ゲームにおける、NPC(Non Player Character)制御に生成AI系技術を使えないか。より具体的に言えば、人間ではなく、ゲームシステム側で動かす相棒キャラクターや敵キャラクターを言語型の生成系AIで動かせないか……というテーマについて。
AI界隈ではよく話題に上がるこのテーマに対し、以前、提唱してきたアイデアと比較すると「だいぶ現実的に使えそうな落とし所」をNVIDIAが提唱してきたので、本稿で取り上げてみたい。
■NPCを言語型生成AIで動作させる意義について
NVIDIAといえば、NPCの生成AI系制御技術として「NVIDIA Avatar Cloud Engine」(NVIDIA ACE)を2023年に発表しているが、実際の商業タイトルでは、まだ思ったほど採用が増えていない。
NVIDIA ACEとは、一言で説明すれば、大規模言語モデルを活用して、NPCに自然言語対応させようとする技術になる。具体的には、ChatGPTに代表される「言語空間AI」でNPC制御を行おうとするソリューションで、人間のプレイヤーからの自然言語ベースでの問いかけに対して、NPCに自然な応対をさせるというものになる。
実際、NVIDIAは、以前から、NVIDIA ACEの採用事例デモとして、いくつかの具体事例を技術デモの形で公開してきた。
従来のゲームでは、用意された数パターンの返答を繰り返すだけの"木偶の坊"的なNPCでしかなかったものに、数ランク上の知性を宿らせることでゲーム世界への没入度を高めよう……というのが、NVIDIA ACEのアピールポイントだった。
NVIDIAは実際に、AI関連事業者と共同開発した2つのゲーム的な技術デモを2024年から2025年にかけて公開している。
▲近未来都市で活躍する書金稼ぎに扮したプレイヤーが、事件現場にほど近いラーメン屋に入店しての聞き込みシーンを再現した「Kairos」デモ。店主に対して近隣で起きた異変についての質問ができた。AIアバター技術開発元のConvaiとの共同開発。2023年発表
▲私立探偵に扮したプレイヤーが、ホテルのフロントマンに容疑者についての聞き込み捜査を行える技術デモ「Covert Protocol」。Kairosよりも、さらにゲーム的なデモとなった。AIアバター技術開発元のInworldと共同開発。発表は2024年
筆者は、日本の大手ゲーム開発スタジオ向けの講演やコンサルティングの機会などで、このACE技術の応用・活用について、現場のエンジニア達にヒアリングをしたことがあるのだが、実際のゲーム制作側からは異口同音に「コストパフォーマンスが悪い」との辛辣な意見が返ってきた。
生成系AIをゲームに活用しようとすると、そのAI自体を実機で動かすには、家庭用ゲーム機向けゲームではとてもではないがスペックが足りない(※)し、ゲーミングPCでは動かせるマシンはあるが、かなり要求スペックは高くなるため、プレイ対象人口を劇的に狭めてしまう。
となれば、AIをクラウド(サーバー)側で動かそうということになるのだが、それはそれでサーバーは設置しただけでコストを垂れ流すし、動作させれば動作させた分だけコストが嵩む。
メインコンテンツではないNPC動作を「AIサーバー代を掛けてまで行うべきなのか」といった議論が避けられず、そもそも「NPC動作をAIサーバーとの通信を介してまでやるべきなのか」といった「技術の使いどころの是非」にまで議論が立ち戻ることもあるというのだ。

