インプレスが上場廃止を発表。事業再編や戦略見直しで再起図る

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新野淳一

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。

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東京証券取引所のスタンダード市場に上場しているインプレスホールディングスは5月13日、上場廃止を予定していることを発表しました。

同社は傘下にインプレス、エムディエヌコーポレーション、リットーミュージック、山と渓谷社などをはじめとする複数のWebメディアや出版社を持つ持ち株会社です。ITエンジニアにとっては、書籍の「できる」シリーズやPC WatchやInternet WatchなどのWatchシリーズなどでよく知られています。

発表によると上場廃止は株式併合と呼ばれる手段によって行われ、最終的には現時点で合わせて同社の57%を保有している同社の創業者である塚本慶一郎氏および同氏の資産管理会社であるT&Co.のみが残存株主となります。

それ以外の株主に対しては株式をインプレスホールディングスが買い取ることが予定されています。

上場廃止は6月25日に開催予定の同社株主総会において可決され、7月末には実現する見通しです。

2年連続経常赤字などの不振が上場廃止の背景

同社はITや音楽、デザイン、山岳や自然など専門分野ごとの個性的なメディアブランドによる雑誌などの出版を中心に、電子出版、Webメディア、イベントなどを展開しています。

しかし出版を中心とした同社を取り巻く事業環境は、紙の出版物の販売減少傾向、紙などの原材料や印刷コストの上昇、従業員への報酬水準の引き上げが見込まれるなど厳しい状況が続くことはだれの目にも明らかです。

しかも同社においてはWebメディアや電子出版の分野も伸び悩みが続いています。

今回発表された決算で、同社は売上高が3年連続で減少、営業利益と経常利益は2年連続の赤字となりました。

この同社の業績不振が上場廃止の最大の理由となっています。

資本市場から離れて柔軟かつ迅速に事業を再構成へ

今回の上場廃止は、塚本慶一郎氏の資産管理会社であるT&Co.が提案したとされており、インプレスホールディングスが発表した「株式併合、単元株式数の定めの廃止及び定款の一部変更に関するお知らせ」(PDF)の中で提案理由が説明されています。

それは、柔軟かつ迅速に事業を再構成できる体制構築のために、短期的な業績達成が求められる資本市場から離れるべきだ、ということです。以下、少し長いですがポイントを引用します。

T&Co.は、当社がその関係資産を活かしながら経営環境を克服し、当社事業の競争優位を取り戻し、事業を存続させ、中長期的な企業価値の向上を目指すためには、足許加速している業界の再編に伴ってサプライチェーン全体の変革に取り組むと同時に、コミュニティ戦略の中で進めてきたD to C事業モデルの開発投資の成果に向け、より一層腰を据えての推進が急務だと考えているとのことです。 そのためには、柔軟かつ迅速に事業を再構成できる体制構築が不可欠であり、具体的には以下のような一定の事業リスクを伴う施策の実行が必要となることから、非公開化により短期的な業績達成を求められる資本市場と離れて、投資余力及び外部パートナーとの協業が組みやすい状況をつくることが、当社を取り巻く厳しい経営環境下においても更なる企業価値の拡大を可能にする道筋であると考えているとのことです。

上場廃止が決まれば、前述のとおりインプレスホールディングスの株主は同社の創業者である塚本慶一郎氏および同氏の資産管理会社であるT&Co.のみとなり、事業の売却や買収などの重要な意思決定を含む経営上の意思決定や組織再編が柔軟かつ迅速に可能になります。しかも目先の業績にとらわれない長期的な戦略策定と実行も可能になります。

これらを通じて再びインプレスグループを成長軌道に乗せていく。これが上場廃止の目的といえます。

個人的にもインプレスには友人、知人、先輩方が数多くいます(あるいは、いました)し、日本でWebメディアのビジネスを切り開いてきた先駆者として尊敬する会社でもあります。この不振を乗り越えて再び飛躍することを願っています。


この記事は新野淳一氏が運営するメディア「Publickey」が2025年5月14日に掲載した『インプレスが上場廃止を発表、事業の再構築や戦略の見直しによる再起へ』を、テクノエッジ編集部にて編集し、転載したものです。 

《新野淳一》

新野淳一

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。

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