AI歌手はわりとテキトーに歌う。Suno AIの中に住むバーチャルシンガーの人間らしさ(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

AI歌手はわりとテキトーに歌う。Suno AIの中に住むバーチャルシンガーの人間らしさ(CloseBox)

架空のバンドが作った架空のコンセプトアルバム「The Odyssey of Echoes」の音楽配信を進めており、公開にこぎ着けました。ChatGPTとSunoが生み出した架空のバンドによる楽曲ではありますが、出来上がってしまえば単なる音楽。それを音楽配信してしまったらどうなるか、という実験です。

レーベルを運営する山崎潤一郎さんにこの企画を持ち込み、マスタリングと配信を依頼した上、さらには解説の連載もお願いしています。詳細はこちらの記事で。


すでに同様の試みをしている人はいて、TuneCoreなど個人でも手軽に音楽配信ができるアグリゲーターを経由すれば、それがSunoで生成された楽曲であってもApple MusicやSpotifyなどの音楽配信に乗せることは可能。

これらの音楽配信をするときには、必須ではないのですが、歌詞データを用意しておくと、配信サービスが用意した歌詞表示機能が使えるようになります。Apple MusicとSpotifyにはデバイス側で使えるボーカルオフ機能があるので、手軽にカラオケもできるというわけです。自分が手がけた楽曲でカラオケ。なんと魅力的なことでしょう。

そのために、アルバム12曲中のボーカル入り10曲の歌詞を用意するように言われました。

ChatGPTが用意した歌詞をSunoに作曲させたのだから、それをそのまま歌っていると思うじゃないですか。元の歌詞をコピペすれば済むと。しかし、この場合、そうではなかったのです。

Sunoの中の歌手は想像以上に人間らしい

Sunoの中の歌手は、男性、女性、それぞれの言語について、少なくとも数人はいるようです。クリスタルクリアな透明感のある歌声から、年季の入ったブルージーなトーンまで、さまざまなシンガーが入れ替わり立ち替わりステージに立ってくれます。

彼らが歌うのは、Sunoの「Lyrics」フィールドに書かれている歌詞なのですが、例えば「Siren's Call」(レイレーンの呼び声)という曲ではこんなふうになります。

[Verse 1]
In the depth of the night, where secrets dwell,
Your voice, a melody, casts its spell.
Like a whisper on the wind, softly it calls,
Leading me where the shadow falls.

[Chorus]
Siren's call, sweet and dire,
Pulling me closer, to the fire.
In your song, I find my fall,
Yet I surrender, to the siren's call.

これが指定した歌詞なのですが、実際に歌われると、[Chorus]の部分がこういうふうに変わっています。

[Chorus]
Siren's call, sweet and dire,
Pulling me closer, to the fire.
In your song, I find my fall,
Yet I, sweet and dire,
Pulling me closer, to the fire.
Song, your song,

「Yet I surrender, to the siren's call.」というフレーズはどこかに消えてしまい、その前にあった「sweet and dire」を引っ張り出して、さらにその前に「Yet I」を持ってきて、「Pulling me closer, to the fire.」を繰り返し、さらには「Song, your song,」で終わらせています。

テキトーにやってるように見えますが、この繋ぎ方が実はとても心地よいのです。

それは自分で歌ってみてわかりました。

この曲は、美しい歌声で自分を魅了しようとする女性をセイレーンに例えています。だから、最後が、「僕は君の罠に落ちていく。ああ、君の歌が……」となるのは、歌詞の流れとしてはとてもマッチしているのです。

歌曲の作り方は、歌詞が先にあって、それにメロディーを当てはめていく詞先と、曲が先行して、それに歌詞を当てはめていく曲先があります。この場合は最初に歌詞を指定しているので詞先と言えますが、それでメロディーの辻褄が合わないとなると、勝手に歌詞を変えていい、と判断しちゃうのですよ、Sunoは。実際にはメロディーも一緒に変えてるわけですけど。

結果的にいい曲になるのはいいんですけど、歌詞のディクテーションが1曲も気が抜けなくて、全曲をちゃんと聞き取らないといけない。この曲はまだいい方で、「Through the Storm」というアップテンポなロックナンバーでは、自由に歌いまくってます。元の歌詞から離れて、自分の気持ちのいいフレーズだけを前のところから取ってくるとかやってるのです。

Through the storm, we stand, unbroken,
On face of despair, we stand proud.
With every flash, every thunderous roar, we spore
We push forward, for we wanted more.

Through the storm, we stand, unbroken numbers
To the face of despair, we stand proud.
With every flash, every thunderous roar,
We push forward.

In the dead of this well teeth to we stand,
We stand this tall

In the face of despair, we stand proud.
With every flash, every thunderous roar, we spore
We push forward, always wanting more.
For we wanting more

後半になるともはや文法とかどうでもいいフリーダムな歌詞になってます。これが正しいかどうかもわかりません。本人にも聞けないし、オリジナルの歌詞を無視しちゃってるので。

歌詞としてはめちゃくちゃなんですが、メロディーに乗った言葉の並びとしてはいいんですよね。悔しいことに。

この辺りは、カバーバンドのボーカルが元曲の歌詞をうろ覚えで、わからないところは言葉のノリがいい別の曲の歌詞を持ってきたりしているのにすごく近いものを感じます(自分にもすごく覚えがあります……)。

だから、名前も持たないSunoのボーカルにはすごく親近感を覚えるのですよ。なんて人間らしいんだ、君たちは、と。

自分も相当、このセイレーンの呼び声に脳をやられつつあるのかもしれません。

歌詞を聞き取り続けて疲れたので、Sunoでインスト曲をひたすら作る作業をしていました。単純なピアノ曲をひたすら長くする作業です。結果、10分50秒の曲ができましたので、よかったら作業用BGMなどにお使いください。「Somei Ginza Now」という、学生時代に住んでいた染井銀座を描いた曲です。

《松尾公也》

松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

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