Shiftallが発売したペルチェチラー式水冷ウェア、ChillerX (チラーX)を試してみました。
ChillerXはペルチェ素子で冷やした水を、ポンプで脇や背中部分に循環させるベスト状の暑さ対策ウェア。
酷暑で良く見かけるようになった空調服などファン付きウェアは、極端な高湿度では汗が蒸発しにくく効果が下がるのに対して、ChillerXは電力の続く限り※、冷たい水を循環させ体温を奪える点が大きな特徴です。
(※ 正確には、高熱になるペルチェ素子の排熱側をファンで冷やせる環境である限り)

開発機を盛夏の屋内外で運用した印象は:
■ しっかり冷える
冷水の巡るパッド部分が両脇・肩甲骨から首の後ろあたりを面でカバーするため、薄い服の上から密着させればじんわりと体温を奪い続けるのを実感できる。特に湿度の高い屋内や酷暑日の夕方以降など、ファン付きウェアが苦手な高湿度環境でもお構いなし。
■ 本体も音も主張が激しい
ブーーーーー。室外機のような本体ユニットは大きさ・動作音ともに強烈な存在感。周囲が騒がしくない状況ではポンプの動作音が耳に立つため、基本的には屋内外のイベントなど、多少の音が気にならない・気にしていられない環境や業務向け。
買う前にこれだけは把握すべき点は:
■ 熱を消す魔法ではありません(念のため)
大電流でペルチェ素子を駆動する、つまりエアコンと同じく、冷やす以上に生じる熱をファンで温風として逃がす仕組みです。
本体は標準で腰の後ろに装着します。吸気は背面、排気は側面と90度向きが違うものの近く、服や背もたれ等で給排気口を塞がないよう、本体上下からの熱い排気を体に当てないようにする必要があります。
(スポットクーラーにも「排気ダクトから熱風が出て余計に部屋が熱くなる!」と酷評がついたりするので、不幸を防ぐよう念のため。)。
蛇足ながら、ある特定の種類のユーザーにとっては:
■ いかにも第一世代、初号機という無骨さで万人向けとは言い難い一方、逆にいえばカスタマイズや活用法の試行錯誤を楽しめる層には格好のネタ。
でかい本体は延長チューブで装着場所・置き場所を変更できるため、デフォルトの背中・腰装着から少し離すことで吸排気口を遠ざけて重ね着を工夫したり、なにかに組み込むといった使い方もあります。
空調服や各社のファンつきウェア、氷など蓄冷剤を使う水冷ウェア、ピンポイントに冷やすペルチェ素子ウェアラブル等を使ってきた体験からいえば、空調ウェアとは使いどころが違う別物。カジュアルな日常用というより、特定の業務やイベントなど、ここぞという状況で他のタイプにない実力を発揮する製品です。
ChillerX(チラーX) - ペルチェチラー方式の水冷服・水冷ウェア | Shiftall
■ ChillerXの仕組み。他の水冷・空冷ウェアとの違い

(▲画像:ChillerX背面側。中央のミニ室外機が腰部分にくるレイアウト。左下はサイズ比較用 iPhone 15 Pro Max)
改めてChillerXの仕組みと位置づけから。日本でも猛暑日が続くようになり、ファンで汗を蒸発させる空調服(TM)など、いわゆる「ファンつきウェア」(空調ウェア、空冷ウェアetc)も過酷な現場向け業務用だけでなく、アウトドア向けを含むカジュアルウェアとしても売られるようになってきました。
着る暑さ対策としては電動ポンプで水を循環させる「水冷ウェア」もあり、空冷ウェアの効果が下がる環境、つまり風を送っても汗が乾きにくく気化熱を奪いにくい高湿度環境などで使われています。
ただ水を巡らせてもすぐに体温に近くなってしまうため、よくあるタイプの水冷ウェアではリザーバー(タンク)に直接氷を投入したり、保冷剤を挿入して冷やす仕組みです。
氷や凍ったペットボトル飲料はコンビニでも買えますが、都合よく氷を入手できない環境や長時間の運用では、保冷剤を温めずに運んで維持することが課題になります。また一般的な水冷ウェアはタンクとベストが一体化しているため、一定時間おきに脱いで交換はやはり手間。
今回試した ChillerX は水を冷やす部分をペルチェ素子と空冷ファンに置き換え、氷の交換を不要にした製品。消費電力は高くなりますが、氷と違いモバイルバッテリーならば予備をクーラーボックスで運ぶ必要がないうえに、状況によっては固定電源からケーブルを伸ばして給電もできます。
「汗の蒸発に頼らず高湿度でも冷え、氷や蓄冷剤の補給不要」が存在意義です。

