国内向けクラファンを開始したAIメガネ Halliday Glasses (ハリデーグラス)のレビューをお伝えします。
Halliday Glasses はGyges Labsが開発・Halliday Global社が販売する「AIグラス」。
普通のメガネにしか見えない本体に独自の投影式ディスプレイ「DigiWindow」を備え、視界の隅に浮かぶ画面で翻訳やAIアシスタント、スマホの通知表示などができる製品です。

良いところ
・普通のメガネそのものの外見、約30gの軽さ
・視認性の高いDigiWindowディスプレイ。時刻や曲名表示だけでも便利
・AIチート芸ができるProactive AI(先読みAI)
・メガネに触れる必要がない指輪型コントローラー(別売り)
・日本語対応。翻訳の多言語対応

買う前に知っておきたいところ
・DigiWindowは狭く単色、「軸合わせ」が必要で見え方に個人差
・全体にソフトは粗削り。接続や挙動の不安定、反応のもたつきも
・イヤースピーカーは「一応聞こえる」音質。音楽鑑賞には不向き
・文字起こしや高精度翻訳、先読みAI等はAIクレジットを消費
独自の投影式ディスプレイDigiWindow

Hallidayグラスの特徴のひとつは、開発元 Gyges Labsの投影式ディスプレイ技術「DigiWindow」を採用すること。
DigiWindowはマイクロLEDの映像を瞳に直接投影するディスプレイ方式。Hallidayグラスでは右側レンズ上のフレーム部分に搭載しています。
いわゆるメガネ型ディスプレイの光学系としては、大別して
・XREALやVITURE等が採用するハーフミラー式(サングラス風レンズの内側にミラーやプリズム)
・Meta Ray-Ban Displayなどが採用するウェーブガイド式(メガネのレンズ自体に微細な加工で光の経路を作る)
の二種類が多く使われていますが、DigiWindowはこのどちらでもなく、直径3mm程度の小さなレンズで瞳に直接マイクロLEDディスプレイの光を届ける方式。
プロジェクトページにある「網膜投影」の定義に当てはまるかは若干ややこしい問題ですが、眼が遠近どちらを見ていても、DigiWindowの映像はぼやけず見やすい特性があります。

Halliday Glassesでは緑単色ではあるものの、全体を非常に小型にでき、環境光の影響を受けにくいことも利点です。
(若干ぼやけて見えるのは撮影時の都合。肉眼ではくっきりと見えます)
DigiWindowは上フレーム部分に収まるため、メガネとしてのレンズはただのレンズで、映像表示と無関係。
標準ではプラスチック製のレンズが入っていますが、一般のメガネ屋さんで交換レンズを作ることができ、度付きにしたり色を入れたりも自由です(フレームにあわせてレンズをカットできる店舗なら)。
あるいは芸能人の撮影用メガネのように、レンズを外して枠だけでも何の問題もありません。

実際の表示は、右眼側の視界上部に黒背景の緑単色ディスプレイが浮かんで見えます。
サイズと位置はメガネの掛け方や個人の調整によるため表現が難しいものの、イメージとしては右手をまっすぐ前方、45度ほどの高さに伸ばして、手のひらを向けた程度の広さ。
掛け方によるものの、普通に前を見ている状態では周辺視野になんとなく緑の光が見えるか、何も見えない程度。
視線を上に向けて、メガネの上フレームにあるDigiWindowと視軸を合わせることでディスプレイ全体が見えます。
メガネをかなり低めに、上フレームが眼の前を横切る程度にしないかぎり、正面とDigiWindowは同時に見えません。(DigiWindowを見ている状態でも、周辺視野で正面は見える)

通常の掛け方で使う場合、対面の相手の言葉を翻訳したり、「チートシート」でプロンプターの原稿を読んだり、Proactive AIの解説をカンニングするときは、やや上方に眼が泳ぐことになります。
実際、テーブルを囲んで歓談中にDigiWindowを注視していた際は、対面の相手に何を見ているのか、後ろになにかあるのか訊かれたことも。
-8.50D~+2.50Dの範囲で近視・遠視にも対応しており、DigiWindowを回して調整すれば、追加の補正レンズ等を買う必要もなくクッキリと鮮明に見えます。(写真で文字がぼやけているのは、手持ちのスマホで無理やり撮影したため)
カメラは非搭載、約12時間駆動バッテリー

