5.25インチMOとそっくりなのに1度しか書き込みできない「130mm追記形光ディスクカートリッジ」(650MB、1987年頃~):ロストメモリーズ File012

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宮里圭介

宮里圭介

ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

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5.25インチMOとそっくりなのに1度しか書き込みできない「130mm追記形光ディスクカートリッジ」(650MB、1987年頃~):ロストメモリーズ File012
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[名称] 130mm追記形光ディスクカートリッジ
(参考製品名 「DC-502A」「OC101-2」)
[種類] 光ディスク(追記型)
[記録方法] 有機色素、金属薄膜、レーザー光(825nm)
[メディアサイズ] 135×153×11mm
[記録部サイズ] 直径約130mm
[容量] 600~650MB
[登場年] 1987年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

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「130mm追記形光ディスクカートリッジ」は、5.25インチ(130mm)のディスクをカートリッジに納めた光ディスクメディア。

これ以前にも12インチ(300mm)や8インチ(200mm)といった光ディスクはありましたが、基本的に記憶装置として独立したものではなく、システムの一部として使われているものがほとんどです。そのため、各社の独自仕様となっているものが多くありました。

これに対し130mm追記形光ディスクカートリッジは、汎用的にコンピューターから利用できるよう、初めから国際標準規格化を目指していたのが特徴です。(ちなみに、ISO 9171、JIS X 6261として規格化されています)

外観は、5.25インチの光磁気ディスク(MO)とそっくり。それもそのはず、追記型に続いて書換型の光ディスクとして開発されたのがMOですから、互換性の面から形状を合わせていたのでしょう。……そもそも、5.25インチMOを見たことあるという人が少ないかもしれませんが。

▲一部異なる部分もありますが、形状は5.25インチのMO(右)とほぼ同じです

追記型とある通り、書き込み可能な回数は1回。そのため、パッケージなどに「WORM」(Write Once Read Many)と記載され、MOと区別されていることがあります。

産業技術史資料情報センターが公開している、武田立氏の「書込型光ディスク技術の系統化調査」によると、規格化の際にトラッキング方式で論争があったという話が興味深いです。

ひとつは日本が提案した「CCS方式」(複合連続トラッキングサーボ方式)で、記録面にガイドとなるグルーブ(溝)を形成し、グルーブ間、もしくはグルーブの中心にデータを記録する方式。もうひとつが、フランスとオランダが提案した「SS方式」(サンプル・サーボ方式)で、わざと左右にずらしたウォブルマークを作り、その中心をトラックとしてデータを記録する方式です。

CCS方式は光学系が複雑になるものの回路が比較的簡易、SS方式は回路が多少複雑になるものの傾きや反りといったディスク面の変化に強い、といった特徴がありました。しかし、双方が譲らなかった結果、なんと、CCS方式を「A形」(Format A)、SS方式を「B形」(Format B)として、両方が規格に採用されることとなりました。さらにいうと、A形のトラックピッチが1.6μm、B形のトラックピッチが1.5μmと異なっているため、似た技術を使った別モノといった方がよさそうです。

ちなみに、ドライブはこの両方のカートリッジを区別しなくてはなりません。そのため、カートリッジ内のディスク最内周に、PEP領域と呼ばれる識別用のトラックが作られています。

もうひとつ面白いのが、記録層に使う素材。規格策定時は、従来の大型光ディスクで使用されていた金属薄膜が想定されていましたが、ちょうど有機色素を使ったCD-Rが誕生する直前。そのため実際の製品では、金属薄膜と有機色素のどちらも登場しました。

ということで、カートリッジを見ていきましょう。

なお、本文中「追記形」と「追記型」のように異なる表記が出てきますが、これはJIS X 6261における名称が「追記形」となっているため。名称に関係する部分では「形」としてますが、それ以外では一般的な「型」を使っています。

頑丈なカートリッジでしっかりと保護

カートリッジは正方形ではなく、若干縦長の長方形。アクセスウィンドウは頑丈なスライドシャッターで覆われており、ケースに入れずに保管しても、ディスクに傷がつかないようになっています。

▲「OC101-2」の例。シャッターで保護されており、ディスクは見えません

サイズは横135mm、縦153mm、厚み11mmという結構な大型。ケースの樹脂はかなり肉厚で、ひねり、押し付け、落下などにも耐えられるだけの堅牢性があります。

光ディスクは記録密度が高いうえ、レーザーを使う関係から、ディスク面の傷、ホコリ、ゴミの影響が大きく、いかにディスクを守るかが重要です。そのため、これだけしっかりとしたカートリッジが採用されているのでしょう。

左下にあるスライドスイッチは、書き込み禁止の設定用。穴が貫通していれば書き込み禁止、閉鎖されていれば書き込み可能という設定になります。上の写真では閉鎖されているので、書き込み可能な状態です。ちなみに右下にもスイッチがありますが、これは裏面用。

左下のスライドスイッチのさらに下に見える4つの穴は、カートリッジの識別用です。1番左は反射率を表すもので、貫通なら高反射率、閉鎖なら低反射率となります。2番目は使用不可を表すもので、貫通なら使用不可、閉鎖なら使用可能という意味です。残り2つの穴は「予備」となっており、基本は閉鎖……なのですが、ここを拡大して見てみましょう。

▲左から2番目が貫通なので、使用不可……おや?

