自称「100W」「E-MARKERチップ」なのに60W止まりの極太ケーブルを調べてみた:#てくのじ何でも実験室

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宮里圭介

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

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自称「100W」「E-MARKERチップ」なのに60W止まりの極太ケーブルを調べてみた:#てくのじ何でも実験室
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先日、編集部のこばやしなおき氏が、面白いUSBケーブルを購入したと教えてくれました。約6mmと極太ながらしなやかで、曲げに強く絡みにくいという製品です。しかもこれ、eMarkerが入っていて、最大100Wまで電力供給可能。通信はUSB 2.0ですが、スマホからノートPCまで、いい感じに充電できるのが特徴です。

▲約6mmという太さと、鮮やかなオレンジが印象的

ところが、USBテスターの「AVHzY CT-3」で情報を読み取ろうとしても、eMarkerが見つからないとのこと。ケーブルによっては、USBテスターでeMarkerが読み取りづらいこともあるので、裏返す、逆端を挿すなどと試してもらいましたが、結局ダメでした。

ならばと、今度は100WのUSB充電器に挿し、PDO(Power Data Object)をチェックしてもらうことに。USBテスターから読めなくても、USB充電器側からeMarkerが認識されていれば、5A出力が可能と表示される……という考えです。

▲eMarkerを認識できず、3Aまでになってます

しかし、結果は3A。どう見ても100Wではなく、60Wです。eMarkerチップが壊れている可能性があるため販売店に連絡して貰ったところ、製品の不具合ということですぐに交換対応となりました。

交換品が届いた後、USBテスターで同じように試してもらうも、やはりeMarkerは見つかりません。USBテスターを使わない別の確認方法として、MacBook Air(M1)と100WのUSB PD対応充電器との接続にこのケーブルを使用。ハードウェア情報をチェックするという方法を試してもらいましたが、「AC充電器の情報」は「60W」止まり。別の100W対応ケーブルだと「100W」となりますので、やはりeMarkerが認識されていないようです。

▲「AC充電器の情報」を見ると、60W扱いに
▲別の100W対応ケーブルなら、100Wとなります

最初はたまたま不良品だったかもしれませんが、2連続でeMarkerが壊れていると考えるのは少々不自然。となると、この製品自体がおかしいのではないかと疑いたくなってきます。

ということで、このケーブルを引き継ぎ、あれこれチェックしてみることにしました。

Makuakeのプロジェクトで始まった「極太ケーブル」

このケーブルの発売元は、株式会社Create Better。元々はMakuakeのプロジェクトからスタートしており、今でもそのページを見ることができます。また、現在は品切れとなっているものの、Create Betterの直販ページで製品紹介をチェックできます

▲Makuakeにあるプロジェクトページ

これ以外だと、ヨドバシカメラとMakuakeとのコラボが実施されており、こちらは購入可能な状態です。(2023年12月31日現在)

ザックリと特徴をまとめてみると、

  • 約6mmの極太ケーブルで絡みにくい

  • 2万回以上の折り曲げでも断線しない

  • ペットが噛んでも切れない

  • 最大100Wで充電可能(Lightningは27W)

  • LEDライト付き

  • 被覆が液体シリカゲル素材

  • 亜鉛合金コネクター

  • 200本の無酸素銅

といったことが書かれていました。

最初の3つは利用上の特徴なので気にしないとして、次の2つ、100W充電とLEDライトが機能面での特徴となります。

このうち100W充電というのは、eMarkerを搭載しているから対応できるもの。紹介に使われている画像では、なぜか100WとeMarkerは同時に紹介されておらず、別々になっていますけどね。

▲大文字ですが「E-MARKERチップ」と記載あり

残りの3つ、液体シリカゲル、亜鉛合金、無酸素銅の使用というのが、物理的な仕様。液体シリカゲルは被膜に使われている素材で、このケーブルの最大のウリ部分でしょう。ケーブルに折り跡が付きにくいというのもいいところです。

亜鉛合金は、コネクター部に使われている金属。ダイカスト(鋳造)に向いた合金なので、こういった小物を大量生産するのに向いているようです。USBケーブルで採用するメリットは何だろうと調べてみましたが、強度が確保できるということ以外は特になさそう。「見た目がゴツくなってカッコイイ!」というのが役割でしょうか。

無酸素銅は、残存酸素量が0.001%以下で、導電性に優れている銅素材。これを200本採用することで、最大5Aの電流に対応しているのだとか。画像だと、その200本には信号線まで含まれている感じがするのと、電源ラインが太いわけじゃないのが気になりますが、まあ、画像はイメージですしね。

▲本数より、断面積とか径が知りたい気が

ついでに、パッケージもチェックしてみましょう。表に書かれている文字は、「極太」「充電ケーブル」「シリカゲル素材使用」「PD対応」「1.0M」「5A入力」。100Wとは書かれていないのが気になりますが、PD対応と5Aはあるので、普通に考えれば100Wのケーブルだなと判断できます。

