映画「グランツーリスモ」レビュー。最速ゲーマーがプロレーサーを目指したサクセスストーリー(ネタバレなし)

カルチャー Film / TV
飯島範久

フリーライター。週刊アスキーを卒業後、フリーのライター・編集者として活動中。クルマを運転するのが大好きでグランツーリスモは初代からプレイしレースゲー愛は強め。

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映画「グランツーリスモ」レビュー。最速ゲーマーがプロレーサーを目指したサクセスストーリー(ネタバレなし)
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1997年12月23日、“リアルドライビングシミュレーター”として初代PlayStationに登場した『グランツーリスモ』。物理演算に基づいて実車の挙動を再現した本作品は、レースカーだけでなく一般に売られている実在する自動車メーカーのクルマが多数収録され、クルマ好きの筆者としては、当時嬉しいクリスマスプレゼントになったことを記憶している。

「グランツーリスモ」シリーズの生みの親であり、「グランツーリスモ」シリーズ クリエイター、映画『グランツーリスモ』エグゼクティブプロデュサーである山内一典氏は、「クルマを運転する楽しさを伝えたい」という思いで、この作品の開発に取り組んだが、当時の家庭用ゲーム機で挙動はもちろん、映像的にも限界まで攻めた作品は、瞬く間に大ヒット。筆者も当時は休みとあればずっとプレイしていた。

「グランツーリスモ」シリーズはどんどん進化し、それまで筆者はネジコンを使ってプレイしていたもののすべて手だけの操作。それが実車と同じく、手でハンドルを操作し、足でアクセルとブレーキーを操作することで、クルマを運転している没入感に加え、ステアリングの切り方、アクセルワーク、ブレーキングポイントといった実車の走り方をしないと自分がより速く走れなくなったことを覚えている。

そんな「グランツーリスモ」も、いまではPlayStation 5 / PlayStation 4用ソフトとしてナンバリングタイトル『グランツーリスモ7』が発売されており、世界のプレイヤーの頂点を決める公式世界大会「グランツーリスモ ワールドシリーズ」や国際オリンピック委員会主催の「オリンピックeスポーツシリーズ」、国内で毎年各自治体が開催する「国体・文化プログラム」の公式競技に選ばれるなど、モータースポーツ界にその存在を知らしめている。

その「グランツーリスモ」が映画化され、いよいよ9月15日に日本全国の映画館で公開される。映画の舞台となるのは、日産とタッグを組み、2008年からスタートしたゲーム「グランツーリスモ」のトッププレイヤーを本物のプロレーサーに育成するプログラム、「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下「GTアカデミー」)において、一人の青年ヤン・マーデンボローがプロレーサーまで登りつめた実話を元に描かれた作品だ。

映画は、まず英国日産のマーケティングダイレクターであるダニー・ムーア(オーランド・ブルーム)が日本の日産に嘆願しに来ることから始まる。「グランツーリスモ」の凄さを謳い、新たな客層を引き込むチャンスだとし、ゲーマーをプロレーサーへ育成するプランを熱弁。了承を得たダニーは、さっそくプレイヤーを育成するためのチーフ・エンジニア探しを始める。そこで紆余曲折はあったものの、引き受けることになったのが、現エンジニアであり昔はプロレーサーだったジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)だ。映画の中の「GTアカデミー」は二人が中心になり物語が進んでいく。

ダニー・ムーア役のオーランド・ブルーム(左)とジャック・ソルター役のデヴィッド・ハーバー(右)

一方、イギリスの労働者階級に生まれたヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)は、幼いころからクルマが好きで、ソフト「グランツーリスモ」と出会うと、いつかレーサーになることを夢見てゲームに明け暮れていましたが、父からは「ゲームばかりしてないで現実を見ろ」と諭される始末。ところが、エントリーしていた「GTアカデミー」の予選に突破し招待状が届いたことで状況は一変。

地区予選でトップ通過したヤンは、世界中のトップクラスのプレイヤーたちとともに「GTアカデミー」に参加することになったが、そこで待ち受けていたのが今まで経験したことのない過酷な戦いだった。

ヤン・マーデンボロー役のアーチー・マデクウィ(中央)とその家族での食事シーン

モータースポーツのことが好きな人なら、ここまでの展開でもかなり引き込まれるだろう。プロのレーサーになるためには、通常なら幼い頃からカートを始め、さまざまなレースを経験して登りつめていく。それには莫大なお金がかかるため、ツテや親が資産家でなければなかなかプロのレーサーにはなれない。それが、ゲームのトッププレイヤーになれば、極端な話実際のクルマを運転したことがなくてもプロレーサーになれる道筋が生まれたのである。「グランツーリスモ」が "リアルドライビングシミュレーター" だからこそ成し得た取り組みだ。

