Netflixは2025年第2四半期の決算発表で、4月30日から配信を開始したSFドラマシリーズ『The Eternaut(エテルナウタ)』のなかで、自社作品として初めて生成AIをVFX(視覚効果)に使用したことを明らかにしました。
Netflix共同最高経営責任者のテッド・サランドス氏は、投資家らに対しシリーズ第6話の回想シーンに登場する「ブエノスアイレスで建物が破壊される一連のシーンは、伝統的なVFX手法に比べて10倍速く、かつコストを大幅に抑えて制作できた」と生成AI使用のメリットを強調しています。
実際のところ、このAI生成によるビジュアルは、崩落の瞬間が一瞬だけ映る短いカットでしかありません。ただ、サランドス氏は、製作サイドからも、視聴者からも、このシーンの評価が非常に高いと主張し、非常に満足していると述べ、「クリエイターも、我々自身も、観客も皆、この結果に大満足だ。これらのツールは、映像表現の可能性を広げる助けになる」と語りました。
生成AIを映像制作に使用することは、以前から議論の的になっています。コストのかかるVFXシーンの制作を省力化する一方で、VFXアーティストは雇用に影響を及ぼす懸念が指摘されます。2023年の映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)によるストライキでは、AIの利用制限が争点のひとつになっていました。Netflixの今回の発表は、業界内で「AIに雇用が奪われる可能性」という懸念をふたたび呼び起こす事になる可能性を含んでいます。
とはいえ、ストライキから2年が過ぎ、AIはテレビや映画の制作の世界に足場を固め始めています。AIという言葉には否定的な印象を持つ人もいますが、低予算で制作に取り組むクリエイターにとっては力強い味方になる可能性もありそうです。
Netflixは、AIの使用は人の創造力を補完するためだとし、「単にコスト削減のためだけではない」と強調しています。サランドス氏は「AIは、プリビズ(撮影前の試作映像)やカメラワークの計画、VFXの設計など、制作現場における有効な支援となっている」「これはリアルな“人間”が、より良いツールを使って本物の仕事をしている証だ」と説明しました。
ちなみに、Netflixは2026年より、広告付きプランで生成AIによるインタラクティブ広告を導入すべく準備中です。Netflixは、これによって視聴者の関心に沿った広告配信を可能とすると説明しており、今後もAI活用戦略を拡大していく構えです。