ディスプレイ以外のハードウェア仕様はマイクとスピーカー、通常使用で約12時間使えるバッテリー、ツルの先端から直接USB-Cケーブルで充電する方式、連携する指輪型コントローラなど。
いわゆるスマートグラスにはカメラを搭載して写真や動画が撮影できたり、見えているものについてAIに質問したり、現実の物体に表示を重ねるといった製品もありますが、Hallidayグラスはカメラ非搭載です。
メーカーによれば、これは消費電力やサイズ、価格等を考えた判断。Hallidayグラスは基本的にスマホアプリと接続して機能しますが、カメラならばそのスマホにずっと良いものが載っているのだから不要という言い方です。
常時掛けるメガネとしては、自他のプライバシー懸念的な意味でむしろないほうが気楽という考えもあるかもしれません。
バッテリーは「通常使用で」約12時間。デフォルトで有効になっている画面自動消灯時の時間と思われますが、ただ時刻を表示するだけなら無効にして常時表示でも1時間で10%弱しか減らないため、つけっぱなし運用も検討に値します(指輪が常時反応になってしまうので切断する手間が考えどころ)。
自動消灯した場合は指輪のボタンを押し込むか、本体のボタンで点灯します。通知で画面ウェイクも設定可能。
通知については、手元で試した範囲では、スマホ側の通知設定との齟齬なのか、アプリとの接続の問題なのかリアルタイムに届かないこともあり、重要な連絡を待っている際に頼るのは推奨しません。
「先読みAI」と日本語対応が売り
Halliday Glassesは専用のスマホアプリと連動して、スマホの通知や時刻表示、翻訳などAI機能、音楽再生(曲名・アーティスト名表示)、音声メモやリマインダー、通話などの機能・アプリが使えます。

機能としての売りは、会話を分析して必要な情報をあらかじめ提示するという「先読みAI」ことProactive AI。
先読みといっても、話の流れを読んでまだ出ていない用語等を調べてくれるほどではなく、会話や講演などの音声から認識した単語や文について、ユーザーが明示的に操作する前に、「先回り」して自動的に短文で答えてくれるイメージです。
実際に試してみると、機能を把握して使いどころを選べば、一定の範囲内で実用的。基本的には単語や短文に対してLLM(大規模言語モデル)ベースのAIボットが短い返事を返すだけなので、大半は「(聞き取った単語)について知りたいのですね」だったり「(短文)なのですね。承知しました」など、特に文脈理解もない、情報量の乏しい回答を続けます。
一方で、質問の体裁になっている文を認識した場合や、「(単語)について何を知りたいのですか?」に続けて訊いた場合は、一般的な軽量LLMに期待される程度には、短文ながら素早く回答してくれます。
たとえば対面の相手に何か質問された場合、または自分で疑問文を声に出せば、数秒後には答えが視界の隅に浮かぶ状態に。
あらかじめProactive AIモードにしておけば、質問ごとに「OK Google」などのウェイクワードで始めることも、 ボタン長押し等も必要ありません。
基本的には「(機能の起動中は)ずっと聴いているAIチャットボット」としての便利さですが、使いようによってはスピーチや質疑応答でも、AIチート的に使えるかもしれません。

たとえば「世界で一番高い山は誰でも知っていますが、では三番目に高い山の標高はご存知ですか?」など、まったく知らなくても自信満々に聴衆へ問いかければ、わずかに間をおいて視界の端に「>世界で三番目に高い山はカンチェンジュンガで、標高は8586mです」と表示されるため、当然知っていますが皆さんの知識を試しました風に「そう、8586mを誇るカンチェンジュンガです」と続けることができます。眼は不自然に上に泳ぎますが。
あるいは「9万9052円の25%引き」、「10年は何秒」などの計算も、大きな音で耳に入るかユーザーが口に出せばすぐに回答。
あらかじめ起動しておく必要はありますが、ややこしいポイント還元や利率、割り勘を即座に「暗算」してみせる隠し芸は披露できるかもしれません。
弱点としては、Web検索して答えるわけではないため、あくまでLLMのモデル内で完結した知識しかないこと。LLMらしく訊き方で回答が変わったり、不正確なこともあるなど。

