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サービスが「死ぬ」とはどういうことなのか、考えてみた(西田宗千佳)

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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サービスが「死ぬ」とはどういうことなのか、考えてみた(西田宗千佳)
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イーロン・マスク氏による買収以降、Twitterがいろいろ変化している。以前にも記事にしたが、「正直まだどうなるのかわからない」というのが、もっとも誠実な分析だと思う。改革の成否やマスク氏の狙いを正確に説明できる人はいないだろう。

一方で混迷を深めているためか、「Twitterはダメになってしまうのではないか」というコメント依頼も多く寄せられている。

確かに心配なのだが、正直筆者は「普通に使うだけならすぐには変わらないだろう」と考えている。過去の「オワコン」と言われたサービスもそうだからだ。

ではサービスが「終わる」「死ぬ」とはどういうことか、特にコンシューマー向けのものに限定し、改めてちゃんと考えてみよう。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年11月28日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



多産多死が生み出す「早期にサービス終了」

まずはっきりさせておきたいのは、「サービス終了」と「サービスが死ぬ」ことはイコールではない、という点だ。前者は文字通りサービスが終わることであり、後者は「ユーザーに見向きもされなくなること」である。続いていても死んでいる=大きな収益を上げていない、というサービスは多数ある。

ぶっちゃけ、サービスは「すぐ終わる」か「ずっと続く」かどちらかしかない。ハンパなことをするのが最も収益にはマイナスだからだ。

毎日のように、新しいサービスやオンラインゲームが生まれ、同時に「サービス終了」していく。その理由は、サービスにとっては「継続すること」自体にコストがかかるからだ。

Aというサービスがあるとする。期待を込めて開発され、スタートしてみたが、どうにもユーザー数が伸びない。この段階でまず、将来的な収益性を考えることになる。

現状、ほとんどのサービスはクラウドで運営されている。サービス開始時にハードウェア投資を必要としないので、固定費を含めた予算が小さくて済むからだ。インフラ負担はユーザー数が増えるのに合わせて増やせばいいし、初期に広告などに誘引されてやってくる「お試しユーザー」のために、一時的にインフラを拡充するのも簡単だ。

一方、インフラを借りているということは、サービスが続く限り毎月お金がかかり続ける、ということでもある。

10年前は、スマホ向けサービスのスタート後、どう顧客が集まってどう定着「しない」のか、ということについての知見も少なかった。だから、サービスが不調なままずっと続くことも多かったと思う。

だが今は、すでにいろいろな知見が蓄積されている。特にゲームはそうだ。初期にユーザーを集められず、今後の改善ロードマップの中でも大幅な増加が見込めそうにない、と判断されると、「サービスを継続すべきでない」という結論に至りやすい。初期の開発費があり、そこから数年での運営コストとアプリの改修コスト、コンテンツ追加にかかるコストは見えているので、サービスを維持可能な期間も明確にわかってしまうのだ。

となると、仮に始めたばかりでも、ユーザーがそれなりにいても利益的に難しいとわかれば、サービスを終了することになる。数年続く長期サービスは少数になり、「早期にサービス終了」が多くなっていく。

実のところ、「早期にサービス終了」は悪いことばかりでもない。

ゲームにしろサービスにしろ、コンシューマー向けのものはヒットするかどうかは水物で、出してみないとわからないところがある。

もちろん、お金をかけてじっくり良いものを作れば、「成功の可能性」は上げられる。映画やゲームなどのエンタメコンテンツにおける「大作」とはそういうものだ。ヒットの確率が小品よりも高いのでお金をかけて作るし、お金をかけたので、宣伝や販売方法などに知恵を絞る。

ただそんな巨大プロジェクトでも、事前の予想に反して失敗することは多いもの。小さいプロジェクトだって、誰も最初から失敗するつもりでは作っていない。

そうなると経営側としてはどう判断するか?

現在の鉄則は「多産多死」になっている。

とにかく多くのトライができる環境を作り、失敗の判断を早くして、利益を産めないまま赤字を積み重ねる事業を早期に「サービス終了」し、成功したものに資源を注ぎ込みつつ、次の展開を早急に模索するのだ。

容赦無くサービスが終わっていくことになるので、若干冷たい印象を持つかもしれない。だが、新規事業とはそういうものだ。

失敗の責任を無駄に重いものにするのではなく失敗から学ぶことを重視し、より今にあった、より良いものを目指して「試行回数を増やす」ことで、全体での成功確率を高くすることを目指すわけだ。

ヒットしたら次は「維持」、UGCの優位さはここに

さて、早期サービス終了の課題を超えると、今度は「いかに持続するか」というフェーズに入る。

コンテンツの中身が重要なサービスは、ここからもずっと地獄が続く。ユーザーの期待を超え、ユーザーの快適さを維持し続けるためには、投資を継続する必要があるからだ。お金も重要だが、質の維持も重要。そのためには、新しいアーティストの発掘・育成を進めた上で、現在関わっているアーティストのモチベーションを維持し続けることになる。

非常にコストがかかるのだが、ヒットすれば収益性は莫大なものになる。ヒットしたオンラインゲームは数年に渡り巨額の収益を産み続けるので、100億円かけて「売り切りのAAAゲーム」を作るより、300億円かけて「5年間遊ばれるオンラインゲーム」を作る方が収益性は良かったりもする。ただし、「コンテンツとしての価値」「ファンの維持」などを考えると、売り切り的なビジネスモデルも重要なので、そう簡単に「ネットだけ」と切り分けられるものでもないのだが。

