画像生成AIの開発元に著作権侵害訴訟 Stable Diffusion と Midjourney 他が対象

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Munenori Taniguchi

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Looking samurai and street with blurred neon lights at night on background. Postproducted generative AI digital illustration.

先週金曜日、オープンソースのAI画像生成ツールとして人気を集めるStable Diffusion(Stability AI)と、Midjourney、最近Stable Diffusionをベースとする独自のAI画像生成ツール「DreamUp」を開発したDeviantArtに対して、3人のアーティストが著作権侵害などを訴える訴訟を起こしました

昨年以来、AIを使った画像生成は人気のトピックになっています。いくつかのツールは、生身のアーティストが描いたものと同等レベルのアートワークを、入力されたテキストから生成・出力できます。しかしその生成されたアートワークはアーティストたちの間での議論やSNS上での抗議などを巻き起こしています。

3人のアーティストSarah Andersen氏、Kelly McKernan氏、Karla Ortiz氏は、これらのAI画像生成ツールが、作者の同意なく50億枚のアートをインターネット上から無断でかき集めてAIの訓練に利用し、いわゆる「二次創作物」を生み出している点が、数百万人のアーティストの権利を侵害していると主張しています。

ちなみに、訴訟を担当する弁護士Matthew Butterick氏とJoseph Saveri氏は、現在、やはりインターネット上から収集したコードをもとにして鍛え上げたAIによるプログラムコード生成ツール「CoPilot」を開発したMicrosoft、GitHub、OpenAIを相手とする訴訟にも携わっています。

今回の訴訟対象になるAI画像生成ツールが、本当に著作権を侵害していると言えるのかは、専門家のあいだでも意見の相違があり、まだはっきりしない問題です。

AIアナリストのAlex Champandard氏は、訴えた側の弁護士による主張には、技術的に不正確な点があることを指摘しています。訴えの内容では、画像生成AIはユーザーが入力したプロンプトから画像を生成するため「(著作権で保護された)学習用画像の圧縮コピーを保存」し、それを数学的なソフトウェアプロセスを通じて一見新しいものに見える画像を出力するものの、これらの「新しい画像」は学習用画像に基づくものであり、AIが出力するのは特定の画像のコピーや複雑なコラージュといった派生作品だと主張しています。

しかし、実際の画像生成AIは、画像を圧縮コピーしたライブラリーを持っているわけではなく、画像における表現パターンを数学的にデータとして取り込み画像を生成します。元の素材の圧縮コピーを保存したライブラリを持っていたり、それを切り貼りしているわけではありません。

たとえばモナ・リザのような著名な絵画などは、学習用画像データセットのなかに過剰に含まれてしまい、これに似通った画像をAIが生成する可能性はあります。それでもAIが適切に訓練されていれば、出力される画像が既存の画像の複製だったりコラージュになることはないとされます。

Champandard氏は、このような不正確さや訴訟を起こした状況から、この弁護士たちを信用できないとしました。ただそれを差し引いても、裁判においては被告側の企業が自己防衛のために言うことは、すべて企業側が不利になるように扱われるだろうと予想しています。

なお、今回の訴訟対象には、画像生成AIブームの火付け役になった「DALL・E」を開発したOpenAIが含まれていません。DALL・Eもやはりインターネット上のアートを学習させてAIを強化していますが、その一部にはShutterstockなどの企業からライセンスを取得した画像を使用しています。また、OpenAIは学習に使われたアートの作者には補償金を支払う仕組みを用意すると、昨年10月のShutterstockとの統合発表時に述べていました

いずれにせよ、画像生成AIについての議論はまだ始まったばかりであり、AIが生成したアート画像についても明確な判例はありません。世界経済フォーラムは1月15日、スイスのダボスで開催されている年次総会で、生成的なAIに関し「ジェネレーティブAIがわれわれの世界の助けになるか害悪になるかはわれわれ次第だ」と題したオピニオン記事を公開しています。

この記事では、ジェネレーティブ(生成的な)AIが人々の生活を劇的に改善する可能性と、濫用やなんらかの害を世界にまき散らす可能性の両方が述べられ「今こそ、これらについて会話をする時」と唱えています。

そして「心理学、政府、サイバーセキュリティ、ビジネスの専門知識をAIの会話に加える必要があります。サイバーセキュリティのリーダー、AI開発者、実践者、ビジネス リーダー、選ばれた役人、一般市民の間での開かれた議論と共有された視点が必要であり、ジェネレーティブAIへの慎重な規制の計画を決定します。すべての声を聞く必要があります。私たちは共に、公共の安全、重要なインフラストラクチャ、そして私たちの世界に対するこの脅威に確実に取り組むことができます。ジェネレーティブAIを敵から味方に変えることができます」と呼びかけています。


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