Sunoが使われた曲を見分けるツール「Blush」を作った(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

映画『ブレードランナー』のVoight-Kampff(フォークト・カンプフ)検査を覚えているでしょうか。レプリカントかどうかを調べるために、質問を投げかけながら、瞳孔の動きと「毛細血管の拡張、いわゆる赤面反応(blush response)」を測る機械です。本人が隠そうとしても、体が勝手に出してしまう反応を見る。

AIが生成した音楽にも、それがありました。生成器が隠そうとしているわけではないのに、音の中に勝手に出てしまう癖です。それを測る道具を作ったので、名前を「Blush」としました。

Sunoで生成した曲の高域には、「60ミリ秒離れた所と、ほんのわずかに似ている」という癖があります。耳には聞こえない大きさですが、計器には40曲中36曲ではっきり出ます。人の録音42曲、2024年のUdioの53曲には一曲も出ません。

これはSunoが仕込んだ透かし(ウォーターマーク。あとで検出できるように故意に埋め込む信号)ではなく、48kHz・60ミリ秒刻みで音を組み立てる「復号器」(デコーダ。生成モデルの内部表現を実際の波形に変換する部分)のファミリーが共通して持つ癖なのです。別の生成器であるYuE2でも同じ形が出ました。

もう一つ分かったのは、この癖は、いわゆる「ポン出し」(Sunoで生成したものをそのままダウンロードして使う)だけでなく、ミックスしたものにも出てくることです。Sunoのオケに人の歌を重ねた曲を分離して時間ごとに測ると、どの区間がSunoで、どの区間がそうでないかが見えてきます。

なぜ作ったか

筆者は3年近く、Sunoでたくさんの曲を作ってきました。同時に、人の歌声をAIで修正・調整するツールも作ってきました。そうなると、自分の手元にある音源のうち、どこまでがAIの出力で、どこからが人の演奏かが、自分でも曖昧になってきます。

世の中にも「AI生成曲の検出器」をうたうサービスはあります。ただ、たいていは「AIらしさ 87%」のような数字を一つ返すだけで、何を見てそう言っているのかが分かりません。どの帯域の、どの時刻に、どんな癖があるのかを、数と図で見せてくれるものが欲しいのです。それなら、判定が外れたときにも、なぜ外れたかが追えます。

既存の検出器は何を見ているのか

作る前に、世の中の検出器が何をしているのかを整理しておきます。

一番大きく動いているのはDeezerです。2025年1月から自社開発の検出器を運用していて、同じ月に「1日の新着のうち約1割、およそ1万曲が完全なAI生成」と公表しました。この割合は2026年1月に39%(1日6万曲)、4月に44%(7万5千曲)、6月には月平均9万曲で5割を超えたと発表しています。2025年6月からは完全AI生成の曲を含むアルバムに表示を付け、アルゴリズムのおすすめから外し、2025年の1年間で1,340万曲にタグを付けたとしています。2026年1月からは検出技術を外部に提供し、フランスの著作権管理団体SACEMやBillboardのチャート集計が使っています。6月には、SpotifyやApple Musicのプレイリストを貼ると中のAI曲を数える無料ページも出しました。精度は「99.8%」と自称していますが、第三者の検証は見当たりません。

Deezerが他と違うのは、中身を論文で公開していることです。2025年のICASSPに出した論文では、「本物の曲」と「その曲を生成モデルの自己符号化器(オートエンコーダ。音を内部表現に圧縮して戻す部品)に通しただけのもの」を見分ける学習だけで、プロンプトから丸ごと生成した曲も検出できることを示しました。つまり検出器が見ているのは作曲の良し悪しではなく、復号器が波形に残す痕なのです。同時に、ピッチシフトやホワイトノイズの付加、コーデックの再エンコードで「性能が劇的に落ちる」こと、学習に使っていない別系統の復号器にはほぼ効かないことも正直に書いています。