▲NVIDIA ACEが抱える課題
■ローカルで動かした言語型生成系AIでNPCの立ち振る舞いは変わるか
こうしたゲーム業界からのフィードバックを踏まえてなのだろうか、昨年あたりから、NVIDIAは、NVIDIA ACEをローカル環境だけで動作させる実装事例の発表に力を入れるようになった。
もはやACEの"C"(クラウド)の意を自己否定しているようなソリューションだが、実際、これが「うまい」アイデアなのだ。
この「ローカル動作版のNVIDIA ACE」の最初の採用事例としては、NVIDIAがAIに強いゲーム開発スタジオのIconic Interactiveと共同開発した「The Oversight Bureau」デモがある。この作品の内容をざっくりと説明すると、プレイヤーは、火災現場に閉じこめられたNPCを、自然言語による対話だけで、脱出へと導く、パズルチックなゲームデモだ。
▲再教育プログラムに従事していた囚人(?)に扮したプレイヤーが、火災現場で閉じ込められている女性NPCを会話だけで、脱出に導くパズルゲーム的な技術デモ「The Oversight Bureau」。このデモは2025年にSteamよりリリースされ、単体ゲームとしての発売も予定
言語型生成系AIは、大規模言語モデル(LLM)ではなく、軽量型の小規模言語モデル(SLM)を採用し、これをローカルPCで動作させる。
NVIDIAのデモでは、ローカル動作させたSLM(以下、ローカルSLM)は「Mistral-Nemo-Minitron-8B」(80億パラメータ)で、あらかじめ、ゲーム内のマップ状況、アイテムの属性、ゲーム内特有の専門用語などを学習・理解させておく。
ちなみに、「Mistral-Nemo-Minitron-8B」は、NVIDIAがMistral NeMo 12B(120億パラメータ)をベースに、「モデル間蒸留(Distillation)」と「プルーニング(枝刈り)」といったAIの軽量最適化を施した高効率モデルになる。
具体的には、オリジナルでは16ビット浮動小数点(FP16)量子化で構築されていた知識データを4ビット浮動小数点(FP4)にまで軽量化したモデル。オリジナルでは約20GBだった知識データはこれによって、SLMクラスの約6GBにまでコンパクト化された。
言語AIとしては8B(80億パラメータ)クラスのモデルなので、性能的には「標準的なLLM」並みとされる。推論速度は、オリジナル版に対して圧倒的に高速で、推論精度もオリジナル版の95%が担保されているというから興味深い。
プレイヤーは、ゲーム中、このSLMと音声対話を行うことになる(もちろんテキスト対話でもいいが)。プレイヤーからの音声は、音声認識AIがテキストへ変換。このテキスト内容をSLMが理解。その理解に基づいた、ゲーム内での適切な発言や行動をSLMが生成する。
SLMが出力した「ゲーム内行動」については、予めゲーム内で定義しておいた行動(移動、特定アクション、アニメーション)に置き換えて発動させる。その実行に必要なゲーム内パラメータ群についてはゲームシステム(≒ゲームエンジン)側へ問い合わせしたりもすることになるのはいうまでもなし。
この新提案が画期的なのは、ゲームの作り方そのものは、ほとんど従来手法のままでOKだという点だ。「プレイヤーに情報を話す系」の村人系一般NPC各人に対しては、それぞれがシナリオ進行上、プレイヤーに話すべき情報を学習させておくだけ。
ランタイム時のNPCがしゃべる台詞内容や言い回しを高度かつ、適切なものにしたい場合は、その部分の事前学習や調整が必要になるし、そのセリフを発話させるための音声合成AIが必要になる。
しかし、もし、対話性能が低くても良いようであれば、従来のゲーム開発で行われてきたような、事前に収録済みの数パターンの応答音声から、一番意味をなしそうなものを選択するようにすればいい。たとえば「まかせろ」「その要求をのむことはできんな」などから選ぶイメージだ。
実際、上で示した「The Oversight Bureau」は、NPC側の発話は事前収録の音声を再生するのみの形態となっていた。
なお、味方随伴NPCへの行動連携は、従来のゲームのように、ゲームシステム側がNPC向けの基本行動バリエーションを定義しておくだけでOK。プレイヤーとの「少し離れて」「そこで待ってて」「右から回り込んで攻撃しろ」という対話を、直接の命令語(コマンド)として認識するだけで発動できる。
敵NPCとの対話展開は、あえて実装する必要もないが、プレイヤーから「かかってこいよ」のように煽られたら「舐めるなぁ」という感じの反応台詞とともに怒って行動を変えてきたりしても面白そうだ。

▲NVIDA ACEをローカルで動かす代案
■ローカルで動作させるNVIDIA ACEの仕組み
NVIDIA ACEを、ローカルSLMで動作させる場合のフローは以下のようなイメージになる。

