患者の臓器9つそれぞれを自律AIで独立エージェント化→臓器間で連携させ未来の体内状態を高精度予測(生成AIクローズアップ)

テクノロジー AI
山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

特集

1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。

今回は、大規模言語モデル(LLM)を活用して人体の9つの主要臓器をそれぞれ独立したAIエージェントとして実装し、それらが相互に連携することで患者の病態進行を予測する医療支援システムを提案した論文「Organ-Agents: Virtual Human Physiology Simulator via LLMs」を取り上げます。

医療データを9つの臓器システムに分類し、LLMベースのAIエージェントが協調して各臓器の相互作用をシミュレートするOrgan-Agentsの概要

人体は心臓、肺、腎臓、肝臓など、様々な臓器が協力して働いています。例えば、腎臓の機能が低下すると血圧が上がり、それが心臓に負担をかけるといった具合に、一つの臓器の問題が他の臓器にも影響を及ぼします。しかし、既存の医療では、こうした複雑な臓器間の連携を正確に予測し、刻々と変化する患者の状態を正確に把握することは困難です。

今回提案された「Organ-Agents」は、この問題を解決するために開発されました。このシステムでは、9つの主要な臓器システム(呼吸器系、血液系、凝固系、免疫系、神経系、心血管系、肝臓系、腎臓系、代謝・内分泌系)をそれぞれ独立したLLMエージェントとして実装し、これらが協調して動作することで、リアルタイムで精密な生理機能シミュレーションを実現します。

各エージェントは担当する臓器システムの専門知識を持ち、125の臨床指標をカバーしながら、他のシステムとの動的な相互作用を考慮して将来の状態を予測します。このシステムは、最大12時間先までの患者の生理学的状態を予測することが可能です。

▲Organ-Agentsの学習プロセス

研究チームは、アメリカと中国の病院から集めた約1万5千人のICU患者データを使ってこのシステムを訓練しました。システムの実装には、Qwen3-8BというLLMが採用されています。

システムの信頼性を確かめるため、15人の集中治療専門医に評価してもらったところ、シミュレーション結果は高い評価を受けました。また、低血圧、高乳酸血症、低酸素血症といった危険な状態への進行パターンも、約80%の精度で再現できることが確認されました。


《山下裕毅(Seamless)》

山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

特集

BECOME A MEMBER

『テクノエッジ アルファ』会員募集中

最新テック・ガジェット情報コミュニティ『テクノエッジ アルファ』を開設しました。会員専用Discrodサーバ参加権やイベント招待、会員限定コンテンツなど特典多数です。