▲文字情報が多めなパッケージ表

左側面には製品特徴、右側面には注意事項が書かれていたので、こちらも掲載しておきます。

▲「最大100W充電可能」と明記されています
▲注意事項は、よくあるものといった感じ

さて、この極太ケーブルへの理解が深まったところで、チェック開始です。

まずはeMarkerが入っているかをUSBテスターで確認

すでにこばやしなおき氏によって、AVHzY CT-3、MacBook AirでeMarkerが見えないことは確認済みですが、他のUSBテスターなら確認できるかもしれないという可能性を考え、自分の手持ちの機材でも試してみることにしました。

用意したのは、「AVHzY CT-2」、「FNIRSI FNB38」、「FNIRSI FNB58」の3製品で、どれもeMarkerを読める機器です。CT-2はCT-3の前モデル、FNB38はFNB58の下位モデルとなるため、複数で試す意味が薄い……というのはあるんですが、ケーブルによってeMarkerが読めなかったりする傾向はバラバラ。ですので、数押しです。


ということで、結果がこちら。

▲AVHzY CT-2
▲FNIRSI FNB38
▲FNIRSI FNB58

見事なほどに、どれもeMarkerが読めません。もちろん、挿し直しや裏返し、逆端接続などもやりましたが、どれも結果は変わりませんでした。

参考までに、240W対応ケーブルのeMarkerを読むと、こんな感じになります。

▲FNIRSI FNB58で240W対応ケーブルを使用

続いて、フォーカルポイントの100W充電器「TUNEMAX 100W GaN」と接続し、PDOを読み取ってみましょう。この充電器は15Vまでは3A、20Vで5Aに対応するという、一般的なPD対応製品です。なお、USB PD2.0の少し古い製品となるので、PPSには非対応。


▲AVHzY CT-2
▲FNIRSI FNB38
▲FNIRSI FNB58

eMarkerが見えてませんから、充電器としては20V3Aだと返ってきています。100W充電器なのに、60W扱い。MacBook Airの結果と同じですね。

こちらも240W対応ケーブルを使ってみると、ちゃんと20V5Aが出てきました。

▲FNIRSI FNB58で240W対応ケーブルを使用

ついでに、「PQ1401U」という激安140W充電器が手元にあったので、これと接続した場合も試してみましょう。この充電器はUSB PD3.1対応なのでPPSに対応するほか、28V5A出力も可能です。

ちなみに、AVHzY CT-2とFNIRSI FNB38はUSB PD3.1に対応しておらず、28Vを認識できないため除外しています。

▲FNIRSI FNB58

20Vで終わりではなく、可変電圧のPPSも登場していますが、どちらも3Aまで。極太ケーブルは100Wと名乗っているので、28Vが出ないことは当たり前ですが、20V5Aが出ないのはいただけないですね。

もちろん、240W対応ケーブルを接続した場合は、20V5A、28V5Aのどちらも出てきます。

▲FNIRSI FNB58で240W対応ケーブルを使用

結局、3種類のUSBテスター、2種類のUSB充電器で試しましたが、極太ケーブルのeMarkerは見つからないという結論でした。

「USB CABLE CHECKER 2」で性能を確認してみる

他にもeMarkerをチェックできる機器がないかなと探してみたところ、机の上から「USB CABLE CHECKER 2」が出てきました。結線状態の確認や、電源ラインの抵抗値を測るのに便利な機器ですが、eMarkerの有無を確認できる機能も搭載しています。


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ということで、チェックしてみたのですが……当然といえば当然ですが、やはりeMarkerは見つかりません。

▲画面に「E-MARKED」と出るはずですが、ありません

ついでにケーブルの抵抗値を見てみると、210mΩ前後。この数値が高いか低いかわからないため、まずは、手持ちのUSB Type-Cケーブルを片っ端から測ってみることにします。

結果を簡単にまとめると、1mの240Wケーブルだと120~160mΩあたり。1mの100Wケーブルだと140~200mΩあたり。1mの60Wケーブルだと190~240mΩあたり。2mの60Wケーブルだと280mΩ前後でした。

なお、抵抗値は本当にケーブルによって変わるので、これはあくまで今手元にあったケーブルの結果という点にご注意を。

極太ケーブルは、1mの100Wケーブル。見比べてみると若干抵抗値が高めで、どちらかといえば60Wケーブル寄りとはいえ、極端に抵抗値が高いわけでもありません。100Wケーブルとしても使えそうな範囲といえそうです。

一応、参考までに先ほどから比較対象として試している240Wケーブルも、USB CABLE CHECKER 2に接続してみました。当然ですが、ちゃんと「E-MARKED」と出ます。

▲「E-MARKED」の表示に加え、抵抗値も低めでした

eMarkerを電気的に確認できなかったので目視でリトライ

交換してもらったケーブルもeMarkerが見えない不具合品、というのは確定と言っていいと思いますが、本当に不具合によるものなのか、それとも最初からeMarkerが入っていないのかは気になるところ。

そこで、電気的な確認ができない場合の次の手段……そう、分解による目視確認をしてみましょう。

コネクターが亜鉛合金、ケーブル側から見ると接着剤か樹脂の充填となっているので、内部を傷つけないようコネクターを割るのは骨が折れそうだなと思っていたのですが、なんか、押したら抜けました。

