ARグラスNreal AirでMacに仮想3画面を追加。マルチディスプレイ環境の実用度を試す

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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ARグラスNreal AirでMacに仮想3画面を追加。マルチディスプレイ環境の実用度を試す
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安価で軽量なARグラス「Nreal Air」を開発・販売するNrealは以前、「今年9月中旬にMacでのマルチディスプレイを実現する『Nebula for Mac』のベータ版を公開する」と発表していた。

そろそろ9月末、どうなったのかな……と思っていたのだが、9月24日に同社の中国語版サイトを訪れたところ、「Nebula for Mac」のベータ版が公開されているのを発見した。この時点で問題なくダウンロードでき、ソフトも日本語化されていた。

さっそく試してみたので、今回はその話をしたい。

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以前にも述べたが、これはNreal Airという特定の製品の話をしたいから、というわけではない。「軽量なHMDが日常化したら」という未来を予測するためのテストだ。同様のデバイスが今後続々登場するのは間違いなく、その時の「PC作業のあり方」を考えるヒントになる。

Mac版Nebulaで「3画面仮想スクリーン」

Nreal AirはUSB Type-Cを使い、DisplayPort規格でPCやスマホと接続して使うサングラス型のディスプレイであり、半透過型となっている。要は、ディスプレイに映った映像が濃いサングラス越しの風景の中に見える、と思えばいい。

▲ARグラスのNreal Air。今回の主役はスマホではなくMac

単にPCやスマホをつないだときには、Nreal Airは外部ディスプレイ扱いになる。だから、表示中の画面がミラーリング表示されるか、セカンドディスプレイになるかのどちらかであり、その辺はPCなどの設定によって変わる。

それとは別に、Nrealは「Nebula」というAR環境を持っている。これまではAndroidスマホ向けで、ウェブブラウザーや各種ARアプリを「空間の中に配置して」使えるようになっている。

まあ正直なところ、現状、Androidスマホ+Nreal AirのNebulaによるAR環境はさほど快適ではない。Nreal Air自体の視野角の狭さ(これは後述する)に加え、スマートフォンの性能の問題もあるのだろう。だが、Nebula自体もこの秋に大きく変更されたようで、だいぶこなれてきた印象を受ける。

▲スマホ版Nebulaの最新バージョン。機能はそこまで変わっていないが、使い勝手はだいぶこなれてきた

Nreal Airはまず日本でこの3月に発売になり、次にイギリスで販売された。この秋からは本命市場である中国・アメリカなどでも売られることになっている。だから同社も気合いが入っているのだろう。前出・スマホ版Nebulaの刷新に加え、他にも目玉が用意されていた。

それが、冒頭で説明した「Mac版Nebula」だ。

とはいえ、Mac版はスマホ版のNebulaとは機能が異なる。ARアプリを動かすためのものではなく、「マルチディスプレイをARで実現するもの」ということになる。

9月28日には、アプリを日本向けサイトからもダウンロードできるようになった。

なお、対応機種はAppleシリコン(M1、M2)搭載のMacのみ。インテルCPU搭載Macでは使えない。

▲日本のサイトからダウンロードできる

セットアップは簡単だ。まずはMac版Nebulaをダウンロードし、インストールする。

アプリを立ち上げると、MacにNreal Airを繋ぐように促されるので接続。初回にはファームウェアのアップデートがあったが、特別なことはそのくらい。使う時、アプリは立ち上げっぱなし。マルチ画面にする場合にはアプリを起動し、そうでない時(単純にディスプレイとして使う)時には起動しない、という感じだ。

▲アプリをインストールすると、まずNreal Airのファームウェアアップデートが行われる

▲画面録画に関する許諾をオンにする必要がある。データを保存してどこかに送るわけではなく、画面を取得した上でNeal Airに表示するために必要になるための措置だ

「仮想スクリーン3画面」とはどんなものか

アプリの画面を見ればお分かりのように、「1画面」「2画面」「3画面」のモードがそれぞれあって、さらに仮想スクリーンが自分からどのくらいの距離にあるのか、ということも3つの選択肢が用意されている。

▲アプリ設定画面。表示は1画面から3画面まで。さらに、画面までの仮想距離も3つから選べる

Mac版Nebula公開サイトの画面にあるように、できるのは「3つの画面を同時に出す」ことである。それがメガネ1つでどこでもできるなら大きな進歩だ。

といっても、前出の画面にあるほど理想的な環境ができるわけでもない。中国向けサイトの画面では「まるで空中にディスプレイが浮かんでいる」かのようだが、実際とはだいぶ異なる。

この種の違いは現在のARデバイス全てに存在する制約なのだが、それがどういうことなのか、文章だけではシンプルに説明できる自信がないので、ちょっと図を用意してみた。

中央にあるのがPC(この場合にはAppleシリコン搭載MacBook)、四角錐が自分の視界、そして板が表示されている画面だと思っていただきたい。

まずもっともシンプルに、Nebulaを起動せず、普通のディスプレイとして使った時のイメージを示す。次の図のように、視界=スクリーンだと思えばいい。Nreal Airの場合視野角は約46度なので、視野中央に「前へならえ」のつもりで手を出した幅くらいの間に映像が出る、と思うとわかりやすいだろうか。

