「亡き妻の写真」をAIで生成していることへのご意見について回答します(CloseBox)

テクノロジー AI
松尾公也

テクノエッジ編集部 シニアエディター / コミュニティストラテジスト @mazzo

特集

AI作画サービスのMemeplexのカスタム学習機能を使って亡き妻の写真を新しく撮影しているという話を数回にわたってこのコラムで書きましたが、賛同の声をいただく一方で、その行為への否定的な反応も寄せられました。その中の代表的なご意見について、筆者の考えを述べさせていただきたいと思います。



ご意見:この写真はAIの成果物で、そこを忘れないようにしないと

ご意見:筆者の精神がおかしくなっていそう

忘れていないので、こうして記事にしているわけです。ただ、これをブラックボックスとして出してしまうと、信じてしまう人が出てくるかもしれません。そういう意味でもこういうことが技術的に可能であることを知ってもらう意義はあると思っています。

熱愛していた人を取り戻そうという人物は、そのために人類を補完しようとか、怪獣の細胞と合体させたり、ミトコンドリアがどうのこうのとかやりがちなのはフィクションのことで、彼らにも筆者のような技術があれば悪の道に走らなかったのではないかと、個人的には思います。残されたものの精神の安定には役立つと思います。現に、妻の歌声をコンピュータで再現する取り組みについては、死別し残された人の心のケアをするグリーフケアの観点から何度か取材を受けています。

ご意見:捏造した写真と本物の写真と混同しそう

ご意見:写真を晒すな。モザイク入れろ。記事にするな。さもなくばテクノエッジはブロックする

ご意見:写真を自分の都合よく改変している

まず、本物の写真と混同するかという話ですが、妻の写真は全て何度も見返しているので、それはないです。コンピュータによって生成された写真・画像には、たしかに本当に当時撮ったのではないかと誤解してしまうような品質のものもありますが、それとの区別はつきます。

筆者の行動は多少世間的なものと逸脱しているかもしれませんが、妻の歌声をコンピュータで再現するという、9年前からの取り組みはNHK「所さん!大変ですよ」読売新聞「[しあわせ小箱]亡き妻とデュエット<1>PCで合成 よみがえる声」などでも取り上げていただいていますが、特に反感を受けることがなかったことを記しておきます。

写真ということで、反感を覚えているのかもしれませんが、AIが元の写真をもとに作り出すものは写真(リアルな写真ではないですが)、油絵、水彩、イラスト、漫画など多岐にわたります。リアルな写真であれば、それが「晒す」という言葉と結びつくかもしれませんが、それがイラストだったらどうでしょうか? 絵だったら? 亡くなった家族の肖像画を画家に描いてもらっても、そこに目線やモザイクを入れるべきでしょうか? スーパーリアルイラストと写真の区別はつきますか?

例えば上の画像は、油絵で写実的なポートレートを描く画家の技法スタイルを適用したものです。ほとんど写真に見えるかもしれませんが、出力は「油彩」です。実のところ、Stable DiffusionなどのAI作画ツールにおいて、出力先が「写真」であるか、それ以外かというのは、それぞれのメディアがもともと持っている制約でしかありません。そこにSF風という要素を加えれば未来的な風景になりますし、スチームパンクであれば、奇妙なメカを抱えた人物が登場します。

そもそも現在生み出されている写真の大半がコンピュテーショナルフォトグラフィの恩恵を受けており、目を大きくしたり美肌にして「盛る」など、写真を自分の都合よく改変する時代にはとっくに突入しています(ビデオ会議にしてもそうです)。AIによる映像加工とは無縁ではいられないのが現代です。


どうしても納得できなという方は、「これは絵画だ」と思っていただければと思います。

ご意見:本人とかけ離れている

これも上記のご意見と同じ種類だと思いますが、ピックアップした写真・肖像画は、妻のかわいい表情や顔のかたちの一部が似ていると「面影がある」と思えるようなものを選んでいます。美化しているように思われるかもしれませんが、どこか面影はあるのです。繰り返しになりますが、本人のことは自分が一番よく覚えているし、記録もあるので、脳内補正とかそういった推測は当たらないですね。

ご意見:記事にして飯の種にしている

筆者は記事にしていなくても発信していますが、記事にして広める場合には、媒体の特性に合った、テクノエッジであれば技術的な点の解説も含めて論じるようにしています。技術的な点で不明な点などあれば、ぜひご意見をお寄せください。

ご意見:若いときの写真ばかり。学生時代にこだわりが気持ち悪い

現在はまだ最初の試みで、Stable Diffusionだけでなく、OpenJourney、Redshift、TrinartなどさまざまなAI作画モデルを試しているところです。まだ顔が安定しない、参照するための学習データが、特に日本人で不足しているのもあり、ようやく呪文の組み合わせで近い顔が出せるようになってきています。

