生成AIで作られた楽曲の権利はどうなるのか?(AIだけで作った曲を音楽配信する 第2回)

テクノロジー AI
山崎潤一郎

音楽制作業とレーベルを運営すると同時にライター活動も行う。プロデューサー、レコーディング・マスタリングエンジニアとしてクラシック音楽を中心に、アルバム制作を数多く手がける。iPhone/iPadアプリ「Pocket Organ C3B3」「The Manetron」等の開発者でもある。

特集

生成AIで作られた楽曲の権利はどうなるのか?(AIだけで作った曲を音楽配信する 第2回)
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生成AIだけで作られた架空プログレッシブバンド「The Midnight Odyssey」の世界デビューから2週間余、様々な動きがありました。連載「AIだけで作った曲を音楽配信する」の第2回では、そのあたりのトピックとAI楽曲の権利の問題について触れていきます。


その前に、主要配信プラットフォームへのスマートリンクを貼っておきます。The Midnight Odysseyの聴取体験に浸りながら読み進めて頂ければ幸いです。

主要配信プラットフォームへのスマートリンクはこちらから。

TBS系列のラジオ局でオンエア!

まず、最初のトピックです。The Midnight Odysseyがラジオデビューしました。地上波のラジオ放送で楽曲がオンエアされたのです。TBS系列の沖縄のラジオ局「RBCiラジオ」の「アップ!!」という朝の情報番組内のデジタル系の情報コーナーにおいて、AIが作った楽曲という括りで紹介されました。

▲RBCiラジオ「アップ!!」の公式Xアカウント

アナウンサーやコメンテーターは、「映画音楽を彷彿とさせる壮大な曲」「FENで聴いたことがあるかのような既視感」などと、楽曲を好意的に受け止めてくれ、The Midnight Odysseyのデビューに係わった一員として、嬉しくなってしまいました。

地上波放送でオンエアされたことで、The Midnight Odysseyの楽曲権利をNexToneやJASRACに預けるための条件を満たした可能性があります。権利団体がアーティストの楽曲を管理する条件として、

  • 配信:自身が運営するサイトを除く商用配信サイトにおいて、1,000回以上リクエストがされていること

  • 放送:NHKや民間放送(BS・CS放送を含む)のテレビ・ラジオにおいて、楽曲が利用されていること

といったものがあります。

地上波ラジオで放送されたことで、おそらくこの2条件は満たしているのではないかと思います。ただ、権利者である松尾公也氏には「預けるのはお薦めしない」とアドバイスしました。

管理団体に権利を預けたら、権利者である松尾氏自身であっても、自己使用における支払い免除の届け出が必要になるなど、楽曲を気軽に扱うことができなくなります。たとえそれが架空のバンドであっても、管理の手は管理団体に委ねられることになるからです。

▲権利者が作品を自己使用する場合の支払い免除の「はい・いいえ」プロセス。ただし、国内使用に限られる

また、筆者は過去に経験があるのですが、ラジオにおいて楽曲が利用されたことを証明するために、番組プロデューサーの署名の入った書類を用意しなければならないなど、結構面倒な手続きが必要です。ちなみに、番組プロデューサーの逸話は筆者が十数年前に経験したことなので、現状も同様の手続きが必要なのかどうかは不明です。

艱難辛苦の末にミュージックビデオが完成

1stアルバムの6曲目「Crimson Skies」のミュージックビデオ(MV)が完成しました。もちろんこちらもすべて生成AIによる作品です。作ってくれたのはテクノロジーライターの大谷和利氏です。

詳細は、大谷氏自身が執筆した『架空バンド「The Midnight Odyssey」のリアルなPVを作る。生成AIをフル活用した世界観の創出と動画制作の手順』に詳しいのでそちらをご覧いただくとして、大谷氏は、動画制作の苦労を次のように明かしてくれました。

「現在の動画生成サービスは、思った通りの動きを出すことが難しく一度に生成できる動画の長さは最大4秒です。その4秒の中でも、動きがおかしくなったり、形が歪んだりするので、全体を使えるわけではありません。それら様々な制約の中で、試行錯誤を繰り返すことになり、標準的な有償プランで付与される生成時間はすぐになくなってしまいます」

