シャオミの独自チップセットはAI強化とポスト・スマートフォン時代への布石(スマホ沼)

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山根康宏

山根康宏

香港在住携帯研究家

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みなさんこんにちは、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏です。シャオミは5月に自社開発したスマートフォン向けのチップセット「XRING O1(玄戒O1)」を発表し、それを搭載したスマートフォン「Xiaomi 15S Pro」を発売しました。シャオミはクアルコムとメディアテックからチップセットの供給を受けていますが、ついに自社開発にも乗り出したわけです。

XRING O1は3nmプロセスで製造され、10コアCPU、16コアGPU、6コアNPUという構成。ISPも搭載しリアルタイムHDRやAIノイズリダクションなどに対応します。AIの処理性能は44TOPSと高く、これはアップルのA18 Proの35TOPSとされる能力を上回ります。Xiaomi 15S ProはAIスマートフォンとしても高性能です。

Xiaomi 15S ProのベースモデルはSnapdragon 8 Eliteを搭載した「Xiaomi 15 Pro」(日本未発売モデル)ですが、ソフトウェアとチップセットを最適化したXiaomi 15S Proのほうがバッテリー持続時間などに優位性があるそうです。

スマートフォンを手掛けるメーカーがチップセットの開発を行った例はファーウェイの例があります。ファーウェイ子会社のハイシリコンのKirinチップセットはNPU処理能力も高く、ファーウェイのスマートフォンは早い段階から暗所での写真撮影性能などに優れていました。シャオミもファーウェイを追いかけ、いずれはクアルコムやメディアテックのライバルになる可能性を秘めています。

なお、シャオミの独自開発チップセットは今回が初めてではなく、2017年に「Surge S1」を開発し「Xiaomi Mi 5S」に搭載しました。しかし当時はまだ時期早々であった感が強く、大手メーカーに対抗できるだけの性能とコストを実現することはできませんでした。Sugerの名はシャオミ開発のバッテリー管理チップなどに今も残っています。

CPUとGPUに加えNPUも統合し、高度な開発能力と大きなコストがかかるチップセットの自社開発にシャオミが乗り出した理由は何でしょうか? 1つにはサプライチェーンの安定化があります。米中貿易摩擦に巻き込まれたファーウェイの例を見れば明らかなように、チップセットの供給を確実にするためには自社製品の投入が必要です。

また、ハードウェアとソフトウェアを高度に統合するには自社チップセットが有用です。アップルの例はもちろんのこと、ファーウェイのスマートフォンはいまだに2世代以上前のチップセットを搭載しつつもユーザー体験をそこまで落としていないのは、自社OSやソフトウェアを最適化しハードウェア性能を最大限に引き出しているからです。

そして、いずれやってくるポスト・スマートフォン時代には、あらゆる製品がシームレスに接続されます。そのためにもソフトウェアとチップセットの連携はより重要視されるようになります。その最たる例が自動車です。シャオミは2024年に電気自動車(EV)で市場に参入し、現在中国で3つのモデル「SU7」「SU7 Ultra」「YU7」を販売しています。2027年にはグローバルEV市場にも参入予定です。

EVは今でも自動車基準で評価されています。たとえば加速性能、ブレーキ性能、乗り心地、最大航行距離などです。しかし、EVは旧来のガソリン車と大きく異なり、自動車そのものがスマート化され、AI機能やスマートシティーとの連携など「動くスマートフォン」として利用されます。そのためEVは「移動するツール」以外の性能も重要になります。

数年後には、車両がリアルタイムで駐車場の空き状況を把握し、目的地の提案やルートの最適化を自動で行う、そんな機能が一般的になります。スマートフォンで培われた技術は高度なインフォテインメントシステムや自動運転へ応用され、ここに自社開発チップによるハードウェア制御を組み合わせることで、車両全体の最適化やセキュリティ強化が可能になります。シャオミのEVが従来の大手自動車メーカーにはない独自の価値を提供し、競争力を高めることが可能となるのです。

シャオミの独自チップ開発は、単なるスマートフォンの性能競争ではなく、AIが生活アシスタントとしてユーザーの生活体験を高め、さらにEVを含む次世代エコシステムの主導権を握るための布石と言えます。サプライチェーンの自立、製品の差別化、AI・EVへの応用という3つの軸で、シャオミはポスト・スマートフォン時代の覇者を目指しているのです。

《山根康宏》

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