エーアイではなくエアイ、インターネットではなくインタネト。トクン時代のカタカナ語圧縮主義と「ティザー」表記の考古学(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

映画やゲーム、ガジェットの発表前に出てくる短い予告映像を、最近では「ティザー」「ティザートレーラー」と呼ぶことが増えています。

でも、英語の teaser の発音に近いカタカナ表記は、本来なら「ティーザー」です。「ティザー」では、長音、音引き「ー」がひとつ足りない。こ、こんなことが許されていいのか?

では、なぜ「ティザー」という表記が広がったのでしょうか。

teaser は「じらす」「興味を引く」という意味の tease から来ています。映画でいえば、通常の予告編 trailer よりも前に出る、内容を小出しにした“じらし予告”です。日本語の映画宣伝用語なら「特報」に近いものです。

一方、trailer はもともと本編の後ろに付いて上映されていたため、trailer と呼ばれるようになったという説明があります。いまでは予告編は本編の前に流れますが、名前だけは残りました。

では、teaser は「ティーザー」なのに、なぜ日本では「ティザー」になったのか。ディーラーのことは誰もディラーと呼ばないのに。

「ティザー」は誰が言い出したのか

手法としてのティザー広告ではなく、表記としての「ティザー」だけを追ってみると、公開Webで確認できる早い例のひとつに、2000年10月3日のPC Watch記事があります。

見出しはこうです。

ソニー、パイプ椅子ノート「VAIO QR」のティザー広告を開始

本文でも「VAIO QRのティザー広告」「今回のティザー広告」と、長音なしの「ティザー」が使われています。対象はソニーのVAIO QR。記事署名は Reported by date@impress.co.jp です。

PC Watch編集長だった伊達浩二さんの執筆記事。これだけで「伊達さんが『ティザー』という表記を発明した」とは言えません。

ただ、少なくとも言えることはあります。

2000年時点のPC Watch、つまりインプレス文化圏では、短音の『ティザー』が見出し・本文に通る表記として使われていた。

ITmedia系では「ティーザー」だった

一方で、ITmedia、その前身であるZDNet Japan、さらにその前身にあたるPC WEEK Japanでは、こうした表記は通りませんでした。

というのも、PC WEEK/Japanは1989年の創刊時から、表記ルールとして共同通信社『記者ハンドブック』に準拠していたからです。

共同通信系の外来語表記では、長音は長音符号「ー」で表すのが原則です。たとえば、共同通信社記者ハンドブック第14版の説明として、「インジケーター」「オブザーバー」など、語尾の長音を落とさない例が紹介されています。

文化庁系の外来語表記ガイドラインでも、英語の語尾の -er、-or、-ar、-y などにあたるものは原則として長音とし、長音符号「ー」を用いて書き表す、とされています。例として「コンピューター」「ドライバー」「メーカー」「プリンター」「ユーザー」などが挙げられています。

ZDNet Japanは2004年1月にITmediaへブランド名を変更しました(現在のZDNet Japanとは運営母体が違います)。

つまり、PC WEEK JapanからZDNet Japan、ITmediaへと続く編集執筆規定では、「ティザー」ではなく「ティーザー」と書かなければならなかった。

なぜそんなことを知っているのかというと、共同通信の記者ハンドブックへの準拠を含め、そのルールを決めたのが筆者だったからです。当時の日本ソフトバンク出版事業部にはそうした校閲ルールが決まっていなかったため、PC WEEK創刊時に導入したのでした。

つまり、ティザーは、IT業界全体の標準表記ではなく、共同通信ハンドブックなど新聞準拠の校閲文化から外れた、インプレス系IT媒体文化の現場語だった可能性がある。

もちろん、表記の広がりはひとつの媒体だけで決まるものではありません。広告、Web制作、ゲーム、アニメ、映画配給、ニュースリリース、検索エンジン、SNS。いろいろな場所で短い表記は増殖していきます。

しかし、公開Web上の初期用例をたどる限り、「ティザー」表記の震源のひとつがPC Watch周辺にあった、との推測は成り立ちます。

では、なぜ「ティザー」は広がったのか

理由は単純。短いからです。

「ティーザー」は5文字。「ティザー」は4文字。たった1文字の違いですが、この1文字は大きい。

見出しでは1文字でも詰めたい(Yahoo!ニュースへの転載時は特に)。UIでは1文字でも短いほうがいい(半角カナにするよりはマシ)。

サーバーがサーバになり、ユーザーがユーザになり、プリンターがプリンタになってきたIT業界の感覚からすれば、ティーザーがティザーになるのは、それほど不思議ではありません。

