KDDIのメタバース「αU」、3年で1000億円投じるプロジェクトへの期待と不安(西田宗千佳)

カルチャー Metaverse
西田宗千佳

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フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

特集

KDDIのメタバース「αU」、3年で1000億円投じるプロジェクトへの期待と不安(西田宗千佳)
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KDDIがメタバース・Web3サービス「αU」を始動した。3月7日に会見も開かれたので、どんなものなのかをちょっと解説してみよう。

ニュースリリースを読んでいるとバズワードばかりでちょっと「うっ」と警戒してしまうのだが、直接狙いを聞くと、「ああ、そういうことですか」と(一部だけだが)理解もできてきた。

▲KDDIは3月7日にメタバース・Web3サービス「αU」を開始

「もう、ひとつの世界」を目指す「αU」

「若い方の生活がどうなっているかを見ていると、意思や情報を共有するのも当たり前になってきた。リアルの世界とバーチャルの世界に、線引きはもう必要ないのかもしれない」

発表会の冒頭で、KDDI代表取締役社長・髙橋誠氏はそう説明した。

▲KDDIの髙橋誠社長

キャッチフレーズは「もう、ひとつの世界」。

現実にある場所などを精緻にデータ化する「デジタルツイン」と、ネットの中に構築される「メタバース」を組み合わせて「もうひとつの世界」にするのではなく、両者はもう1つの存在である……というアピールだ。

その実際のサービスの場として用意されるのが「αU」。「えーゆー」ではなく「あるふぁゆー」と読む。

αUは5つのサービスで構成される。

メタバース空間の「αU metaverse」、ライブコンテンツ配信の場である「αU live」、ショッピング体験用の「αU place」、NFTを売買する「αU market」、そして、NFTや暗号資産を管理する「αU wallet」だ。

▲αUは5つのサービスで構成される

このうち「αU live」と「αU place」は今夏開始だが、他は3月7日からサービスを開始している。

……といっても、それでなにができるのか、いまいちピンとこない人も多いのではないだろうか。正直、会見に出席した筆者も、プレゼンテーションだけではピンと来なかった。

例えば「世界」。渋谷をデジタル化した「バーチャル渋谷」、大阪をデジタル化した「バーチャル大阪」を展開しているのだが、バーチャル渋谷は2020年にオープン、バーチャル大阪も2022年にオープン済みだ。それと比べ、今回のサービス内での違いがわかりづらい。

また、「メタバース」「NFT」などのキーワードはいいとして、どういうことが、どういう端末から、どんな感じで使えるのかが分かりにくい状況にある。

というわけで、会見後、KDDI・事業創造本部 副本部長の中馬 和彦氏の囲み取材をし、さらに渋谷で展開されているデモをいくつか見て、ようやく狙いが見えてきた。

▲メタバース事業を担当する、KDDI・事業創造本部 副本部長の中馬 和彦氏

複数ある「バーチャル渋谷」、目指すは「住めるメタバース」

まず、「バーチャル渋谷」「バーチャル大阪」について。

例えばバーチャル渋谷は、過去のものはcluster社の基盤を使って構築されていた。今回は「clusterのものは残しつつ、新しく作った」と中馬氏は言う。

▲実機デモより。バーチャル渋谷の中は、以前のものよりも移動可能範囲が広くなり、縦画面でも使える

clusterでの「バーチャル渋谷」はイベントがあると集まれる場所、的な建て付けだったが、αUのものは「暮らせる場所」として作ったそうだ。過去3年間に得た知見から、イベント的なものではなく、日常的な利用を目指すとしている。

▲マイルームを作り、その中を飾って自分の居場所にもできる、という

ただ、KDDI側はそうは言うものの、clusterも「イベントだけでないサービス」を標榜しているので、なんとなく両社にズレがあるんじゃなかろうか、とは感じた部分だ。

まあそれはともかく、αUは自社だけで閉じているわけではなく、clusterも含めた複数のサービスが連動する、オープンな形であるのが特徴。シチュエーションに応じて、つながっているサービスの間を行き来することができるという。

▲複数の世界を簡単に移動できるよう工夫されている

「αU metaverse」の場合、自分のルームがあってそこにNFTで買ったアイテムを並べ、自分が「いつもいる場所」になるのが特徴だという。

そして、コミュニケーションは「音声」が基本。周囲の人に声が聞こえるようになっていて、最低20人くらいの人々が集まっている場所でも、自然に「その場にいる」かのように会話ができる。

なお、現状はスマホアプリになっていて、タブレットやPC、HMDなどには「これから広げていく」予定とのことだ。

収益の柱として期待する「ライブイベント」、技術の核はGoogle Cloud

その中で、今後の収益源・コミュニケーションの起爆剤として期待しているのが「αU live」によるライブイベントだ。

いわゆるコンサートなどができるオンラインスペースだが、3月8日から今週末にかけて、渋谷を舞台に「αU springweek2023」が開催され、音楽イベントなども開かれる。渋谷各所でデモが行われるほか、「αU metaverse」と連動したオンラインイベントにもなっている。

