「死海文書」をAIで書体分析したら、書かれた時期が従来説より古いと判明(生成AIクローズアップ)

テクノロジー AI
山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

特集

1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。

今回は、AIを用いて死海文書の筆跡を分析した論文「Dating ancient manuscripts using radiocarbon and AI-based writing style analysis」を取り上げます。

▲死海文書の写本(Wikipediaより引用

死海文書は1947年以降にユダヤ砂漠の洞窟で発見された古代ヘブライ語・アラム語文書群で、ユダヤ教とキリスト教の起源を理解する上で極めて重要な資料です。

しかし、これらの文書の正確な年代を特定することは長年の課題でした。従来の古文書学的手法では、文字の形状や書体の特徴から年代を推定していましたが、この方法は専門家の主観に依存し、測定可能な客観的基準が欠如していました。

オランダのフローニンゲン大学などに所属する研究チームは「Enoch」と名付けた年代予測AIモデルを開発しました。このモデルは、24の放射性炭素年代測定済み文書サンプルを用いて訓練され、文字の角度や異体字に機械学習を適用することで、平均絶対誤差27.9~30. 7年という高い精度で年代を予測できるようになりました。

研究チームは訓練されたモデルを135の未年代測定文書に適用し、その79%が古文書学的事後評価と一致する結果を得ました。残りの21%は古すぎる、新しすぎる、または判定不能とされました。

死海文書の断片画像をAI(BiNet)で文字部分だけを抽出し、訓練済みのEnochモデルが筆跡から年代を予測する処理の流れ

注目すべき発見の一つは、多くの文書が従来の推定より古い年代を示したことです。特に「ハスモン朝型」と呼ばれる書体の文書は、従来考えられていた紀元前150~50年よりも古く、紀元前2世紀前半、場合によってはそれ以前にまで遡る可能性が示されました。また、「ヘロデ朝型」書体も従来の想定より早い時期に出現していたことが明らかになりました。

研究チームはまた、有名な「大イザヤ書巻物」の分析も行いました。この巻物は2人の書記によって書かれたことが以前の研究で明らかになっていましたが、Enochの分析により、両方の部分が紀元前180~100年の同じ時期に書かれたことが示されました。

▲Enochによる大イザヤ書巻物の予測結果


《山下裕毅(Seamless)》

山下裕毅(Seamless)

2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にして紹介しているWebメディアのSeamless(シームレス)を運営し、執筆しています。

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