(画像:すらすらと都市圏の人口と比較を述べるつもりが、「サンフランシスコの人口」は聞き取れているのに数字ではなく「サンフランシスコの人口について、どのような情報が必要ですか?」と聞き返してくるため若干困っているログ)
素のLLMには難しいリアルタイム情報、たとえば今日は何日?には「2024年5月16日金曜日です」。2025年秋に尋ねても2024年と答えるため、その前後に学習を終えたAIモデルをカスタマイズしたと思われます。
あくまで「先読みAI」の回答で、システムとして時計や時刻は正しく表示しますが、一般的なチャットボットのようにシステム側の日付を参照したり、システムプロンプトとして正しい日付を与える等の処理は現時点でしていないようです。日本の総理大臣は?は文脈や訊き方によって正しく答えたり、2024年当時の岸田文雄首相と答えることも。
また、プロアクティブAIはバッテリーが続く限り有効にできるわけではなく、しばらくつけっぱなしにすると認識中のアニメーションを表示しつつ実際には機能しなくなることがありました。
常に聞き取りと認識を続ける仕組み上、残り時間を消費しないよう切れる仕様なのか、本体とアプリの接続がサイレントに切れる症状なのか、その他の不具合なのかは切り分けできていませんが、怪しいときは一旦停止させて再開するとそこから認識してくれます。
翻訳は約50言語に対応

(画像:映像コンテンツを見ながら英日翻訳。暗黒卿がやたらと丁寧に敬語を使う以外はおおむね正確です)
翻訳機能もそれなりに実用的。無料の通常翻訳で日本語を含む11言語、クレジットを消費する高精度翻訳では約50言語に対応します。
マイクは超高感度・高精度というわけではないものの、自分の発言だったり、自分にはっきり聞こえる対面の相手の声、周囲の全員に聞こえるアナウンスなどは聞き取ってくれます。
聞き取れている限りは翻訳精度も意外と高く、英語と日本語など語順が違う翻訳でも、数秒程度の遅れでリアルタイムに翻訳し続け、文章が続くにつれて書き換えるタイプ。

一般的ではない固有名詞に弱い、誤認識が混ざると訳文も混乱する、長い文脈まで考慮できないのは、一般的なスマホの半リアルタイム翻訳アプリと同様です。
ある程度の大きな音である必要はありますが、字幕のない外国語の動画コンテンツで大まかな内容を掴んだり、外国語の構内アナウンスを読むといった使い方はできます。
通知はスマホを反映。曲名表示が地味に便利
このほかの機能では、通知表示が地味に便利。シンプルにスマホの通知を受けて表示するだけなので、LINEやSlack、X / Twitter や Instagram等々、スマホの通知にできればテキスト部分は何でも表示できます。
通知にはフィルタとピンの仕組みがあり、スマホ側では見たいけれど視界にいちいち入っては困る、この人のメッセージは最優先でトップ表示など区別したいときに設定が可能です。
指輪コントローラでは、消灯状態からクリック+スワイプで通知センター表示。メニュー階層を辿る必要はありません。
「音楽」アプリは、スマホで再生中の曲名とアーティスト名を表示して、再生・一時停止や曲送りができる機能。
Halliday自体に音楽ライブラリのブラウズやローカル(スタンドアロン)再生、声でアーティストを指定して再生させる等の機能はなく、あくまでBluetoothイヤホン+曲名表示付きリモコンです。
ヒットチャートやステーションなどで音楽を聴いている際、この曲なんだろう?を即座に視界に表示できたり、耳でイントロを判別することなく曲名を読んで曲送りができるのは快適。
スピーカーは「一応ついている」程度。耳元で音漏れを聴かされるような音質で、オープンイヤータイプの不利を考慮しても音楽鑑賞用にはおすすめしませんが、どんな音質でも脳内の記憶から再生する補助にはなる的な意味で、あるいはコンテンツや楽器によって、聴こえていること自体に意味がある場合は役に立つかもしれません。
幸いメガネなのでイヤホンとは両立可能。Hallidayを曲名表示リモコンに使い、曲自体はAirPodsで聴くといったこともできます。
他のアプリを軽く紹介すると
・チートシート
任意テキスト表示機能。スマホアプリで貼り付けたテキストを表示する。日本語も表示でき、そこそこ視認性の高い等幅フォント12 x 12表示になる。