▲どう分解しようか悩む間もなく解決

そもそも抜くつもりはなく、コネクターを持ってUSB充電器に挿そうとしたら、グニャっとした感触があって半分抜けてたんですよね。そこからコネクターを押したら、多少窮屈ながらもスポッと。

もう一方は少し固かったのですが、USB Type-C部分を机に当てつつ、亜鉛合金のコネクターカバーを持って押し付けたら、ズルズルと引き出せました。結構簡単です。

引き出した内部は樹脂で覆われていますが、これ、先に成形されてます。てっきり、亜鉛合金カバーにケーブルを挿し込んでから樹脂を充填しているのだと思っていたのですが、円筒形の形を作った後で亜鉛合金カバーをかぶせ、一部を接着しているだけでした。

こういう狭い部分への充填は難度が高いですし、中心からずれたりしやすいですから、考えてみれば当然ですね。

▲よく見ると、成形型の跡が残ってます

この接着剤が、夏の暑さと最近の寒さではがれやすくなっていたのかもしれません。せめて、金属部分で圧着されていれば抜けなかったんでしょうけど……まあ、分解の手間が省けたのでヨシです。

円筒形の樹脂部分をカッターやニッパーでチマチマ取り除いていくと、ケーブルと基板が出てきました。

▲LEDと抵抗、そしてコンデンサーのみの基板

基板にあるのは、LEDと抵抗、コンデンサーだけ。eMarkerのチップらしきものはありません。両端共に同じ基板でしたので、写真は裏表を並べてあります。

しかし、説明イメージにあった基板は、何だったんでしょうね。

▲イメージとはいえ、謎基板過ぎるやつです

もうひとつ説明に使われていた図に、内部のケーブル構造があります。中心に「地気線(アース?)」があり、その周囲を錫メッキ銅で作られた5本のケーブルが束ねられているものです。さらにその外周はグラフェンのシールドで覆われ、液体シリカゲルでカバーしてあります。

▲ケーブルの構成イメージがこちら

実際どうなっているかというと……被覆を剥がして一部裏返しにし、内部のケーブルを引っ張り出して並べたのがこちら。

▲グラフェンもなければ地気線とやらもありません

地気線(?)も含め6本あるであろうケーブルが、5本しかありません。また、グラフェンによるシールドもなく、色違いの液体シリカゲルで保護されているだけでした。「優れた素材」の説明イメージとは、全く異なる構造です。

さらに、電力線となる赤と黒のケーブルの被覆をむいてみると、銅のヨリ線が出てきました。

▲シンプルな銅のヨリ線で、錫メッキはないです

錫メッキの無酸素銅という話だったはずなんですが……。錫メッキであるメリットはとくになさそうなのでスルーしてもいいですが、ここまで説明と違うとなると、無酸素銅が使われているというのも疑わしく思えてしまいます。

ついでに細い線が何本あるのか数えてみると、赤い電源ラインと黒のGND共に60本ずつでした。

マイクロメーターで1本当たりの直径を測ってみると、約0.076mm。断面積は約0.0045mm2となります。これが60本ですから、合計の断面積は約0.27mm2となるわけです。
▲0.076mm前後となっていました

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日本コネクト工業株式会社のサイトに掲載されていたAWGサイズの表が見やすかったので参考にさせてもらうと、0.27mm2はAWGサイズでいうところの24と22の間くらい。許容電流を見ると5A~7Aの間ということになるので、100Wでの使用もケーブル的には大丈夫そうですね。

といっても、eMarkerがないので60Wまでしか使えませんけど。

「不具合」で済ませるには、だいぶ中身が違う

最初はeMarkerチップの不良を疑ったケーブルの不具合ですが、そもそもeMarkerのチップが入っていませんでした。これでUSB PD対応の100Wケーブルというのは、無理があるんじゃないでしょうか。いくらパッケージに「仕様および外観は予告なく変更されることがあります」と書いてあったとしても、さすがにダメでしょう。

当初はちゃんとしていたものの、追加生産するうちに工場側が勝手に部材を変更し、仕様と異なるケーブルになってしまった……という可能性はあります。もしくは、調達先を変更する際に、間違って仕様の異なるものを選んでしまったのかもしれません。

いずれにせよ、仕様を満たしているか確認するのは、販売元の責任だと考えます。USBテスターを使って確認するような人は限られますし、そうでなければ、書かれている仕様を信じるしかないからです。

ちなみに、販売店であるヨドバシのサポートからは、

この度いただきましたご指摘は弊社仕入れ先へ連携し改善する様申し伝えさせていただきます。
また、弊社内でも情報を共有いたします。

という回答が来たそうなので、きっと近々何らかの対応がとられる……のではないでしょうか。たぶん。

(追記:2024年1月1日20時頃に確認したところ、事実確認のためか販売ページが削除されていました。早くも対応してもらえたようです)

なお、60Wまで使えれば大抵の機器でそこまで困ることはないので、「100Wじゃなくて60Wだった」と諦め、そのまま使うのもアリかもしれません。丈夫で絡みにくく、取り回しやすいという特徴は変わりませんからね。


《宮里圭介》
宮里圭介

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