前回は、NVIDIAが考案した、悪魔的な恐ろしさを持つパストレーシング(パストレ)技術「ReSTIR法」とその歌を紹介しました。定番のパストレ手法であるモンテカルロ法を、NVIDIAは「ReSTIR法」と呼ばれる新手法で、「ルーレット選挙」に置き換えてしまったのです。
このコペルニクス的転回は、常人の発想ではありません。NVIDIAはAIだけではないのです。本業のCG技術においてもあなどることなかれ、です。あ。誰も侮ってませんね……。
今回は、このReSTIR法、あるいはそれに準じたパストレ技法を採用したゲームグラフィックスが立て続けに登場したので、その話題と、それに関連する歌について紹介します。
今回の楽曲はこちらになります。
■男性ボーカル版(明るく希望を感じるバラード)
■女性ボーカル版(ノスタルジックなバラード)
■鼻の穴が明るいゲームキャラ。なんで?
ゲームに登場するキャラクターは、たとえリアル系表現の人間キャラであっても鼻の穴にリアリティがないと感じたことないでしょうか。
そもそもアニメ調のゲームキャラの鼻の穴は表現上、省略されていることも多いので、このタイプのゲームを好む人は、そもそも、この違和感を覚えたことすらないかもしれません。
まずは結論めいた画像から、お見せしましょう。

▲3つの画像を並べた状態
「鼻の穴」の表現は、この約30年で、左から右のように進化してきました。
「どうでもいい」と"鼻で笑う"人が大半だと思います。実際のところ、世の中の技術の大半は、研究者たちがそうした些細なこだわりに、"鼻を突き合わせ"、開発に取り組むことで生まれているのです。
まぁ、そんなすぐに"鼻であしらわず"、今回は「鼻の穴」のお話にお付き合いください。できるだけ、あなたの"鼻を明かして"見せたいと思います(しつこいですか?)
キャラの鼻に2つの穴のあいた、リアル系表現に挑んだゲームタイトルでも、PS2世代やPS3世代では、鼻の穴の中が明るいものがほとんどでした。
そうしたタイトルでは、実際の人間と同じく、3D形状としての"鼻の穴"は存在するものの、その内部がライティングされていて明るかったのです。
この"鼻の穴が明るい美男美女"たちは、狙ってやっているわけでもなかったのでした。実は"鼻の穴"のライティングは、従来のゲームグラフィックスのレンダリング手法である「ラスタライズ法」では非常に難しいテーマでした。
というのも、ラスタライズ法の描画手法では、鼻の穴の内壁面をライティングしようとしても、鼻の穴を覆っている小鼻の影響を配慮できないのです。
つまり、鼻の穴の中にあるピクセルたちは、自身が小鼻によって遮蔽されていることを検知できていないため、小鼻がないものとしてライティングされてしまうのでした。
だから、PS3世代以前の多くのリアル系3Dキャラの鼻の穴は「小鼻なし」の状態でライティングされていたので明るかったのです。

▲PS2時代までに多かった鼻の穴の表現
■鼻の穴をどう黒くするのか
PS3後期やPS4以降では、鼻の穴の中が暗くなっているキャラ表現を見る機会が増えました。ただ、若干の違和感を覚えなかったでしょうか。
いくつかの手法が使われましたが、PS3後期からPS4前期あたりに流行したのは、鼻の穴の中のポリゴン(実質的にはその中を表現するピクセル)がどの程度、外に開けているか(逆の意味ではどのくらい小鼻に遮蔽されているか)……の開放度(逆の意味では遮蔽度)を事前計算し、これをテクスチャマップとして事前生成しておくテクニックでした。
これは、いわゆるアンビエントオクルージョン(AO)的なテクスチャに相当します。
このAOテクスチャを顔面のライティング結果に組み合わせて適用すると、鼻の穴の奥領域は真っ黒になり、そして鼻の穴の出口に近い領域はグレーになるようなグラデーションテクスチャ表現となりました。
ただ、これはちょうど、モノマネ芸人さん達が行う「鼻の穴の大きい芸能人のモノマネ」を行う際によく行われる、鼻の穴の中を色濃く塗るような表現に近かったといえます。
PS4時代中期以降では、このAOテクスチャの陰影を直接濃淡値として適用せず、ライティング結果の減衰調整に活用することで、鼻の穴の黒さが動的に変化するようになり、だいぶマシになりました。この表現手法は、PS5時代でも普通に使われています。