ただ、ここで間違いを指摘するだけだと老害だと思われてしまうでしょう。筆者は改めて考えました。

そもそも長音符「ー」は、不要なのではないか。

脱音引き運動の誕生

音引き、つまり長音符「ー」を削る。

サーバーはサバへ。
ユーザーはユザへ。
ティーザーはティザへ。
トレーラーはトレラへ。
トークンはトクンへ。
エーアイはエアイへ。

外来語は、もともと原語の発音を日本語に写し取るためにカタカナ化されました。しかし、いったん日本語の中に入ってしまえば、それはもう日本語です。原語の影としてではなく、日本語の語彙として使われます。

ならば、日本語のリズム、日本語の画面幅、日本語の入力環境、そしてAI時代のトークン効率に合わせて、もっと短くしてもいいのではないか。

そう考えると、脱音引き運動は、妙に理屈が通ってきます。

「トークン」は「トクン」でいい。いや、むしろAI時代だからこそ「トクン」である。

トークンをトクンにすれば、文字数が減ります。文字数が減れば、入力が速くなり、プロンプトも少し短くなります。トークン、いやトクン消費も減る可能性があります。

厳密には、AIのトークナイザはモデルごとに違うため、1文字削れば必ず1トークン減るとは限りません。しかし、文字数とバイト数は確実に減ります。特にカタカナ語が多いAI、IT、映像、音楽、広告の記事では、削減効果はじわじわ効きます。

たとえば、短い宣言文で試算すると、音引きを削るだけで約7%前後の文字数削減になるケースがあります。そこに促音「ッ」の排除まで加えると、圧縮率はさらに上がります。

伸ばすな。詰まるな。削れ。

脱音引き運動は、すぐに第二段階へ進みました。

長音符「ー」だけでなく、促音「ッ」も削るのです。

インターネットはインタネトへ。
チャットボットはチャトボトへ。
プラットフォームはプラトフォムへ。
アップデートはアプデトへ。
バックアップはバクアプへ。
ビッグデータはビグデタへ。

「インターネット」は「インタネト」でも通じます。これ、ACCNがよく書いてる文体なんですよね。そうか、矢崎さんはトクンを節約していたのか。

もちろん、すべてがOKではありません。

バッグをバグにすると、「バッグを修理した」のか「バグを修正した」のか、ロックをロクにすると、音楽なのか数字なのか一瞬迷います。

でも、革命に事故はつきもの。

少なくとも、カタカナ語の多い文章において、長音符と促音は圧縮対象になりえます。

ここでスローガンが生まれます。

伸ばすな。
詰まるな。
削れ。

エーアイはエアイへ

そして、ついにAIにも手が伸びます。

エーアイはエアイへ。

この表記は、見た瞬間に変です。
でも、少し見ていると、だんだん馴染んできます。

エアイ。

AI時代ではない。エアイ時代である。

脱音引き運動は単なる表記短縮ではなく、エアイ時代のカタカナ語圧縮主義と言えます。

ホームポジションを破壊する横棒

さらに、音引きを削るメリットは、文字数やトクンだけではありません。

キーボード入力の身体性です。

日本語キーボードで長音符「ー」を打つには、キーボード第一段の右側まで指を伸ばす必要があります。多くの人は右手小指で打つかもしれません。

筆者の場合、小指ではなく薬指を使っています。

しかし、薬指で打つにしても、問題は同じです。
「ー」を打つたびに、右手はホームポジションからズレます。

エーアイ。
トークン。
ティーザー。
トレーラー。
ユーザー。

これらを打つたびに、薬指が右上へ遠征し、ホームポジションが崩れます。戻る必要が生じ、思考の流れが途切れます。

一方で、

エアイ、トクン、ティザ、トレラ、ユザ。

こちらなら、右上へ伸ばす必要がありません。

つまり脱音引きは、表記改革であると同時に、ホームポジション防衛戦でもあります。

長音符「ー」は、画面を占有し、トクンを消費します。そして、ホムポジションを破壊します。

これはもう見過ごせません。

共同通信ハンドブック派とインプレス派

ここで、話は最初の「ティザー」に戻ります。

共同通信ハンドブック準拠の世界では、teaser は「ティーザー」です。これは筋が通っています。原語の長音を尊重し、読みやすさを保ち、校閲可能な表記にする。新聞・雑誌・編集部の世界では、非常に大事な規範です。