▲画像:ChillerXの裏面(体に触れる側)。緩衝材のプチプチシートのように見えるメッシュ部分が水冷パッド。
製品の構造は非常にシンプル。重箱のような、エアコンの屋外機のような本体はペルチェ素子・空冷ファン・ポンプが一体化しており、USB-Cケーブルからの給電で作動します。
本体からは冷却水を循環させるチューブが二本伸び、ベストの内側に配されたメッシュ状の熱交換パッドと接続する仕組みです。
ベストといっても両脇部分は巻き付けるだけで、アジャスターつきベルトに余裕があるため、幅広い体型に対応します(S~3L、胸囲85~120cm)。

購入時の状態では、本体は腰の後ろに装着します。背面の大きなファンは吸気用で、本体の上下から熱い排気を吹き出す構造です。たとえば背もたれのある椅子に座ると熱がこもりやすいなど、運用を考える必要があります。
このため、本体とパッドをつなぐチューブには管継手が用意されており、別売りの延長チューブで腰から離して装着・設置も可能。前に回したり、下げたり、動き回る必要がないのであれば隣の席に置くといった使い方もできます。
なお標準状態でも、本体は動作のため腰に密着させる必要はありません。ベルトストラップは留めれば重さを肩と腰でやや分散でき、本体がブラブラしないというだけ。腰の真後ろに干渉するような装備がある場合も、ChillerXが上からかぶさったり乗るようなかたちで問題なければ、多少は融通が利きます。
出色なのは、この平らでメッシュ状の冷却パッド部分。簡易的な水冷ウェアでは単にチューブを這わせる構造の製品もありますが、ChillerXの冷却パッドはまさしく面で接触して効率的に体温を奪います。

▲画像:ChillerXの冷却パッド拡大。クーラントはただの水道水(ややピンクがかっているのはテスト用に染料を流した名残り)
実際に着用してみると、まず室温のクーラントがある程度冷えるまで外気温により数分の時間差があるため、ファンつきウェアのようにオンにした途端に籠もった熱気と汗が飛んで涼しい感覚ではありません。しかし一度冷水が巡り始めると、じんわりと冷え続けます。
薄手のTシャツごしなので「冷水を浴びせられたように」一気には冷えませんが、パッドが触れる部分だけいつまでも冷たく、「服ごしに当てた冷たいペットボトルがずっと温まらない」ような状態。
パッドが密着する部分は構造的に風が通らないため、また環境によっては寒暖差で結露するため、しっとりとひんやりと冷や汗をかいたような感覚です。
■ ChillerXの使いどころ
■ ポンプの動作音・持ち歩き
ブーーーー。音源としては、熱くなったペルチェ素子のヒートシンクを冷やす空冷ファンと、冷水を循環させるポンプがありますが、ファン音はほとんどこのポンプの駆動音でかき消されます。
空冷ウェア / ファンつきウェアとは使うべき状況が違い、一対一で比較する意義は薄いものの、説明の意味で敢えて述べれば、空冷ウェアのファン音は低出力に調整できる製品であればそれなりに小さくなり、耳についたとしても音の成分としては意味聞き慣れた「換気の音」であるのに対して、ChillerXのポンプは騒がしい場所でないかぎり確実に周囲が気づく「ブーー」という動作音。

(▲画像:ChillerXのコントローラ。本体から伸びる電源ケーブルの途中にある。バッテリーに接続した途端に起動するだけの Just Works設計なので、コントローラはあまり意識する必要がない。)
動作モードにはいちおうECOとMAXがあり選択できるものの、ECOにしてもこのポンプ駆動音はさほど変わりませんでした。少なくとも、しずかな環境で周囲に気づかれないよう運用する静音モードではありません。
ただし、駆動音が耳に立つといっても、あくまで一般的な空冷ウェアの低出力モードと比較した場合であって、送風量を競う各社の空冷ウェアが売りにする20数ボルト等の大出力モードの場合、ファンつきウェアのファン音はかなりの騒音になり、ChillerXのポンプ音を簡単に追い越します。
氷を使うタイプの水冷ウェアもポンプの駆動音は鳴り、音の大きさは製品と出力・使用する部品によって千差万別ですが、ChillerXは給排気口の空いた本体ケースのなかに電動ポンプユニットも収める構造から、また上から服を着て静音化もしづらいことから、比較してもはっきり聴こえる構造です。
総じて、騒がしい状況や周囲で聞きとがめる人がいない状況で使う場合は問題なく、そもそも静音性を売りにする製品ですらありませんが、たとえば公共交通機関や、周囲に人がいる静かな室内では使いづらく、状況によっては脱いで別に持つなど、使い方を考える状況が増えることにもなります。
(たとえば、寒すぎるからとエアコンの設定を下げられない共有オフィス環境などで、空調服では周囲の人にファン音がうるさくて使えないが、水冷のこちらはどうだろう?といった期待については、少なくとも現行モデルは「ポンプの駆動音が鳴るので無理、そういう製品ではありません」が回答です。)