続くISMIR 2025の論文「A Fourier Explanation of AI-music Artifacts」(最優秀論文賞)は、さらに踏み込んで理屈を示しました。復号器が音を引き伸ばす段(転置畳み込み)はサンプルの間にゼロを挟んで補間するので、スペクトルに等間隔の小さな山が立つ。山の位置は学習データや重みではなく、段の構造(ストライド)だけで決まる。Encodecの48kHz版なら161本、という計算まで出ています。この山を5~16kHzの平均スペクトルから拾う単純な線形分類器で、Suno v2・v3・v3.5はほぼ100%、ただしUdioの旧版(Udio 32)は39.8%しか当たらなかった。Udioが途中で復号器の構造を変えたのだろう、と著者らは推測しています。加工への強さは「まだ手を付けていない」とし、ピッチシフトや再サンプリングには弱いはずだと予告しています。

Blushが見ている60ミリ秒の印は、この論文が言う復号器の癖を、時間の側から見たものにあたると筆者は考えています。周波数の側から見れば等間隔の山、時間の側から見れば一定の遅れの山で、同じものの表と裏です。違いが出るのは加工への強さで、Deezerの方式は山の位置が周波数で決まるためピッチシフトに弱いと著者ら自身が見込んでいるのに対し、Blushは後述するように、ずれた先まで追いかけます。

ソニーは別の問いに取り組んでいます。2026年2月に日経が報じたソニーグループ(Sony AI)の技術は、「この曲はAIか」ではなく、「このAI生成曲は、どの既存曲をどれだけ学習して作られたか」を推定するものです。協力する開発元があればモデルの内部を直接調べ、なければ生成曲を既存カタログと突き合わせて統計的に推定する。「この曲の3割はこのアーティスト由来」という形で出し、権利者への分配の根拠にしたいという狙いです。NeurIPS 2025で発表した「学習データの寄与を unlearning で測る」研究が元で、提供時期は未定とされています。

また、ソニーCSLパリは2026年6月に、人の演奏とAIのステムが混ざった曲で「AIの割合」を連続量として推定する研究を発表し、「既存の二値の検出器は、現実的な混合では AI の量を系統的に過小評価する」「楽器によって感度が大きく違う」と指摘しています。

ほかに、IRCAM Amplifyの検出器(2024年、自称98.5%、生成器の種類まで当てると主張)、Spotifyの方針(2025年9月。検出や表示は自分ではせず、7,500万曲のスパム削除、声の無断複製の禁止、DDEX規格でのAI使用申告をレーベル側に求める)、そしてSuno自身が2026年8月6日に発表した透かしとフィンガープリントの導入(Audible MagicとMusixmatchと組む。技術の中身は非公開。ミュンヘンの裁判所がGEMAの訴えを認めた6日後)があります。研究用のデータセットも、SONICS(Suno・Udioの5万曲)に続き、2026年にはHAIMのように「AIマスタリングした人の曲」「人がマスタリングしたAI曲」「AIボーカルを人の曲に重ねたもの」といった混合を体系的に集めたものが出てきました。

並べてみると、二つのことが言えます。一つは、まともな検出器が見ているのは結局「復号器の痕」であって、音楽性ではないこと。もう一つは、どの陣営も「混ぜ物」と「加工後」を弱点として挙げていることです。Blushはその二点に向けて、「痕を時間と帯域で見せる」「混ぜ物はステムと時刻で割る」「加工で動いた先まで追う」という作りにしました。

7層の計器

Blushは曲を7つの層に分けて測ります。

  1. 容器(コンテナ。ファイル形式、サンプリング周波数、エンコーダの名残):配布経路で変わるので、判定には使いません

  2. 高域:どこで音が切れているか(ローパスの遮断点)、崖の鋭さ(遮断より上でスペクトルがどれだけ急に落ちるか)

  3. 床(ノイズフロア。静かな所に残っている雑音):その大きさと振る舞い

  4. 変調:音量の包絡(エンベロープ。音の大きさの起伏をなぞった線)に出る、一定の周波数の「櫛」(コーム。等間隔に並ぶ山)

  5. 左右:ステレオの相関(左右チャンネルがどれだけ同じ動きをしているか)

  6. 繰り返し:同じ波形の打点(トランジェント。ドラムなど音の立ち上がり)、1秒単位のコピペ

  7. 残差の自己相関:高域を白色化(ホワイトニング。楽音による起伏を均して、残りを雑音に近い形にする)した残り(残差)に、固定の遅れで似ている所があるか(自己相関。自分自身を時間方向にずらして重ね、似ている度合いを測る)

