GoogleがクラウドゲーミングStadiaを終わらせるまでの流れを追う(Google Tales)

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佐藤由紀子

IT系海外速報を書いたり、翻訳を請け負ったりしています。初めてのスマートフォンはHTC Desire。その後はNexus 5からずっとGoogleさんオリジナルモデルを使っています。

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Googleが、ついにというか、やっぱりというか、クラウドゲーミング「Stadia」の終了宣言をしました。2023年1月にシャットダウンの予定。2019年3月の発表から約4年の命でした。とうとう日本には来ませんでした。

Google、クラウドゲーミングのStadia終了を正式発表。ストアは既に閉鎖し、コントローラー、ゲームは返金へ

▲在りし日のStadiaのサイト

Stadiaは、プレイステーションのような専用コンソールや、高性能なPCを持っていなくても、クラウド上のゲームをネット経由でプレイできるサービスです(でした)。似たようなサービスとしては、NVIDIAの「GeForce NOW」やMicrosoftのXbox Game Pass Ultimateで遊べる「Xbox Cloud Gaming」(まだβ)、Amazonの「Luna」などがあります。ソニーも長らくPlayStation Nowの名称で、現在はオンラインサービスPlayStation Plus上位プランの特典としてクラウドゲーミングを提供してきました。

Googleがクラウドゲーミングに乗り出したのは、同社が「Webの高速化」を目指していたことが、きっかけの1つだったようです。

Google Chromeチームは2018年10月に、「アサシン クリード オデッセイ」をChromeブラウザでプレイする「Project Stream」を発表しています。Webの高速化の恩恵を一番受けるのはオンラインゲームだ、という流れです。

2019年3月のStadia発表イベントでスンダー・ピチャイCEOは、世界中に高性能なデータセンターを展開しているGoogleなら、レイテンシなしで高精細な画質のハイエンドゲームサービスを提供できると語りました。発表段階の説明は「クロスプラットフォームでクラウド上の4Kゲームをプレイでき、同時にYouTubeでゲーム実況もできるサービス」でした。

そう、当時YouTubeではゲーム実況の人気が高まっていて、それも自社製品に取り入れない手はない、ということになったんでしょう。YouTubeで実況を見て興味を持った人が、そのままゲームをプレイできるのは、Stadiaのユーザーを増やすのに効果的に見えます。

うまくいきそうな感じがしますよね。ゲームストリーミングに一番必要なクラウドとネットワークには自信があるし、投入できる予算もあるし。

なのになぜ、うまくいかなかったんでしょう。

1つにはGoogleが自信を持っていた(クラウド側の)ハードウェアが実際にはいまひとつで、4Kゲームをさくさく楽しめるという売り込み文句には程遠く、集団訴訟さえ起きてしまったことが大きいでしょう。

もう1つはコンテンツの問題。これまでゲーム市場の門外漢だったGoogleは、この業界独特の文化や複雑さを甘くみていたと思います。

だから、せっかく「アサシン クリード」の共同制作者のジェイド・レイモンド氏をトップに迎えて立ち上げたゲームスタジオを、1年もしないうちに閉鎖することになりました。大作ゲームの制作には数年かかるのが普通なのに。

▲レイモンド氏はその後Googleを去り、新たなゲームスタジオHaven Studiosを立ち上げました。お元気そうです。

スタジオ閉鎖の際、Stadiaトップのフィル・ハリソン氏は「最高のゲームをゼロから作成するには何年もかかり、多額の投資が必要だ。そのコストは指数関数的に上昇する」と説明しました。ハリソン氏自身、ゲーム業界が長いので、それを知らなかったわけではないと思いますが。

▲Stadia発表時のフィル・ハリソン氏

当時、ハリソン氏の直属の上司はハードウェアのトップ、リック・オステルロー氏でした。ゲームスタジオがPixelとは桁違いの予算を使っていながらなかなか成果を出さないことに理解を示せたかどうか(その後上司はサブスクサービス担当のジェイソン・ローゼンタール氏に変わりました)。

そんな様子を見ていては、サードパーティのゲームスタジオもStadiaに本気で取り組む気力が萎えます。実際、Take-TwoやUbisoftの最近のタイトルがStadiaに対応することはなくなっていました(UbisoftはStadiaでリリースしたゲームをPCに移行できるようにすると表明しています)。