このような構造を考えると、「自らはコンテンツを作らず、場を提供することで収益を得る」モデルがいかに効率的か、というのがわかってくるだろう。いわゆる「ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ(UGC)」モデルだ。TwitterのようなSNSにしろ、YouTubeのような動画共有にしろ、UGCモデルのプラットフォームであることに変わりはない。

UGCのプラットフォームとして勝ち残るのは大変なことだが、勝ち残ると収益性が一気に上がるのは、皆さんのご想像通りである。

一度作ったサービスは「意外と長持ち」

一方、時代の寵児になったプラットフォームであっても、その命は永遠ではない。

YouTubeはまだこの世の春を謳歌しているが、そろそろSNSには翳りが見えてきた。正確には、「もうこれ以上の成長は見込めない」可能性が高い、というべきだろうか。

巨大なプラットフォーム運営のためには株式公開による原資調達が必要であり、株式公開後には「成長」を求められる。株価の大きなITプラットフォーマーであればさらに圧力は高まる。

そうすると、同じプラットフォームを長持ちさせるか、同じくらい大きな事業を別に立ち上げるか、という選択を迫られる。

で、「オワコンのサービス」と言われるものは、この段階で選択を誤り、ユーザーが離れ始めたサービスのことを言う。

ただ、ここで気をつけてほしいことがある。

一度作ったサービスは「意外と堅牢である」ということだ。特に巨大サービスになると、初期のように単純にクラウドには依存していない。自社でサーバー投資をすれば固定費になり、運営コスト的に有利だからだ。クラウドを使い続けるにしても、契約を有利なものにしてコスト上昇圧力を下げる方向に向かう。

とすると、ユーザーが減っても「そんなに将来コストが厳しいわけではない」インフラが手元にある、という形になる。もちろん、最盛期と同じレベルでのインフラを維持するとコストが大変なことになるが、ゆるやかにインフラコストを下げれば、サービスは「オワコンなのに持続可能」なままになる。

もちろん、ソフトなどのメンテナンスは必須だ。

整備されていないソフトウェアやインフラは、一見動いているように見えて、ある日突然不具合が発生する可能性がある。だが、メンテナンスフェーズとして適切に人をかければ、コストを抑えてインフラを維持することはできる。

結果として、「もうほとんど話題にならないのに維持されているサービス」が生まれることになる。名前を具体的に挙げて恐縮だが、「mixi」はその状態であるように見える。

関連記事:気がつけば日本最大シェア。ミクシィのソーシャルネット「みてね」が浸透したユーザー層

巨大なサービスは「巨船」である

もちろん、縮小均衡を望まないところは、サービスを改善・改良して進めていくことになる。それが成功するかは誰にもわからない。

日本で言えば「ニコニコ動画」はそうやってサービスを維持している。YouTube全盛の今であり、利用ユーザー数は減ったものの、ユーザー層の若返りやサービス刷新による安定的利用者の確保に腐心している印象だ。

Twitterもまさにそのフェーズにある。

その過程で大量に社員をレイオフしたため、サービス品質的に若干落ちている気はする。タイムラインの表示内容が変わってきているが、それがプラスかマイナスかはまだよくわからない。

ここまでの解説を聞けば、買収したばかりのマスク氏がTwitterのサービスを終えることはありえないし、インフラの維持も可能ではあることは皆さんもお分かりいただけると思う。

そもそもTwitterのような巨大なシステムは、「何かが起きても止まらない」ことを目指して作られている。だからすぐには止まらない。

エンジニアの手が回らないなら、時間をかけて不具合が蓄積していき、結果として「サービス品質が落ちた」と思われる状況になる可能性はある。

また、マスク氏が目指す「場としてのTwitterの改革」が評価されず、ユーザーが離れることもあるだろう。

すでに若干の傾向が出ているが、大手広告主が離れ、収益性の課題が出るかもしれない。

だがどれも、いきなり明日や来月に大きな変化が出るような話でもない。巨大なサービスへの変化は、やはり数カ月から数年の期間を経て可視化できる状況になっていくものだ。

Twitterにとって最悪の結果とは、「じわじわ悪化した結果、巨大なサービスを維持する収益を確保できなくなること」である。いきなりサービスを止めなければいけない事態に陥るのは想定しづらい。

巨大な船が止まりづらいのと同様、巨大なサービスもまた止まりづらい。一方で、方向転換も同様に難しい。

多産多死でやり直す、という方向性が増えたのは、サービスが「燃料を食い続ける中途半端に大きな船」になるのを防ぐためでもある。

では巨船はどうするのか? Twitterはまさにその生きた事例になりつつある、と言える。

マスク氏のやり方はかなり常識はずれだが、「上場廃止+過去の経営陣の追い出し」「自分と価値観が同じ社員だけを残す」という形を選んだ理由はわかる。ただでさえ動きづらい巨船に、意見が違う船長・船員の影響が及ぶことを排除したかった、ということなのだ。

どう転ぶにしろ、後の世の経営者に対しては、良い資料となって残るだろう。

《西田宗千佳》

西田宗千佳

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