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Niantic創業CEOジョン・ハンケ氏インタビュー:『メタバースは悪夢』の真意とWeb3の可能性(後編)

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Ittousai

テクノエッジ編集長。火元責任者兼任 @Ittousai_ej

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Niantic創業CEOジョン・ハンケ氏インタビュー:『メタバースは悪夢』の真意とWeb3の可能性(後編)
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ポケモンGOでおなじみAR企業Nianticの創業CEOジョン・ハンケ氏に訊くテクノエッジ創刊インタビュー、後編をお届けします。話題はパンデミックの影響、『メタバースはディストピアの悪夢』発言の真意、Web3やブロックチェーンの可能性、そして『現実世界のメタバース』の課題など。

前編はこちら。Niantic創業CEOジョン・ハンケ氏インタビュー:『現実世界のメタバース』とARの未来 | TechnoEdge テクノエッジ

パンデミックと「外に出て人と会う」

―― COVID-19、新型コロナウイルス感染症の流行について。いわゆるロックダウンであったり感染予防のために、ナイアンティックのミッションである「外に出て人と会う」ことが物理的に不可能になってしまう状況が続きました。新型コロナウイルスの流行はナイアンティックの戦略に、あるいは個人の信条や哲学にどんな影響がありましたか。

ハンケ:COVIDの影響があったとすれば、外に出て体を動かせること、人と会えることの重要さを改めて痛感しました。COVIDの流行中、多くの人がメンタルヘルスの問題に直面しています。最近の上海のニュースでもありましたが、ロックダウンなどで外出もできず、家族や友人に会えなくなるのは非常に辛いことで、実際に過去2年で世界的にメンタルヘルスの問題が激増しています。

なので、COVIDで以前からの考えにさらに確信を持つようになりました。外に出て体を動かし、実際に人に会えるよう支援することは、心身の健康を保つためにも極めて重要だと。

この2年間は会社としてリアルイベントの開催を停止せざるを得ませんでしたが、この夏からはポケモンGO Fest でも実会場のイベントが復活します。日本では札幌で、海外でもベルリン、シアトルで開催予定です。またIngressのアノマリーも7月と、それ以降にも開催する見込みです。できればそう遠くない時期にまた日本でも開催したいと思っています。ライブイベントを再開できるのは本当に嬉しいことです。

プレーヤー自身の判断、そして公衆衛生上の状況が最優先なのは言うまでもありませんが、ようやく再開できるタイミングが来た、プレーヤーも準備ができていると感じています。

『メタバースはディストピアの悪夢』発言の真意

―― それではお待ちかね(ドラムロール)、イッツ・タフ・クエスチョン・タイム!難しい質問のお時間です!!……というのは冗談ですが、今日ぜひお訊きしたいことがありました。昨年ハンケさんがナイアンティックのBlogに掲載して話題になった『メタバースはディストピアの悪夢です。より良い現実の構築に焦点を当てましょう』の話です。

正しく理解できているかの確認も兼ねて、冒頭部分を要約させてください。

現在話題になっているメタバースの概念は、用語を考案したニール・スティーヴンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』や、作家ウィリアム・ギブスンの作品群が生み出したサイバーパンクというジャンルが元になっている。映画『レディ・プレーヤー1』では、ほとんどの人が現実世界を捨てて没入する精巧なVR世界をよく描いている。


大手のテクノロジー企業やゲーム業界は近年このメタバースのビジョンを実現しようとしているが、しかしこれは元々、テクノロジーが誤った方向に進み荒廃してしまった現実世界からの逃避先としてVR世界を描く、ディストピア的な未来への警鐘だった。


そうしたメタバース企業とは逆に、ナイアンティックは逃避の必要をなくすため、より良い現実の実現のためにテクノロジーを用いる。現実世界をより楽しく便利にすることで、人が外に出かけるように、本物の人間と交流するように促す。

人間は外に出て人と会うことでもっとも幸せを感じるのだから、テクノロジーはそうした活動をもっと良くするために使われるべきであって、外に出て人に会うことの置き換えに使われるべきではない。

―― 改めてお訊きしたいのは、この『メタバースはディストピアの悪夢』の部分です。具体的に、現在のいわゆるメタバースのどんな点が悪夢で、社会にとって有害であり、避けるべきとお考えなんでしょうか。

現実世界で現実の人に会うほうが体験として帯域が広いこと、逃避を強いられる社会は良くないことは100%同意しますが、いわゆるメタバースを「悪夢」とまで主張される理由が気になります。

