新型MacBook ProとiMacが搭載するApple M3ファミリの性能・特徴を最短で知りたい人のためのコラム(本田雅一)

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本田雅一

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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新型MacBook ProとiMacが搭載するApple M3ファミリの性能・特徴を最短で知りたい人のためのコラム(本田雅一)
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新しいMacが発表されたというよりも、アップルの最新M3プロセッサファミリが発表されたと表現する方がいいだろう。

発表されたMacはいずれも従来からの機構設計を踏襲している。

iMac 24インチに付属のマウス、キーボード、トラックパッドがLightning仕様なことも、7色のカラー、ディスプレイの質も変化していない。


新製品の中で唯一、外見が変化しているのはMacBook Proで、M3 Pro以上のSoCを搭載するモデルではスペースブラックという新しいカラーが選択できる。

なお、このカラーを選択するとACアダプタは従来通りの白だが、Magsafe 3のケーブルはブラック仕上げになる。


ということで、今回の新型Macレビューは、そのままM3ファミリのレビューということになる。

いずれもMacBook Airのようなファンレスシステムではなく、冷却性能もそれなりに高いだけに、それぞれの性能を活かしたテストを行う。

筆者の手元に届いたのは24インチiMacにM3(16GB)と512GB SSDを搭載し、トラックパッドとマウスの両方を同梱した構成で税込30万7600円。

もう一台は16インチMacBook ProにM3 Max(128GB)と8TB SSDを搭載したハイエンドモデルで、税込109万2800円という価格設定となっている。

したがってM3 Proに関してはテストできていないが、このコラムでお伝えすることを噛み砕けば、M3 Proについても類推できるはずだ。

CPUも性能は上がってるが、最大のアップグレードはGPU

M3ファミリはCPUにシングルスレッドの負荷をかけた際には、最大4.1GHzで動作する。M2ファミリは3.4GHzだったので、この点だけでも高速化したことになる。

CPUは高効率コア(Eコア)の性能や電力効率が大きく上がっているが、高性能コア(Pコア)の性能はクロック周波数あたりではほとんど変化がない。

Geekbench 6のCPUテスト結果(M3 Max)
Geekbench 6のCPUテスト結果(M3)

そうは言っても電力効率の高さは以前よりさらに際立っており、M1の最高性能と同じパフォーマンスをM3から引き出す際の電力消費がM1の半分に過ぎないことからも優秀性がわかるはず。

この電力効率の良さがあってこそ、より高速なクロックで動作するようになった意味もある。製造プロセスの微細化による省電力化は発熱を抑え、結果的にマルチコアでの高負荷時に発揮でる実性能を高くしている。熱くなりすぎると、冷やさねばならないからだ。

むしろCPU性能の差はコア数の構成に依存する部分が強く、それについては後述したい。

まずはアップル自身が最大のアップデートとするGPU性能の向上についてだ。

新しい設計のGPUコアは確かに処理性能は上がっているが、GPUによる演算スループットそのものは、少なくともGPUを一般的な演算プログラムに利用した場合では大きな差にはならない。

典型的なのはGeekbench 6のGPUテスト。このテストではGPUを一般的な演算処理に応用した場合の処理スループットを計測するものだが、GPUコア数の差は明確に出るものの、コアあたりのパフォーマンスは"少し上乗せ"程度だ。

Geekbench 6のGPUテスト結果(M3 Max)
Geekbench 6のGPUテスト結果(M3)

では期待はずれなのかと言えば違う。

それはアップル自身がアナウンスしているように、レイトレーシングとメッシュシェーダーのハードウェアによるアクセラレータが内蔵されたことと、ダイナミックキャッシングというメモリリソースを有効に使う仕組みが組み込まれたことが最大のアップデートだからだ。これはGeekbench 6のCompute(演算の意味)スループットテストでは計測できない。

レイトレーシングとメッシュシェーダを利用する処理では2.5倍の性能に

レイトレーシングは、光源からの光跡を細かく追跡し、どのような素材のどんな場所に光が当たり、反射してどのように目に届くかを画素ごとに計算する手法で、iPhone 15のA17 Proにもアクセラレータが搭載されていた。さらにメッシュシェーダというシェーダアルゴリズムをハードウェアで加速する。

