パナソニック、マイクロLED「μPLS」を用いた次世代照明器具コンセプトを発表。ピクセル光源で空間を演出

テクノロジー Science
安蔵靖志

Techジャーナリスト/家電エバンジェリスト 一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。デジタル家電や生活家電に関連する記事執筆のほか、家電スペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。

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パナソニック、マイクロLED「μPLS」を用いた次世代照明器具コンセプトを発表。ピクセル光源で空間を演出
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パナソニック エレクトリックワークス社は、日亜化学工業が開発したマイクロLED光源を採用した次世代照明器具のコンセプト製品を発表しました。

屋内外に設置して動的な照明演出ができる技術で、2024年中に実証実験を行ったのち2025年をめどに製品化する予定。価格帯は20万円~50万円程度を目指します。

パナソニック エレクトリックワークス社が発表した、マイクロLED光源を採用した次世代照明器具のコンセプト製品

マイクロLEDとは超小型LED素子を敷き詰めた光源のことで、RGBの3原色のマイクロLEDを画素数分だけ敷き詰めて自発光型ディスプレイの素子として用いる「マイクロLEDテレビ」などの実用化にも期待されています。

今回の次世代照明器具はそれほど大がかりなものではなく、幅12.8×3.2cmのスペース横256×64ピクセル、全部で1万6384個のLEDを敷き詰めた光源をレンズで拡散することで、単色の光による映像表現を実現できます。

日亜化学工業というと1993年に世界で初めて青色LEDを実用化し、1996年には白色LEDを開発したLEDのリーディングカンパニーとして有名です。

インテリア向けやヘッドランプ向けなど、さまざまな車載用照明も手がけており、2023年5月にはマイクロLEDを活用した光源の「μPLS」を発表しました。今回の次世代照明器具は、この車載用光源を活用したものになります。

μPLSは1万6384個のマイクロLEDの直下に、ドイツ・インフィニオン社と共同開発したASIC(カスタムIC)を配置して個別に駆動するとともに、監視と電源分配、さまざまな信号処理を行います。

全光束は仕様上で最大9000ルーメンとのことですが、最大まで光らせると熱で壊れてしまうため、冷却などを踏まえると実用上では4000~5000ルーメンまでは可能だと日亜化学工業の担当者は話していました。

日亜化学工業が開発したマイクロLED光源「μPLS」。中央の横長に光っているのがLED素子です
μPLSの仕様。横長に広がる車載用ヘッドランプ向けに開発されたため、4:1のアスペクト比になっています
マイクロLED素子の直下にドイツ・インフィニオン社と共同開発したASICを配置しています

筆者も含めて車載機器に詳しくない人にとっては、ヘッドランプにμPLSほどのデバイスが必要なのか疑問に思うかもしれませんが、日亜化学工業 先進商品開発本部の黒田浩章氏は「車の照明、主にヘッドランプでさまざまな活用ができます」と語りました。

日亜化学工業 先進商品開発本部の黒田浩章氏

例えばヘッドランプの配光は右ハンドル、左ハンドルで個別に制作する必要があったのですが、ソフトウエア制御で対応させることができます。ハイビームで走行する際に、車載カメラで車や人を検知して光が当たらないように制御する「ADB(Adaptive Driving Beam:配光可変ヘッドランプ)」などにも用いられるそうです。

車載用ヘッドランプにおけるμPLSの活用例

ユニークな機能では、国別の法律規制で制限される場合があるものの、車両の状態や交通環境を路面に描画する「シンボル通知」なども可能です。

また、走行レーンをアシストする「ナビゲーション」機能などにも利用できるとのことです。

日亜化学工業が用意したμPLSのデモ機。中央の光の周りに、μPLSの黄色い部分が写っています
ナビゲーション機能の事例。こちらは制限速度を表示しています
こちらは横断歩道の表示でしょうか? さまざまな形を前方に投影できます

「ナビゲーション機能はヨーロッパで先行して実現されている機能です。私たちはこの新しいピクセル光源を通じて、さまざまな価値を提供していきたいと考えています」(黒田氏)

■Webアプリを使ってスマホやタブレットから光の形や動きを変えられる

では、この先進的なマイクロLED光源を次世代照明器具ではどのように活用するのでしょうか。その特徴についてパナソニック エレクトリックワークス社 ソリューション開発本部の山内健太郎氏は「一つ目が光の形を自由に変えたり動かしたりできること、二つ目が複雑な光を簡単に楽しく扱えることです」と語りました。

パナソニック エレクトリックワークス社 ソリューション開発本部の山内健太郎氏

横256×64ピクセル、合計1万6384個と決して高精細とは言い切れないものの、このマイクロLED配列をディスプレイとして用いることで光の表現が可能になります。

「今回開発した照明器具は、マイクロLEDの点灯条件を変化させることで光の形状や光数を自在に変えることができます。これまでは1台の照明器具で照らせる場所は基本的には1箇所しかないため、照らす場所の数と同じ台数の照明器具を準備する必要がありました。

今回の照明器具の場合、1台で複数の場所を照らしたり、それぞれ照らす場所の形や明るさを個別に変えることが可能になります。照明器具の台数を減らすことで空間の意匠をすっきりさせたり、照明器具の施工や設定の手間を低減できます。さらには、照明器具に使われている部品の資源の節約にもつながることができるのではないかと考えております」(山内氏)

