技術のイメージはなくとも実はサービス化するのが上手なソフトバンク、近い将来を見据える同社の技術戦略とは(石野純也)

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石野純也

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ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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技術のイメージはなくとも実はサービス化するのが上手なソフトバンク、近い将来を見据える同社の技術戦略とは(石野純也)
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ソフトバンクは、3月22日から23日にかけ、「ギジュツノチカラ」と題した展示会を開催しました。その名のとおり、同イベントはソフトバンクが年1回のペースで実施している技術展のこと。ここでは、同社が研究しているさまざまな先端技術が紹介されています。主催しているのは、ソフトバンクのR&D部門となる先端技術研究所です。この研究所は22年4月に発足。所長には、湧川隆次氏が就いています。

▲ソフトバンクは、ギジュツノチカラと題した技術展で、同社の研究開発に関する戦略を明かした

同イベントの開催に先立つ形で、湧川氏がソフトバンクの技術戦略を語りました。大変失礼ながら、本稿を読んでいる読者の中にも、ソフトバンクと技術というワードが結びつかない方は少なくないかもしれません。湧川氏も、「ソフトバンクと聞いても、あまり技術のイメージがないのではないか。営業が強い会社だったり、ビジョンファンドのように投資の会社ったり、そういうところが大きいと思う」と語っています。

▲先端研究所の湧川所長も、自虐的に「技術というイメージがないのでは」と語った

「自分たちでもそう思ってたのか(笑)」というのがちょっとした驚きでしたが、そのイメージをくつがえすべく設立されたのが、先端技術研究所です。ただし、これはあくまで、そう思われているというイメージのお話。実際には、ソフトバンクも通信関連技術の研究は行っており、ものによっては他キャリアより取り入れるのが早いこともあります。

湧川氏が挙げた例で言うと、上下の通信を時間で分割して送受信を行う、TD-LTEはソフトバンクが目をつけた技術の1つ。先行して取り組んでいたこともあり、国内で「いち早く導入した」(同)格好です。実際、当時を振り返ってみると、MWC(旧Mobile World Congress)などの海外展示会でも、TD-LTEの優位性を積極的にアピールしていたのはソフトバンクでした。

▲TD-LTEやそれを応用したFWAにいち早く取り組んでいたソフトバンク。サービスへの落とし込みも早かった

2017年のMWCでは、ソフトバンクグループの孫正義社長が自ら基調講演を行い、送信出力を上げる新規格の提案を行ったほど。あくまで孫氏が語っていたことではありますが、故スティーブ・ジョブス氏にiPhoneのTD-LTEの魅力を説き、採用を働きかけたのもソフトバンクだったと言います。

上下のペアバンドが必要なく、帯域幅を確保しやすいTD-LTEを推したソフトバンクは、その性能を活かし、「FWA(Fixed Wireless Access)という固定通信に無線を使うことにも、早くから取り組んでいる」(湧川氏)実績があります。

▲17年のMWCで、上りの出力を上げてエリアを広げる「HPUE」の規格化を訴えていた孫氏。こんなに細かい話をするのか、と筆者も驚かされた

これは、SoftBank Airのことを指しての発言。実際、この分野に強いのもソフトバンクです。今では他社も同様のホームルーターを手がけていますが、技術トレンドを的確につかみ、サービス化するのはうまい印象があります。湧川氏の言葉を借りると、「技術をサービスに昇華するのが得意な会社」と言えるでしょう。その特徴をさらに強化するために設立されたのが、先端技術研究所です。

その成り立ち上、他社とは研究に対する考え方も少々異なるようです。湧川氏は、これを「論文を書くための研究ではなく、役に立つ応用研究。どちらかと言えばイノベーションやエンジニアリングのための研究」だと語ります。サービス化に直結した研究ということで、見据える将来も近く、「3年ぐらいで繰り返す短期型の研究サイクルにしている」(同)のが、同社のスタイルだと言います。逆に、基礎研究のような、サービス化までの道のりが長い研究は、大学などとの連携を図っていく方針です。

▲事業開発をゴールに設定し、3年サイクルの短期的な研究を中心していると言う

実際、ギジュツノチカラに合わせて発表された実験や、展示内容を見ると、近い将来、商用化できそうなものが多く含まれていることがわかります。2月に開催されたドコモの「docomo Open House」が、早くても7年先、遅ければ10年以上の時間がかかる「6G」を中心に据えていたのとは対照的です。

例えば、同イベントに合わせて発表された実験がこちら。vRAN(仮想化した基地局を含む無線設備のことで、通信の処理を担う部分)の処理に、その用途に特化したアクセラレーターではなく、GPUを使うというものです。汎用のGPUを活用することで、無線信号の処理をしていないときにAIの処理にそのパフォーマンスを転用できます。同じGPUを使って、信号の処理とエッジサーバーのAIの両方を動かしたというのが実験の趣旨です。5G SAで導入できる仕組みで、まさに少し先のサービス化を狙った実験と言えるでしょう。

▲仮想化された基地局の処理にGPUを活用する実機での実験結果。処理能力を信号処理だけでなく、AIにも活かせるのがメリットだと言う

また、上空向け通信のネットワーク伝搬特性の検証では、2GHz帯のBand 65を使い、空に電波を発射した際にどのような影響を受けるかを確認しています。ソフトバンクによると、標準化を担う3GPPには高度300メートルのモデルがありますが、これに補正をかけることで、高度2500メートルで行った実験の実測値に近づくことが判明したとのこと。これも、ドローン用の通信や気球型基地局のバックホールを提供しようとしているソフトバンクならではの研究です。

▲上空に向け、Band 65の電波を発射し、その特性を確認した

ソフトバンクの宮川潤一社長も、技術畑出身。かつてはCTOを務め、エリアの拡大や4Gの導入、さらには一時傘下に収めていた米Sprint(現T-Mobile)のネットワーク改善を指揮していました。同氏が社長に就任し、先端技術研究所が発足したことで、ソフトバンクの研究開発が加速することも期待できそうだと感じました。

《石野純也》
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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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