DJI Avata 360は“実験機”だ 視点と操縦を分離したドローンの正体(アルファ会員寄稿)

ガジェット カメラ
高須正和

中国・深圳在住。コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。MakerFaire 深圳、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。早稲田大学非常勤講師。@tks

矢継ぎ早に新製品を投入する深圳のDJIから、新型ドローン「Avata 360」が登場した。DJIは2025年、Osmo 360という360度カメラを発表した。今回のAvata 360は、同じ自社開発の1インチセンサーをドローンに搭載し、飛行しながら360度の映像体験ができ、かつ撮影もできる。360度カメラを搭載したドローンとしてはAntigravity A1が話題だが、DJIからも同様の製品が登場するわけだ。


▼Osmo 360とAvata 360。同じサイズのレンズとセンサーが搭載され、8Kの360度映像が撮影できる。4月以降、地域に応じて順次発売予定。価格は77,330円~。

筆者はこれまで、DJI AvataやMiniシリーズなど複数の機体を使ってきた。今回、DJIからの機材提供によりAvata 360を実際に飛ばす機会を得たが、実際に飛ばしてみて感じたのは、これは単なる高性能機というより、撮影の体験や前提そのものが変わる、新しい機材・言葉で説明しにくく、実際に触って初めて理解できるタイプの製品だということだ。

Avata 360は従来のDJIドローンと同じN3コントローラと、ゴーグル+モーションコントローラを使ったFPV操作の両方が可能だ。

▼映像撮影時はN3コントローラで操作することになる

まず動画で、その「不思議な感覚」を味わってほしい。

■ 同じフライトから「複数の映像」が生まれる

次の2つの動画は、まったく同じフライト、同じ動画素材から作ったものだ。

▼360度映像から編集ソフトでキーフレームを設定して通常のHD動画にしたもの

▼フライトの動画を、360度映像のままYouTubeにアップしたもの。

最初の動画はPC上の編集ソフトDJI Studioでキーフレームを設定し、カメラワークを固定したものだ。エフェクトをいろいろ試している落ち着かない映像だが、フォーマットとしては普通のHD映像だ。
それに対し360度映像のほうは、再生しながら画角を自由に変えられる。YouTube上ではズームできないが、編集ソフト上では最初の動画にあるように、かなり大胆なズームイン・ズームアウトも行える。ズームすると解像度は下がるが、視野角105度の状態でHD画質は担保できている設計だ。

Avata 360では、1回のフライトで全方向を記録しているため、編集時に視点を再構成できる。飛ばしているときとは別に、再生しながら空間の中で映像処理ができるのはかなり独特な感覚だ。

従来のDJIのドローンでは、「どの方向を向いて飛ばすか」「どのタイミングでカメラを動かすか」といった判断が常に求められた。それに対してAvata 360では、とりあえず飛ばしておいて、後から飛んだ空間を操作しながら映像を作ることができる。ほかの360度カメラでも同様だが、カメラでなくドローンは空間を飛行しているぶん、見たくなる範囲も広くなる。

■ アクティブトラックと360度撮影による新しい映像

この特徴は、被写体追従(アクティブトラック)でさらに分かりやすくなる。

ドローンを使った自動追尾撮影、アクティブトラックはもう珍しくないものだが、Avata 360のアクティブトラックは被写体を中央に置いたままコントローラでドローンを操作する余地があり、被写体を中心に回転操作をする、被写体との距離を調整するなど、撮影の自由度が上がっている。

▼被写体を追いかけるアクティブトラック

さらに、これまでのドローン撮影では、アクティブトラックで撮影された動画は対象が中心に置かれたthird person view的なものに限られていたが、Avata 360では同じ動きで別の視点の映像も切り出せる。

▼アクティブトラック飛行中のドローンから切り出した動画を360度撮影のままアップしたもの

アクティブトラック中も、ドローンは360度映像を撮影し続けている。なので、その動画を後で、追いかける対象だった僕をまったく映さずに再編集することもできる。

■新しい映像を実現する、障害物検知と映像伝送、バーチャルジンバル技術

アクティブトラック中のドローンを外から撮影してみると、追尾されている僕が、方向を変えていろいろ動き回ったことで、ドローンがかなり急激な挙動をしているのがわかる。アクティブトラック中は自動で追尾してくるのでこういうこともできる。(前述したとおり、視点固定のまま回転操作だけをコントローラから操作することもできる)

▼アクティブトラック中のAvata 360を別のスマホで撮影したもの。

ドローンは急激な方向転換などをしていても、360度カメラで撮影し続けることで、映像ではそれを感じさせない。バーチャルなジンバルといえる。

こういう自動飛行では衝突が心配だ。Avata 360では、360度映像と複数のセンサーによる全方位障害物検知が常に働いて、障害物に接近するとアラートが鳴り、必要に応じて減速・回避を行う設計になっている。さらに前方にはLiDARが搭載されており、暗所でも障害物を検知できる。