ハンケ:それはすでにBlogで説明したとおり。まず人類は、特定の行動に対して身体的・心理的に幸せを感じるように進化してきました。体を動かすこと、歩くこともそのひとつで、実際にエンドルフィンが放出されて良い気持ちになる。おそらく狩りのような活動に対して、体が良くやったと報酬を与えたのでしょう。現実で人と会って会話するときも同じ反応が起きます。体がこれはポジティブなことだと判断して反応するため気持ちも前向きになり、安心できる。

いま世界では多くの人が不安を感じています。安心できず、幸せを感じられない。思うにその原因の一部は、われわれが進化の結果として求めるもの、満足感と幸せを与えてくれるものから離れてしまったことにあるのではないでしょうか。ですからディストピアの悪夢とは、われわれに引きこもりを奨励したり強制するテクノロジー、たとえば対面の人と人とのやりとりから切り離すVR世界といったものです。

体を動かさず、対面での交流もない。人間は単純にそうした体験で気分が良くなるように進化していないのです。わたし自身も逃避的な活動を楽しむことはありますし、好きな番組を5時間続けて一気見するようなこともたまにはあります。それでも8時間、12時間、48時間と続けると、どこかで全く楽しくなくなる。

テクノロジーを送り出す側として、人間はどう進化してきたか、生物としてどう作られているのか、われわれを本当に幸せにするのは何か意識しておくことが重要だと考えています。たとえばジャンクフード。一時はおいしく思えても、食べ過ぎれば気分が悪くなるし、健康も害してしまう。テクノロジーも同様に、一見魅力的でも悪影響を及ぼす力がある。そうしたものは作るべきではないし、別のものを作ってゆくべきだと思います。

―― なるほど……。技術的な制約を考えれば、現実世界で現実の人間と交流するのが体験としてもっとも豊かであることついてはそうだと思います。少なくとも当面の間は。そうした行動に脳が報酬を与えて幸福を感じるように進化してきたという話についても。

ただ対面がベストとはいっても、常に可能とは限りません。それこそ感染症の流行であったり、単に家族や親しい相手が遠くに住んでいるかもしれない。現実に触れる距離で会うという最善ではないにしても、ビデオ通話なりVRなり、次善の策として助けになってくれるテクノロジーも「作るべきではない」のでしょうか。貧弱な代替だとしても、ないよりはよほど良い。悪夢と呼ぶべきなのかどうか。

ハンケ:時にはそうしたテクノロジーが役立つ場合もある点はそのとおり。ただ、いまメタバースを推進する人々が主張するのは、われわれの生活のすべてを置き換えるような、仕事も社会生活もすべてがVR空間で完結するようなビジョンです。それは良い考えではない。

たとえば遠方の人とコミュニケーションが必要な場合に使うのであれば問題はないでしょう。VRが2Dのビデオ通話やただの電話より優れているかどうかは分かりませんが。しかし、電気通信技術を介したコミュニケーションが必要な場合があるとしても、それが毎日24時間必須な世界を作りたいとは思わない。最悪の結果になるでしょう。

―― お聞きしていて感じたのは、リアルが最高で幸福、それを貧弱なまがい物に置き換える技術は悪夢、そうした技術に依存せざるを得ない状況がディストピアで、状況を変えることにこそテクノロジーを活用すべきという主張には完全に同意するとしても、それこそ現実的に、幸福なリアルを享受できるのはある種の贅沢というか、特権的な環境ではないかということです。ロックダウンや戦争はひとまず置くとしても、そもそも自由に安心して出歩ける治安の良い環境に誰もが住めるわけでもない。

ハンケ:周辺の環境という話であれば、サンフランシスコのゴールデンゲートパークの例があります。ポケモンGOが配信された直後、プレーヤーが遅い時間にまで出歩くことに対して危険ではないかと懸念がありました。

しかし当局が実際に調べた結果、人が増えたことで逆に犯罪率が減り公園が安全になったことが判明しました。家にこもるかわりに外に出ることで、コミュニティ自体がより安全で強くなる。貧困地域や治安が良くない環境であったとしても、地域の公園に人が増えたり、お互いに顔を合わせることで、住人個人にとってもコミュニティにとっても総合的には良い効果が生まれます。