ただ、ゲーマーとプロレーサーでは、ドライビングテクニックやコースを読む力に違いは無いかもしれないが、絶対的に体力が足りない。運転中にかかるG(重力加速度)も重力の2倍3倍は当たり前。それに耐えるだけの筋力をつけなければまともに運転はできない。モーター "スポーツ" と呼ばれる所以だ。ゲームではまったく感じないGに対してどう対処するかが、育成プログラムの課題の1つとなる。

「GTアカデミー」に集結したトッププレーヤーたち

そしてもう1つ、ゲームではコースオフしようが壁にぶつかろうが、すぐに復帰できる。しかし、実車の世界では大怪我につながることや最悪死ぬこともあり得る。そういった恐怖に打ち勝つメンタルを身につけるのも大きな課題だ。ただ、ライバルに勝つだけでなく、そういった壁を乗り越えていく姿が、この映画の肝になっている。

サーキットを駆け抜けるレースカーは本物で、撮影はスタントドライバーによって運転されているが、劇中の主人公の車はヤン・マーデンボロー自身がカースタントを担当している。レース映像は、ドローンを活用し、まるでゲームの世界感をイメージした視点かつ迫力のあるシーンになっており、順位やドライバー名の表示などもゲームライクでとても分かりやすくなっている。映画内SEにソフト「グランツーリスモ」の音が使われていたりもし、リアルとバーチャルの境目がない表現は、クルマ好き・「グランツーリスモ」好きならグッと引き込まれ、ドキドキ感がたまらないはず。

本物のレースカーを駆って、ニュルブルクリンク北コースでも撮影
ヤン・マーデンボロー本人もスタントドライバーの一人として撮影に参加

レースシーンはもちろん見どころの1つだが、この映画は「GTアカデミー」を成功させようと尽力するドライバーとエンジニア、監督、そしてライバルたちの人間ドラマを観てほしい。ダニーを演じるオーランド・ブルームやジャックを演じるデヴィッド・ハーバーという2大俳優が脇を固めており、さまざまな苦難を乗り越えていくたびに感情が引き込まれ、目頭が熱くなった。

ヤンにとってジャックの存在が心の支えにもなっている。そういった人間模様がこの映画の見どころでもある

監督は『第9地区』『チャッピー』などを手掛けたニール・ブロムカンプ。脚本は『アメリカン・スナイパー』などのジェイソン・ホールと『クリード 過去の逆襲』のザック・ベイリン。「グランツーリスモ」公式サイト内「GTアカデミー」で実際の歴史が見られるが、あえてこの映画はまず予備知識無しで観てほしい。実話を元にはしているものの、そこは映画としての脚色もあるので、映画を観たあとに実際はどうだったのか調べてみると、「そうだったのか!」となること間違いない。

ちなみに、「グランツーリスモ」の生みの親である山内一典氏が、本人としてではなく、あるシーンで登場するのでお見逃しなく。また、最後にル・マン24時間レースの話になるが、撮影場所はF1でおなじみのハンガロリンクで行われたとのこと。ハンガロリンクがわかる人には映画を見終わったあとでニヤリとなるはずだ。

  • 原題:『GRAN TURISMO: BASED ON A TRUE STORY』

  • 邦題:『グランツーリスモ』

  • 日本公開:9月15日(金)全国の映画館で公開

  • 監督:ニール・ブロムカンプ(『第9地区』『チャッピー』)

  • 脚本:ジェイソン・ホール(『アメリカン・スナイパー』)、ザック・ベイリン(『クリード 過去の逆襲』)

  • 出演:デヴィッド・ハーバー(『ブラック・ウィドウ』「ストレンジャー・シングス」シリーズ)、オーランド・ブルーム、アーチー・マデクウィ(『ミッドサマー』)、ジャイモン・フンスー(『キャプテン・マーベル』)

  • 日本語吹替版テーマ曲:T-SQUARE「CLIMAX」

  • 字幕版/日本語吹替版上映


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《飯島範久》

飯島範久

フリーライター。週刊アスキーを卒業後、フリーのライター・編集者として活動中。クルマを運転するのが大好きでグランツーリスモは初代からプレイしレースゲー愛は強め。

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