前者はライティングや映り込みの的確さなど、リアリティが大幅に向上し、後者はより複雑な、頂点情報の多いモデリングデータへの適応性を高める。というと、結構難しい話のように思えるかもしれないが、実はシンプルだ。

ゲームであれば、Unreal Engine 5を使ったゲームなら、画質の品位を上げても速度が落ちにくくなる。

UE5を用いたMac向けにも配信されているゲーム「Lies of P」を動かすと、M2ではレイトレーシングや精細な3Dグラフィクスのゲームには対応しにくかったが、M3では最高品位とは言わないまでも十分に満足できるだけの画質で、毎秒60フレームクラスのプレイを実現できた。

Lies of P(M3 Max)
Lies of P(M3)

Unityと並んで広く使われているUE 5は、特に高品位なグラフィクスのゲームでの採用が多いが、一方でMac向けに本格的な人気ゲームが豊富に選べるかと言えば、残念ながらそういう状況ではない。

しかしM3ファミリーのベースグレードでも、十分にUE 5の流麗なグラフィクスが楽しめるとなれば、今後はPCやXbox、PS5向けに開発しているデベロッパーも、目を向けるようになるかもしれない。M3はMacだけではなく、iPadにも搭載されることが見込まれる。

ちなみにGPUが4倍の40コアも搭載されているM3 Maxを搭載するMacBook Pro 16インチモデルでは、グラフィクスオプションを最高に設定してたうえで、MetalFX Upscalingを"品質"レベルにした状態でも、毎秒60フレームのスループットが得られた。

と、少しM3の話に文字数を使い過ぎたが、ゲームよりももっと的確に性能を計測するソフトウェアがある。MaxonのCinebench 2024だ。最近アップデートされて、GPUによる高品位グラフィクスのレンダリング性能を計測できるようになった。

レイトレーシングやメッシュシェーダを多用したこのテストでは、GPUコアあたりの性能でM1世代の2.5倍、M2世代との比較でもおよそ2.1倍程度の高性能を発揮する。

条件が揃えばM2 Ultraを凌駕するM3 Max

つまり、汎用的にも使うことができる"演算機"として捉えた場合、M3に搭載されるGPUは、コア1個あたりで従来と比べて大きく演算スループットが向上しているわけではない。

しかし、3Dグラフィクスのレンダリングにおける"重い処理"をハードウェアで肩代わりすることで、実際の処理スループットを大幅に改善している。

Cinebench 2024にはMaxonが販売している3Dグラフィクスのクリエイションツール「Cinema 4D」のレンダリングエンジンが使われている。

高品位な映画制作の現場などで使われるものだが、テストではリアリティのある細かな頂点情報で構成されるモデルを多数配置し、レイトレーシングも用いて自然なライティング効果を与えたシーンの演算速度を計測する。

それぞれのGPUが得意なライブラリセットを通じたレンダリングが可能になっており、Macの場合はアップルが提供するMetalで実装されているために、レイトレーシングやメッシュシェーダのアクセラレータがモロに効いてくるというわけだ。

Cinebench 2024のテスト結果(M3 Max)
Cinebench 2024のテスト結果(M3)

M3 Maxのテスト結果は、GPUスコアで64コアのGPUを搭載するM1 Ultraの2倍以上を叩き出したばかりか、76GPUを搭載するM2 Ultraのスコアもおよそ30%上回った

もちろん、GPUを汎用的な演算に活用するという目的では大きな違いはないのだが、そもそもAppleシリコンは「特定の目的を特別な回路で処理する」SoCだ。巨大なNeural Engineを搭載して推論処理を行わせるほか、オーディオや静止画の処理も専用の信号処理プロセッサを備える。

そうした中で、今回はMacでの実際の使われ方(コンシューマ機ではゲームをはじめとする3Dグラフィクスの質、プロのクリエイター向けには3Dレンダリングの質)を想定した上で、GPUの改良を行なってきたということだ。

実アプリケーション上でのパフォーマンスを重視したM3ファミリ

今回、テスト期間中にうまいテストの方法が見つけられなかったのだが、Dynamic Cachingという他に例がない、ハードウェアによるGPUタスクへのメモリリソース割り当て機能も、そうした実質的な3Dグラフィクス生成の実力を高めるためのものだ。

