ドコモの「パケ詰まり」はなぜ起きているのか。都市部の一部混雑エリアで発生中、今夏までに改善目指す(石野純也)

ガジェット スマートフォン
石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

  • homepage
  • facebook
  • X

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

ドコモは4月26日、ネットワーク戦略に関する説明会を開催しました。

用途に応じてネットワークを仮想的に切り分ける「ネットワークスライシング」の導入時期や、その前提となる5G SAの展開方針などを説明しましたが、どちらかと言えば、質疑応答で話題が集中したのは“パケ詰まり問題”への対処方法。

通信障害発生時の謝罪会見とは異なるものの、切れ味の鋭いマサカリが飛び交う戦々恐々とした会見になりました。

▲ドコモは、4月26日にネットワーク戦略に関する説明会を開催。将来像が示された一方で、質問が集中したのはパケ詰まり問題だった

その前提として、ここ数か月、ドコモのネットワーク品質が大幅に低下していることがあります。厄介なのは、それが全国区というわけではないところ。

集中しているのは、東京や大阪、名古屋といった都市部の中の一部で、しかも時間帯が限られています。生活圏はもちろん、生活パターンによっては、まったく気づかない人もいるような話です。

一方で、都市部は人口も多いため、TwitterをはじめとしたSNSには、大量に「ドコモがつながらない」という声が上がっていました。筆者も、そんな声を数か月前からたびたび上げていた1人。

同じ東京23区でも、自宅周辺はまったく問題なく、むしろマンションの光回線より高速なドコモ回線ですが、事務所のある渋谷では頻繁にパケ詰まりを起こしていました。

▲都市部を中心に、一部の場所で通信速度が大幅に低下してしまっている。SNSでの声も徐々に増えてきた

パケ詰まりといっても、速度がちょっと低下するレベルではありません。酷いときは1Mbpsを下回るほど、ほぼほぼパンクしていると言って差し支えないレベルです。LINEで数文字のメッセージも送信できないほどの詰まり具合。動画などはもってのほか。

渋谷駅で電車内を観察すると、同様の事象に遭遇し、映像が止まってしまっている人をたびたび見かけます。

▲同日、午後8時ごろに渋谷駅のホームでスピードテストをしたところ、データを読み込めずにエラーが出てしまった

ドコモ側でも、こうした問題は確認しているようです。ドコモの無線アクセスネットワーク部長、林直樹氏によると、「東京がやはり多いが、それ以外の都市部や中心部でも同様の状況になっているところがあるという認識。トラフィックは徐々に変化していくのでいつごろかは難しいが、ここ数か月の間にそういった事象が増えてきた」と語っています。

SNSなどでの声を受け、ドコモ側も調査に乗り出したようです。その原因は、トラフィックの増加をさばききれていない点にあります。

ドコモは、データ容量が無制限の「5Gギガホ プレミア」や中容量のahamoが順調に伸びているとしていますが、裏を返せば、それだけデータ通信の需要が拡大していることを意味します。その状況に対して、電波が不足してしまっているのが実情です。

▲中・大容量プランが拡大し、データトラフィックは年々増加している

中でも詰まるケースが多いのが、4Gのネットワーク。本来であれば、トラフィックの多い場所は5Gのエリア化を進め、そちらに収容すべきですが、移行の「過渡期ということもあって、まだ完了していない場所がある」といいます。

筆者が経験したパケ詰まりも、やはり4Gエリア。駅周辺は5Gの電波が届いていますが、駅ナカは4Gになってしまい、人が増えてくるとパケットが流れなくなります。

また、同じ4Gでも、キャパシティの少ないプラチナバンドにユーザーが集中してしまうことも理由の1つになっているようです。プラチナバンドは、より電波が建物内などに浸透しやすいため、まずそこをつかんでしまい、ほかの周波数帯が空いているにも関わらずそのままパケ詰まりを起こしてしまうという理屈です。

実際、筆者も、ビル内の飲食店でパケ詰まりが酷く、ほぼほぼ使い物にならなかったものの、窓際に近づくと5Gをつかんで100Mbps以上の速度が出ていたケースに遭遇したことがあります。

これこそ、まさに上記の理由の合わせ技と言えるでしょう。本来なら5Gでカバーしたかったエリアに電波が届かず、代わりにプラチナバンドをつかんでしまい、パケ詰まりが発生したというわけです。

都市部、特に東京でこのような事象が起こりやすいのは、再開発で地形が変わってしまうことも影響しているようです。ビルができて元々届いていた電波が届かなくなってしまったり、壁がなくなって以前はその電波をつかまなかったユーザーが増えてしまったりすることで、基地局ごとのトラフィックは上下します。

「不思議のダンジョン」ばりに動線が変わったり、一夜にして山手線のホームが島型になったりする渋谷では、こうしたトラブルが起こりやすいと言えるでしょう。

▲不思議のダンジョンばりにたびたび地形が変わる渋谷駅周辺。こうした再開発も、ネットワーク構築に影響を与えている

ドコモは、この対策として夏ごろまでに周波数の使い方を改善するとしています。具体的な方策は2つ。

1つは、5Gエリアにより多くの端末が収容できるようにすること。もう1つが、4Gで込み合うプラチナバンドのような周波数帯に接続する端末を減らし、負荷を分散させるチューニングを施すことです。これによって、混雑している場所でも、より快適に通信ができるようになるとしています。

▲カバーエリアの調整と利用する周波数の分散で対応していく構えだ

もっとも、この対策はあくまで対症療法でしかありません。5Gにつながるようにするといっても、電波が届いていなければ接続はできません。4Gの負荷分散も、そもそもすべての周波数帯が混み合っているような場所では効果が薄いでしょう。根本的な解決には、5G用に割り当てられた帯域幅の広い3.7GHz帯なり4.5GHz帯なりの基地局を増やしていくしかありません。

夏ごろには多少マシにはなっている可能性はありますが、快適と言えるほどまで改善しているかは未知数でしょう。ドコモと聞けば、やはりエリアの広さや通信品質に期待を寄せる人が多いはず。ネットワークは、同社にとっての中核とも言える強みです。その信頼性を揺るがしかねない事態なだけに、基地局整備の前倒しなど、早期の対策を期待したいところです。

《石野純也》
石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

  • homepage
  • facebook
  • X

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

BECOME A MEMBER

『テクノエッジ アルファ』会員募集中

最新テック・ガジェット情報コミュニティ『テクノエッジ アルファ』を開設しました。会員専用Discrodサーバ参加権やイベント招待、会員限定コンテンツなど特典多数です。