マイクロLED照明を点灯しているところ。写真では分かりませんが、キラキラと光が動いていました
展示物を照らす照明のデモ
左上のガラス玉を照らしてから……
左下のガラス玉に光が移っていきます
最後はすべてのガラス玉が光るという動きがはっきりと分かりました

照明をコントロールするユーザーインターフェースは、Wi-Fi経由で接続するWebアプリとして提供されます。アプリ中央にはμPLSと同じアスペクト比4:1の横長のスペースが配置されており、そこに円や四角などの形を配置して回転させたり、フリーハンドで手描きすることで光の演出を作り出します。波がゆらめくように光るような動的コンテンツも用意されているとのことです。

マイクロLED照明をコントロールするWebアプリの画面
先ほどの画面だとこのように表示されます。レンズで拡散するためにじみが生じるものの、形ははっきりと分かります

タイムライン上に複数の演出を並べて、時間ごとに変化させることも可能です。配置したオブジェクトはタイムラインに沿って自動的に形が変化していくので、難しいことを考えずに光の演出ができそうです。

複数の演出を作って時間ごとに変化させることも可能です

「今までの一般的な照明制御システムはユーザーが向き合うべき対象が照明器具そのものでした。個々の照明器具の設定をするために施工場所や照射方向を気にしながら光の調整をしていくやり方が主流でした。

このような操作画面を用いることで、ユーザーが器具の存在をあまり気にすることなく、空間と光に意識を集中させて直感的に光を作り出すことが可能になってくると考えています」(山内氏)

■明るくて省エネ性が高く、“照明+α”ができるのがプロジェクターにはない強み

発表会では参考としてプロジェクターとの違いについても言及されました。プロジェクターは数百万画素もあって高精細かつカラーでの表現も可能ですが、光源の明るさは一定のためマイクロLED照明に比べて消費電力が高いのが難点になります。

映像で高度な演出をしたい屋内のスペースなどには向きますが、照明としての役割は果たしにくいですし、防じん防水の面で屋外に常設するのは難しいでしょう。

プロジェクターとの光の利用効率の比較

「全領域を照らしたときの明るさが同程度のプロジェクターと性能を比較すると、マイクロLEDを使った照明は明るさを約3倍~4倍くらいまで上げられた上で消費電力を80%程度低減できるのではないかと試算しております。

光の形を変えたり動かしたりする目的で光を扱う場合においてはマイクロLEDを使った照明の方が合理的で消費電力を少なく済みますので、地球環境の負荷も低減できるのではないかと考えております」(山内氏)

明るさを約3~4倍に上げられた上で、消費電力は約80%減まで実現できると現時点では試算しているとのことです

液晶やDMD(デジタルミラーデバイス)などの映像素子がない分、内部構成も簡素にできるため、規模をコンパクトにできるのも強みです。

「発熱量が少ない分、ファンによる空冷が必須ではなくなりますので、天井に埋め込んだり屋外に設置するといった高い自由度での設置ができると考えております」(山内氏)

次世代照明器具という名の通り、あくまでも照明としての用途がベースにあり、そこからさまざまな応用が可能というわけです。

「動的な光を使うことによって、光による道案内や避難誘導といった使い方も可能になります。自然を感じるような揺らぐ光を使うことで心地よさや日射しを感じられる空間を演出することも可能になります。

さまざまな光を1台の照明器具で切り替えながら使えるので、通常の照明として使い、イベントなどの特別なときには演出の光を出したり、災害などの非常時には人を誘導したり避難を支援する光として使う。このように空間のその時々の目的に応じて最適な光を出していくことで、どんな場面でも光によるお役立ちを提供できる可能性が今後広がっていくものと考えています」(山内氏)

視線や動きを誘導するデモ
床に現れた光が展示物の方に伸びていきました
一部の展示物だけを照らしたり……
すべてを照らしたりと、光の使い分けが自在にできます

先ほど光源としては4000~5000ルーメンまで可能と書きましたが、現時点で照明器具としての全光束は1000ルーメン程度とのこと。

要素技術としてはほぼできあがっており、今後は量産性に向けた設計の作り込みや品質評価、認証取得などを進めていくことで商品化を目指す予定です。

将来的な発展形としては、「生成AIを使ったパターンの自動生成なども一つの方向性として見ております」と山内氏は語りました。

「フリーハンドで描くところを生成AIで自動化することもできます。その時々の場面でどういう光を出せばいいのかを学習し、物が動いたら光も動かすことも可能です。人の属性に応じてその人に必要な光を出していくなど、空間で求められているものに合わせた光を自動的に作っていくことが考えられます」(山内氏)

手書きで「micro」と入力すると……
床に書かれた「micro」の文字がはっきりと読めます

普通の白い照明だと思っていたら、急に光が踊り出す……なんていうことが将来的にはさまざまな場所で体験できるようになるのかもしれません。

《安蔵靖志》
安蔵靖志

Techジャーナリスト/家電エバンジェリスト 一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。デジタル家電や生活家電に関連する記事執筆のほか、家電スペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。

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