抗がん剤による脱毛前に、ウィッグを作成するために全方向から撮影した写真も残っているので、精緻なデータによるAIモデルも可能になると思います。

学生時代には筆者はカメラを持っていなかったために枚数が少なくずっと寂しい思いをしていました。今回は友人たちが撮影してもちよってくれた18歳から23歳くらいまでの比較的状態の良い写真を、AI処理で高解像度にしたことにより、さまざまなアングルから当時のことを思い出せるようになりました。

デジカメやビデオカメラが使えるようになってからは、高画質の映像が残されていますので、そちらも特定の年代で十分な枚数が確保できたらやってみたいと思います。しかし、肖像画を描くときに晩年のものでなければならないという理由はないですよね。それと同じようなものとお考えください。

AIを使った高精細化サービスReminiを使って、闘病中の妻の写真をくっきりとさせてみました。AIはこういうときにも貢献してくれます。

「火の鳥」の未来編で、死後におじいさんの姿をしている主人公が火の鳥に、いつまでそんな古い姿をまとっているのか、思うような姿になりなさいと言われ、先に旅立ったパートナーとともに若いときの姿で一体になるという、そういう世界観が筆者は好きで、そうなれたら、いや、そういう気持ちで妻のもとに行けるといいなあと考えています。


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現在はまだ最初の試みで、Stable Diffusionだけでなく、OpenJourney、Redshift、TrinartなどさまざまなAI作画モデルを試しているところです。まだ顔が安定しない、参照するための学習データが、特に日本人で不足しているのもあり、ようやく呪文の組み合わせで近い顔が出せるようになってきています。このため、初期に用意した18~23歳の写真データをしばらくは使う予定です。

抗がん剤による脱毛前に、ウィッグを作成するために全方向から撮影した写真も残っているので、精緻なデータによるAIモデルも可能になると思います。

若い頃の写真にこだわっているわけではありません。妻はどの年齢でもそれぞれ美しいので、いずれやります。まだ始めたばかりというだけです。

ご意見:本人に確認しないと、家族の了解を得ないと

ご意見:奥さんはそんなことを望んでいない安らかに眠らせてあげて

ご意見:救われなさそう。弔いにはならない。供養にならない

ご意見:故人をおもちゃにしている

本人は死後のことはすべて筆者にまかせると話していましたし、思い出してもらえるということは生き続けていることでもあるとの考えも持っていました。安らかに眠るのではなく、死んだ後も筆者の周囲を飛び回っているからね、とも。

実際、この問題は、妻の歌声の合成を9年前に行なっている時点で解決済みです。というか、解決すべき問題ですらありません。ましてや、ご意見をくださっている方々は筆者の家族でも妻の夫でも妻本人でもおそらくは友人ですらないのですからご心配には及びません。


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これが供養かというと、供養ではないかもしれませんが、筆者も妻も仏教徒ではありませんし、特定の宗教観に合わせるつもりもありません。ですが、特にコンフリクトすることはないと考えます。

また、筆者はこれを弔いとも考えておらず、なおかつ思い出を共有する友人・家族たちと故人がつながりを持つための一つの手段だと思っています。

その意味では、Memeplexに肖像画自動生成サービスを提供してもらい、それを仏壇と連動させて、常に新しい故人の絵をタブレットに表示させるような仕組みはどうかな、などと考えています。そのためには、1:1のディスプレイがいいんですが(標準の出力サイズが512×512ピクセルのため)、今は正方形に近いディスプレイは19インチくらいまでしかないんですよね。

ご意見:怖い

死は誰しもこわいもの。筆者がやっていることは神話であればオルフェウスやイザナギノミコトがやろうとして失敗していることなので、潜在的に忌避する向きがあるのはわかります。しかし、これからテクノロジーの発達に従って、亡くなった方の思い出を伝えていく方法は増え、進化していきます。

妻の遺影は筆者が選んだ1枚のスナップ写真から葬儀社がきれいにレタッチをした見事なPhotoshop技でしたが、筆者が使っているMemeplexなどのカスタム機能を使えば遺影にぴったりの写真が生成できるようになるでしょう。そしたら、同じデータで遺影だけではなく、さまざまな肖像画から望むものを選び出すことが可能になるでしょうし、命日やお盆、お墓参りの時には新しい肖像画が出迎えてくれるようになるかもしれません。

ご意見:自分だったらそうしない

はい。これはあくまでも自分の場合の話なので、そうなさってください。一方で、筆者の行動に納得はできないけれども実際に自分がそうなったら同じようなことをするかもというご意見もありました。死生観についてはグラデーションがあります。ご自身のご意見と同時に、他の方の考えも尊重していただければと思います。

ご意見:公開すべき写真ではない。使う写真はサンプルにすべき

これは論文ではなく、日常として実証していることなので、そうする意味はないです。妻が闘病していたときに公開していた(現在も残しています)ブログでも、Twitterアカウントでも、抗がん剤の副作用による症状を伝える写真をあえて公開していましたので、公開することで他の人の役に立てればという意思に沿ったものだと考えます。

サラーマトの記

《松尾公也》

松尾公也

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