KDDIがStarlink活用の海上サービス開始、衛星間通信で沖縄エリア対応。ソフトバンクとNTTの動向は?盛り上がってきた衛星通信(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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KDDIは、米スペースX(SpaceX)社の衛星通信サービス「Starlink」を活用した海上向けサービスを開始しました。7月19日には、同サービスの開通セレモニーを開催。合わせて、Starlinkを取りつけた基地局の5G化や、衛星間通信を活用した沖縄のエリア対応も発表しています。2022年12月にauの通信網にStarlinkの活用を開始したKDDIですが、1年を経たずにその活用の幅を広げています。

▲KDDIが、Starlinkの海上向け通信サービスを開始した。写真は開通セレモニーの様子

19日に開通した海上サービスは、船舶に取りつけ、海の上での通信を可能にするというもの。これによって、気象情報や海洋情報をインターネット経由で取得できるようになるほか、緊急時の連絡手段も確保できます。また、フェリーなどの客船に取りつけることで、その乗船客に対し、Wi-Fiでのインターネットサービスを提供できるのも海上サービスを導入する利点と言えるでしょう。

▲船舶の運用に必要な情報をネット経由で取得しやすくなるのが、導入のメリットだ

実際、開通セレモニーでは、船舶に取りつけたStarlinkを経由して通信を行っていましたが、その速度は100Mbps以上。まさに衛星ブロードバンドと呼ぶにふさわしいスピードで、地上のネットワークに比べると多少の遅延はあるものの、動画なども十分楽しむことができます。海の上で働く人のDX化はもちろんのこと、いちユーザーもその恩恵にあずかれる可能性があるというわけです。

▲開通直後にKDDIの取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長兼事業創造本部長の松田浩路氏がスピードテストを実施。衛星経由ながら、153Mbpsを記録した

このサービス開始に先立ち、スペースXの日本法人は総務省から海上利用向けの通信免許を取得。Starlink Maritimeとして、7月3日からサービスを提供していました。KDDIは、認定インテグレーターとして、これを取り扱い、同社のソリューションなどとセットにしつつ、船舶の運用者に対して通信を提供していく方針です。

ただし、現状では領海内の12海里がその対象内。領海外で利用したいユーザーも多く、KDDIでは総務省との協議を続けていくとしています。元々は、ファックスや静止衛星を使っていたという船舶での通信。Starlinkによって、一気にそのクオリティが上がった格好です。KDDIによると、月額費用も7万円台(50GBの場合)に抑えられるといい、普及が加速しそうな予感もします。

▲海上でのユースケースは様々。通信が高速なだけに、DXも加速しそうだ

海上に拡大したStarlinkですが、地上でもそのエリアを広げています。7月からは、新たに沖縄でのサービスもスタートしています。KDDIの松田氏によると、これはStarlinkの衛星同士が通信し、遠く離れた地上局経由でネットに接続する「衛星間通信」を利用して実現したとのこと。

▲これまで未対応だった沖縄でもサービスを開始した

Starlinkは最終的に、地上に設置した地上局を経由する必要がありますが、低軌道を飛んでいるため、衛星1機がカバーできる範囲には限界があります。日本でこの地上局を運営しているのがKDDIですが、そうした制約もあり、沖縄はカバーできていませんでした。衛星をリレーのようにつなげていくことで、より遠くまでカバーできるようになり、沖縄がサービス対象になったというわけです。

▲沖縄でのサービスには、衛星間通信を活用している

沖縄は離島も多いだけに、Starlink基地局が活躍する余地は大きいはず。元々、沖縄で沖縄セルラーがシェア1位を取っており、他の地域以上にauやUQ mobileの強さが際立っていますが、こうした取り組みによって、そのポジションが盤石になりそうです。災害対策や局所的なトラフィック対策としても使い勝手がいいだけに、Starlinkの対象エリア拡大は歓迎すべきことと言えそうです。

こうした取り組みに加え、KDDIはStarlink基地局を5Gに対応させます。現状では、NSA(ノンスタンドアローン)のみで、4Gとセットで使うとのことですが、ゆくゆくは、SA(スタンドアローン)方式の5G導入も狙っているといいます。バックホール側がStarlinkのため、5Gの高帯域は生かせないものの、SAで特定の用途に最適化したネットワークスライシングなどを入れることができれば、その価値は高まるはずです。

▲Starlink基地局は、5Gに対応する。SA方式の普及を見据えて、できることを探っていくというスタンスだ

松田氏も、「5G対応でバックホール側が速くなるというわけではないが、5G SAが入り、ゆくゆくはVoNR(Voice over NR=5G経由での音声通話)になっていく時代に備え、どういったことが5Gでできるかを見ていきたい」と語っています。今は実験的な側面が強い5G対応ですが、今後のサービスの進化には期待ができそうです。

矢継ぎ早にStarlink関連の新サービスを導入しているKDDIですが、国内ではライバルも出現しています。それがソフトバンクです。同社は、7月13日に、認定再販業者として「Starlink Business」を販売していくことを発表。その名称から単なる回線の再販かと思いきや、高精度位置測位サービスや映像・音声通話サービスとの組み合わせたソリューションも展開していくようです。

ソフトバンクは、親会社のソフトバンクグループがOneWebに出資し、日本でのサービス展開を目指しています。また、上空利用ではHAPSモバイルの商用化に向けた技術開発も行っています。そんな同社がある種競合とも言えるStarlinkを取り扱うのは、少々意外感がありました。一方で、すでに実現しているサービスという点がStarlinkの強み。ソフトバンクのユーザーからも、取り扱いを求める声が上がっていたのかもしれません。

▲ソフトバンクも、Starlink回線の販売に参入する。サービスインは9月下旬を予定

この分野ではNTTもスカパーJSATとSpace Compassを設立しており、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を掲げています。ただし、創業からまだ1年あまりで、実サービスの運用には至っていません。

これに対し、山小屋や音楽フェス、さらには災害対策でStarlinkを活用するなど、取り組みの深さとしてはKDDIが一歩リードしているのも事実。松田氏も、「我々はユースケースを含めて作り上げてきた。このスピードがビジネスモデル。他社が入ってきても、お客様にスピードを持って提供していきたい」と語っています。にわかに盛り上がってきたキャリア同士の衛星通信をめぐる戦いから、今後も目が離せません。

▲音楽フェスや山小屋などに導入実績を重ねているKDDI。ユースケース開拓では、大きくリードしていると言えそうだ
▲災害対策やネットワークのひっ迫対策に使われる移動基地局にも、Starlinkを活用していく

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《石野純也》

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