出歩くのが難しい環境だったとして、家に引きこもるという選択肢しか選べないとすればひどい話で、それこそが失敗でしょう。

―― 確かに。社会を変えることが真の解決で、テクノロジーはそこに活用すべきという点はおっしゃる通りだと思います。

……ただそれでも、どうしても考えてしまうのは、たとえば貧困や犯罪、流行病や戦争は、世界中が力を合わせてもなかなか解決できないリアルとして常に存在してきたし、解決を諦めないにしても今後もすぐには変わりそうにない。

あるいは様々な理由から現実で疎外されている人にとっては、リアルより貧弱だったとしても、ニセモノの環境のほうが安心して人とコミュニケーションできて、本来の自分だと感じられるかもしれない。

障害や健康上の理由で実際に旅行ができなくても、あなたのチームがGoogle時代に開発した Google Earthで世界を旅した気分になれるかもしれません。外で一緒に体を動かして遊ぶことができない子供も、ゲームの中では他の子供たちとまったく同じように遊べるかもしれない。そうした場合に、貧弱な代替品でリアルを置き換える技術は良くない、逃避せず問題を直視して解決に努力しなさいとは、さすがに言えない。

ハンケ:健康上の理由なり、何らかの理由で外出が難しい人が、本人にとって一番良いエンタテインメントなり体験を選ぶことにはもちろん何の異議もないし、それは100%支持します。ただ、そうした楽しみはすでに大量にありますよね。たとえば家庭用ゲーム機版のポケモンは何作目?27本?

―― こういう言い方が良いのか分かりませんが、ポケモンGO以外のポケモン本編ゲームはどれも現実世界でもなければ位置情報ベースでもないですね。人と会ってローカル対戦や、ポケモンの話題で盛り上がることはあるとしても。

ハンケ:もしそういった体を動かさずに遊ぶ体験が好きなら、もうすでにたくさんの会社があらゆるものを作っています。PS5だってあるし、リビングルームから出なくても楽しめる素晴らしい作品はすでに無数にある。だから、われわれナイアンティックがさらに付け加える必要はないということです。

われわれは我々で、外に出かけられる人向けの仕事に注力するというだけです。外出できない、したくない人に何も含むところはありませんが、そうした場合のためのコンテンツはもうすでにいくらでもあるから、たとえば家で遊ぶポケモンの35作品目をわれわれが作る必要はないでしょう。SwitchでもDSでも、素晴らしいポケモンゲームはもうたくさんありますから。

一方で、ナイアンティックと同じようなことをやろうとしている会社は多くありません。現実の世界をテクノロジーを使ってもっと楽しめるようにする、他の誰もやろうとしていないことにわれわれは挑戦してきました。

テレビや映画、伝統的なビデオゲームといった産業にはすでに多くの人材が、スクリーンを通じて体験するコンテンツをもっと面白く、引き寄せられる楽しいものにしようと競っています。先日観たトップガン:マーベリックも素晴らしい体験でした。座って体験するデジタルエンターテインメントはすでに巨大産業になっている。

―― そうしたエンタメコンテンツはVR同様に「現実」ではないし、人と対面でコミュニケーションが必須でもないけれど、必ずしもディストピアの悪夢ではないということですね。

ハンケ:そう、外に出て体を動かせる状況でも、常に屋内型の体験だけすべきという考え方がディストピアだ。

―― 完璧に理解しました。正直なところ、昨年この『メタバースはディストピアの悪夢』が公表されたときは、反論や反発よりもむしろ困惑という反応が多くありました。ポケモンGOはいまも大人気で、ARがとても楽しく可能性に満ちているのはみな分かっているのに、なぜ唐突にリアルワールドじゃないほうのメタバースを下げる必要があったんだ?それぞれの良さがあるんじゃ駄目なの?と。

それがやっと分かりました。限定されたメタバースを誰もが使わざるを得ないよう強制したり、リッチな現実の体験から遠ざけてしまうのが悪夢という趣旨だったと。では「難しい質問タイム」はこれで終了。別に難しくもなかったですね。

『スノウ・クラッシュ』とEarth

―― そうだ、いつか訊こうと思ってた話がありました。先ほども話題になったニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』といえば、現在のような意味のメタバースという言葉を初めて使った小説ですが、あれに「Earth」という名前のデバイス、というかソフトウェアが出てきますよね。

地球儀型の球体ディスプレイで、精細な地図を表示して自在に動かせるだけでなく、あらゆる種類のリアルタイム情報を重畳して表示できるという。あれはGoogle Earthのインスピレーションになったんでしょうか。 というのも、学生のころに読んでまるで夢のような道具だ、現実版を作るべきだ!と思っていたら、あなたのチームがある意味で同じサービスを本当に作ってしまった。