(▲画像:簡易的に畳んだところ。比較対象は iPhone 15 Pro Max。モバイルバッテリーは写真では本体上にあるポーチに収め腰から吊るす。)
静かな部屋では着ている自分もまあまあ気になりますが、音がうるさいから我慢しよう程度の暑さで使う製品ではありません。自分で気になることだけが問題ならばノイズキャンセルイヤホンを使う手もあります。
■ バッテリーに注意
電源は付属せず、ユーザーが環境にあわせて用意する方式です。モバイルバッテリーやUSB-PD充電器で駆動しますが、20V 3A あるいは65W以上の給電能力がある、かなり大出力の製品が必要。
酷暑環境で使うため、仕様上の最大出力は満たしても、バッテリー自体が高温環境でも安定して連続的に出力できるか、熱で給電能力が下がらないかも重要です。(バッテリーを外付けファンで冷やす手もなくはありませんが)。
特にモバイルバッテリーの仕様について意識したことがない、容量の数字だけでなんとなく選ぶといったユーザーの場合、適当なモバイルバッテリーでは動かない・冷えない・安定しない可能性があるため、エレコムやUGREEN等の特定モデルなど、メーカー動作確認済の製品を選ぶのが無難です。
駆動時間は「25000mAh / 3.6V / 90Whのモバイルバッテリーを使用しECOモードで運転した場合」で約2.5時間とされています。
モバイルバッテリーは使い方に応じて好きな場所に配置できますが、腰から下げるメッシュ素材の簡易的なポーチも付属しています。大容量モバイルバッテリーに万が一の問題が生じた際もすぐに体から離せるのは精神衛生上ありがたい仕組みです。
■ 実際の運用を空冷ウェアと比較。下着と重ね着
・下に着るもの
引き続き、あくまで説明のために比較すると、空冷ウェアは効率的に汗を蒸発させるために、下着は薄く速乾性のある機能性繊維などで、体に密着する縫製とサイズが推奨されること、背もたれやバックパックやハーネス、服自体の重み等でエアフローを妨げないためには立体メッシュのスペーサーベスト等の着用も望ましいなど、効率的な運用には下に着るものをかなり選びます。
¥1,307
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
対するChillerXは、冷やすために汗を飛ばす必要がなく、むしろ冷却パッドの密着が必要で風が通らないことから、薄手のTシャツ等ならば上からそのまま装着すれば問題なく機能します。ベルトで締めて押し付けるため、ピチピチでなくても大丈夫。
(当然ながら、厚手で断熱性の高い服の上からはあまり効きません。冷たいペットボトルを押し当てたときの感覚で想像してください)。

