アーティストのAIへの反発をどう考える? 台北当代芸術館のAIアート展覧会「Hello Human!」で、キュレーターにAIアートの課題を聞きました(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

アーティストのAIへの反発をどう考える? 台北当代芸術館のAIアート展覧会「Hello Human!」で、キュレーターにAIアートの課題を聞きました(CloseBox)
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1月27日から5月12日まで、台湾のコンテンポラリーアート美術館である台北当代芸術館(MoCA TAIPEI)で開催されているAIアート展覧会「你好,人類!Hello, Human!」に、筆者のAI作品が2点選出され、展示されています。現地での様子を見てきた筆者が、この展示会のキュレーターにAIアートについて聞いてきました。


台湾におけるコンテンポラリーアートの拠点として実績を持つMoCA TAIPEIは、日本による占領時代に作られた尋常小学校を改装して作られており、建物の半分が今でも中学校として使われています。このため、MoCA TAIPEIの展覧会には教育目的のものが多いようで、Hello Human!もそういう側面があります。

▲およそ100年の歴史を持つ煉瓦造りの台北当代芸術館(MoCA TAIPEI)

このため、記者会見後の内覧会には中学生たちが参加し、展示を興味深げにみていました。

▲ロボットアームで猫と遊んで奉仕する「Cat Rpua;e」(英国のアーティスト集団Blast Theoryの作品)を見つめる中学生たち

筆者は作品が選出されただけで特に招待を受けたわけではないのですが、自分の作品「妻音源とりちゃん[AI]」が展示されているのを見ておこうと前日から台北入りしていたため(航空券が安い日を選んだからです)、内覧する記者と子供達に自分の作品について解説することにもなりました。

オープニングセレモニー後の内覧でも同じく解説を振られました。そういうときにちゃんと解説できるスキルが問われます。にわかAIアーティストとしてはなかなか稀有な出来事でした。

11年前に他界した妻の歌声と姿をAIで生成した2つの作品「Desperado」と「星埋める夜に」は、2階への階段を登ったところにEPSON製プロジェクタ(協賛企業)で大画面投影されていました。楽曲は他の展示と干渉しないようにという配慮で、用意されたヘッドフォンで聴くようになっています。

QRコードで起動できる、キュレーターによる解説が中国語と英語それぞれで付け加えられているので、背景についての理解も深めながら鑑賞できます。

▲中国語、英語、子供向けの中国語、それぞれで解説が聞ける

その後何度か会場に足を運んで観客の様子を観察していたのですが、ヘッドフォン2つを装着してじっくり聴きながら鑑賞してくれているカップルを多く見かけました。

展覧会に合わせて個別のイベントも開催。ライゾマティクスの真鍋大度さんよる「AIはアートなのか?」という講演(開幕日の27日に実施)はたいへん興味深いテーマです。

▲2面スクリーンを使った、真鍋大度さんの「AIINA」

真鍋さんの講演はAIアートの現状と課題を自身の経験から解き明かすもので、非常に興味深い内容でした。これについては別途レポートしたいと思います。

▲真鍋大度(中央)と、モデレーターで展覧会キュレーターのキース・ラム(林欣傑)さん(左)

▲展示されているAIアート作品

Hello Human!のキュレーターであるキース・ラムさん、エッシャー・ツァイさんに別途お話を伺いました。

Hello Human!キュレーターへのインタビュー

――まずHello Human!のキュレーターであるお2人、Keith Lam(林欣傑)さんとEscher Tsai(蔡宏賢)さんの簡単な自己紹介をお願いします。

▲記者会見で話すKeith Lam(林欣傑)さん(左)とEscher Tsai(蔡宏賢)さん(右)

▲二人が組んでいる制作ユニット「Dimension Plus」のウェブページ

林欣傑私は香港在住で、バックグラウンドとしてはメディアアートで、蔡と一緒に仕事をしています。実はアーティスト活動が専門で、キュレーターとしての仕事は5分の1くらいですね。

蔡宏賢我々はDimension Plusという制作チームで動いていて、林は香港で、私は台湾で、2つの都市をまたいで共同作業をしているわけです。我々はプロデューサー、キュレーターとして商業プロジェクトにも取り組んでいます。私の専門はニューメディアアートで、この分野で新しいものを作っていて、ほとんどの時間はそうしたプロジェクトに充てています。

――Dimension PlusとしてはHello Human!にも2作品を出展していますよね。

一つは、蔡が考案した「VS AI 街頭對戰」という作品です。ChatGPTとMidjourneyを使ったゲームという元々のコンセプトはあったのですが、これをアーケードゲームの筐体にして、人と人、人とAI、AIとAIで対戦できるようにしたものです。

▲アーケードゲームのような筐体でプロンプトを競う「VS AI 街頭對戰」

もう一つは、10年以上取り組んでいるプロジェクト「《生態池》Feat. 動力博士」です。元々は紙で脊椎を模したものを使って仮想的な生物を作っていたのですが、今はAIを使ってランダムに生物を生成できるようになっています。

最初は折り紙のようなスタイルで生命を形作っていたのが、機械学習によって様々な、自由な形状を生み出すことが可能になったんです。生み出された生命体がLogical Poolという仮想的な水槽の中で泳いでいるのをプロジェクタで投影されているのをご覧になれます。

メカニカルな部分は脊椎を模倣しています。脊椎を持つ生物は人間だったり様々な動物に進化してきますからね。

――Hello Human!はどのような目的で企画されたものですか?