最近Logitechが発表した携帯ゲーム機「Logitech G Cloud」も、Android端末であるにもかかわらず、Xbox Cloud GamingやGeForce NOWはサポートするのに、Stadiaはスルーです。

Logitech Gのクラウド携帯ゲーム機『Cloud』正式発表。12時間駆動で350ドルのAndroid端末

そして、ユーザーがGoogleを信用していないこと。Googleは中長期的に収益の見込めないサービスを打ち切ることで有名です。サービスを打ち切るのはGoogleだけではないですが、なにしろ提供しているサービスが多いので、目立ちます。「Killed by Google」という墓地ができているくらいです。

古い話ですが、「Google+」のようにたとえ無料サービスであっても、8年使っていたソーシャルサービスを終了されたら、喪失感はかなりあります。

ましてやStadiaをスタート段階で使うには、129ドルのプレミアムエディションを購入する必要がありました。数年後に終わるかもしれないサービスに129ドル出すのはなぁ、と躊躇します。それに、ゲームだと獲得したアイテムやレベルもサービスが終わったらなくなってしまいます。とはいえ、ハード、ソフト含めた代金全額を払い戻すというのは大英断で、そこは評価していいことだと思います。

▲Stadia以外のプラットフォームと進行を共有できるゲームならこれまでのプレイが保存可能だが、大半のゲームではできないと、Stadia終了FAQに記載されています

ハリソン氏は打ち切りの公式な理由として「期待したほどのユーザーの支持を得られなかったため」と説明しましたが、それはゲーマーの皆さんが「また打ち切るんじゃないか?」と手を出しかねていたからだと思います。

全体的に、Googleには、ゲームと、ゲームを愛する人々(ゲーマーや開発者)への理解が足りなかった気がします。

実際、ピチャイCEOはStadia発表イベントのオープニングで「私は大したゲーマーじゃない」と宣言したので心配になったことを覚えています(イベントの動画はStadia終了発表後、削除されてしまいました)。

SCE(現在のSIE)でプレイステーションビジネスの立ち上げに貢献し、ソニーが買収したクラウドゲーミングサービスGaikaiに加わり、MicrosoftではXbox事業の欧州部門を統括してきた、ゲーム業界での長い経験のあるハリソン氏はたぶん、最後まで終了を避けたかったんだと思います。だからって公式ブログ公開の数分前に従業員に説明したり、Stadia向けゲームを開発してくれているサードパーティが公式ブログで終了を知ることになった、というのはひどい話です。

ユーザーに対しては、コントローラーやゲームを購入した代金を全額払い戻しますが、Stadiaのためにがんばってゲームを開発してきた従業員やサードパーティスタジオの努力は報われません。

Googleは多くのIT企業同様、マクロ経済状況の悪化に対処するため現在コスト削減中です。2016年に立ち上げた社内インキュベータ「Area 120」を縮小し、開発しかけていた次世代Pixelbook(日本未発売のPixelシリーズのノートPC)プロジェクトを終了しています。

ゲームのプラットフォーム事業は、コンソールの開発(この場合はクラウド、コントローラーですが)だけではなく、サードパーティ支援、トリプルAタイトルの誘致、ファーストパーティによるキラータイトル開発など、多岐かつ長期にわたる投資が必要です。Googleのプロジェクトとして望まれる収益や期待したユーザーベースが得られなければ、社内から圧力がかかるのは必至。GoogleはVRプラットフォームのDaydream(2016年スタート)を2019年に終了した時にも、「期待していた一般消費者や開発者による幅広い採用はなく、利用が徐々に減少していったため」と説明しています。継続を見極めるタイミングとしてはほぼ同じ。

Googleが打ち切りの次のターゲットとしてStadiaを選んだのは自然な流れだったのでしょう。

会ったことはないけど、さよならStadia。また一つ、お墓が立ってしまいました。


▲Killed by Googleに追加されたStadia

追記:連載名を「Google Tales」に変更しました。

《佐藤由紀子》
佐藤由紀子

IT系海外速報を書いたり、翻訳を請け負ったりしています。初めてのスマートフォンはHTC Desire。その後はNexus 5からずっとGoogleさんオリジナルモデルを使っています。

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