▲PS3後期~PS4前期に多かった鼻の穴の表現
■パストレで変わる鼻の穴の中の世界!?
そこで、パストレの出番です。では、鼻の穴はどう描かれるのでしょうか。
結論からいえばパストレでは、現実世界にかなり近い鼻の穴の陰影が再現されることになります。
具体的に見ていきましょう。
まず鼻の中央、つまり小鼻が作り出す左右の鼻の穴を仕切る、壁のような部位は、ある程度、外界に露出しており、鼻毛が残っていると、外から見たときに鼻毛が露出します(笑)
この"鼻の仕切り"の部分の鼻毛の手入れがきっちりとなされている美形キャラは、この部分が透明感のある、普通の皮膚の陰影を返すはずです。
この"中央の仕切り"と反対側…つまり小鼻の左右の内壁側は、遮蔽度が高く光が届きにくいので、陰影はだいぶ暗くなります。しかし、小鼻の左右端は肉薄なので、外光が強い場合、外光がこの内壁へ浸透してきます。
だから、光が強い状況下では、小鼻の左右端の内壁は明るくなるはずです。光の差し込み具合によっては、小鼻の薄い肉を透過してきた、波長の長めの赤い光が、小鼻の内壁を照らすことになります。
つまり、鼻の穴の中に血の気を感じる赤味を伴った暗がりを作り出すことになるのです。

▲パストレ時代の鼻の穴の表現
こうした事象により、パストレ時代のゲームキャラの鼻の穴の中の景色は、従来のゲームグラフィックスとはガラリと変わってきます。
従来の"味気のない黒の濃淡"のみならず、肌色の濃淡色、小鼻を透過してきた赤い透過光によって、生身の人間に極めて近い、彩り豊かな自然な鼻の穴の情景を作り出してくれるようになるのです。
それこそ、たとえば、今春発売された「バイオハザード・レクイエム」の女性主人公のグレースは、ファイナルファンタジー系ヒロインと比較すれば、だいぶ鼻の穴が大きい造形のキャラでしたが、パストレモードでは、鼻の穴が暗いのに「鼻の穴が大きい」という印象は、あまり受けなかったと思います(個人差はあるでしょうが)。
グレースは、鼻の穴が大きいのですが、肌の透明度が高いためか、鼻の穴の中へ浸透する光の強弱が、逆に美人度を数段は向上させて見えていたように思えます。
ゲームグラフィックスは、パストレ技術によって、「鼻の穴」の違和感を克服したのではないか。筆者はそんな境地に辿り着いたのでした。