それぞれの層が、数字と、時刻の証拠と、日本語の一言を返します。「16.0kHzで落ち、鋭さ22dB/kHz」「包絡の変調スペクトルで一番立つ櫛は50Hz」という具合です。最後に全部を一枚のボード(ダッシュボード。7層の結果をまとめた1枚の画像)にまとめます。

作りながら分かったのは、1から6までの層は、ほとんど「時代」を測っているということでした。手元の人の録音は、1960年代後半のブルースロックや70年代のピアノソロライブが中心です。高域の崖も、床の雑音も、左右の広がりも、AIと人を分けているように見えて、実は2020年代と1970年代を分けているだけでした。

効いたのは7番目。

60ミリ秒の印

やっていることは単純です。曲の6~15kHzを取り出し、音の大きさの起伏を均して(白色化して)、自分自身を少しずつずらして重ねます。ある遅れで似ていれば、その遅れに山が立つ。普通の音楽なら、拍やテンポに由来する遅れに山が出ます。

Sunoの曲では、拍とは関係なく、きっちり60.0ミリ秒と120.0ミリ秒に山が立ちました。統計的な高さ(z値。周りのばらつきを1としたとき、山が何倍飛び出ているか)で言うと、5を超えれば偶然とは言いにくいところ、Sunoの中央値は12と14、強い曲では30近くまで行きます。人の録音の最大は6.8と5.4で、両方が5を超えた曲は一曲もありません。

▲残差の自己相関:Sunoと人の比較

60ミリ秒は、48kHzのサンプリングで2880サンプルです。Sunoの音を組み立てる復号器は50Hz、つまり20ミリ秒を一枠(フレーム。生成モデルが一度に扱う時間の単位)として動いていると見られ、その3枠分にあたります。音を枠ごとに作って継ぎ合わせるときに、継ぎ目の癖が一定間隔で残る。その残り香が、60ミリ秒の山です。

大きさは、高域に対して−19dB、曲全体に対しては−35~−40dB。音として聴けるものではありません。実際、印を60ミリ秒周期で201回重ねて平均しても、61ミリ秒周期で同じことをした対照より3~4dBしか浮かびませんでした。足し算で取り出せる「音」ではなく、「時間の揃い方」なのです。

透かしではなかった

最初は、Sunoが入れている透かしかもしれないと思いました。Sunoは2026年8月6日に、透かしとフィンガープリント(音から取った指紋のような特徴を登録しておき、照合する仕組み)の導入を発表しています。

そこで、別の生成器で確かめました。筆者のもう一台のマシンで動いているオープンな音楽生成モデルYuE2で曲を作り、同じ計器にかけたところ、60ミリ秒と120ミリ秒に、Sunoと同じ形の山が出ました。4曲中4曲です。

Sunoが仕込んだものなら、YuE2に出るはずがありません。つまりこれは、48kHz・60ミリ秒刻みの復号器を使う生成器の「癖」です。透かしではなく、赤面反応でした。

ただし、ファミリーの中でさらに見分けはつきます。4層目の「櫛」を見ると、Sunoは音量の包絡に50Hz系列(50・100・150・200Hz)の櫛が出るのに対し、YuE2は25Hz系列(75・150Hz)が強く出ます。復号器の枠の切り方が違うのです。

一方で、2024年のUdioの53曲には、この印はまったく出ませんでした。今のBlushでは「印なし」としか言えません。ちなみに現在はダウンロードがそもそもできないので意味がありません(まだ毎月10ドル払っていたことに気付き、先ほどキャンセルしました。バイバイUdio)。

そして、Google Flow Musicにも印は出ませんでした。こちらにはSynthIDを埋め込んでいることが明言されています。こちらは性能がイマイチなんですよね。

今ならYuE2の方がいい。

何をしても消えないか

印が実用になるかは、普通の加工で消えるかどうかで決まります。試した結果はこうでした。

  • MP3 128kbps:残る。64kbpsで半分になる

  • 高域を−6dBするEQ:残る

  • 44.1kHzへの変換:残る

  • 音源分離(Roformer。歌と伴奏などのステムに分けるAIモデル):歌と伴奏の両方に残る。歌のほうが強い

  • AudioSRによる高域の補完:残る。12kHz以下を素通ししているため

  • 半音上げるピッチシフト:消えない。山が60ミリ秒から56.6ミリ秒にずれるだけ

  • DAWのタイムストレッチ:同じ理屈で、ずれるだけ

ピッチシフトの結果は、筆者が最初に間違えたところです。「速度や音程を変えれば消える」と思い込んでいましたが、測ると、山は位置を変えて残っていました。そこで、60ミリ秒の前後±3半音の範囲で山を探す「走査」(スキャン。遅れを少しずつ変えながら山を探す処理)も付けました。

消えたのは二つだけでした。一つは、RVCのようなボコーダ(音の特徴から波形を合成し直す部品)で波形をまるごと作り直したとき。もう一つは、後で述べる「印消去」です。

ポン出しでないAI混じりの曲はどう?