(画像:チートシート(プロンプター)。肉眼ではもっとクッキリ見える)
メガネのツル部分のタッチパッドか、リングのスワイプでスクロールするほか、自動スクロールにも対応。プロンプターや視界に常時表示のメモとして使える。
その気になれば短文エッセイや小説を読むこともできなくはない。
・音声メモ
そのまんまの機能。スマホアプリに日時タイトルで転送されるほか、AIクレジットを消費すれば約50言語で文字起こしにも対応。音声・文字起こしのエクスポートにも対応。
・リマインダー
短文を時刻指定で表示するシンプルなリマインダー。メガネ側で内容を音声入力・日時をダイヤル式入力することも、スマホアプリで登録もできる。
・電話
電話。スマホ側の通話履歴にはアクセスできる。
総評。時計表示だけで嬉しいミライガジェット感、ソフトの完成度はこれから
最大の特徴であるDigiWindowは近視・遠視の視力補正に対応することや、高輝度の緑で驚くほど視認性は高い一方、表示面積は狭く、情報量も比較的少なく、小さなレンズを覗く仕組みから位置合わせ・軸合わせがシビアで、微妙にズレるだけで表示が欠ける課題も。
何人かに試してもらい感想を尋ねた範囲ではくっきり見える!と驚くほど好評だった一方で、従来型のスクリーンとはかなり体験が違うために、イメージ映像からの想像と違った、見にくいじゃないかと評価が分かれそうな点です。

売りの「先読みAI」は、装着するだけで第二の脳として知性拡張!AIが賢く先回り!的な宣伝文句にあまり大きな夢を見なければ、「軽量LLMが(アプリ起動中は)常時聞き取りして、一般的な質問ならば短文テキストで回答し続ける」範囲で実用的。
ソフトウェアは本体インターフェースおよびスマホアプリの日本語化、翻訳の多言語対応など見るべき点も多い一方で、グラス側はよく言って簡素で伸びしろの塊、悪く言えば機能が少なく不具合も残る状態。

たとえばシンプルなバグとしては、再生中の曲表示は個人的にこれだけで元が取れるほど嬉しい機能で実際に役立つ一方、曲名・アーティスト名のフィールドをちゃんと書き換えず新しいテキストだけを上書きするため、「米津玄師・レイザー」や「エド・シーラン田ヒカル」「Ado王蜂Z」など恐ろしい合体事故や夢のコラボグループが爆誕します。(執筆時点に発生)
ほか今後の改善に期待の部分としては、全体にやや反応がもたつき、特にリングコントローラではタップから半拍遅れて反応したり、入力を取りこぼすことも。操作するたびに一瞬待って入力を確認したり、反応がなければもう一度、の小さなストレスがあります。
リングコントローラの接続がいつの間にか切れる症状もありましたが、最新のアップデートで改善項目に含まれていました。全快したかは不明。

スピーカーの音質など残念な点はあるものの、総合的にはノベルティ的なガジェットとしてだけでなく、翻訳や先読みAIなどシンプルながら一定の実用性も備えた製品であることは確か。
なにより、視界の隅にいかにもデジタル!というグリーン単色のディスプレイが浮かぶDigiWindowには、どことなくレトロフューチャーな魅力があります。
自動消灯をオフにしても1時間に約10%しか減らないため、常時表示でシンプルな「時計つきメガネ」「曲名表示メガネ」な期待値をおいて、ボーナスとして時々AIアプリや通知確認、翻訳などの運用がおすすめです。









