ドコモがつながらない「パケ詰まり」は300億円投資で解消するのか。利用者離れ防ぐスピード感ある対策に期待(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

ドコモがつながらない「パケ詰まり」は300億円投資で解消するのか。利用者離れ防ぐスピード感ある対策に期待(石野純也)
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ドコモが“パケ詰まり”の解消に苦戦しているのは、本誌でもたびたび取り上げています。コロナ禍終わりの人流の変化を読み切れず、一部エリアでトラフィックが想定を上回ってしまったことや、都市部の地形変化に追従しきれずチューニング不足に陥ったことがその理由。

政府の方針転換もあり、同社が「瞬速5G」と呼ぶ新周波数帯の5Gエリアを十分広げきれていない点も、根本的なキャパシティ不足の要因です。


春ごろからSNS等でパケ詰まりを訴える声は増え、ドコモもついに対策に乗り出しました。

7月には、東京都の渋谷、新宿、池袋、新橋といった超高トラフィックエリアの対策完了を発表。山手線の渋谷駅構内など、局所的に残っていた未対応スポットについても、9月ごろには基地局を増設するなどして、パケ詰まりは一定程度解消されています。


▲23年春先から、ドコモのネットワーク品質に不満の声が増え始めた。夏に向け、同社は対策を実施。一部エリアでの品質は徐々に改善している

実際、筆者も山手線の渋谷駅で定点観測していますが、9月ごろから突如、パケットが流れ始めるようになりました。

これまでは、スピードテストがタイムアウトしてしまうほどで、LINEで数文字のテキストを送信するのもままならない状況でしたが、ネットワーク品質改善後は、下りで100Mbps以上を記録。テキストメッセージはもちろん、画像や動画も比較的すいすいと送受信できるようになりました。

▲9月12日19時台に山手線ホームで実施したスピードテストの結果。これまでほぼ通信できていなかった場所で、100Mbps以上出るようになっていた

一方で、大々的に対策完了をうたったスポット以外で、パケ詰まりが解消されていないのも事実。

超高トラフィックエリアについてはすでにチューニング等である程度通信をさばけるようになりましたが、SNSをつぶさに検索していくと、それ以外の場所でも通信速度の極端な低下を訴える声がすぐに見つかります。

を筆者も、品質改善対応の発表直後に渋谷駅周辺をチェックしてみましたが、やはり一部の場所では依然としてパケ詰まりが起こっていました。

こうした状況やユーザーの声を受け、ドコモは300億円を先行投資する形で、さらなる対策に乗り出します。

その1つ目が、品質劣化エリアの検知を早めることです。ドコモでも当然ながら基地局からの情報は取得していますが、それだけだと、場所をピンポイントで特定することができません。

基地局から電波が届くザックリとした範囲は分かるものの、実際にその場所に行かなければ、具体的な状況が見えてこないというわけです。

▲品質が低下しているエリアをいち早く検知する仕組みを導入する

ソフトバンクの場合、こうした見逃しをなくすため、関連会社のAgoopが端末側から取得しているデータを使い、メッシュに区切った場所ごとに通信品質をトレースしています。

ドコモが新たに導入する対策も、発想はこれに近いと言えるでしょう。具体的には基地局情報に加えて機械学習を使ったトラフィックの予知データを掛け合わせることで、場所を特定。

さらにドコモのLLM(大規模言語モデル)基盤を使い、SNSの投稿を分析し、精度を高めます。ドコモスピードテストアプリの情報も、活用するといいます。

これによって対策を講じるべきエリアをこれまでよりスピーディに見分け、通信品質の劣化を未然に防ぐ方針です。

その場所は、全国2000カ所に及びます。この2000カ所に加えて、ドコモでは鉄道沿線などの生活導線に沿った対応を強化していくとしています。

また、トラフィック対策として、新たにマルチユーザーMassive MIMOに対応した基地局を導入。上りの通信が遅いことに引きずられて通信がしづらくなってしまう状況を防ぐため、5Gと4Gの経路選択を高度化するといった対応も追加で実施していきます。

▲マルチユーザーMassive MIMOや上りの通信対策など、これまでになかった技術や取り組みも導入する

日常的な対応に加え、フェスや花火大会といったイベント対応も強化していきます。夏の野外音楽フェスでは、ほぼほぼ一人負け状態だったことを踏まえ、可搬型基地局や移動基地局を増設。

臨時で作るエリアにもさらに5Gを活用することで、帯域幅をさらに増やしていく方針です。

実際、ソフトバンクは臨時の基地局に5Gをフル活用し、野外フェスなどでは絶大な効果を発揮してたといい、ドコモもここに追随していく構えです。

▲フェスや花火大会などの高トラフィック対策も強化。特に夏のフェスではドコモに対する不満が大きく高まっていた

ただ、いずれの対応も他社の“後追い”に見えてしまうのも事実。例えば、鉄道沿線の生活導線を重視したエリア設計については、KDDIが5G開始時から強調していた話。

発表を聞き、5G導入から丸3年半が経った今、言う話なのか……と思わずにはいられませんでした。

品質劣化スポットの特定についても、先に述べたようにソフトバンクをキャッチアップしたにすぎません。いや、正確に言えば、キャッチアップすらできていないおそれもあります。

ソフトバンクは端末からの実データを収集しているのに対し、ドコモは機械学習を使っているとはいえ、あくまで推測でしかないからです。

SNS情報の活用と言っても、みんながみんな、正確な場所を投稿しているわけではありません。むしろ、渋谷なら「渋谷駅の周り」ぐらいのように、ザックリした場所を挙げることの方が多いでしょう。

LLMの活用によるSNS分析がどこまで品質劣化エリアの検知に寄与するかは、未知数と言えそうです。

▲ソフトバンクは、以前からビッグデータを分析し、品質対策を迅速に行っていた

また、本当に対策すべきエリアが特定できているのか、不安を覚えるやり取りもありました。パケ詰まりを訴える声は都心部に限らず、地方にも広がっていますが、その原因を筆者がたずねた際に、十分な回答が得られませんでした。

「1つの基地局がカバーする範囲が広いせいなのではないか」とのコメントは得られましたが、これはあくまで推測。原因が分からなければ対策の打ちようがありません。2000カ所と鉄道路線沿線だけで十分なのかは、今後の改善状況で判断するしかない状態です。

▲写真は21年7月に開催されたKDDIの説明会で撮影したもの。このように、KDDIは5G展開当初から鉄道沿線の5Gエリア化を重視している

元々、エリアの広さや通信品質が最大の売りだったキャリアなだけに、この状況が続くと、ユーザー離れが起こりかねません。

最近では、“マックでJKが言ってた”レベルでドコモの通信品質を話題にする人が増えている状況。

あくまで筆者の経験に基づく肌感覚でしかありませんが、悪評がネットだけでなくリアルな口コミレベルで広まり始めている印象を受けます。

一部で改善しているのは事実ですが、まだまだユーザーの体感を好転できるには至っていないように見えます。それを防ぐためにも、発表された対策以上にスピード感を上げていく必要がありそうです。


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《石野純也》

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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