1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、GoogleのLearnLMチームが開発した、生徒の興味や理解によって生成AIがその人に合わせた内容に自動変更する教科書システムを提案した論文「Towards an AI-Augmented Textbook」を取り上げます。

▲ゲームが好きな生徒向けにパーソナライズし、複数の表現形式(テキスト、音声、スライド、マインドマップ)と学習支援機能(質問やクイズなど)を提供している画面
従来の教科書は、どんなに優れた内容であっても、すべての学習者に同じ形式で同じ内容を提供するという根本的な制約を抱えていました。学習者の理解度、興味関心、学習スタイルは千差万別であるにもかかわらず、それぞれに最適化された教材を人の手で作成することは、時間とコストの面で現実的ではありませんでした。
研究チームが開発した「Learn Your Way」は、この課題に対してGemini 2.5 Proを活用したアプローチを提示しています。システムは2段階のAI生成スキームを採用し、まず元の教科書テキストを学習者の属性に基づいてパーソナライズし、次にそれを多様な表現形式と評価要素に変換します。
第1段階のパーソナライズでは、学年レベルと個人的興味という2つの軸を捉えます。学年レベルへの適応では、テキストの読解難易度を調整しながら、元の内容の正確性と網羅性を維持します。第2段階の個人的興味への適応では、生徒がスポーツ、音楽、食べ物などから選択した興味分野に合わせて、テキストの例示や説明を動的に書き換えます。
例えば、ニュートンの第三法則を学ぶ際、バスケットボール好きの生徒にはドリブルの際にボールが跳ね返る反発力という身近な例で説明され、市場経済を学ぶ生徒がサッカーに興味があれば、サッカー選手の価値と収入の関係を使って説明されます。

▲ニュートンの第三法則の説明を生徒と興味(バスケットボールとアート)に応じてパーソナライズし、さらにスライド、クイズ、イラストなど多様な学習形式に自動変換している図
学習スタイルの多様性に対応するため、システムは同じ内容を複数の形式で提供します。視覚的な学習を好む生徒はナレーション付きスライドで学び、聴覚的な学習が得意な生徒は音声レッスンを選択できます。全体像の把握を重視する生徒は、階層的に情報を整理したマインドマップを活用できます。これらすべての形式は、最初のパーソナライゼーションに基づいて生成されるため、どの形式を選んでも学習者の興味と理解度に最適化された内容になっています。
学習を深める仕組みも充実しています。歴史的な出来事や科学実験の手順などは、インタラクティブなタイムラインで時系列に整理され、ドラッグ&ドロップで順序を確認する練習もできます。覚えにくい専門用語や概念には、AIが自動的に記憶術を生成し、各項目の頭文字を使った覚えやすい文章を提供します。複雑な概念は、学習者の興味分野に合わせたカスタムイラストで視覚的に説明されます。

経済学の概念を、サッカー好きの生徒向けにメッシやロナウドを例に使ってパーソナライズしたスライド
形成的評価の要素も特徴です。テキストを読み進める中で、理解度を確認する埋め込み型の質問が適切なタイミングで表示され、即座にフィードバックを受けられます。各セクション終了後には包括的なクイズが用意され、単なる点数だけでなく、理解できている部分と改善が必要な部分について具体的なフィードバックが提供されます。
実際の効果を確かめるため、15歳から18歳の高校生60人を対象に実験が行われました。半分の生徒は従来のデジタル教科書で、もう半分はLearn Your Wayで、同じ内容を学習しました。その結果、Learn Your Wayを使った生徒の方が、テストの成績が良く、3日後に内容を覚えている割合も高いことがわかりました。