ドコモがコミケ対策に本気モード、5Gの大増設で効果に期待。2023年「パケ詰まり」問題の汚名返上なるか(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

特集

▲12月30日から東京ビッグサイトで開催されるコミケを前に、ドコモは品質対応策を明かした
  • ▲12月30日から東京ビッグサイトで開催されるコミケを前に、ドコモは品質対応策を明かした
  • ▲2023年は、パケ詰まり問題に苦しんだドコモ。基地局チューニングなどの対策を進めている
  • ▲品質劣化を早期に検知する仕組みも導入した。また、品質を測定するためのアプリ数も増やしていくという
  • ▲都市部と同様、イベント対応も後手に回っていた。10月に説明会では、その対応強化も表明されていた
  • ▲ビッグサイトの敷地内だけでなく、国際展示場駅からの導線も強化。駅に設置された基地局を、ビッグサイトに向かう人が通る道側に向けている
  • ▲移動基地局車は夏のコミケの3台から4台に増設
  • ▲ポールの上部には、ミリ波のアンテナも。帯域幅が広いため、対応端末を持っている人は恩恵を受けられそうだ
  • ▲ビッグサイト周辺のビルからも電波が飛んでくるため、その4Gをつかんでしまわないよう、あえてエリアを狭めているという

2023年の年明けから主に都市部のパケ詰まりに悩まされてきたドコモ。その声は日増しに大きくなり、ついには300億円を前倒しで投資する対策を余儀なくされました。

4月には、原因の一端をつかみ、出力調整、チルト角調整といったエリアチューニングや端末がつかむ周波数を分散させるといった対策を発表。その成果は7月ごろから出始めていたものの、原因がキャパシティ不足ということもあり、抜本的な対応には時間がかかっている印象も受けます。

▲2023年は、パケ詰まり問題に苦しんだドコモ。基地局チューニングなどの対策を進めている

10月には、改めて記者説明会を開催。品質が劣化しているエリアを早期に検知するために、アプリのデータやLLM(大規模言語モデル)を活用することや、基地局1つあたりの収容数を上げるMassive MIMOを導入することなどを明かしました。


こうした対策は、12月までに90%以上が完了する予定としています。一方で、トラフィックも年々増加しているため、今後は先回りでの対策も必要になってきそうです。

▲品質劣化を早期に検知する仕組みも導入した。また、品質を測定するためのアプリ数も増やしていくという

根本的な原因の1つには、5Gエリアの不足によるキャパシティ不足がありました。これは、都市部だけでなく、一時的に人が集中するイベント対策でもです。

実際、夏ごろに開催されたフェスやコミケなどのイベントでは、ドコモ回線がつながりづらいという声がネット上にあふれていました。特にフェスに関しては、いち早く5Gを増強したソフトバンクやKDDIの後手に回っていた格好です。

▲都市部と同様、イベント対応も後手に回っていた。10月に説明会では、その対応強化も表明されていた

こうした中、ドコモは12月30日から開催されるコミックマーケット103を前に、会場となる東京ビッグサイトのエリア強化に乗り出しました。夏までの反省を活かし、全面的な対策を施しています。

1つ目は、5G基地局の大幅な増設です。東京ビッグサイトの屋内外はもちろん、同会場の最寄り駅であるりんかい線の国際展示場駅からの導線を5Gでカバー。待機列ができる東展示場横には移動基地局車を投入するほか、常設基地局の5G化や仮設基地局の設置により、容量を大きく増強させています。

▲12月30日から東京ビッグサイトで開催されるコミケを前に、ドコモは品質対応策を明かした
▲ビッグサイトの敷地内だけでなく、国際展示場駅からの導線も強化。駅に設置された基地局を、ビッグサイトに向かう人が通る道側に向けている

まずは、人口密度がこれでもかと高くなる東展示棟側の駐車場。ここには移動基地局車を4台配置します。いずれも5G対応。これは夏のコミケでも同じですが、台数は3台から4台に増加させています。しかも、帯域幅が400MHzと特に大きいミリ波にも対応しています。

▲移動基地局車は夏のコミケの3台から4台に増設

ドコモの無線アクセスネットワーク部 エリア品質部門 品質規格担当課長 福重勝氏によると、まだまだ対応端末が少なく、効果は限定的なものの、電波をつかめれば通信は爆速になるようです。

コミケに参戦するドコモユーザーは「Galaxy Z Fold5」や「AQUOS R8 pro」などのミリ波対応ハイエンドモデルに買い替えを検討してもいいかもしれません。省令改正で実質価格は上がってしまいましたが……。

▲ポールの上部には、ミリ波のアンテナも。帯域幅が広いため、対応端末を持っている人は恩恵を受けられそうだ

ただ、単に移動基地局を増やしても、周囲に常設した基地局と通信しようとしてしまい、容量不足や上りの電波が干渉してしまうおそれが出てしまうと言います。

そこでドコモは、東展示場横の駐車場をカバーしていた基地局をチューニング。4Gの電波が届かないよう、アンテナを下に向けたり、出力を調整したりすることで、ビッグサイト内の常設基地局や移動基地局車の電波をしっかりキャッチするようにしています。

▲ビッグサイト周辺のビルからも電波が飛んでくるため、その4Gをつかんでしまわないよう、あえてエリアを狭めているという

その常設基地局も、5G化することで容量を拡大させています。元々、西展示棟内には5G基地局が設置されていた一方で、東展示棟やその屋外の基地局は4Gにとどまっていました。これを5G化することで、待機列はもちろん、会場内での通信品質も向上します。

福重氏によると、5G端末だけではなく、5Gにトラフィックが流れることで4Gが空くのも増強のメリットだといいます。決済用端末など、5Gに対応していない製品の通信も、より通りやすくなりそうです。

▲東展示場横の屋外駐車場付近や、その通路となる道に設置された基地局を5G化。これらは常設で運用していく

一方、西棟の屋外待機列側には移動基地局車が置けなかったため、仮設基地局を設置。こちらも5Gに対応しています。仮設なのは少々もったいない印象も受けましたが、施工の関係で常設にはできないとのこと。ただし、イベント時にトラフィックが高くなりがちなエリアのため、今後、常設化は進めていくと言います。

KDDIがコミケ対策として発表した車載型のMassive MIMO基地局や自動トラフィック分散技術、さらにはバックアップ回線として待機させるStarlinkのような“飛び道具”はないものの、5Gの大増設によって帯域幅が増えるため、明確な効果が期待できそうです。「今まで4Gだったのかーい」とツッコミを入れたくはなりましたが、昨今の厳しい指摘を受け、ドコモが“本気モード”になってきたことがうかがえました。

▲KDDIは、車載型基地局にMassive MIMOを導入する。こうした対応にはまだ少し時間がかかると言う

ただし、対策は5Gによるキャパシティ拡大が中心。先に述べたようにトラフィックが分散されることで4G側にも恩恵はありますが、安定した高速通信を享受したい人は、やはり5G対応端末を持参した方がよさそうです。また、ドコモは以前、5Gのセル端で通信が止まってしまう“パケ止まり”への緊急避難的対策として、端末側で5Gをオフにするよう案内を出していました。

SNSなどの声を見ると、この時の印象が強烈だったためか、依然として5Gをオフにしたままの人も見受けられます。通信モードの変更は設定の比較的深い場所にあるため、元に戻すのを忘れがち。いわゆるパケ止まり問題は、基地局側でセル端の通信をいち早く止めて4Gに切り替えるようなチューニングが入ってから、ほぼほぼ解消されています。設定が当時のままになっていた人は、改めてその項目を見直してみる必要もありそうです。

《石野純也》

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ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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