AIで作って書き出したままの、いわゆる「ポン出し」でなければ、例えばボーカルなど一部で使った場合はどうなのか。

Sunoのオケと女性コーラスに、筆者の歌をRVCで声を変えて重ねた曲があります。これをBlushに「ステム分離」つきでかけました。Roformerで伴奏と歌に分け、歌をさらにカラオケ用のモデルで「主」(その時点で前に出ている声)と「他」(コーラスなど、それ以外の声)に分け、それぞれを20秒の窓(ウィンドウ。測定の区切り)で区切って印を測ります。

▲窓ごとの表:主・他・伴奏のz60が時刻ごとに赤と緑で並ぶ

結果は、伴奏とコーラス側には全区間に印があり、リードボーカルは区間によって違いました。女性の声が一人で歌っている区間には印があり、筆者がリードボーカルを取っている区間には印がありません。RVCはボコーダで波形を作り直すので、通った声からは印が消えます。筆者の曲の作り方を、計器が言い当てた形です。

Blushはこのような傾向を見つけると、「混ぜ物の疑い:主の声は窓によって印の有無が割れる」と注意欄に出します。表の行を押すとその時刻に飛んで、ステムを切り替えて聴けるので、どの区間が何かを自分の耳でも確かめられます。

印を散らす

測れるなら、消すこともできるはずです。印の正体が「60ミリ秒きっかりの時間の揃い方」なら、高域の時間をほんの少し揺らせば散るのではないか。

作ったのが「印消去」です。6kHzより上だけを取り出し、1~3Hzのゆっくりした揺らぎで、速度を0.1%だけ上下させながら読み直して、低域に足し戻します。音程にして±1.3セント(セントは半音の100分の1)、低域とのずれは最大でも0.86ミリ秒。1ミリ秒は音が34cm進む時間で、スピーカーの置き方の違いより小さい量です。

これで、z値が28あった曲が4まで落ちました。0.05%では60ミリ秒側が残り、0.10%で両方消えます。

▲印消去の前後の表

聴いて分かるかどうかは、ABXテストで確かめました。元と印消去後を、どちらか分からない状態で当てる試験です。0.2%と0.5%では筆者は当てられました。

ただ、「悪くなった」とは感じませんでした。違いはあるが劣化ではない、という結果です。0.10%では当てられていません。Blushの画面には、処理後のファイルをダウンロードする前に、必ずこのABXが並ぶようにしてあります。

なお、印消去で消えるのは60ミリ秒の印だけで、4層目の櫛はそのまま残ります。全部の赤面反応を消す道具ではありません。

最初は「鑑別」と呼んでいました。作っているうちに、この言葉の不穏さが気になってきました。鑑別は、本物と偽物を分ける言葉です。しかしこの計器が測っているのは真偽ではなく、音の中に残った製造の痕跡です。

Voight-Kampff検査は、人間とレプリカントを分けるための装置として描かれますが、測っているのは赤面反応と瞳孔という、ただの生理反応です。判定するのは機械ではなく、それを見る人間でした。この計器も同じであってほしい。数字と図を出すところまでが仕事で、「だからこの曲はAIだ」と言うのは人間の側です。それで「Blush」にしました。

ただ、AIが含まれた楽曲だと判定しても、AI楽曲から撃たれる心配は、たぶんありません。

Blushは筆者の手元のマシンで動いていて、曲を渡すと10秒ほどで結果が返ってきます。

ここに公開した情報だけで、おそらく誰でもプログラムを作れると思います。

何がAIっぽいのか、どこが人間らしいのか。その境界はどこにあるのか。みなさんそれぞれの指標で試してみるのも面白いのではないでしょうか。

《松尾公也》

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松尾公也

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