▲ディスプレイとしてNreal AirをMacにつなぐ際のイメージ。視界の中央にスクリーンが表示される感じだ

これがMac版Nebulaを使うと、3つの仮想スクリーンが目の前に「仮想的に置かれている」状況になるのだが、自分の視界(四角錐の中)だけが見えているので、正面を見ている時は正面のスクリーンだけが見える。


▲Mac版Nebulaを使って3つの仮想スクリーンを出した時のイメージ。正面を見ている時には、視野の中に治るよう、正面のスクリーンが見える

一方で、ディスプレイとして使った場合、そのまま上の方を見るとこんな感じになる。

▲ディスプレイとして使うと、スクリーンは自分の視界を覆ったままついてくる

あくまで視界全体がスクリーンで覆われている感じなので、見ている方向に画面がついてきてしまうわけだ。

それに対し、Nebulaを使って視界を動かした時にはこうなる。

▲視界を少し左上に動かすと、隣の仮想スクリーンが見えてくる。一方、スクリーンとスクリーンの間の隙間や、スクリーンがない上方の空間も視界に入る

隣のスクリーンが視界に入ってくるので同時に見えるようになり、一方、「仮想的にディスプレイが置かれていない場所」にはなにも見えない。

Nrealのウェブに表示されているイメージだと、いかにも空中に3つのディスプレイが浮いているように見えるが、実際には「3つのディススプレイがある場所を覗き込んでいる」感覚である。これは、Nreal Airの視野角が46度しかなく、視界全てを覆えていないから生まれている制約と言える。

また、ディスプレイとしてのNreal Airは片目あたり1920×1080ピクセルの表示能力を持つわけだが、Nebulaで3画面にした場合には「視界に仮想スクリーンがどう見えるか」を演算した上で表現するため、見ているスクリーンの解像度は若干下がることになる。この違いが、現在のデバイスにおける限界の1つだ。

なお、VR系機器は解像感が低くなるものの、視野角は100度を超えるものがほとんどで、「覗き込む」ようなイメージはなくなる。軽さ・画素密度と、視野角・没入感は、現状トレードオフの関係にあると考えていい。

課題は他にもあるが、多くはソフトで解決可能

とまあ、(予想通り)宣伝のイメージ映像通り、というわけではないのだが、どこでもメガネ1つで3画面になるのは便利で、インパクトも大きい。これはこれで便利だ。

Nreal Airは現在、4万5800円で販売されている。若干高い印象だが、「ちょっと高いPC用のディスプレイを買った」と思うと、まあ納得できなくはない価格だ。同様のものは今後も出てくると想定しているが、似たような値段で「ディスプレイが3つ買える」なら、こうしたものを必要としている人にとっては悪くない買い物だと思う。

Nreal Airを使うとメインディスプレイは表示しておく必要がない。だから、輝度は最低にしておけばいい。そうすると他人からは画面を覗かれる可能性がなくなるし、飛行機の中などで、周囲にディスプレイの明かりで迷惑をかけることも減る。

また、これはちゃんと検証できていないが、ディスプレイの消費電力削減も期待できる。Nreal Airも電力は食うのだが、13インチ・14インチのディスプレイを煌々と照らすよりは消費が低いだろう。

ただ、現状の環境では、視野角以外の制約もいくつかある。その多くはMac版Nebulaのソフト的性質によるものだ。

まず、「ブレ」があること。

おそらくはMac版Nebulaの改善で減らせると思うのだが、首の動きへの追従が若干遅れているのか、タイミングによっては「映像が細かくブレる」感じがする。場合によっては酔ってしまうかもしれない。ここのチューニングは早急に進めて欲しい。

2つ目に「アプリを全画面で使うと面倒」な点。これは説明が難しい。Mac版Nebulaでは、Macに仮想的に3つのスクリーンを「増やす」ことになるのだが、特別な扱い方をしているようで、macOSの仮想画面機能「Mission Control」と相性が悪い。アプリが本物の画面の方に移動しているが、Nreal Airをつけていると気付けなかったりするのだ。

3つ目に、ディスプレイを閉じて外付けキーボードなどでMacを使う「クラムシェルモード」では使えないこと。これは主にアプリを起動して操作せねばならない制約によるものである。

NrealはMac版Nebulaと同じような機能を持つ、Windows版アプリの開発も検討しているという。その時には、ブレや遅延など、ソフト面の改良で解決できそうなところは早急に解決してほしい。もちろん、Mac版の改善も。

▲公式サイトには現時点での問題点も記載されている

※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年9月26日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。

《西田宗千佳》
西田宗千佳

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