2021年10月14日に発生したNTTドコモによる通信障害では、その翌日にオンラインで記者会見が行われている。影響した端末数など実態の完全把握には至っていない中での開催であった。その後、11月10日には改めて詳細な説明会が開催された。

KDDIとしても、復旧完了していない中での記者会見の開催に苦渋の決断があった模様だ。高橋誠社長は「会見も情報の周知もお客様目線でなければならないと、官邸の方から指示があったと総務大臣がおっしゃっていた。総務省からの意見もあり、いち早く社長の私から伝えた方がいいという話があった」というのだ。

総務省からは官僚がKDDIに派遣されていたという。ドラマ「半沢直樹」で金融庁から派遣されてきた黒崎検査官みたいな総務省の官僚が高橋社長に「会見、いつになったらやるのかしらぁ~」と詰め寄ったのか。

そのあたりは定かではないが、会見を開いたことで高橋誠社長の株が急上昇している。
SNSでは「技術面で誰のサポートも受けずに回答している。障害発生の流れをすべて把握しているのが凄い」「記者会見と言えば弁護士や側近に助言をもらいながら社長が語るイメージだが、高橋社長は一人ですべて説明できている」とべた褒めなのだ。

1999年頃から高橋氏を取材し、社長に就任してからも会見や単独インタビューをしてきた筆者からすれば、今回の会見は普段通りの高橋社長でしかない。何一つ、珍しいことなどなかった。

高橋社長は技術出身で1999年に始まったEZウェブを成功させた立役者でもある。その後、着うたなどコンテンツ業界にも明るく、5G時代を迎える中で、様々な企業とのコラボレーションが重要になる中、社長として適任だとして抜擢された経緯がある。スタートアップ支援も積極的に行い、シリコンバレーでも鼻がきくほどだ。

EZウェブのころから、記者会見に登壇し、新聞記者から専門媒体の記者まで、百戦錬磨の意地悪な質問に答えてきただけに、通信障害の会見もお手のものだったのだろう。

筆者からすれば見慣れた光景に過ぎないのだが、他の会社の謝罪会見に登場する社長たちがあまりに頼りないので、一般の人からすると「なんて、凄い社長なんだ」という驚きの目で見えたのかもしれない。さらには今回の会見が日曜の午前11時から開催され、テレビ局などがリアルタイムでネットで中継し、YouTubeにも配信されたことで、何十万という人が視聴したこともあって、ネットでの称賛につながったのだろう。

ただ、通信業界を俯瞰すれば、NTTドコモの井伊基之社長はかつてはNTTの副社長で技術戦略担当、その前はNTT東日本でネットワーク事業推進本部設備企画部長だった経歴を持つ。
ソフトバンクの宮川潤一社長もネットワークの出身だ。かつてはADSL運営会社の社長だったし、ソフトバンクに買収されてからはネットワークの構築に従事してきた。2011年の東日本大震災の時には、被災地に入り、ネットワーク復旧の陣頭指揮を執っている。ソフトバンクがアメリカのキャリアであるスプリントを買収したときには、スプリントに乗り込み、ネットワークの立て直しに尽力してきたほどだ。
楽天モバイルも、CEOであるタレック・アミン氏は、インドなどのキャリアでネットワークを構築し、楽天モバイルでは完全仮想化ネットワークを作り、今度は世界に売ろうとしている。社長である矢澤俊介氏も、楽天市場の出身だが、楽天モバイルに移籍後は全国で4万を超える基地局を計画よりも前倒しで建設してきた功績が認められた人物だ。

5G時代に突入し、5G SAやMECなどが導入される中、ネットワークの高度化で、いかに他社と差別化するかが今後のキャリアにとっては重要になる。ネットワークとサービスを組み合わせることで、他社にはない優位点を生み出す必要がある。つまり、キャリアの社長を務めるには、まずはネットワークに詳しくなければならない。

他の業界では技術に詳しくなくても社長になれるかもしれないが、少なくとも通信業界の4キャリアにおいてはネットワークに熟知した猛者がトップに立っているのだ。

関連記事:
auの大規模通信障害は「ほぼ」復旧。KDDI記者会見速報(7月4日)

《石川温》
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