AIは現在、スーパーホットなトピックです。AI自体は何年も研究されてきたものですが、2022年以降には急激に発展してます。2023年には我々の日常生活にも浸透してきました。特にChatGPTなどの登場でAIがとても使いやすくなり、研究者やエンジニアだけでなく、世界中の多くの人々が使えるようになっています。

そこで考えたのは、ソフト開発を学ぶときに最初に作るプログラム「Hello, World」のことです。マシンから見たら、Helloする相手は人間ですから、Human。つまり、Hello, Human!となるわけです。

――もしも彼らに感情があるのなら、最初の気持ちは「Hello, Human!」になるんじゃないか、ということですか?

林・蔡まさにその通りです。

もしもAIが十分に知性を持ち、人間を超えるとしたら、「Good Night, Human」と言うのかもしれません。

――人間の使命が終わったら、「Please Rest, Human」となって、彼らは「Goodbye, Human」と我々の元から去っていくのかもしれませんね。数年後、いや、来年にもそうなるかも。

林・蔡そうそう(笑)。

だからテクノロジー業界には、AI技術の進歩をたとえば半年ストップさせる必要があると考えている人もいますね。その間に何が起こりうるかを検討すべきだと。

――アーティストによるAIへの反発についてはどのように受け止めていますか?

これは歴史的にすでに何度も起きてきたことです。たとえばカメラの誕生は破壊的な技術でした。カメラ以前には見たものを記録するには絵を描くしかなった。カメラが写真を手軽に記録できるようにしたとき、画家はカメラを憎みました。それと同じようなことが今起きていると思います。

かつてはカメラがそうであったように、今はその対象が人工知能となっていると。新しいカメラの登場を我々は体験しているのだと考えます。

――これまでにキュレーターとしてAIで生成された作品を取り上げたことはありますか?

あります。私がC-LAB(台湾当代文化実験場)でキュレーターを担当した「Future Media Arts Festival」で取り上げた作品の一つがAIで生成されたものでした。onformativeの「Meandering-River」という作品がそれです。

――そうした作品と、2022年のAIブーム以降とで、何か違いは感じましたか?

AI生成による作品が登場するまでは、「Generated Art」(生成アート)や「Glich Art」(グリッチアート)と呼ぶものにフォーカスしていました。これらは、クリエイティブコーディング、アルゴリズム、パラメトリックデザインといったもので、AIというよりも機械学習に近いものです。

――去年以降でアプローチに変化はありましたか?

AIブーム以降、本当に変わりました。AIツールが簡単で安価になり、日常生活に応用されるようになってきたからです。ブーム以前にはAIはクリエイターが容易にアクセスできるものではありませんでした。私たちは機械学習の時期を体験してきましたが、それらによって可能な表現は限定的でした。

――真鍋大度さんも講演でそのようなことを話されてましたね。

まさにそうです。このブームによって、さらに多くの分野がクリエイションとの融合を果たすことでしょう。

――現在、多くの先端AI技術は中国語圏で生み出されていますが、アートの分野ではどうなのでしょう。AIを使ったアート作品には両手をあげて賛成というわけでしょうか?

そうではないと思います。現時点ではほとんどのアーティストがこの問題にセンシティブになっており、一部や怒りを持って社会に抗議している状態です。全員がポジティブというわけではありません。

ただ、それはアーティストの好み次第でもあります。社会的問題を扱うアーティストを好むキュレーターもいれば、個人的な問題を志向したアーティストが好ましいという人もいます。社会に向けた問題を提起することは非常に微妙なところです。今回の展覧会でいえば、真鍋大度さんとティム・ウェイさんの作品がそれに該当するでしょう。

――最後の質問は個人的なものなのですが、自分自身の作品についてです。私の作品にはアート的な側面はありましたか? この2つの作品はもともとアート作品として作ったものではなく、主に自分と妻、そして友人たちのために向けたものですし、自分がアーティストとして扱われることは想定していませんでしたから。

アーティストというのはただの肩書です。いちばん重要なのは、人々の心に触れることです。あなたの作品はさらに広がっていくのではないかと考えています。アーティストであるかどうかというより、そのことがより重要です。

2022年に私は忠泰美術館の「LIVES: Life, Survival, Living」のために、Dominique Chenさんの「Last Words / TypeTrace」を招待しました。Chenさんはアーティストというよりもエンジニアですが、先ほど言ったように、それは重要なことではありません。重要なのは、人々の心に触れられるかどうか、ということなのです!

もしくは、アートという制限を投げ捨てるべきかもしれませんね。

――今回の展覧会で様々な交渉役を務めてくださったDimension PlusプロデューサーのMonique Chenさんから、自分の作品を見た方からいくつかのフィードバックをいただいたと伺いました 。それがポジティブなものであればいいなと思っています。ありがとうございました

▲米国のJason M. Allenさんの作品「Théâtre D'opéra Spatial」は、コロラド州の絵画コンテストで優勝したが、そのニュースは多くの人の反発を買った。Hello Human!ではその作品を大きくプリントし額縁に入れたものを展示

▲記者会見の最後に宣伝パネルを持たされる筆者。これ、台湾では恒例行事なんですよ、と言われた

《松尾公也》

松尾公也

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