"実質的"と表現するのは、処理回路がパフォーマンスを発揮するには条件があるからだ。

現実の3Dグラフィクス処理では、数千もの細かな処理が並行に走っている。その際に使うメモリをハードウェアで動的に割り当て、動的に解放することにより、効率的に限られたリソース(具体的には割り当てられたメモリ容量)を使えるようになるため、リソース不足でレンダリング処理が"待ち"に入りにくくなる。

ハードウェアのスペックが固定化された昔のゲーム機などでは、使えるメモリやプロセッサの速度を考えながら、効率的にとめどなく処理が流れるようプログラマが工夫をしながら、なけなしのリソースを使いこなしていたが、誤解を恐れずに言えばそうした処理の中断がないような工夫を、ある程度はハードウェアがこなしてくれるということらしい。

こうした実アプリケーション上でのパフォーマンスを意識した設計は、M3ファミリ全体に及んでいる。

M3ファミリはPコアが15%、Eコアが30%のパフォーマンス向上とアナウンスされている。

Pコアの15%性能向上はクロック周波数(動作状況に応じて上限4.1GHz程度まで動的に変化するため、周波数が上がってると言うのも無粋な表現だが)が上昇した分に相当する。省電力かつ動作の素早い3nmプロセスのおかげだ。

Eコアがそれを超えているのは、処理回路にテコ入れが入ったためで、電力効率も30%向上している。

こちらも3nmプロセスの恩恵が大きいと想像されるが、そもそもM3ファミリはアップル製品のために設計されているので、この改良は"実際にMacに搭載する"ことを念頭に置いたものとなる。

つまりPコアではなく、Eコアを進化させる方が、実際のアプリケーションを動かす上で有益な場面が多いということだ。

今回は評価していないが、M2 ProではM2 Maxと同じだけCPUコアを搭載し、Pコアの方が数が多かった。ところが、M3 ProではPコアとEコアの数が同じとなり、それぞれM3の4個づつに対して、1.5倍の6個ずつを備える。

M3 Maxが12個という、M3 Proの2倍に相当するPコアを集積し、Eコアを4個しか積んでいないのとは対照的。つまり実際の処理ではEコアが活躍する場面も多いということだ。

今後、さまざまな利用レポートが出てくるだろうが、M3 ProはM2以前よりも身近で(それでいて高速で)省電力なプラットフォームになっていると思う。今後、採用の幅は広がっていくのではないだろうか。

最後に

最後にテストを通じて感じたことをいくつか述べておきたい。

M2 Maxまでの世代では14インチMacBook Proには(16インチにはある)エネルギーモードの調整が存在しなかったが、M3 Maxでは14インチモデルでも高出力モードが存在している。

極めて大規模なSoCになったM3 Maxだが、消費電力(発熱)という面ではM2 Maxよりも抑えられているのかもしれない(14インチモデルの冷却性能が上がってる可能性もあるが)。

もっとも、その性能やスペックはさらに一般的なコンピューティングの枠から外れてきている。14インチMacBook Proのコンパクトな形状に、これだけのパフォーマンスが入っていると考えると恐ろしいぐらいだが、言い換えればよりキャラクターが明快になり、具体的に「パフォーマンス=成果」となる仕事を持っている人には重要なものになったと言えるだろう。さらにMac StudioにはM3 Ultra(おそらくM3 Maxを2つ連結)の搭載も期待されるところだ。

一方、M3のグラフィックスパフォーマンスを向上させ、UE 5を使ったゲーム体験が高まっているなどの訴求を強めてきたのは、今後、デベロッパーのサポートなどを通じ、本気でゲームコミュニティの中に入ろうとする意欲の表れだと捉えている。

現実にはSteamを覗いてみても、Mac対応ゲームの状況は寂しい限りだが、iMacだけでなくより幅広いMac、あるいはiPad Proなどにも採用が広がっていけば、数年をかけてゲーム開発者の目にも留まるようになるかもしれない。

またM3 Maxがより遠い存在になったのとは逆に、M3 ProはM3モデルとどちらを選ぶのか迷う存在になった。もちろん、大多数のユーザーにとってはM3で十分なのだが。


《本田雅一》

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