2番目が貫通しており、使用不可となっています。実はマクセルの「OC101-2」という製品は、日立製作所の「OD101-1」というドライブ向けのカートリッジで、ISO 9171準拠品ではないようです。

このドライブの詳細が分からないので何とも言えないのですが、同時期に日立製作所が「HITFILE 650」という5インチ光ディスクを使った電子ファイリングシステムを販売しており、これに使われていたのではないかと睨んでいます。違うかもしれませんが。

とはいえ、形状はISO 9171に準拠したもの。ケースは流用で中身のディスクだけ変更し、130mm追記形光ディスクカートリッジとして使えないよう、使用不可となるよう設定したと考えられます。ですので、外観紹介に使う分には問題ないと判断しました。

ちゃんとISO 9171に準拠したカートリッジとなる、パイオニアの「DC-502A」ではどうなっているのか見てみましょう。

▲「DC-502A」の例。識別用の穴は埋まっていて、すべて閉鎖です

WORMのディスクは低反射、使用可能ですから、穴はすべて閉鎖となります。それなら、わざわざ穴を作って埋める必要はなく、最初から穴を開けていないコレで十分です。

130mm追記形光ディスクカートリッジは、A面のみ使える片面タイプ、A・B両方が使える両面タイプの2種類が規定されています。この両面タイプでは、ひっくり返して使うことで片面の2倍の容量となります。

といっても、片面タイプは見かけたことがなく、基本的に両面ばかり。容量表記も両面合計の値となっているので、書いてある以上の容量で使えることはありません。「OC101-2」であれば600MBと書かれてますが、これは両面で600MBということです。

A面とB面の違いは、左右が入れ替わるだけ。シャッターの開く方向が逆になりますが、それ以外はほとんど変わりません。

▲A面と左右反転。違いは、シャッターの切り欠きがある程度です

シャッターの開閉は、切り欠き部分(「シャッタオープナ用スロット」という名前があります)に引っ掛け、押すか引くかすることで行います。OC101-2、DC-502Aともにロックするような機構はなく、指で簡単にスライドできました。

このシャッターにはバネが入っていて、開いても指を離せばすぐに閉まります。この開閉機構はメーカーに任されていたようで、引きバネだったりねじりバネだったりと、使うバネも様々です。

シャッターを開くとディスクが見えるのですが、まずは見てください。

▲左がOC101-2で、右がDC-502A。色がまるで違います

ディスク面の色が明らかに異なり、記録層の素材が違うと見た目にもわかりやすくなっています。DC-502Aが採用しているのは有機色素で、当時としては珍しかったもの。これに対しOC101-2は詳細が不明ですが、従来の大型光ディスクと同じ金属薄膜(テルル合金?)である可能性が高いです。CDやDVDのように不透明な反射層が作られていないので、どちらも反対側が透けて見えますが、透明度は有機色素の方が明らかに上です。

▲CO101-2はほとんど透けせんが、DC-502Aはスケスケ

先に両面タイプだという話を書きましたが、面白いのがその実現方法。ディスクを斜め方向からのぞいてみるとわかりますが、普通に2枚入ってます。積層とか張り合わせとかではなく、間に隙間があって2枚です。

▲カートリッジ内に2枚のディスクが入ってるとは思いませんよね

ディスク面で気になっていたのが、トラッキング方式の識別に利用するPEP領域があること。規格から要点をまとめてみると、「PEP領域は半径29.0~29.5mmの間」「すべてのマークは半径方向に整列」「1周で3つのセクタ」「1セクタ177ビット(データは18バイト)」となっており、これ、肉眼でも見えるサイズなんでは……と気づいてしまったわけです。

実際にDC-502Aの最内周部分を拡大してみましょう。

▲バーコードのように何か書かれているのがわかります

何か見えるだろうとは思っていましたが、ここまで大きくはっきり見えるとは思っていませんでした。裏面のディスクにあるPEP領域まで透けて見えちゃってますが、頑張れば解読できるかもしれません。ちなみに、OC101-2にはこのPEP領域がなく、やはり規格に準拠してない製品なんだなと確信しました。

汎用PC、一般向けの大容量メディアとしてある程度成功

1980年代といえば、コンピューター向けの記録メディアとして磁気メディアが強かった時代。光ディスクはそんな磁気ディスク一強を切り崩すものと期待され、実際、企業や官公庁向けにはそれなりに成功を収めました。

とくにアーカイブ目的であれば、保存に向いた堅牢なカートリッジ、10年以上の長い寿命、交換が簡単、大容量といったメリットがありました。運用面でいえば、規格化されていたことから供給を1社に頼らずに済み、長期間の利用でも安心感がありました。また、磁気テープと比べランダムアクセスがしやすく、過去のデータを引き出すことが容易になっていたことも魅力です。

1度しか書き込めないWORMは、書換型のMOが登場するまでのつなぎのような印象がありますが、その後のMO大容量化とともに、2000年末に登場した最後の9.1GBモデルまで続きました。これは、書き換えられては困るデータの保存用、というニーズがあったからでしょう。

ただし、個人向けに成功した光ディスクは、CD-R/RWやDVD±R/RW。3.5インチMOも一時期健闘しましたが、メディア単価の安さ、既存のドライブで読める互換性、そしてデータ保存だけでなく、自分で音楽CDや映像DVDが作成できるという用途の広さには勝てませんでした。

(「air sandwich」について間違った記述をしていたため、該当部を削除しました)

参考:



SONY 5.25型 MOディスク 4.1GB EDM-4100B
¥4,980
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

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