X / Twitter、ブロックしても相手は投稿が読めるよう仕様変更。イーロン・マスク氏がブロック廃止を進める理由

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テクノエッジ編集長。火元責任者兼任 @Ittousai_ej

X / 旧Twitter のイーロン・マスク氏が、ブロック機能の仕様変更を告知しました。

従来、ユーザーが誰かのアカウントをブロックすると、ブロックされたアカウントからは、自分をブロックした相手の投稿は読めなくなっていました。

今後は誰かをブロックしても、相手は変わらず公開の投稿を読める状態のまま。リプライなどのエンゲージメントだけが封じられることになります。

Twitter を買収してXに改名したイーロン・マスク氏は当初からブロック機能自体に懐疑的で、意味がない機能だから廃止するつもりだと2023年の時点から公言したうえで、段階的に仕様を変更してきました。


たとえば今年の5月には「誰かにブロックされて投稿が見えなくなっても、(された)自分の投稿へのリプライについては見える」仕様に変更。

当時は変更について、従来からの「Xをグローバルな議論ための広場(タウンスクエア)」にする云々の方針とともに、悪質なリプライが見えれば通報できる、安心安全を保てると説明していました。

今回の仕様変更では、ブロックしても相手から自分の(公開)投稿はすべて見える状態になります。

■ ブロックを巡る議論

マスク氏はこの仕様変更について、ブロック機能にはもともと意味がない、なぜなら別のアカウントを作れば公開投稿は読めるからだと主張してきました。

確かにアカウントを切り替えれば読むことはできますが、「その気になればできる」は、逆にいえば「その気がなければわざわざしない」ということ。

多くのウェブサービスでは、複数アカウントの使い分けやVPNなど、その気になれば回避できるような制限でユーザーの行動を誘導することも、一定の実効性のある手段として使われています。

実際にTwitter時代から「その気になれば見える」状態、マスク氏に言わせれば「意味のない機能」でありながら、ブロックは多くのユーザーに利用されてきました。

ブロックの使い方にも色々あり、例えば有権者の声を聴く義務を負う政治家が、批判を見たくないために一般ユーザーをブロックし、結果として公的アカウントに意見を送らせず、他の有権者から不可視にするのは違法ではないかといった議論は、特に米国では最高裁まで争われる問題です。

一方で、ブロックには現実に多くの被害者を生んでいるオンラインの嫌がらせから身を守る安全対策の観点もあり、廃止の方針は大きな反発を受けました。

「別アカウントを使えば~意味がない」についても、ブロックされてもアカウントを使い分けてまで監視とハラスメントを続けるようなアカウントは止まらないとしても、目につかなければわざわざ自分から積極的に見にゆかない、自分と合わない相手にそこまでの情熱はないという一定割合のアカウントにとっては「流れてきて反応する」ことがなくなる効果があります。

■ マスク氏がブロック機能を排除したがる理由

完全でないにしても一定の有効性はあり、実際に広く使われている機能をそのままにしておくのではなく、反発を受けながらもわざわざ仕様変更するには、「意味がないから」だけではない、マスク氏なりの強い動機があります。

マスク氏にとってX経営の基本方針は、できるだけユーザー間の「議論」を促進すること。同時にプラットフォームの利用頻度や回数、滞在時間を増やし、ひいては広告や動画の表示回数を稼ぐこと。

ブロックに関してはいきなり全廃するのではなく、段階的に仕様変更を繰り返していますが、これは嫌がらせ等を軽減するため、ユーザーの安全のための基本機能であるとの批判が強く、マスク氏の方針とバランスを取りつつ進めているためです。

ソーシャルネットワークのありかたとしては、個人的な「つぶやき」をフォロー / フォロワー関係の緩いつながりやネットの海に放流しつつ、必要に応じてブロックやミュートを使い、嫌なものは敢えて見にゆかないように、お互いに距離をもって棲み分け、揉め事を避けてほんわか進行しましょう的な世界観もあり、実際にそうした運用のサービスもあります。