このため、アクティブトラック中でも被写体の追尾は機体が行い、障害物は自動で回避するという役割分担が成立している。

従来は「追う」と「避ける」を操縦者が同時に判断する必要があったが、その負担がかなり軽くなっている。

さらに、コントローラ操作時でも後述するゴーグル操作時に、視点を回転させたり急に向きを変えたりしても、映像伝送が途切れず滑らかに追従する。これはO4+の映像伝送と機体側の補正処理が組み合わさっているためで、体感としては「視点だけが自由に動いている」ように感じる場面も多かった。

結果として、「機体の動き」と「映像の動き」が分離されている。

■ ゴーグルで体験する簡単ACRO

ゴーグル+モーションコントローラでAvata 360を飛ばすと、撮影機材よりも体験としての楽しみがより強くなる。ゴーグル操作時でもビデオ撮影は可能だが、いくつかの機能を使っていると録画が中断するなど、飛ばして楽しむほうの優先順位が高いのだろう。

かわりに、ゴーグルにSDカードを差して、飛行中の動画を操作画面ごと録画して、飛行の追体験ができる。

もっとも「らしい」機能が簡単ACROだ。360度カメラを使用することで、宙返りやバレルロールなどのアクロバット飛行をしているような視点が体感できる。

▼簡単ACROモード。これは空中にいる間にチュートリアルを見て捜査しているのだが、飛行安定性が高く、不安はない

実際にドローンが宙返りしているわけではなく、そのように360度カメラの映像が動いているだけなのだが、インパクトは大きい。

▼ゴーグルを向けた側に飛行するヘッドトラッキングモード

ヘッドトラッキングモードでは、ゴーグル内のモーションセンサを使って、顔を向けた方向にドローンが進んでいく、FPV飛行が楽しめる。

▼ゴーグル操作時はコントローラも、傾けて操作するモーションコントローラ(または、FPV用のプロポ)となる。

ヘッドトラッキングによって視点を直接動かせるため、従来のFPVのように機体の向きに縛られない。

ここでも重要なのは、視点を動かしても映像が破綻しない点だ。
360度で常に全方向を記録しているため、どの方向を見ても映像が途切れない。

この仕組みによって、ドローンを操縦しているというよりもより「なぜか空にふわりと浮いている」感覚になる。

■ ゴーグル使用時により価値が出るReturn to Home機能

ゴーグルを使っての飛行中、特に簡単ACROなどを行うと、自分がどこにいてどこに向かっているのか、どこから離陸したのかがわからなくなりがちだ。このとき重要になるのがReturn to Home(RTH)だ。

▼これはコントローラ操作時の自動着陸だが、色付きの離陸場所パネルとあわせて、元の場所に帰ってくれるのはありがたい

Avata 360では、GNSSとセンサー情報を組み合わせてホームポイントに自動帰還できる仕組みがあり、ゴーグル使用時の弱点を補っている。

■ 操作は従来通り、チュートリアルも充実

コントローラで飛ばすだけなら、基本的な操作については、従来のDJI製ドローンと大きくは変わらない。モーションコントローラでの操作時を含めて、動画とステップバイステップ操作によるチュートリアルが非常によくできている。

▼ゲームのように、操作するごとに機能がアンロックされていくチュートリアル

操作系はこれまでの延長線上にあるが、内部ではかなり複雑な処理が動いている。全方位センサーやビジョンシステム、LiDARが常時周囲環境を認識し、飛行制御にフィードバックしているため、操縦者が細かく環境を把握していなくても飛ばせる設計になっている。

この「操縦の負担を機体側に寄せる」設計が、そのまま撮影体験にもつながっている。

■ Avata 360はどういう製品なのか?

Avata 360は、価格帯としては、Mini 5 Proの少し上に位置する。スペックだけを見ると、1インチセンサーや8K対応といった点から、本格的な映像機材としての使い方も可能に見える。

ただ実際に使ってみると、この機体の価値は単純な画質や性能よりも、ドローンを使った映像撮影の体験そのものを変える点にあると感じる。従来の空撮機の延長というより、「ドローンに何ができるのかを、改めて考え直す」ポジション。38.67 Whという巨大なバッテリにより離陸重量455g、それでいて飛行時間は23分。空撮機材というより、空を飛ぶスーパーコンピュータといった感じだ。

Avata 360は、従来のドローンと同じように飛ばすこともできるが、飛行中にカメラワークを決めるのではなく、撮影後に視点を選ぶというアプローチは、これまでの空撮とは違った体験をもたらす。

その裏側では、全方位センサーやLiDAR、映像伝送、姿勢制御といった技術が統合され、操縦と撮影の負担を機体側に引き受けている。

結果としてこの機体は、「どう飛ばすか」に加えて、「空を飛ぶ映像機器に何ができるか」を、実際に触って試させる製品になっている。


《高須正和》
高須正和

中国・深圳在住。コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。MakerFaire 深圳、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。早稲田大学非常勤講師。@tks

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