「そのため、無料でも比較的クオリティの高いサービスを併用し、さらに意図に沿う箇所を切り出したうえで、トリミングしたりスローモーションで利用するなどのテクニックも利用して作品化しているのですが、その見極めやバランスの取り方に苦労しました。このPVの前に、少しずつ色々なAI生成動画を作って編集していたおかげで、ノウハウが蓄積されており、大変ではあるものの楽しんで作業しました」


AIによる動画生成の苦労が偲ばれます。ただ、様々な課題を経験とノウハウで乗り切っただけに、下記エンディングの詞の世界感をみごとに映像化した珠玉のPVに仕上がっています。

【「Crimson Skies」訳詞抜粋】

真紅の空は広大なキャンバス

旅路と涙を映し出す

消えゆく光の中で…

映像の中にフォード・マスタングらしきクルマが登場しますが、ボーカルのリリー・フォードの愛車なのかもしれない、などと想像を巡らせます。

ちなみに、管理団体に権利を預けた場合、たとえそれが訳詞であったとしても上記のように、第三者であるテクノエッジが、歌詞を管理団体に無断で掲載する行為は、松尾氏の権利を侵害する可能性も否定できません。メディアとしてのテクノエッジが権利団体と包括契約していれば話は変わりますが……。

権利問題への言及に身構えていた

The Midnight Odysseyを商業配信のプラットフォームに出す際、SNS等において生成AIの権利にまつわる問題で、何らかのコメントが寄せられるのではないかと身構えていました。しかし、松尾氏や筆者の知る範囲内では、今のところは権利に関する意見を目にしていません。

ご存じのように、生成AI全般における権利の問題は議論の最中です。2023年のG7広島首脳コミュニケをきっかけに国家間での議論も始まっています。

筆者自身この領域はまったくの専門外なので、この場で深い論調を展開するつもりはありません。詳しくは、文化庁がまとめた「AI と著作権に関する考え方について」をご一読ください。

▲著作物等が AI 開発・学習に無断で利用されていることについて、クリエイターや実演家等の権利者の懸念についても言及されている

ただ、現時点においては、The Midnight Odysseyの楽曲を生成したSunoの約款には、楽曲の著作権は生成者に帰属すると記されています。有料版で生成した楽曲ならば、商用利用も問題ありません。

そして、生成行為の主体である松尾氏が守るべき日本の著作権法においても現時点では権利侵害の可能性はないものと思われます。

筆者、松尾氏、大谷氏自身もクリエーターであるだけに、他のクリエーターの権利や利益は尊重されるべきものであることは重々承知しています。なので、この分野の議論の展開に注意を傾けつつ、今後、変化があればそれに従うことは、やぶさかではありません。

AI楽曲に対するYouTube Musicの考え方が判明

Googleが2024年3月21日に開いたカンファレンスにおいてYouTube Musicにおける生成AIに関する方針が示されました。

それによると、生成AIによる楽曲に関して、今後は、作品名やトラック名などのメタデータにAI作品であることを明示する方向性を模索しているようです。また、生成AI楽曲については、Contents IDを付与しない可能性についても言及されました。

Contents IDというのは、権利が発生する映像や楽曲を第三者がYouTubeにアップロードした場合、独自のフィンガープリント技術でそれを検知し、広告を挿入して権利者の収益としたり、ブロックすることができる仕組みです。

楽曲の権利者は「Monetize in all countries」や「Block in Japan」といったポリシーを選択することができます。The Midnight Odysseyの楽曲はすべて収益化するように設定してあるので、YouTube動画のBGMにどんどん利用してください(笑)。

▲権利者はこれらContents IDポリシーから選択する

Contents IDを付与しないとする理由については、AIの場合、似たメロディやサウンドを複数の楽曲に対して生成する恐れがあることから、楽曲同士での競合が起きる可能性もあるからです。

現時点では、YouTube Musicを含め、Apple MusicやSpotifyもAI楽曲に対する明確な考え方を文章にしていないと思われます。今後の議論の行方によって各プラットフォームがどのような形でルール作りを行うのか、前述の著作権の議論同様、注視していきたいと思います。

《山崎潤一郎》

山崎潤一郎

音楽制作業とレーベルを運営すると同時にライター活動も行う。プロデューサー、レコーディング・マスタリングエンジニアとしてクラシック音楽を中心に、アルバム制作を数多く手がける。iPhone/iPadアプリ「Pocket Organ C3B3」「The Manetron」等の開発者でもある。

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