しかし現在のX / Twitter にとっては、逆に不倶戴天の敵同士にもできるだけ相手の投稿を読ませて反応を誘い、際限なく投稿やいわゆる「レスバ」を続けたくなる、相手を監視をするため頻繁にXを使いたくなる方向性にアルゴリズムを調整することが、X社の利益でもあり、マスク氏個人としての方向性でもあります。

こう考えると、片方がブロックするほど意見や感性の対立するユーザー間を「わざわざ見ようとしなければ目に入らない」状態まで引き離し沈静化してしまうブロック機能は、「意味がない」どころか、マスク氏の方針にとって積極的に邪魔で、反発を受けてもユーザーから取り上げたいことがよく分かります。

「ブロックは機能としてはいずれ廃止する。DMは除く」(2023年8月)

■ 「Xは対戦型ソーシャルメディア」

このように説明すると、特にイーロン・マスク氏の人となりや哲学に触れていないと、いくらなんでも常識的にそんなはずがない、個人的な意向や会社にとって利益になるからといって、ユーザーの意思に反してまで望んでいない相手との距離を近づけ、「議論」の名のもとに対立意見の衝突を積極的に促進しているなど邪推だろう、陰謀論だと思えるのも無理はありません。

が、大変ありがたいことに、言葉を尽くしてマスク氏の世界観や普段の言動を説明しなくても、本人が非常に端的に、分かりやすく彼にとってのX / Twitter とは何か、どうしたいのか表現した発言がありますので、そちらをご査収ください。

「Xは対戦型ソーシャルメディアだ。X is the PvP of social media」(2024年2月)

PvPはゲーム用語でPlayer vs Player、いわゆる「(対人)対戦」のこと。

互いに意見を交わしてこそ相手の立場を理解して尊重でき、対立や分断を解決できるのだといった考え方もありますが、少なくともマスク氏が促進したがるネット上の「議論」がどのようなものか、この対戦SNS発言が端的に示しています。

オーナーみずからがこう公言していることを考えると、ブロック機能をわざわざ変更することも、青い認証バッジを誰でも購入できる課金アイテム扱いにし、特典としてリプライの表示順位をブーストして自分の発言を目立たせる機能を付与したのも、インプレッション数に応じて報酬を与える仕組みにしたことも、本人的には「議論」を促進しできるだけ読まれる投稿、反応を招く投稿を誘導する意味で、首尾一貫した行動であることが理解できます。

(実際には青バッジつきのボットに機械的にリプライをさせインプレッションと小銭を稼ぐ、いわゆる「インプレゾンビ」が蔓延し、投稿主がスレッドを作ったのに返信順位ブーストされたゾンビが並んで続きが読めないといった事態を招くことになったのは、Xの利用者ならご存じのとおり。

しかし続きを探してスクロールしたりタップを繰り返す不便も、X社にとっては「Xがより長時間使われている・ポストが多数表示される・広告も回る」という利益になるため、最優先で駆除する動機がなく、またサブスクを買ってくれる青バッジのBOTは大多数の一般ユーザーよりも優先すべき客であるため、長らく抜本的な解決はないままです。)

「Going forward, there will be a vote for major policy changes. My apologies. Won’t happen again.」(2022年12月)

なおマスク氏は以前、競合SNSへのリンクを投稿やプロフィールに含めるとアカウントBANのルールなど、恣意的な方針変更で大きな反発を受けたあと、「今後、大きな方針変更に際してはユーザーの声を聴くため投票を実施する」、二度と間違いは繰り返さないと発言していました。

しかし、何が「大きな方針変更」にあたるかは彼が決定する仕組みなのか、ブロックの仕様変更を含め、特にユーザー投票に諮ることなく事後的に告知しています。

《Ittousai》

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テクノエッジ編集長。火元責任者兼任 @Ittousai_ej

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