ハンケ:そのとおり。われわれも同じく、これは現実に存在すべきだ、と考えました。Earthはいわばアーキタイプのようなもので、誰でもこんなものがあればいいなと想像するし、当然のように存在すべきもの。現実にするには誰かが最初に手を付ける必要がありますが。

(後にGoogle EarthやMapチームの元になる) Keyholeを創業したときは全員が『スノウ・クラッシュ』を読んでいました。その後スティーヴンスンと話す機会があって、Google EarthやMapsも小説の物語の一部として使われているんですよ。

(以下ニール・スティーヴンスンの近作、『Reamde』 (2011)や『Termination Shock』(2021)の話題。すべてネタバレなので省略)

Web3とブロックチェーン技術の可能性

―― 最近、ナイアンティックではWeb3ディレクターという役職を作りましたね。Web3技術のどんな面に注目していますか。Web3はバズワードになっていますが、人によって定義がまるで違ったりするので。

ハンケ:わたしにとっては、Web3はすなわちブロックチェーン技術という意味です。特に興味を持っているのは、ユーザーが何かを作って、組み合わせて、売買できるようにする技術として。UGC (User Generated Contents) やその参照情報をブロックチェーンにエンコードすることで、コンテンツをお互いに取引できるようになります。

たとえば、ゲーム内コンテンツのクリエーターが対価を得られるようにする方法として優れた可能性があると考えています。ゲームキャラクターのスキンを作ったり、ステージやワールドの制作に対して、クリエーターが正当な対価を得ることができ、そうして作られたアイテムをかんたんに利用したり、取引できるような経済圏を作ることができる。ゲームのいわゆるサードパーティMOD(改造)や追加コンテンツを作ることで生活できるようになれば素晴らしいし、ブロックチェーンは大きな助けになる可能性があります。

もうひとつは、ウェブを非集権化 / 分散化すること。現在のウェブは、決済やアイデンティフィケーションについてとても集権化しています。App StoreやGoogleログイン、Facebookログインのような、ごく少数のサービスに依存する仕組みです。

ブロックチェーン技術で決済を分散化する、つまり暗号通貨を使うのは分かりやすい例ですが、もうひとつ、いわゆるSSI (Self Sovereign Identity、 自己主権型ID)を可能にする使い方もあります。

現在のようにGoogleやFacebookなどにログインやアイデンティフィケーションを依存すると、多くの場合は行動履歴が収集・集約されることになり、プライバシーにとって良いとはいえません。現在の集権化したログインの仕組みでは、オンラインの活動を監視したり、履歴を蓄積してどんな人物かプロファイルを作ることができてしまう。SSIを使うことで、ユーザーはどの企業にどの情報を渡すか自分でコントロールできるようになります。

SSIにはまだ課題も多いが、実用できると考える人も多い。Web3はこうした分野で有用になる可能性があると考えています。現時点では盟さん(Chikai Ohazama氏)主導で人材やリソースに適切な投資をして、可能性を把握しようとしているところです。

―― ポケモンNFTを販売します!という話ではないんですね。良かった。

ハンケ:ポケモンNFTを販売という話ではないです。もちろんゲーム内のオブジェクトをNFTとして実装すること自体は悪い考えではありませんが。良くないのは、手っ取り早く儲けたい一心でゲームにNFTを導入したがる人たち。NFTを利用することで、プレーヤーにとって収集やトレードがしやすく便利になるなら悪い話ではないでしょう。

たとえばあるゲームを1年ほど遊んで興味をなくしたとして、アイテムを他のプレーヤーに売って、次のゲームで使うリソースにできるなら、プレーヤーにとっての利便性になります。

―― サードパーティのクリエーターが対価を得やすくなり、コンテンツを巡る経済圏が活性化すれば、プレーヤーにとってもゲームの開発運営側にとっても利益につながる、まさに理想的なシナリオですね。

ただ一方で、MinecraftやRobloxといったタイトルを挙げるまでもなく、サードパーティのクリエーターによるコンテンツ制作や販売はすでに実現していますよね。ブロックチェーンを使うまでもなく、従来どおりの集権化した仕組みで。ブロックチェーンを導入すると、どういった点が変わって、どんな利便性があるんでしょうか。