・重ね着
重ね着について。一般的な空冷ウェアは体の近くでエアフローを確保する必要がある ≒ 空気が逃げないよう通気性をできるだけ低くする必要から、空冷ウェア自体が「通気性の悪い、蒸し暑い上着」です。
布地によるものの、服の重みで空気の経路が閉じてしまう肩あたりのエアフローは、空冷ウェアのみの場合、空気圧で確保する必要があります。
いわゆる空調ウェアのイメージでよくあるダルマのように膨らんだ外見は、オーバーサイズで支給される業務用を大風量で使っている場合になりがちです。
上述のスペーサーインナー等を着用すれば、肩口や背中を押されてもエアフローを確保できるため、腰のあたりの吸気口さえ塞がなければ重ね着も容易です。
一方でChillerXは、少なくとも初期状態の腰装着状態では、吸気口が背中と並行な平面に、排気口がすぐ近くのユニット側面(上下面)にある構造。つまりジャケット等を重ね着すると吸気口を塞ぎ、上下に排気された熱気が籠もることになります。
そもそも駆動音で大いに存在をアピールするため、隠して着用したいニーズがどれほどあるかは微妙なところですが、薄手のシャツ等の上にChillerXを装着して、さらに重ね着したい場合、チューブを延長してユニットを腰から下に下げるか、ユニットの給排気を妨げないように服の方を加工する、はだける等が必要です。
■ 空冷ウェアとの重ね着?
原理的には厳しいものの、やってみれば一応できる、一定の注意が必要ながらある意味では効果的。歯切れの悪い表現で恐縮です。
空冷ウェアは上記のように体にフィットしたサイズを選ぶことでエアフローを最適化させ効率よく冷やし、膨らんだ外見も避けられますが、逆にそのサイズではChillerXの本体が入らないか、吸気口を塞ぐことになります。
サイズに余裕がある、空気で膨らんだ状態になる空冷ウェアを選べば、また大きめの出力で送風すれば、ChillerXにいわば強制吸気・強制排気することになり、首周りや袖から抜ける空気で、冷却パッドが密着していない部位からは汗を飛ばす効果も期待できます。 ペルチェ素子が発する熱と体温を載せた分、外気より暖かい風ではありますが。
■ 電源オフ装着時・着脱・組み合わせる服選び
空冷ウェアの本質はエアフローを制御すること。つまり想定した流路である「腰のファンで吸って、体表を通して首元や袖口に抜ける」以外から風が入らず漏れないことが重要であるために、空冷ウェアはファンをオフにしたまま着続けると通気性が悪く、逆に暑くなる性質があります。
単なる薄着ならばもう涼しい状況でもバッテリーを消費して回し続けたり、半袖タイプを選ぶユーザーがいる理由のひとつでもあります。
ChillerXの場合、空気層は熱交換を阻害するため、冷却パッドと肌をできるだけ密着させる必要があり、電源をオフにすると両脇から背中の上部にかけてぬるい水が入ったベストを着て、腰には重箱を接触させた状態になります。
ただし、密着させるためのベルトストラップこそあるものの単なるベストなので着脱は容易(本体の取り回しにさえ注意すれば)。
空冷ウェアの場合、汗を飛ばす効率上タイトな機能性速乾ウェア等のみを下に着ることが望ましいため、脱ぐといかにもぴっちりした下着!だったりジムから直行しました!になりがちです。それで困るなら、着替えや羽織るものを別に持つなりで対応します。
ChillerXの場合、ベルトで冷却パッドを押し付ける仕組みから、一般的なTシャツ等でも伝導による冷却はさほど変わらず、必要なときに着脱する条件なら、組み合わせる衣服の自由度は比較的高いと言えるかもしれません。
もちろん厚手で断熱する服を下に着ては効果が落ちるため、薄手で伝導性が高いほど望ましいのはそのとおり。しかし密着して汗を吸う機能性繊維の下着である必要はありません。(多少ルーズなシャツなりでも、ChillerXで上から押さえて密着させるため)。
逆に汗の蒸発を助けるタイプの機能性ウェア等は、ChillerXの着用中は空気が通らず、冷却パッドを押し付ける両脇から背中の上部にかけては効果を発揮しません。
要するに、
・空冷ウェアほど下に着るものを選ばない
・本体を腰に装着した場合、重ね着は工夫が必要(吸排気口が近く、塞がったり熱気が籠もる)
・本体ユニットが大きく、パッドで風も通らないため、暑い日にオフで着用したままは快適ではない
・すぐ脱げて比較的小さく畳めるので、必要な状況で脱ぎ着する運用が現実的
■ まとめ

空冷ウェアの効きが悪い極端な高湿度でも問題なく冷え、バッテリーは氷よりも携行が容易であることから、原理としては理想的。比較的小さく畳めるため、いざとなればChillerXがあると持ち歩く運用もできます。
しかし一方で、
・結構な駆動音、本体ユニットのデカさ
・(腰装着の場合)給排気口の位置から重ね着が難しく、背もたれ等でも吸気が塞がり熱気が当たる
・大電流を必要とするため、基本的には動作保証済みモバイルバッテリーやUSB充電器を推奨(PD規格に知識があり、熱耐性を含め適切な製品を選べれば指定外の自前でも)
といった難しさもあります。
買ってから自分の想像と違う!といった悲劇を減らすためには、製品の位置づけを把握したうえで、他の暑さ対策ソリューションではなくこれを選ぶべきか、自分の環境での運用を考える必要があります。
音や外見、排気が問題にならないのであれば、空冷ウェアでは厳しかった環境でも冷たさを実感できる救世主のような存在。ラピッドな開発で知られるシフトールだけに、今後の展開も楽しみな製品です。