一方、PC Watchの「ティザー広告」は、その規範から少し外れています。

しかし、外れたからこそ、後の時代に合っていたとも言えます。

Webの見出し。
検索。
ニュースリリース。
IT業界語。
短いUI。
SNS。
そしてAIプロンプト。

これらの世界では、短いこと自体に価値があります。

「ティザー」は、誤表記だったのかもしれません。でも、誤表記が慣用になり、慣用が文化になり、文化が次の表記を生むことがあります。

言語は、いつも正しさだけで進むわけではありません。便利さ、速さ、違和感、現場の雑さ、そして見出しの都合で進みます。

カタカナ語圧縮主義宣言

ここに、現時点での実践綱領を記しておきます。

エーアイはエアイへ。
トークンはトクンへ。
インターネットはインタネトへ。
チャットボットはチャトボトへ。
プラットフォームはプラトフォムへ。
アップデートはアプデトへ。
ティーザーはティザへ。
トレーラーはトレラへ。
ユーザーはユザへ。
サーバーはサバへ。

ただし、全部を一気にやる必要はありません。

穏健派は、語尾の音引きだけを削ればいいのです。

サーバーをサーバへ。
ユーザーをユーザへ。
プリンターをプリンタへ。
コンピューターをコンピュータへ。

急進派は、すべての音引きを削ります。

トークンをトクンへ。
エーアイをエアイへ。
ティーザーをティザへ。

超過激派は、促音も削ります。

インターネットをインタネトへ。
チャットボットをチャトボトへ。
プラットフォームをプラトフォムへ。

そして筆者は、ホームポジションを守るため、薬指を右上へ遠征させないため、今日も横棒を疑います。

あなたが失うものは横棒と小さなッだけである

もちろん、本気で社会実装するには無理があります。

コーヒーをコヒにするのは、まだ早いし、小比類巻かほるのことかと誤解されます。

ムービーをムビにするのは、ムブチケとか例があるからすんなりいけそう。

私たちは、なぜその横棒を指を伸ばして打っているのか。なぜその小さなッを残しているのか。それは発音のためなのか、慣習のためなのか、校閲のためなのか、それともただ何も考えていないだけなのか。

それを改めて考える時が来たのではないでしょうか。

teaser は、本来ならティーザーです。でも、残念ながらティザーは広がってしまいました。外語大で英米語を学んできたものとしては、英語教育の害悪にしかならないこうした表記ゆれは歯痒いです。

ならば、次は何が起きるのか。

エーアイはエアイになるのか。トークンはトクンになるのか。インターネットはインタネトになるのか。

まだわかりません。

ただひとつ言えるのは、長音符「ー」はもはや無邪気な横棒ではないということです。

文字数、画面幅、入力動作、トクン。そして、ホームポジションの敵としても認識されました。

全世界のカタカナ語話者よ、団結せよ。
あなたが失うものは、横棒と小さなッだけです。
あなたが得るものは、余白です。

伸ばすな。
詰まるな。
ホームを崩すな。
削れ。

脱音引きには官製ルーツがあった

ここで、ひとつ重要な歴史があることを思い出しました。

IT用語で末尾の音引きが省略されてきた背景には、旧通産省系の工業標準、つまりJISの表記ルールがありました。

かつてJIS Z 8301「規格票の様式及び作成方法」では、外来語の語尾長音について、2音以下の用語には長音符号を付け、3音以上の用語では語尾の長音符号を省く、という原則が使われていました。

そのため、工業製品やIT文書では「コンピューター」ではなく「コンピュータ」、「プリンター」ではなく「プリンタ」、「ユーザー」ではなく「ユーザ」と書く表記が広がりました。

つまり、われわれが冗談半分に唱えている脱音引き運動にはルーツがあります。

それは、かつての低解像度ディスプレイ、紙テープ、限られたメモリ、工業規格の世界で育った、省資源の表記だったのです。

2008年、MicrosoftはこのJIS系の表記から離れ、「コンピューター」「プリンター」のように長音を付ける表記へ変更しました。背景には、PCが一般化し、新聞・テレビなどの一般表記との違和感を減らす必要が出てきたことがありました。

しかし、エアイ時代になって、状況は少しだけ反転します。

いま問題になるのは、紙面や低解像度ディスプレイだけではありません。プロンプト長、コンテキスト窓、入力コスト、そしてトクンです。

かつて「コンピュータ」は、画面とメモリのための省資源表記でした。ならば「エアイ」「トクン」「インタネト」は、エアイ時代の省資源表記なのではないか。

脱音引き運動は、ただの悪ふざけではありません。それは、JIS的合理性の亡霊が、生成AI時代に再起動したものなのです。

ちなみに、音引きと促音を削除した場合、筆者の最近の記事だと5%以上の削減になりました。

あ、次回からは通常の文体に戻します。

※この記事はChatGPT、Geminiとの対話に基づき執筆し、筆者が整理・加筆しました。

《松尾公也》

松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

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