ハンケ:楽しいから作るんだというクリエーターは今も大勢いますが、販売して対価を得るまでのハードルは低くありません。特に、最初に誰かが作ったコンテンツを他の誰かが配布して、また別の誰かが手を加えてまた配布するといったシナリオの場合。これは誰の作品なのか?元の作品を作って貢献したのは誰か?といったことを知るのは困難です。

こうした場合、ブロックチェーン上に作者情報をエンコードできるスマートペイメントの仕組みを応用すれば、改変された作品が売れたときにオリジナルの作者にも利益を分配するような仕組みが実現できます。

今のところ、こうした複数のクリエーターの手を経た作品に対して利益を分配する方法はありません。少なくとも、広く受け入れられる方法は確立していない。

一人のクリエーターがゼロからすべてを完成させることは稀で、多くの場合は複数のクリエーターが既存の何かを組み合わせたり元にしたり、改良することで優れた作品ができてゆくものです。こうした過程はどの分野でもあります。元になる作品のクリエーターにも正当な利益を分配できるならば、逆に他の人の作品を堂々と足がかりにでき、多くの人の手を経て進歩するクリエイティビティにとって大きな助けになります。

―― もし仮に、貢献度といったものを判定して、トラッキングできる技術が存在すれば。

ハンケ:もちろん、何らかの自発的な参加や申告の仕組みは必要になるでしょうし、他人の成果を盗もうとする悪い輩も現れるでしょう。しかし少なくとも、自発的に参加する誠実な人たちにある種の手段を提供できます。

―― また別の質問です。先ほどは「いわゆる」メタバース、VRが社会に及ぼす潜在的な危険性を指摘されましたが、逆にナイアンティックが提唱する「現実世界のメタバース」にはどういった課題や懸念が考えられますか。

開発者カンファレンスの基調講演ではプライバシーの問題や、現実のあらゆる物の表面や空間を仮想の広告や表示が埋め尽くす様子を描いた作品「ハイパーリアリティ」の例を挙げていましたね。ハイパーリアリティは、正直にいうと楽しそうと思ってしまいましたが。オフにできるなら。

ハンケ:この世界の美しさに気づく手助けをするのがナイアンティックの使命ですから、やりすぎたARは却って損なってしまう。まるでラスベガスみたいにね。渋谷はエキサイティングで好きな街ですが、ありとあらゆる場所を、常にあれほど賑やかにしたいとは思わない。過剰なARに圧倒されてしまい、現実の体験から注意を逸してしまう可能性があります。それがリスクです。

プライバシーも確かに懸念です。(ARグラスは)多数のセンサを積んだコンピュータを顔に着けるわけですから、デバイスやOSのメーカー、アプリの開発者がユーザーをトラッキングして、データを望まぬかたちで使うことがあれば重大なリスクになります。

常に持ち歩くスマートフォンでも多くの情報を収集できますが、実際に身に着けるARデバイスでは声や視線、体温、心拍数といったバイオメトリクスまで取得できる。そうしたデータからは多くのことが分かります。知られたくないと思う人もいるでしょうし、特に広告業者に教えたり、データベースに蓄積されたいとは思わないでしょう。

ウェアラブルデバイスを動かすのはどの会社のどんなOSか、扱う情報をしっかり開示するのか、収集したデータはどう使うのか等を真剣に考える必要が出てきます。どんなビジネスモデルなのか、データを広告業者に売るのか?なども。現在のスマートフォンのエコシステムでさえ深刻な問題が、ウェアラブルではさらに深刻になるでしょう。

―― どういった解決策がありそうでしょうか。

ハンケ:もっとオープンな、現在とは違ったエコシステムが必要になると考えます。現在のテック産業の大きな部分が基盤としている広告モデルとは違ったエコシステムが。

消費者が一定のプライバシーを取り戻すこと、サービスが消費者をどう扱っているか知る権利を取り戻すことも必要でしょう。アイデンティティを自分で管理して、何を公開するか決定する権利も。

それを実現するには、もっと洗練された、進化したやり方で自分の情報について決定できる手段を企業が用意する必要があります。同時にユーザーに対しても、ある程度は判断のための情報を理解してもらわねばなりません。何もかもトラッキングされていても別に構わないとユーザーが選べばそれまでですから。変化は起きてゆくと考えています。

―― Users are in control、 ユーザーが決める原則ですね。本日はありがとうございました!

インタビュー前編はこちら Niantic創業CEOジョン・ハンケ氏インタビュー:『現実世界のメタバース』とARの未来 | TechnoEdge テクノエッジ

《Ittousai》
Ittousai

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