▲GeForce RTX 5090上でパストレモードを選択。全グラフィックス設定を最高位設定状態での画面ショット
■「鼻の穴に咲く花」とNostrils
上のような話を、自分はよくゲーム実況でやっていたのですが、この話をベースに、作詞したのが「鼻の穴に咲く花~もう鼻の穴が明るいなんて言わせない」という歌です。コミックソングみたいな題名ですが、内容は大真面目です(笑)。ちなみに、歌詞の骨子は、ほとんど、本稿で語ってきた内容そのままです。
パストレ描画のグラフィックスの魅力や凄さは、他にも色々あるはずですが、今回は、あえてニッチな…それでいてとても身近な「鼻の穴」を主題としたのでした。
さて、前回の「ReSTIR法」編の楽曲の制作にあたって、架空バンドを設定した、というエピソードをお話ししましたが、この世界観の構築に楽しみを見出してしまった筆者は、今回の「鼻の穴の歌」においても、別の架空バンドを設定しました。
前回も触れたように、自分の分身的なキャラとして、GPU仮面男を、今回もキーボディスト兼DJと設定して、この架空バンドに組み入れました。
前回は「Monte Carlo Stochastics」というかっこよさげで知的なバンド名にしましたが、今回は「Nostrils」という直接的な名前にしました。Nostrilsは英単語として「鼻の穴」、"そのまんま"です。ただ、語感としては、バンドの名前にありそうな感じがしたのでこれにしました。
バンド名は決まったものの、ボーカルを男性に歌わせるのか、女性に歌わせるのか、をあまりよく考えていなかったため、Sunoに作曲させる際に、女性ボーカル曲と男性ボーカル曲の両方を、同じ歌詞で作ることにしたのです。
GPU仮面男がいる関係で、鍵盤楽器の存在感を高める必要があったので、音楽スタイルとしては、ピアノロックを採用しています。
自分の好みで、最初にリリースしたのは、男性ボーカル版の「鼻の穴に咲く花~もう鼻の穴が明るいなんていわせない」です。
GPU仮面男がついにボーカルデビューというわけです。
Nostrilsでは、前回の「Monte Carlo Stochastics」よりも、細かく設定してみました。その後、この細かい設定は、ミュージックビデオ的な展開をするのに役に立っています。
Nostrilsのメンバーは、基本、4人としました。メンバーの名前は現状、全てニックネームで、正式名はまだありません。
身長設定は映像制作上の都合によるものなのですが(シーンに配置する大道具サイズとの関連)、実際には、シーンによって変動しています。
●キーボード:GPU仮面
リーダー、ボーカル兼任。30代前半から中盤の日本人男性で、GPUが好き。インナーTシャツに「GPU死語」をプリントするのが趣味。身長175cm。
●ギター:金髪ギタリスト
ボーカル兼任。20代終盤。欧米人と日本人とのハーフ。ハットを被るのがこだわり。セクシー担当。おしゃれ好きという設定なので衣装設定が面倒。身長170cm。
●ベース:めがねちゃん
ボーカル兼任。20代中盤の日本人。元気いっぱい。あざとかわいい担当。ウインクをすると1/2の確率で両目を閉じてしまう。インナーのTシャツには重要技術キーワードがプリントされている。身長160cm。
●ドラム担当:ヒゲドラム
40代後半のサングラスを掛けたヒゲオヤジ。黙々とドラムを叩く。時々ニコリとする。衣装は任天堂の人気キャラの配色のウォッシュアウト・デニムがテーマ。これまでにルイージ、ワリオの配色の衣装を着ている。身長は170cm。

▲Nostrilsイメージ
男性ボーカル版の「鼻の穴に咲く花」を公開後、「歌うテックニュース」を好きな方達から、Nostrilsに対してポジティブな反応を頂きまして、制作した女性ボーカル版は、金髪ギタリストが歌っていることにして、2日後にリリースしています。
この連載でも紹介したことのある「骨まで愛して」のあたりから、賑やかしで、Gemini系AIのVeoによって生成された動画を入れていますが、本連載担当編集者からX(旧Twitter)系AIのGrokをお勧めいただき、次回作からそのアドバイスに従って、Grokの利用割合が多くなっていきます。
Veoは、性能自体はまずまずですが、自分のサブスクレベルだと、1日あたりわずか3本しか動画生成が出来ないので、ほぼリテイクができません。なので、動画は"見せるコンテンツ"というよりは、出来映えに依存しない「賑やかしの領域」を出ないのでした。
しかし、Grokはリテイクがかなりできるらしいので、次の作品からは、そちらに移行していくのでした。そして、"禁断のリップシンク沼"にハマッっていくのでした……。









