次世代ChatGPT+プロメテウスとBardの会話AI対決、Googleのイベントが肩透かしだったのはなぜ?(Google Tales)

テクノロジー AI
佐藤由紀子

IT系海外速報を書いたり、翻訳を請け負ったりしています。初めてのスマートフォンはHTC Desire。その後はNexus 5からずっとGoogleさんオリジナルモデルを使っています。

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次世代ChatGPT+プロメテウスとBardの会話AI対決、Googleのイベントが肩透かしだったのはなぜ?(Google Tales)
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この連載で前回、GoogleさんがChatGPT対抗チャットbotをGoogle I/O(例年5月か6月に開催)で発表するかも、とのんびりしたことを書いたのですが、スンダー・ピチャイCEOが2月6日、限定的ではありますが、“実験的な会話型AIサービス”の「Bard」を公開すると発表しました。


その2日後には、パリで『Google Presents - Live from Paris』イベントを開催。マップ等を含め検索についての内容になると以前から予告していたイベントです。

しかしタイミングがタイミングなだけに、またフランスにはGoogleのAI拠点の一つがあることから、てっきりこの場でBardの詳細が明らかになると期待を集めていたのですが、思い切り肩透かしでした。

最初にナレッジ&インフォメーション部門担当上級副社長のプラバカール・ラガヴァンさんが登場したので、「やっぱりBardの詳細を発表するのね、わくわく」と思いきや、その後のプレゼンはGoogleのAIに関する取り組み全般についての紹介で、しかも以前Google I/Oなどで発表したものの進捗報告がほとんど。Bardについては、6日の公式ブログでの説明以上の詳細はほとんど開示されませんでした。

イベントの冒頭でラガヴァンさんは、Googleの共同創業者たちが2004年のIPOの際に掲げたミッション「より多くの人々の、より良い毎日のために」を再掲。

▲Googleのプラバカール・ラガヴァン上級副社長

私は、ピチャイさんが2016年のGoogle I/Oで「Googleは検索ファーストからAIファーストになる」と宣言したところから始まるかと思っていたんですが、思いっきり基本に立ち返りました。

その後は、より多くの人々のためにGoogleのいろんなサービス(マップとかLensとかもちろん検索とか)が、AIの支援でさらに便利になっていきます、というデモでした。

このイベントは、GoogleはAIファースト企業だけど、それは「より多くの人々の、より良い毎日のために」そうするのであって、会話AI競争に勝つためじゃないんですよ、という意思表示のためのものだったというのが私の感想です。

ほんとは、イベントの目玉としてBardをじゃじゃーんと発表するつもりだったんじゃないかと思います。でも、Microsoftが7日にOpenAIによる次世代LLM(Large Language Model)を採用した「新しいBing」を発表する見込みという情報が入ってきたので、急遽それより前に公式ブログで発表することにし、その結果イベントは既発表情報だけになっちゃったという推測。

なにしろMicrosoftのサティア・ナデラCEOは7日の「新しいBing」(これ、名称はこのままにするそうです)発表イベントで「検索の新時代」を宣言し、「競争は今日から始まる」と、普段あまり公の場で競争心丸出しにしたりしないのに、かなり強気の発言をしました。


▲MicrosoftのナデラCEO

GoogleがAIファースト企業を自称していても、外からは「検索のGoogle」と見られている以上、こんなことを言われて黙っていては株価が下がります。

Bardも、できればもう少し完成度を上げてから公開したかったでしょうけれど、営利企業としてはそうもいかなかったんでしょう。

ところが、Bardの発表ブログでサンプルとして紹介したQ&Aの例に、専門家ならすぐに気づくような間違えがありました。イベントの翌日にはそれが話題になり、Google(の親会社)の株価は大きく下落。

▲Bardのサンプルの回答に間違えがありました。


もしかしたら間違いがあるのを知りつつ、現場のエンジニアがあえてこのサンプルを選んだんじゃないかと想像するのはうがちすぎでしょうか。Microsoftとの競争のために公開を急ぐ幹部に直接は反対できないけれど、不完全なツールを解放すべきではないと考えた中の人が、警鐘を鳴らすためにこっそり仕込んだんじゃないかと。

ネット上の情報でトレーニングしている以上、また現在の会話AIの特性から、BardもChatGPTと同じように、もっともらしくても誤った回答をしてしまうことは避けられません。せめて有効な自己エラーチェック機能を開発するまでは公開すべきではないという意見もあったはずです。

Googleはかつて(2017年)、米国防総省(DoD)とAI採用システム提供で契約したことがあります。それに対し、AIを軍事目的に使うことに反対する3000人以上のGooglerが契約取り消しの請願書に署名しました。現在もGoogleが掲げるAIの基本理念は、この反対運動を受けて公開されたものです。

ちなみに、GoogleはBardをまずは「信頼できるテスター」にだけ提供する計画ですが、Microsoftの新しいBingは一般人でもウェイティングリストに登録できます。しかもモバイル版BingをインストールしてEdgeを既定のブラウザに設定すると順番が早くなるという「こんなところでまでGoogleからシェアを奪う気か」と思わせる仕組み。

まんまとそれに乗ったところ、私にも発表の翌日には「新しいBingにようこそ」メールが届きました。モバイルではうまく開けないんですが、PCのEdgeブラウザではBingと会話できるようになりました。

日本語の問いには日本語で答えてくれます。

雪が降り始めたので、「いつまで降る?」と聞いたところ、いかにも天気予報からそのままもってきたような答え。これなら従来の検索結果の方が見やすいです。

ちょっと意地悪な質問「LaMDAってなんですか? Prometheusより優れていると聞きました。」の答えはもうちょっと面白かった。

▲新しいBingにGoogleのLaMDAについて聞いてみた

ところで、Bardとは吟遊詩人という意味です。自分で歴史や英雄についての物語を作って、それを朗読する人。中世っぽいゲームにも出てきますよね。ネット上の膨大な情報から物語を紡ぐAI、という意味がこめられているんだと思います。

一方、Googleが2018年に発表したTransformerモデルの一つであるBERTと語感も似ています。 ピチャイさんも、ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)のTはうちが2017年に発表した「Transformer」の「T」 であることも強調していました。

現場の人が、Bardが紡ぐのはあくまで物語であって真実じゃないよ、という意味を込めてつけた名前じゃないかなと、これもうがちすぎですが、筆者はそう思います。それになんだか牧歌的でいいですよね。

▲イラスト:ばじぃ

一方、MicrosoftがOpenAIの次世代言語モデルと組み合わせて使う「プロメテウス」はギリシア神話の神様です。人間に火を授けたことでゼウスの怒りを買い、生きながら鷲に内臓を突かれ続けるという罰を受けるという話。人間にAIという便利だけど危険なツールを与えることで、Microsoftのプロメテウスにも天罰が下らないといいのですが。

▲MicrosoftのプロメテウスはOpenAIのAIモデルと組み合わせて使われる

生きたまま内臓をえぐられるようなつらい競争なんかしないで、じっくりゆっくり人の役に立つAIをみんなで育てていくわけにはいかないんでしょうかね。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

追記:連載名を「Google Tales」に変更しました。

《佐藤由紀子》

佐藤由紀子

IT系海外速報を書いたり、翻訳を請け負ったりしています。初めてのスマートフォンはHTC Desire。その後はNexus 5からずっとGoogleさんオリジナルモデルを使っています。

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