32bitフロートでXLRのみの「Zoom F3」を、ボイスレコーダーとして購入した理由(小寺信良)

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小寺信良

小寺信良

ライター/コラムニスト

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18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで執筆・評論活動を行なう傍ら、子供の教育と保護者活動の合理化・IT化に取り組む。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。

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32bitフロートでXLRのみの「Zoom F3」を、ボイスレコーダーとして購入した理由(小寺信良)
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筆者の取材は、住んでいる場所の関係でほぼ100%オンラインになった。多くの場合は企業様なので、先方に用意していただいたTeamsなどのシステムにゲストとして入る。そこで録画していただくようにお願いして、あとでファイルを送ってもらい、AIサービスで文字起こしするという段取りである。

ただこちらでもバックアップとして、レコーダを回しておく。これまではZoomの「H2N」というのを使っていた。見た目はごっついボイスレコーダだが、もともと4ch録音とかできるモデルなので、LINE入力とマイク録音が同時にできるという変な機能がある。

オンライン会議の録音はこれが便利で、LINE入力はPCからのヘッドホンアウトを繋ぎ、自分のしゃべりはマイク録音するわけだ。会議ソフトからの音声には自分の声は入っていないので、両方録音する必要がある。

ところが先日のリモート取材中、H2Nの録音がストップしているのに気がついた。あわてて再度録音したのだが、10秒ぐらいでまた止まってしまう。何度も止まるのでこれはダメだとあきらめた。先方の録画は問題なかったので事なきを得たが、初めての現象で焦った。

H2Nはかなり古いモデルで、2011年販売開始ながら今なお現役で売られている。購入したのは2016年のことで、価格.comマガジンで記事にしていた。

現役バリバリ、使い出のあるレコーダー ZOOM H2n

実は1年ぐらい前から、不調が見られた。天板にあるマイク切り替えのロータリースイッチにガリが発生しているのか、マイクモードが勝手に切り替わるという問題があった。録音が始まってしまえば切り替えはソフト的に固定されてしまうので、録音前に正しいモードになっているかを確認すれば実用上は問題なかったのだが、勝手に停止するというのは初めてだった。

どこまで録音できているのか、取材後にファイルを見てみたが、記録されたファイルがゼロだった。何度も録音し直しているのに、1つも録れていないのはさすがにマズいと思い、買い換えを検討することになった。

▲そうか、もうアカンか…

32bitフロート録音に手を出す

手っ取り早いのは、未だ現役機種なので同じものをもう1台買うことである。ただ設計が2011年ということで、古い。USB端子がmini Bという古代遺跡から発掘されそうなレベルで、もう製造もそろそろ終わることが考えられる。

とはいえ、ボイスレコーダーでLINE入力に対応し、LINEとマイクの両方が録音できるという変態みたいな機能をもつものはそうそうない。そもそもICレコーダーという分野が斜陽で、あまり新製品がない。その中で唯一頑張っているのがZoom、というわけだ。

カタログスペックで調べる限り、H2N同様の変態機能を有するのは、同じくZoomの「MicTrack M4」だろうというあたりはついた。

ただこれ、普通のICレコーダーではなく、そもそも4トラックのレコーダーにマイクが付いたといった製品である。タイムコードジェネレーターも内蔵するなど、筆者の用途にはオーバースペック過ぎる。

ただ「32bitフロート録音」というのは魅力である。これまでのボイスレコーダは16bitか24bit録音が普通だが、これはbit幅を音のダイナミックレンジ方法へ全振りしたリニア録音である。従来のリニア録音は、小さい音声を大きくしていくと、ビットマップ画像を拡大するのと同様、音が荒れてくる。

一方32bitフロート録音は、24bitの録音に8bitの指数乗数を加えた録音方式である。小さい音から大きい音までを256段階に分解して、それぞれに対して24bitで記録するという、リニアではない「折り畳み方式」だ。そのため録音レベル調整という概念がなく、小さい音をゲインアップしても音が壊れないという特徴がある。F3では、全てのレンジを1つのADコンバーターで賄えないため、ADコンバータを2段使っている。

32bitフロートはすでにハイレゾ録音ではスタンダードになっており、PCのOSでも対応済みだ。これまで身近に録音できる機材が存在しなかったのであまり知られていないが、ファイルは普通にダブルクリックして再生できる。

これから音声レコーダーを買うなら32bitフロート対応だよな、とは思っていたので、Zoomのレコーダーの中で探した結果、F3というのが最小で筆者のニーズを満たせそうだった。入力が2系統あり、バラバラに設定できるので、片側にPCからのLINE入力、片側にマイクを繋げば、H2Nでやっていたのと同じことができる。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2023年4月3日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



ただF3は「フィールドレコーダー」なので、マイクが内蔵されていないのが難点である。しかしよくよく考えてみたら、今リアル取材でマイク録音する機会はほとんどない。仮にあったとしても、さすがにMicTrack M4をずりずりと目の前に差し出すのは気が引ける。

それよりもスマホにラベリアマイクを繋いで、マイクユニットだけを差し出した方が圧迫感が少ない。またPixelシリーズで録音すれば、文字起こしまで録音アプリででできるため、便利である。

小型ながら頑丈な作り

幸い在庫は潤沢にあるようで、オーダーしたら2日で届いた。サイズ的にも十分小さく、身の回りに置いても邪魔にならない。ただ入力は2系統ともXLRなので、ケーブルを繋ぐとごっつくなるが、そこはまあプロ機なので仕方がないところである。

▲見た目はごっついが小型の「F3」

▲入力はXLRのみ

録音は32bitフロートのみで、従来のリニア録音への切り替え機能はない。片チャンネルずつ、Mic、Mic+48V、LINE、LINE+48Vの切替ができるため、片側はLINE、片側はマイク入力にできる。またファイルフォーマットはMONOとSTEREOの切り替えができる。MONOにすれば片チャンネルずつのモノラルファイルが2つできるし、STEREOなら左右に振り分けられたファイルが1つできる。

AIに文字起こしさせるときの難点は、相手のしゃべりと自分のしゃべりが被っていると、あとで文章成形が面倒である。相手の喋りに対して「うん、うん」などと相づちを打っていると、文字起こし結果にもしゃべりのあいまに「うん、うん」が入ってくる。

そのため、なるべく相手がしゃべっているときには相づちを打たないようにしているのだが、それだと「乗って」くれない話者もいる。そこが課題だったわけだが、相手音声と自分の音声が別ファイルになっていれば、AIの書き起こしも自分の声が混じらない。

電源は単3電池2本だが、USB-C端子からの給電もできる。またUSBオーディオインタフェースにもなるため、PCにちゃんとしたマイクを繋げられるというメリットもある。このときは24bitリニアでも動かせるようだ。

PCで再生した音を出力に戻せるループバック機能もあるので、何か配信をやるときには便利かもしれない。まあそんなことになったら、どこかからちゃんとしたAVミキサーを借りてくるかもしれないが。

ステレオミニジャックの出力端子もあり、カメラのマイク端子にも接続できる。一眼カメラでは別売のハンドルユニットなどを買わないとXLRのマイクが入らなかったりするが、F3があればそれにも対応できる。

本体の作りとしては弱そうなスイッチ部分もなく、ボディもかなり頑丈そうなので、屋外に持ち出しても長く使えそうだ。



《小寺信良》

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