▲ローカルだけで動かすNVIDIA ACEのパイプライン
そして、各構成要素を人間の感覚に対応づけて表化すると下表のようになる。
人体に相当する役割 | 技術・モデル名 | AIカテゴリ | 占有概算メモリー容量 | 内容 |
耳 (聴覚) | NVIDIA Riva (ASR) | 認識・変換系AI | 1GB | プレイヤーが話した音声をテキストに変換する(ASR:Automatic Speech Recognition) |
脳 (思考) | Mistral-Nemo-Minitron-8B | 言語型生成系AI | 7GB | テキストから、ゲームの進行状況を判断して判断して「対応」(返答内容、感情、行動)を生成する |
口 (発話) | NVIDIA Riva (TTS) | 音声生成系AI | 1GB | テキストを、キャラクターの声質で感情演技を載せて音声合成を行う。(TTS:Text to Speech) |
顔 (表情) | NVIDIA Audio2Face | アニメーション生成系AI | 2GB | 音声に合わせて、キャラクターの顔面アニメーション(頂点変移やボーン制御)を生成する |
▲NVIDIA ACE
コアとなるローカルSLMの「Mistral-Nemo-Minitron-8B」は、NPCの応答台詞(テキスト)を生成するとともに、その台詞テキストの要所要所には、感情表現のタグ言語「SSLM」(Speech Synthesis Markup Language)も挿入される。
NVIDIA Rivaによる音声合成時には、このSSMLを元に感情を込めた声質の変化や抑揚付きで発話される。NVIDIA Audio2Faceでは、感情SSMLの音声の抑揚から顔面アニメーションが生成される。
上でも述べたように、もしNPC自らの音声発話は収録済みの音声のみで対応し、人間プレイヤーの音声による語りかけに反応した行動を取らせるだけであれば、ランタイム時に動作させるAIモジュールは、音声認識とSLMだけで良くなるため、8GB程度のメモリ占有で済みそうだ。まあ、これでも、「NPCのため」に割く容量が8GBに及ぶので、まだ開発コスパ的には厳しいかもしれないが。
総メモリー容量が32GBクラスになる見込みの高い次世代ゲーム機では、「そういった対応機能」をウリにした特別なゲームでは採用してくることもあるかもしれない。まあ、最初はPCゲームでの実験的に導入が採用だろう。
ところで、NVIDIAは、「The Oversight Bureau」に続く、新たなローカルSLM版のNVIDIA ACEの実例として、「PUBG:BATTLEGROUNDS」の開発元として知られるKRAFTONと共同開発した「PUBG Ally」(別名:PUBG Co-Playable Character)として2025年末に予告。
あけて2026年のCES 2026やGDC2026では、プレイアブル展示も行われた。なお、実際のリリース日は、2026年夏頃だと予告されている。

▲CES2026で公開された、「NVIDIA ACE」制御に対応版「PUBG BATTLEGROUNDS」のデモの様子。プレイヤーは相棒NPCに「弾丸が足りない。お前のをよこせ」「あそこの敵を手榴弾で迎撃せよ」と話しながらプレイできる。ほとんど疑似オンラインプレイの感覚
「PUBG Ally」では、プレイヤーから相棒NPCに向けられた指示に対かる応答メッセージを音声合成エンジンの「Riva TTS」でしゃべらせたり、セリフに込められた感情指示に基づく顔面演技までを「Audio2Face」で行わせていた。
実際の「PUBG Ally」の動作パイプラインは、以下のようになっているとされる。

▲NVIDIA ACE対応版PUBGの動作パイプライン
繰り返しになるが、NPCに合成音声でしゃべらせたり、顔面演技までをさせないのであれば、Riva TTSとAudio2Faceは不要だ。Riva ASRとSLMだけであれば、導入コストはそれほど高くはないはず……というのがNVIDIAのキーメッセージとなっている。
もっとも、Riva ASRとSLMも、対話状況になったときにだけ、オンメモリ動作させれば良いので、うまくメモリマネジメントができれば、幅広いゲームでの実用化も夢ではないはずだ。