▲3月8日からは、リアルな渋谷とバーチャルな渋谷で「αU springweek2023」が開催される

「αU live」については、「αU metaverse」よりもハイクオリティなCG演出を使うことも多い。そこでハイエンドな機種を必要としないよう、KDDIはGoogle Cloudとの間で提携を交わし、サーバー側での「リモートレンダリング」を活用する。そのため、ライブ自体はウェブブラウザーさえあれば、どんな端末でも視聴できるようになっている。

▲7人組ダンス&ボーカルグループユニットBE:FIRSTが週末に開催するライブイベントのデモ。リモートレンダリングにより、ウェブベースで提供されている

一方、「αU metaverse」「αU live」ともにそうなのだが、マスを狙ったため、HMDを使って3Dのまま演出を楽しんだり、視界を覆うような臨場感を楽しんだりすることはできない。「マス向け」「スマホ向け」というのが、良くも悪くもKDDIらしい。

ただし前述のように、時期は未定ながら、HMDへの対応も検討はされている。

こうしたライブイベントは集客力もあり、コミュニケーションを促す要素ともなる。日常というよりはやっぱり結局「イベント的」ではないか……とも思うが、そこから次第に定着していくことを狙うのだろう。

リアルなショップも構築中、ただしスタートは「夏」

現在はまだ開発中だが、渋谷を活用するのがショッピングの「αU place」だ。

今回はデモとして、渋谷の商業施設「MODI」にあるKDDIの直営店「au Style SHIBUYA MODI」と、渋谷パルコ5Fにあるアパレルショップ「Lui's/EX/store」の例を試せた。

メタバース内の「au Style SHIBUYA MODI」や「Lui's/EX/store」は、渋谷内の実際の店舗と同じ場所にあり、内部も3Dスキャンで、ほぼそのままに再現されている。陳列されている商品を見て、そこからウェブストアに飛んで購入することも可能だ。

▲MODIもちゃんと再現されていて、この中に「au Style SHIBUYA MODI」がある
▲店内はMNPを促すチラシまでそのまま再現
▲店内にある商品をタップしてウェブから購入も
▲auのショップスタッフも。これもデモ中は、au Style SHIBUYA MODIの実際の店員さんが「中の人」だった

また、リアル店舗の店員さんとビデオ通話などで話し、製品についての相談などもできるようになっている。

▲Lui's/EX/storeの例。中には、実際に販売されているアパレルが3Dモデルで並んでいる
▲店員さんを呼んでビデオ通話して、似合うコーディネーションを見立ててもらうことも

ただし、実際にここから「店舗運営」をするなら、まだまだ多数の課題がある。

リアルの店員さんが捌ききれないほどたくさんの人が来店したときの処理方法や、閉店時間中に来たときの対応(ネットだから当然、リアルの開店時間とは連携しない)、リアル店舗とネットショップの在庫連携など、「検討しているがまだ決まっていない」とKDDI側が答える部分も多い。

「αU place」が3月ではなく「夏にスタート」とされているのは、その点などが理由だろうと感じる。

NFT活用もまだ「道半ば」、3年間で1000億円規模の投資を活かせるか

一方でよく見えないのが、NFTや暗号資産の扱いだ。

独自ワレットである「αU wallet」を使い、イーサリアムベースの暗号資産「Polygon (MATIC)」で入送金が可能となる。それらでNFTなどが購入できるという。

▲αU wallet。大手携帯電話事業者が公式運営する暗号資産ワレット、という点に着目することもできる

正直なところ、筆者にはわざわざここでNFTや暗号資産を使う、ユーザー側のメリットが思いつかない。データを複数のメタバースで移動し合う、アバターが移動できる世界を作るには必須……と説明されたりするが、実のところ全く必須ではなく、「自社で横展開できる決済を用意すれば済む」話だし、その方が管理は楽になる。

それでも、海外展開やKDDIを離れたサービスをするならNFT+暗号資産を使うのが望ましい……ということなのだろうが、そのためにはまず、別々のメタバースの間を行き来するための規格づくりと採用拡大が欠かせない。決済だけあっても、決済するものがなければ意味がない。

その点について中馬氏は、「我々は『バーチャルシティコンソーシアム』を立ち上げており、そこで規格を作っていきたい。まだ世の中にないものなので、我々が作る勢いでいる」と説明する。

要は、まだここも始まったばかりの部分、ということだ。

中馬氏は、KDDIがメタバース+Web3にかける事業規模や見通しについて「今後3年間で1000億円レベルの投資を行う」とコメントしている。確かに、KDDIが戦略的に3年継続するとそのくらいの額にはなっていきそうだ。本気であるのはよくわかる。

ただ一方で、今回のデモを経た後もまだ、「このサービスに住みつきたくなるほどの魅力」があるのかどうか、筆者にはピンとこなかった。スタート段階ではあるが、強く惹きつけられる「匂い」がしない。

ライブイベントもアイテム販売もアリかと思うが、いかに「ここにいたい」「また来たい」と思えるものを作るかが重要だ。アーティストを呼んでくるのはいいが、ファンが1回見て終わり、ではもったいない。「あのアーティストの曲を聴きたい人は定期的に集まる」「あのコミュニティはここにある」といったような変化が生まれることは重要だ。

中馬氏も「エコノミーが生まれるような中毒性は必要」としつつ、「今回で少なくともスタートラインには立った」と話す。

ここからは、バズワードではなく「わかりやすい魅力」の方が目立つ形での運営を期待したい。

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《西田宗千佳》
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